6 悪徳聖騎士、なのか?
「皆さん、落ち着いてください」
落ち着き払ったロザリンドの声が響く。
「彼は危険なデュラハンではありません。私が保証します」
聖騎士にそう言われては、飛び掛かってくるような者はいなかった。
「アルト、首を」
「あぁ」
カラーダが俺を拾い上げて、元あった位置に据え付けた。
「ベルトが緩んでいます、気を付けてください」
ロザリンドが背伸びして肩のベルトを調節してくれた。
「ありがとう」
「御覧の通り、彼は理性的な、ちょっと首が落ちやすくなっているだけの人間です。いいですね?」
ロザリンドの宣言に、受付嬢は涙のにじむ引きつった笑みを浮かべたままかくかくと頷いた。
聖騎士が白といったら白。
社会を生きていく上で大事なことだ。
登録作業については、ギルド長が出てきて別室へと通された。
「ロザリンド様、お呼びいただければこちらから行きましたものを」
ギルド長は50を過ぎてよく太った禿げ頭の男だった。彼が小柄なロザリンドにへこへこしている姿は何か見てはいけないものを見ているような気分にさせられる。
「こちらが登録をお願いする立場ですので」
「恐れ入ります。それで、そちらの方が」
ギルド長は俺を見た。
「はい。彼が、ちょっと首が落ちやすくなっているだけの人間の剣士、アルトです」
「首が……落ちやすく……」
ギルド長は引きつった顔で自分の首を撫でた。
「御覧になります?」
俺は聞いてみた。
ギルド長は激しく首を左右に振った。
「いえいえ結構!」
度胸のないギルド長だな。俺は決めつけた。
「私が保証人になりますので、登録させていただけないでしょうか」
ギルド長はロザリンドと俺を交互に見た。
何を怪しんでいるのだろうか。だが彼はこの町のギルド長を務める男、社会のルールは弁えているはずだ。
ロザリンドはかわいい笑顔を浮かべた。
「何か問題ありますか?」
「何も問題ありません!」
ギルド長は即答した。これが権力というものの力である。
「ありがとうございます、ギルド長。それでは手続きをお願いしますね」
登録手続きは、書類にいろいろ書かされ、ギルド証を渡されて終わった。
ギルド証は金属の板で、俺に読める文字でアルトという俺の名前とタスナムギルドが発行したという旨が刻まれ、その他こまごまと俺には読めない文字が刻み込まれている。限られたギルド役員にしか読めない暗号言語で、保証人の名や身分のほかに、本人確認のための秘密の質問と答えが刻まれているのだ。離れた町に行くとこれで本人確認をすることもある。
ただ、俺のにはそうした質問ではなく、『首と胴が離れることを実演させよ』と刻まれたらしい。なんで各地のギルドで阿鼻叫喚の抜剣騒動を引き起こそうとするんだ。
登録証を持ってロビーに戻った。
「さっそく護衛依頼を受けたいんだけど、どんなのがありますか?」
俺は一刻も早くお金を稼ぎたい。金銭的自由は余裕への第一歩だ。
「はい。こちらになります」
行先と出発日、報酬が書かれたリストが差し出された。
俺は一通りそれを確認した。
数日以内に総本山方向に行く商人は2人。一つは2日後発の少人数で、もう一つは3日後だがそれなりの規模になりそうだ。
「これなら少人数の方ですね」
ロザリンドが口を挟んできた。
「大人数の方が楽なんだが……」
俺は抗議した。大人数だと、人が多く集まる分、寝ずの番なども何人も共同ですることができる。圧倒的に護衛しやすいのだ。
少人数だとそうはいかず、一人一人が複数の役をこなさなければならない。
もちろんその大変さを反映して少人数の方が一人当たりの報酬がよかったりもする。
「大人数の前で首が落ちたら大変ですよ」
痛いところを突かれた。
「こちらの少人数の方で。私も同行しますので伝えておいてくださいますか?」
「はい!」
受付嬢が元気よく応えた。
冒険者ギルドを出ると、俺は防具屋に連れて行かれた。
「ロザリンド様!?」
ここでもロザリンドは顔が通っている。のんびりと盾を磨いていた店員が飛び上がって出迎えた。
盾から鎧まで全て扱っているらしい店だ。新しい金属のいい香りがする。きれいに掃除されていて、繁盛している雰囲気があった。
「親方はいますか?」
「はい、お待ちください!」
店員の目は憧れを見る目だ。
本当にこいつに憧れていいの?
話を聞かずにすぐ剣抜いて斬りかかってくるし、権力使って無理を通すよ? さっきなんて受付嬢泣かせてたんだぜ?
店員が奥の方に呼び掛けると、店の奥からひげ面ムキムキのおっさんがでてきた。
「ロザリー様! ようこそいらっしゃいました!」
親方はロザリンドとは面識があるらしい。様はついているけど愛称呼びだ。
「今日はどうされました?」
「こちらの人の防具を見繕っていただきたくて」
ロザリンドは俺を指さした。
「え、いいよ俺のはあるし」
カラーダにはちゃんと俺の“生前”から使っている防具がある。そりゃあ大きな傷を受けた跡のあるブレストプレートだが、買い替えなくてもいいんじゃないかと思う。
まだ使えるし、そもそも防具を買う金なんてない。
「だめです。道中何があるか分からないのですから、きちんと用意するべきです」
お堅いロザリンドはいかにもお堅いことを言った。
正論ではある。
カラーダが俺の意見を無視して勝手に親指を立てた。カラーダ、お前もか。
「ロザリー様の言う通りだ」
親方も完全同意。
どいつもこいつも権力者におもねりやがって。
「だけど、俺金ないぞ」
「貸しますよ」
ロザリンドがさらっと言った。借金だ。
「利息は?」
先に確認しておかねばならないことはこれだ。借金とは利息。これを確認しておかないと膨れ上がる恐怖で夜も寝られなくなる。
「トイチです」
トイチ。知らない間に用語が変わっていなければ、10日で1割。
「暴利じゃねえか!」
とんだ悪徳聖騎士だ。




