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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第四章 第三話「永遠の夜ー⑥宵闇の狩人達ー」
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Side Walter.「混成討伐部隊」

※ウォルター視点の三人称です。

 頭部の消失した怪物を眺め、ウォルターは我知らず「やったか……?」と呟いた。


 これで終わりならどんなに良かったろう。まだ敵の軍勢は残っているにせよ、タソガレ盗賊団としてはひとつの大きな目的を果たしたことになる。


 が――。


 怪物の腕が地を薙ぎ、幾人(いくにん)かの血族を手掴みにした。そうしているうちに、怪物の首が沸騰する泡のごとくぼこぼこと盛り上がり、やがて最前(さいぜん)と同じような頭を取り戻した。骨の巨人は何事もなかったように、捕らえた同族を口に収めていく。夜を引き裂く悲鳴さえ耳に入っていないようだった。


「頭を潰しても死なねえ奴なんて、どこにもいねえだろうが……」


 苦悶の()もった呟きは単なる独り言だったのだが、どうしてか返る声があった。タソガレ盗賊団のものではない。防御壁の外にいるシーザーのものでもない。唐突な共闘相手になった、黒の血族ストーミーである。


「魔物のなかには」と彼はぼそぼそと言う。両手を前にかざし、依然としてシーザーに魔力を送り込みながら。「頭が弱点じゃない奴も、います。マッドゴーレムとか……」


「なんだそれ」


「泥まみれの魔物で、身体のどこかにある核を壊さなきゃ、何度でも、再生する、そんな魔物です……」


「知らねえよ」


 ウォルターの返事に、ストーミーが顔を(ゆが)める。ウォルターとしては普段通りの言葉遣いだったのだが、どうやら悪い意味に捉えられてしまったらしい。軽く謝罪でもしようかと思ったが、やめた。相手は血族で、つまりは敵だ。この共闘だって一時的なものでしかないと考えている。シーザーの引き起こした気まぐれだ。それに、こちらとしても彼に心を開くなんて出来ない。もしストーミーが裏切ったなら少々厄介なことになる。血族というだけでも面倒なのに、そのうえ魔術師なのだから。


 こうしたウォルターの懸念は(もっと)もだが、正しくはない。ストーミーに裏切りの意思など欠片もなかったのだから。


 次々と白光が視界を染める。


 シーザーが白色の魔力の塊を照射し、骨の怪物を射殺そうとしているように見えた。いずれの光線も敵の肉体を貫通したが、(えき)はない。怪物は一向に動きを止めず、同族を手にかけていた。


 もっとも間近な生ける存在を殺す。それが怪物の行動原理なのだろう。


「どうにかなんねえのか」と呟いてから、ふとウォルターは思った。


 ここにいるメンバー全員の爆弾を集めればそれなりの威力になるはずだ。少なく見積もっても白銀猟兵(ホワイトゴーレム)の自爆には匹敵(ひってき)するだろう。


「お前ら! 爆弾を集めて結べ!」


 ウォルターは自分の布袋から爆弾を取り出し、手先の器用な団員に預けた。ふとストーミーを見やると、(すく)み上がり、ぶるぶる震えている。


 なんだこいつ。


 ここで爆発させるとでも思ってんのか。


「お前はシーザーの援護に集中しろ。大丈夫だ。点火しなけりゃ爆発しねえ」


「そう、ですか……」


 どうもストーミーの怯えっぷりに演技は感じられない。正真正銘、気が小さいのだろう。そんな奴がどうして戦地に(おもむ)いたのか違和感はあるが、事情なんてそれぞれだ。やりたくもない仕事を押し付けられ、成功しようと失敗しようと虐殺される奴はざらに見てきた。ストーミーもきっと似たような境遇なのだろう。物事を断れる立場におらず、なにかあれば真っ先に犠牲にされる使い捨ての駒。昔のタソガレ盗賊団には、そのような人材が何人もいた。


 クソだと思う。他人の命をなんとも思わないクズも、そんな馬鹿野郎に大人しく従う小物も。


「ストーミー。腹(くく)れ。覚悟決めろ。俺たちとお前は今この場じゃ仲間だ」


 考えなしに発した言葉だ。ストーミーが本当に味方なのかどうか、究極のところは分からなかった。機を(うかが)ってこちらを一網打尽にする懸念は(ぬぐ)い去れない。ただ、ウォルターは自分が口にしたことの正誤を判断するつもりなどなかった。


 先のことなんて誰にも分かるわけがない。だから、自分たちは瞬間瞬間を生きるだけ。運命を支配するのは、それこそ神の所業(しょぎょう)だ。


 ストーミーの震えはすでに収まっていた。それが先ほどの言葉によるものならば、声にした意味はあるだろう。なんであれ彼はシーザーの補助と、この場の守護の(かなめ)になっている。背後に迫る魔物が防御魔術に爪を立てながらも決して瓦解(がかい)しないのは、ひとえに血族の魔術師のおかげだ。


 シーザーの戦闘に変化があったのは、それから()もなくしてからである。彼は骨の怪物の周囲をぐるぐると駆けめぐり、ありとあらゆる箇所に魔術製の光線を浴びせているようだった。弱点を探っているのだろうが、別の意図もあると悟ったのは、しばらくしてからである。


 それまでがむしゃらに怪物へ立ち向かっては殺されていた血族たちが、無闇な攻撃をやめ、回避に重きを置きはじめたのだ。攻撃に出ては退き、別の人員が代わりに前進する。そして総勢で遠巻きに怪物を囲む陣形を取った。その内側をシーザーが果敢(かかん)に駆けており、怪物の関心はもっぱら壮年魔術師に(そそ)がれている。


