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7 竜殺しコワイ

「冗談ですよ。聖騎士が利息とか取るわけないじゃないですか」


 聖騎士ギャグ笑えねぇ。


「無利息ならいいよ。ぜひ上限なしで貸してくれ」


 利息ゼロの借金は大歓迎だ。永遠に返さなくたってこちらは困らない。さすが聖騎士様、仁愛にあふれていらっしゃる。


「それで、入り用はなんだい?」

「ブレストプレートとヘルメットを。それと、親方、口は硬いですよね?」

「もちろんだ。客の秘密は俺の秘密だ」

「実は彼、こうでして」


 ロザリンドは俺の首をひょいと持ち上げた。


「……」

「……」


 親方と店員がそろって口を開けて固まった。

 店員の方は腰が抜けたようだ。


「こりゃすげえ神聖術だな」


 親方はそうコメントした。

 聞いたかお前ら、俺のこと初見でデュラハンって言わなかったぞ。


 俺、親方のこと誤解してたよ。何でも買うから。在庫で埃かぶってるのないかな、全部買うよ。ロザリンドからの借金で。


「まぁそんな感じです。それで、簡単には首が外れないように防具で何とかしたくて」

「なるほどな。たしかに今の状態じゃ簡単に外れすぎちまうわな」

「そうなんだよ、親方。何とかできるか?」


 親方は腕を組んでしばらく考えた。


「できそうだな。任せてくれるか?」

「さすが親方だ!」


 俺は喝采した。カラーダも拍手している。


「いつまでにできればいい?」

「2日後には町を発つので、明日夕方までには」

「そりゃあ急がなきゃなんねえな。よし、すぐに取り掛かろう」




 出発の日の朝、俺たちは依頼で指定された集合場所へと向かった。

 身に着けているのは新しいブレストプレートとヘルメットだ。


 親方の仕事は素晴らしかった。

 ブレストプレートには太いピンが付け加えられ、ヘルメット側の穴に差し込むことができる。そのうえで胸の前にボタンのようなパーツがつけられ、ヘルメット側の革パーツを留めることで固定するのだ。


 ずれない。揺れない。傾かない。

 最高の出来だった。

 あえて不満をつけるとするなら、首を回すことができないことだが、これはさすがにあきらめるべきだろう。


 町の門を出ると、広場になっているその場所に10台の馬車が集まっていた。あちこちに向かう商人の馬車が集まっているのだ。

 それぞれの馬車の幌には持ち主の商人の紋章が入っている。


 その中に俺たちに護衛を依頼した商人の紋章を見つけて歩み寄った。

 すでに3人の冒険者らしき鎧姿の男女の姿がある。その他に平服姿の若い男。おそらく彼が商人だろう。


 その彼が歩み寄ってくる俺たちに気づいた。

 俺と、そして鎧姿のロザリンドを見て、商人は背筋を伸ばした。

 商人のその様子を見て、冒険者たちもロザリンドに気付き、直立不動になった。


「聖騎士様、私は行商を営んでおりますモールドと申します。お会いできて光栄です」


 商人が緊張した面持ちで礼をした。


「ロザリンド・ヴァーハイツです。厚かましいお願いを聞いていただき感謝します」

「とんでもございません。聖騎士様にご同行いただけるのであれば、旅の安全は約束されたようなもの。心強く思います」


 モールドは嬉しそうだ。

 世の中の人間は二つに分けることができる。神聖術アリの戦闘を知っている人間と、知らない人間だ。

 聖騎士自身の高い戦闘力を持つが、なにより神聖術があるというのが大きい。神聖術には毒や怪我を癒す術もあるのである。その使い手がいることによる戦闘の安定感は半端なく、一度神聖術アリの戦いを経験してしまうと戻れなくなるほどだ。

