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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第四章 第三話「永遠の夜ー⑥宵闇の狩人達ー」
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Side Walter.「解脱の風」

※ウォルター視点の三人称です。

 ウォルターにとって、シーザーは徹頭徹尾(てっとうてつび)変人だった。


 ハルキゲニアのカエル男からグレキランス地方の戦火と援軍要請の交信があった一週間後、アジトにしている一室で出会ったのがはじまりだ。ちょうど盗賊団の主要な面子(めんつ)を集めて議論している最中のことである。連日続いた会議の題目は、グレキランスへ手を差し伸べるか(いな)かだ。ウォルターとしては恩義のうえでは援軍に加わるべきと思ってはいても、メリットを問われると閉口してしまう。血族がハルキゲニアにまで進軍する(うれ)いはあれど、そうなったときに剣を抜いて立ち向かうべきであり、かつ、仮に戦線に加わったとして力になれるかは(はなは)だ怪しいと()かれれば、否定は出来なかった。かといって即断も出来ず、ずるずると議論が長引いていた矢先のことである。


 そんなおり、手を後ろで縛られたシーザーが会議室に現れた――(いな)、連行されたのだ。警備の者によると、断りもなしにアジトに踏み()ったらしい。なんのつもりかと問うと、盗賊団のリーダーに会いにきたとのこと。幹部しか知らない隠れ家であるにもかかわらず、シーザーはここが本丸だと知って訪れたのである。


 タソガレ盗賊団など知らぬ存ぜぬで門前払いするのが普通だ。しかし唐突な訪問者は一切耳を貸さず、力尽くで引き留めようとしても無駄だった。警備の男によれば、屈強な者が何人がかりで止めようとしても塵芥(ちりあくた)のように払われたらしい。顔を殴った奴は逆に怪我をしたんだとか。なんとか(なだ)めて、かたちだけ縛り、部屋に連れてきたとの話である。


『こっちは大事な話の真っ最中だ。なんの用事か知らねえが、出てけよオッサン』


 ウォルターが吐き捨てると、シーザーは空いていたソファに悠々と座った。縄はいつの()にか(ほど)けていて、床に落ちている。


 室内でナイフが飛んだのも無理からぬことだ。幹部だろうとなんだろうと、もとよりならず者気質の人間が多い。闖入者(ちんにゅうしゃ)がナイフを歯で受け止めて、何事もなかったように話しはじめたのにはさすがに唖然(あぜん)とした。その場で目の色ひとつ変えなかったのはジャックただひとりである。彼は一目でシーザーが胡乱(うろん)な魔術師だと見抜いたに違いない。


 シーザーの言葉はあまり要領を得なかったが、換言(かんげん)すると次の通りだ。


 これからはじまる戦争と無関係な人間はひとりもいない、覚悟をキメてさっさと旅支度をしろ、そして自分も連れて行け。なんなら、アンタらの組織に入ってもいい。


 罵声が飛び()ったものだが、彼の存在が議論に終止符を打ったのは間違いない。グレキランスと繋がってビジネスを広げるなんてのは後付けの理屈だ。


 別段、シーザーの言葉が皆の心に響いたわけではあるまい。ウォルターとしてはきっかけを欲していたのだ。


『それで、シーザー。あんたは正義感に突き動かされて戦地に行くのか?』


『俺は久しぶりに海が見たいだけだ』


 不遜(ふそん)な壮年男が真面目な調子で放った妄言(もうげん)に、ウォルターは心底呆れたものである。しかも、ハルキゲニアで乗った船ではずっと寝ていたんだから、たちが悪い。




 白銀猟兵(ホワイトゴーレム)は破壊されると自爆する。それを()の当たりにして血の気が引いた。これを作った奴が誰かは知らないが、人間側に犠牲が出ようとも意に(かい)さない冷徹さには怪物じみたものを感じる。


 あちこちで伝令の声が叫んでいた。白銀猟兵(ホワイトゴーレム)の自爆に巻き込まれないよう、距離を置いて戦うようにと。待機の人員にも、非稼働状態の白銀猟兵(ホワイトゴーレム)から離れよとの命令だ。北門の総大将、ゼールの(めい)であるのは疑う余地もない。そして彼が自爆の事実を知らなかったのも、この命令によって悟った。