 ウォルターは自然と口角を持ち上げていた。


 ――あのオッサン、戦いながら敵と手を組みやがった。


 考えてみれば妥当である。この状況において、もはや血族と人間の(くびき)は存在しない。相手が何者であろうとも協調して討つべき怪物がいるのだ。少し前まで殺し殺される関係にあった者同士であろうと、手を結ぶだけの理由はある。ストーミーはその先駆けだ。


「団長、爆弾をまとめました」


 振り返ると、団員のひとりが縄で()った円筒の(たば)を差し出していた。片腕でなんとか抱えられるほどのサイズである。ウォルターはそれを受け取ると、声を張り上げた。


「お前ら! 加勢すんぞ! 敵は骨野郎だけだ!」


 団員の顔に当惑などなかった。どの瞳にも燃えたぎるものがある。それを覚悟と呼ぶことに、なんの抵抗もない。


「ストーミー。お前は魔物の(おさ)え込みとシーザーの補助を頼む。この透明な壁を一時的に解除してくれ」


 額に玉の汗を浮かべて、ストーミーが頷いた。「ぼくも、前線に、行きます。防御壁は、遠隔で維持、出来ます、から。それより、魔力の、注入は、距離が近いほど、具合がいいです」


 つっかえつっかえ言葉にするストーミーに、滑稽(こっけい)さは微塵も感じない。団員ほどではないが、彼の目にも炎の揺らめきがある。怯えの波とせめぎ合う熱意には違いなかろうが、誰だってそんなものだ。自分たちも熱意や覚悟の裏に必ず弱さを持っている。虚勢を最後まで貫き通す気概(きがい)があれば、恐怖や怯えがどれほど表面に出ようと問題にはならない。


「行くぞ!!」


 ウォルターの(たけ)る声とともに前面の防御壁が消え、皆が足を踏み出した。そして怪物を囲む血族の隊列に加わっていく。彼らは怪訝(けげん)そうな顔でこちらを振り向いたものの、困惑はすぐに消えたらしい。()の一番に骨の怪物に攻撃を仕掛け、そしてすぐに後退した団員の姿を見て、こちらの意志は伝わったようだ。


 爆弾を抱えたウォルターは必然的に待ちの姿勢で一歩退いた場所で俯瞰(ふかん)した。ストーミーも同じく、彼の隣でシーザーに魔力を送り続けている。


 即席の混成部隊でヒット・アンド・アウェイを繰り返す。むろん犠牲者は増えていった。その多くが血族だったのは偶然でしかない。どう贔屓目(ひいきめ)に見ても人間は肉体の面で血族に劣る。怪物に喰われた団員がひとりだけだったのは、むしろ奇蹟だろう。


 状況に明らかな変化があったのは、加勢に入って十数分後のことである。


 シーザーは攻撃をやめ、ただただ骨の怪物の周囲をめぐり、敵の注意を一手に引き受けていた。彼が守勢に徹した理由はひとつだろう。


 魔術製の光線は、ほとんどが怪物を貫いていたのだが、ある一点だけ貫通しなかったのをウォルターは思い出す。右の鼠径部(そけいぶ)。そこへ放たれた攻撃は周囲の骨を破壊したものの、表皮だけ崩れた具合だった。その後、シーザーはその箇所へ角度を変えて集中的に攻撃を加えたのだ。いずれの光線も貫通に至らなかったものの、頭部を吹き飛ばしたときと同じレベルの攻撃を直撃させた際に、奇妙なものが見えた。骨に(うず)もれた、直径五十センチほどの紫色の球体である。


 球体は再生する骨に覆われてすぐに見えなくなってしまったものの、ウォルターはストーミーの口にした台詞を思い出した。身体のどこかにある核を破壊しなければ、何度でも再生する魔物。


 あの紫の球体こそ、怪物の核に違いない。


 朗報だ。あれを破壊出来ればこの最低な戦いも終わる。ただし、残念なことがひとつ。


 ウォルターは隣のストーミーを一瞥(いちべつ)し、唇を噛んだ。シーザーの魔力の供給源である彼は、短い間隔で荒い呼吸を繰り返し、だらだらと汗を流している。


 おそらく、核を撃ち抜くだけの余力はない。


 加えて、ウォルターには見抜けない不運もあった。生き残った血族のうち、魔術師はストーミーただひとりだったのである。

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。



・『ウォルター』→タソガレ盗賊団のボス。穏健派。元ボスであるジャックを心酔している。詳しくは『48.「ウォルター≒ジャック」』など参照


・『タソガレ盗賊団』→『最果て』のマルメロを中心に活動する盗賊団。魔物からの警護をビジネスにしている。詳しくは『第三話「(くびき)を越えて~①ふたつの派閥とひとつの眼~」』にて


・『黒の血族』→魔物の祖と言われる一族。人間と比較して長命。もともとは王都の敵国であったラガニアの人々のごく一部が、オブライエンの生み出した『気化アルテゴ』によって変異した姿。詳しくは『90.「黒の血族」』『間章「亡国懺悔録」』にて


・『マッドゴーレム』→土の塊で出来た魔物。身体のどこかに核を持ち、その部分を破壊しない限り何度でも再生する。詳しくは『幕間.「魔王の城~記憶の水盆『魔女の湿原』~」』にて


・『白銀猟兵(ホワイトゴーレム)』→人を模した、ずんぐりとした物体。オブライエンの量産している兵器。指令を送ればその通りに行動をすることが出来る。動きは機敏で、硬度は高い。破壊時に自爆する。詳細は『幕間.「白銀空間~潜入~」』『幕間.「白銀空間~白銀猟兵と一問一答~」』『幕間.「白銀空間~魔具制御局~」』にて

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