 きっとモールドはそれを知っている側の人間なのだろう。


「そちらが冒険者のアルト様ですね。護衛よろしくお願いします」


 ロザリンドへの挨拶を済ませて、モールドは俺の方に挨拶してきた。礼儀正しい好青年だ。


「よろしくお願いします」


 俺も礼儀正しく返した。空気の読めるカラーダも礼を合わせてくれた。

 礼をしても首は落ちない。ありがとう親方。


 先に到着していた冒険者3人もそれぞれ名乗った。

 槍使いのブレア、パーティーリーダーで短弓と剣を使うマルク、長弓と剣を使うチェルシーだ。2年ほどパーティを組んでいるらしく、仲が良さそうだ。


 護衛はこれで全員のようだ。モールドが荷馬車の御者台に乗り、護衛がその周りを固めた。


 荷馬車が動き始めた。

 たくさんの商品を積んだ荷馬車の速度は遅く、徒歩で十分についていける程度だ。馬に無理をさせない方が最終的に長い距離を進むことができるのである。


 護衛の配置は、前列としてチェルシーとロザリンドが荷馬車を引く馬の左右を守り、荷台の後ろに俺、ブレア、マルクの3人が並んで歩く形になった。


「なぁ、聖騎士が保証人につくだなんて、何をどうやったんだ?」


 マルクが興味深げに聞いてきた。


「耳が早いな」


 俺がそう返すと、マルクは両手を広げてため息をついて見せた。


「町中の冒険者が知ってるよ。しかもただの聖騎士じゃない、ロザリンド様だぜ」

「事情に疎くてな。ロザリンドってすごいのか?」


 ロザリンドは確かに強い聖騎士だろう。ただマルクの言葉にはそれ以上のものが感じられた。


「史上最年少、現役最年少の天才さ。3年前、このあたりに火竜が流れてきたんだが、なんと彼女が一人で倒しちまった」


 火竜。

 俺の記憶が正しければ、最低でも20人の精鋭がいなければ討伐困難な難敵だ。空を飛び、火を吹くという能力を度外視しても、固い鱗、鋭い爪、巨体をいかした打撃力、すべてが脅威だ。


「……火竜は子供だったのか?」

「まさか。元気な成竜だよ。かなりの被害が出てたんだ」

「そりゃ、やばいな」

「あぁ。“火竜殺し(ドラゴンスレイヤ-)”といえばこのあたりじゃロザリンド様のことだ」


 ドラゴンスレイヤー。竜種を討伐した者が名乗ることができる称号だが、当然何人で倒したのか、によって格が変わる。俺がこれまで会ったことがあるドラゴンスレイヤーはいずれも10人以上で戦っていた。


 それが一人。

 俺が一人で火竜を討伐しろって言われたら、まずそいつの正気を疑う。絶対にお断りだ。自殺志願の趣味はない。

 それをやってしまうのがロザリンドという奴なのだ。

 絶対に怒らせないようにしよう。俺は固く心に誓った。


「そういえば、ロザリンドっていつから聖騎士なんだ?」

「そっからかよ。5年前、当時9歳だとよ」


 どうやったら9歳の幼女が聖騎士になれるというのか。普通その前に周りの大人が止めるんじゃないだろうか。人生2度目でやり直してる、とかそういう奴じゃないだろうな。


「やっばいな」

「やっばいだろ。それであの可愛さだし、町の英雄だよ」

「なるほどな」

「で、どうやってその英雄ロザリンド様を保証人にするなんてことを達成したのか、だよ。素直に吐いてくれ?」

「大したことじゃない。教会的に慎重な扱いが必要な俺の特殊体質のせいで世話になっててね」


 首と胴が分かれている、とはとても言えない。

 マルクが顔を近づけてきた。


「……首が離れてるって、まじなのか?」


 声量も落としている。モールドに絶対聞かれないための配慮だろう。

 ぼかしたつもりだったのだが、冒険者たちの情報網はそんなところもしっかりと伝えていたらしい。


「まじだよ。見るか?」

「いや、わざわざ見たいものじゃあない。そっちも見せびらかしたいものじゃないだろ?」

「まぁね」

「それで、その体質のせいで、保証人になった上に護衛のおもりにまでついてきてくれるってのか?」

「総本山まで連れてかれるついでに護衛を受けたってだけだ」

「なんだと、じゃあ総本山までロザリンド様と二人旅なのか?」

「まぁ」


 そういうことにはなる。


「……ロザリンド様に何かしたら町の全員でお前を殺しに行くからな」


 マルクが睨んできた。目がマジだ。


「火竜を一人で倒せる大英雄様相手に?」


 無理無理。絶対無理。そんな化物に殴られたら死んじゃうし、蹴られたら破裂するんじゃないかな。


「だいたい、14歳は俺の射程範囲外だ。最低でもあと10年は育ってもらわないと」

「本当だな?」

「神に誓って手を出さない」


 首だけの俺には手の出しようがない。


「信じていいんだな」

「もちろんだ。そういうそっちは、チェルシーとはどうなんだ?」


 俺は話題を変えた。俺だけ事情を聴かれるのはフェアじゃない。

 2つ3つ質問を重ねたところ、衝撃の事実が判明した。こいつら3人で“できて”やがる。嘘だろ、なんで男2人喧嘩しないんだ。


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実はチェルシーも男
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