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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第四章 第三話「永遠の夜ー⑥宵闇の狩人達ー」
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Side Jaime.「理想の男」

※ハイメ視点の一人称です。

 私は今でもレフの人生に対する責任を負っている。彼を徹底的に改造したのが父だとしても、もとをたどれば私の軽率さが招いたんだから。自分の秘密を分かち合って、本当の親友になりたいだなんて思わなければ……。


 全部私の弱さのせいなんだ。秘密を抱え続ける寂しさに耐えられなかったのさ。だから秘密を受け入れてくれたレフは、その瞬間から特別な親友になったんだ。……今でも特別だよ。もちろん。でも親友ではなくて、罪の結晶だ。


 父はひとしきりレフの紹介をすると、私とレフを二人きりにした。


 私は泣きながら土下座したよ。何度も何度も。彼の人生を台無しにしてしまったんだから、どんな(むく)いも受けるとまで言ったさ。何時間もそうやって一方的に謝り続けたのは、レフの姿を正視出来なかったのも理由のひとつかもしれない。


 レフは(ひざまず)いて、じっとしていた。ようやく彼と目を合わせると、レフは首を横に振って、目だけで笑って見せたんだ。はっきりとね。


 ……正直に言うと、意味が分からなかった。なんで笑えるのか。それも、嘲笑めいた雰囲気は少しもないんだ。むしろ、再会出来て嬉しいと言わんばかりの表情だったよ。


 それからレフは私の部屋で寝起きした。そうするよう父がレフに命じたんだよ。私としても、なんの抵抗もなかった。彼が私を憎んでいるなら、復讐のチャンスをあげたかった。


 でもね、今日までずっと、彼は私に指一本触れてない。


 レフの意志を確かめなかったのかって? 何度も()いたよ。彼はね、字がとても綺麗なんだ。昔も今も。でもね、私とは筆談してくれない。父に禁じられていたのかもしれないけど、本当のところは不明だ。父に訊けばはっきりしたのに、曖昧なままにしておきたかった。彼自身の意志でコミュニケーションを拒んでいると知るのが、少しだけ怖かったのかもね。


 もっとも、レフと再会して十年も()つ頃には、文字や音を(かい)さなくても彼の考えていることが分かるようになった。視線の動きやちょっとした仕草で充分に理解出来るくらい、多くの時間を過ごしたのさ。レフは忠実な使用人としての態度を一度だって崩さなかったけど、私は彼を親友だと思ってるし、それを直接伝えもした。レフは困り顔をしてたけど。


 ……レフとの再会の日に戻っていいかな。すまない、話が長くなってしまって。上手に語れないんだ。なにしろ身の上話をする機会なんてなかったから。


 レフと悲劇の再会をした十歳の私は、それまで以上に努力した。学問としての魔術への理解を高め、身体能力を磨いていったんだ。前者は父の魔術をどうにかするためだよ。父はレフを紹介した際に、あっさり全部明かしてくれたからね。私のプライベートを魔術で全部覗き見してるって。なんとか対処しようと躍起(やっき)になる私を、父は微笑ましく監視したはずだ。そうなるのが分かって打ち明けた(ふし)があるから。まあ、私は魔術の才能がなかったから、魔術で対抗するのはついぞ不可能だったんだけどね。


 身体能力を磨いたのは白鳥近衛隊に入るためだよ。父の望み通りにね。レフの一件があって、私は父を恐れたのさ。このひとは自分の願いを叶えるためなら、どんな非道も笑顔でやってのけるって。父は家でも外でも、笑みを絶やさないひとなのさ。レフの両親を殺したときも、きっと、例の無害な微笑みを浮かべていたと思うよ。貴女に話した白鳥の寓話(ぐうわ)と照らし合わせると、なんてグロテスクなんだろうね。過分な願いは身を滅ぼす。その(いまし)めとして組織された白鳥近衛隊の長が、願望を成就させるために笑顔でひとの道を踏み外してるんだから。


 私は必死だった。もし白鳥近衛隊を率いる実力を得られなければ、レフのような犠牲者を()んでしまうと思ったんだ。学友との交流を()ったのも、父の標的にされないようにするためさ。孤独だけれど寂しくはない。家に帰ればレフがいる。それはそれで辛いときもあったんだけれど、彼がいなければ駄目になっていたと思う。そう、私は自分勝手な奴なんだ。あんなひどい目に()ったレフに依存したんだから。


 私は十八歳で白鳥近衛隊に入った。二年後には隊長になる身分が約束されたかたちでね。


 そうそう、レフも一緒に入隊したんだよ。ああなったレフが外に出られるようになったのは、そのときが最初さ。誰ひとりレフのことを記憶していないみたいだった。無理もない。五歳か六歳で消えた子供だもの。成長して顔立ちが変わったのも影響してるだろうね。


 私とレフは歴戦の隊員から手解(てほど)きを受けて、着実に技術を磨いた。驚いたのはレフの強さだよ。いつの()にあんなに強くなったんだろう。きっと私が学校に行っている間、家で鍛錬(たんれん)したんだね。