「シーザー。あんたは白銀猟兵(ホワイトゴーレム)が爆発するって分かってたのか?」


「いや。妙な予感がしただけだ」


 相変わらずひとを(けむ)に巻くようなことを、と内心で舌打ちをした。ただ、もし知っていたならこの瞬間まで黙っているはずもないだろうとは思う。


 血族たちも白銀猟兵(ホワイトゴーレム)の自爆を理解しただろうに、相変わらずの猛進が続いている。人間の兵士も戦ってはいるが、数的に見れば敵方の被害のほうが大きいのは明らかだ。砲台の射撃も白銀猟兵(ホワイトゴーレム)の攻撃も、血族側は対処しきれていない。単に物量で押そうとしている。とはいえ、敵側の正確な犠牲者の数は分からなかった。魔物と同じように、死と同時に肉体が霧散(・・)して残らないのだ。


「ウォルター」シーザーが不意に、一歩敵方へと踏み出して言う。「血族の死体を見たことあるか?」


「いや、ない。そもそも死体は残らないんじゃねえのか? 魔物と似たようなモンだろ」


 夜闇のなか、顔半分だけ振り向いたシーザーの眼光は異様に鋭かった。


「俺も血族の亡骸を(おが)んだことはねえ。ただし、魔力の流れは分かる。連中が魔物と同じようにブッ殺されたら蒸発するとしたら、魔力も残り(かす)が漂って、そのうち消えるのが自然の摂理(せつり)だ」


「……なにが言いたい?」


 ウォルターが問うと、シーザーが敵へとさらに一歩前進した。長髪が夜風に揺れている。


「結論、俺たちは一体も血族を殺しちゃいない。今特攻かけてるのは全部フェイクだ。消えた瞬間に魔力がそのままのかたちで後ろに戻ってやがる。本物そっくりの泥人形相手に翻弄(ほんろう)されてるだけだ」


 ウォルターは呆然として、前方で消失していく血族を凝視した。


 自分には魔力を感じ取る力はない。タソガレ盗賊団でそれが出来る人物は誰も思い当たらなかった。()いて言えば、ジャックにはその(しゅ)(かん)の良さがあるものだが……。


 分からない以上、シーザーの言葉を()に受けていいものか怪しい。だが、さすがに敵を目の前にして妄想を吐くほどボケてはいないだろう。


 シーザーが振り返った。ウォルターはじめ、盗賊団の誰もが彼の姿を視界に収めたことだろう。


「ウォルター。そしてタソガレのボンクラども。砲台も白銀猟兵(ホワイトゴーレム)もブッ壊されてる状況は理解してるな? 逆に血族は一体も減ってねえ。時間が()つほど不利になる。自分たちがなんのためにここまで来たのか思い出せ」


 それは全員が理解しているはずだ。理解してなお、動けないこともある。今がそうだ。


 こちらの歯痒(はがゆ)さを知ってか知らずか、シーザーは言葉を続けた。


「馬鹿げたフェイクは俺が消す。魔物の群れは白銀猟兵(ホワイトゴーレム)に任せりゃいい。フザけた芝居の出所(でどころ)を潰す気概(きがい)のある奴だけ俺についてこい。死ぬ気で使命をまっとうする覚悟がキマってる奴だけ、続け」


 言って、シーザーは自陣を縫って敵方へと駆けていった。ウォルターが彼の背を追ったのは、流されたわけではない。周囲で一斉に鳴る靴音の主たちも、同じ理由で駆けているのだと信じたい。


 戦場に立つ以上、死ぬ覚悟は出来ている。ただし、無意味な死は御免(ごめん)だ。魔物から人々を守って対価を受け取るビジネスを取り仕切っている立場として、仲間の訃報(ふほう)を耳にするのは日常茶飯事。ただし、そいつらの死は無駄じゃない。犬死になんてひとつもない。金銭のやり取りがあろうと、誰かを守ろうとした証だ。