 あ……うん、言われてみれば、そうかも。


 私のいない間に父が鍛えたのか。そう、だね。だって、レフの入隊は父が決めたことだから。


 そうだ……貴女の言う通りだ。私の性別がバレないように、レフをそばに置いて、万が一に備えたと考えれば論理的だね。彼はすべてを知っていて、それでいて忠実だから……。


 すまない、少し気分が悪くなってきた。ちょっと話を変えよう。


 マリウスのことを話そうか。貴女が一撃で倒した金髪の彼だよ。貴女にとっては大したことのない相手だったかもしれないけど、優秀なんだ。なにより度胸がある。


 ファレノ・ウッズの事件を持ち出せば、貴女にも彼の性質が分かってもらえるだろう。ファレノ・ウッズというのはね、街道沿いの林のことさ。林は途中まで父の領地で、途中からは別の貴族の土地なんだが、そのあたりが曖昧でね。地図上ではっきり区分されているのだけれど、特別な資源があるわけでもない単なる林だから、誰も境界線を意識していないんだ。


 ある夜、私たち白鳥近衛隊はファレノ・ウッズで(ぞく)狩りをした。ファレノへの交易馬車が襲われたんだ。白鳥近衛隊は治安維持組織でもあるからね、下手人(げしゅにん)を野放しにしない。賊の足取りはすぐに掴めて、林のなかで包囲したんだ。賊は全部で五人。身柄を拘束して監獄病院送りは確実。捕まえるだけで良かったんだけれど、入隊したばかりの新参隊員が賊のひとりを殺してしまったんだ。実を言うと、賊の狙いは傷を負うことだったんだよ。新参者を目ざとく見つけて(あお)り立てたんだ。


 そんなことをしても賊になんの見返りもないと思うだろう? ところが、連中はこう主張したんだ。自分たちはファレノの者じゃないし、馬車を襲ったのも境界線の外側。そして今いる場所もお前たちの領地じゃないんだと。


 余所(よそ)の貴族の土地で犯した罪は、当該領地の規律に(のっと)って処断される。賊は最初からこちらを罠にかけるつもりでいたんだ。のちのち判明したんだが、賊の言葉はことごとく事実でね、馬車が襲われたのも、賊の仲間が殺されたのも境界線の外側。つまりファレノの権威は届かない。


 奴らは金を要求した。でも、仲間が殺されるとまでは思っていなかったんだな、金だけでなく、代償として同じだけの傷を求めたんだ。白鳥近衛隊の長になったばかりの私に対して。おおかた、腹癒(はらい)せに私の見た目を台無しにしてやろうと思ったんだろう。


 私は要求を呑んだが、レフが(かば)った。言葉なく。そこで古株のマリウスが代表として名乗りを上げたんだ。この部隊で一番強い自分が(せき)を負う、と。賊は悶着(もんちゃく)の末、マリウスの顔を滅多切りにした。


 彼はひとつの(うめ)きもなく、仁王立ちだったよ。血まみれの顔で、これで満足か、と問うと、さすがに怖気づいたんだろう、連中は捨て台詞もなしに逃げ出した。肝心の金も受け取らずにね。それだけマリウスに()があったんだ。彼は本物の戦士だよ。白鳥近衛隊の精神を誰より体現している。


 申し訳なかったよ。そして情けなくもあった。マリウスに謝罪したのだが、彼は滅相もないと言うだけ。後日、私宛に差出人不明の手紙が届いたんだが、きっとマリウスの筆だ。そこに書かれていたのは、白鳥近衛隊のかつての長が、身代わりになった部下を激励し栄誉を与えた小話だった。ファレノ・ウッズ事件を指しているわけだ。隊長はかくあるべし、と糾弾(きゅうだん)したのさ。彼なりの方法で。その日のうちに隊員を集めてマリウスに勲章を与えたんだが、彼は固辞(こじ)して、隊員として当然のことをしたまでですと声を張り上げた。私はまたも(あやま)ちを犯したんだ。彼は昇進だとか勲章だとか、そんなものを求めていたわけじゃない。一人前の隊長としての正しい振る舞いを(さと)したかっただけなんだ。器用なのやら不器用なのやら……。


 そうそう、私が隊長の座を正式に得た頃に、父から緑青流鋏(アドラスティア)拝受(はいじゅ)した。魔術師の父には扱えない武器だから、というのも理由のひとつだろうけど、もっと別の目的があってのことだ。


 私は授かった貴品(ギフト)で、ようやく父の監視――感覚窃取(せっしゅ)()った。それを知った父は平然と笑っていたよ。一人前の男になったな、と言っていたっけ。


 すでに私は父の監視なんて必要ないくらい、理想を反映した男になっていたんだろうね。

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。



・『ハイメ子爵』→黒の血族で、ラガニアの子爵。常に自分の身体を気にしている。詳しくは『第四章 第三話「永遠の夜ー⑤霧海の繋ぎ手ー」』にて


・『貴品(ギフト)』→血族たちの作り出した魔具。詳しくは『911.「貴品」』にて

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