 ウォルターがシーザーの背を追って即座に走ったのは、これが無意味な突撃ではないと納得したからである。突出する血族たちが本当に偽物だとしたら、おおもとを叩かなければならない。そして、迷っているうちにチャンスはどんどん減っていく。つまり、今命懸けになるのがもっともスマートなわけだ。


 むろん、一抹(いちまつ)の不安はあった。


 シーザーは確かに魔術師だが、これまで大規模な魔術を展開したことがない。少なくともウォルターは一度も目にしなかった。せいぜい、指先に小さな魔球を作って放つのを見たくらいだ。しかも、北門に配置されてから一度もシーザーは魔術を使わなかった。そんな彼が、偽物の血族を消すなんて可能なのだろうか。


 やがて前線にたどり着き、シーザーが足を緩めることなく手で(くう)を薙ぎ払うのが見えた。同時に、聞いたこともない単語が耳に入る。


解脱の風(ニルヴァーナ)


 一陣の風に吹きさらわれるように、血族たちの姿が文字通り消えた。跡形もなく。


 シーザーの足は止まらない。ウォルターもまた、驚愕しつつも駆け続けた。


 ほとんど無意識に疑問が口から溢れる。


「シーザー! なんだ今の魔術!」


 直後に届いた返事は、疾駆のさなかにもかかわらず、息切れひとつない悠然たる声だった。


「王都で使ったら一発アウトの魔術だ」

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。



・『ウォルター』→タソガレ盗賊団のボス。穏健派。元ボスであるジャックを心酔している。詳しくは『48.「ウォルター≒ジャック」』など参照


・『ハルキゲニア』→『最果て』地方の北端に位置する都市。昔から魔術が盛んだった。別名、魔術都市。詳しくは『第五話「魔術都市ハルキゲニア」』にて


・『ケロくん』→ハルキゲニアで魔術の講師をしているカエル頭の魔術師。正式名称はケラケルケイン・ケロケイン。本名はアーヴィン。詳細は『第三話「軛を越えて~②カエル男と廃墟の魔女~」』『幕間.「ハルキゲニア~時計塔最上階~」』参照


・『グレキランス』→通称『王都』。周囲を壁に囲まれた都。また、グレキランス一帯の地方を指して用いられる。詳しくは『第九話「王都グレキランス」』にて


・『黒の血族』→魔物の祖と言われる一族。人間と比較して長命。もともとは王都の敵国であったラガニアの人々のごく一部が、オブライエンの生み出した『気化アルテゴ』によって変異した姿。詳しくは『90.「黒の血族」』『間章「亡国懺悔録」』にて


・『ジャック』→『タソガレ盗賊団』元リーダー。ハルキゲニアでは帽子屋を名乗り、騎士団長をしていたレイピア使い。魔力察知能力に()けている。現在は『タソガレ盗賊団』に復帰して副団長を任されている。詳しくは『137.「帽子屋の奇術帽」』『152.「今日もクロエさんは器用~肖像の追憶~」』『48.「ウォルター≒ジャック」』『幕間.「Side Jack~正義の在り処~」』にて


・『白銀猟兵(ホワイトゴーレム)』→人を模した、ずんぐりとした物体。オブライエンの量産している兵器。指令を送ればその通りに行動をすることが出来る。動きは機敏で、硬度は高い。破壊時に自爆する。詳細は『幕間.「白銀空間~潜入~」』『幕間.「白銀空間~白銀猟兵と一問一答~」』『幕間.「白銀空間~魔具制御局~」』にて


・『ゼール』→騎士団長。王都の騎士を統括する存在。双剣の魔具使い。実はシフォンの養父。詳しくは『幕間.「魔王の城~記憶の水盆『外壁』~」』『第九話「王都グレキランス」』『幕間.「王都グレキランス~騎士の役割~」』にて


・『タソガレ盗賊団』→『最果て』のマルメロを中心に活動する盗賊団。魔物からの警護をビジネスにしている。詳しくは『第三話「(くびき)を越えて~①ふたつの派閥とひとつの眼~」』にて


・『魔球』→魔力球、魔力弾、魔力塊とも呼ぶ。初歩的な攻撃魔術


・『王都』→グレキランスのこと。周囲を壁に囲まれた都。詳しくは『第九話「王都グレキランス」』にて

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