31 一回限りの奇策
さて、アルトに頼りにされているそのロザリーの方は、ウェスタに対し攻めあぐねていた。
大剣の質量を活かした剛剣がロザリーの剣の根本である。
それに対するウェスタは柔。ロザリーの剣を受け止めればすぐに折れてしまいそうな細い曲刀で、上手く力を流して防いでいる。
「ふっ」
上段から振り下ろされた大剣が横からの力で流され、ウェスタの体捌きと相まって空を斬った。勢いそのままに剣が石畳を叩き割り突き刺さった。
「恐ろしい剣だな」
口ではそう言っているが、ウェスタの表情は涼しい。その体は神聖術で強化されていることが見て取れる。
「なぜ、エルフが神聖術を……」
大剣が地面に刺さった隙に、ウェスタが曲刀で斬りつけてくる。ロザリーは左手を剣から離して手甲で曲刀を防ぎつつ、回し蹴りを放った。
ウェスタに蹴りを防御させ、その間に剣を地面から引き抜いて振り回す。
その暴風のような猛攻撃もウェスタの流れるような守りを突破することができない。
「神聖術が人間の専売特許だとでも? とんでもない」
「そうですか。あなたたちも神の恩寵があるのですね」
「ふん」
ウェスタは不愉快そうに唇を歪めた。
(強い。速くて、そして柔らかい……)
ロザリーは心中で舌を巻いていた。
ウェスタの使う剣、曲刀との戦いに慣れていないというのも一因としてある。
だがそれだけではない。ウェスタは強い。
しかも、である。
(この男、全然本気ではない……)
明らかに攻撃の手を抜いている。切り込んでこれるはずの隙を3回は放置されていた。
さきほどバルザックに言われた範囲、足止め以上のことをする気がないのだ。
そのためウェスタは攻撃のための冒険をしない。行うのは安全な範囲での、堅実な牽制のみ。それがウェスタの防御をより万全なものにしていた。
この防御を崩すにはかなりのリスクを覚悟しなければならないだろう。
その必要があるか判断するにもアルトとバルザックの戦いの状況を把握したいところだが、ウェスタはそれも許してくれない。
「あちらには行かせんよ」
ロザリーが目線をほんの少しでもそらしただけで、ウェスタが鋭く斬り込んでくる。
「くっ」
曲刀がロザリーの手足の鎧で守られていない部分を掠めた。服と肌が切り裂かれ血が流れ出た。
深い傷ではない。動きに影響はなく、常駐させている治癒術により数分で治る程度の傷だ。
(あちらも良くなさそう)
怪我をするリスクを負ってまでアルトの戦いぶりを確認し、ロザリーは焦りを感じた。
ロザリーが目の前の男を無力化して助太刀に行かなければ危ない。
だがそれが難題である。
剣の腕は互角かややウェスタの方が上だろうと思われた。曲刀への不慣れさも含めれば、ウェスタに殺す気で来られたら危ないだろうと思っている。
そんな相手にどうすればいいというのか。
ロザリーに名案はなく、悔しさをかみしめながら剣を振るい続けた。
どうやら、ロザリーがこちらに助太刀に来ることは難しいようだ。
俺はそう判断せざるを得なかった。
(バルザックを何とかするしかないな)
手はあるのだ。
一回しか使えないとっておきの手が。だがそれは、必殺の一撃に繋げなければ一転して窮地に陥ることになるものだ。
やるしかない。バルザックに負わせた傷が神聖術により治ってしまう前に。
「とっておき、使うとするか」
俺は小声でティーナに告げた。
「まだ奥の手があるのかよ」
俺の声が聞こえたわけではないだろう。気配で何か仕掛けるつもりだと察したバルザックが距離を取った。
あらためて上段に剣を構え、バルザックと向き合う。渾身の一撃を狙う、そういう構えだ。
「奥の手ってほどじゃないさ」
「信用ならねぇな」
「信じてくれよ、戦友だろ」
俺とバルザックが共に獰猛な笑顔を浮かべた。
数瞬視線をかわし、ティーナがバルザックの呼吸の隙をついて大きく踏み込んだ。大きく跳び上がって渾身の力で剣を振り下ろした。
バルザックが体を半身にしてよけた。ティーナの剣は地面すれすれまで振り下ろされ、止まった。
そこから再び全身の力を総動員して切り返してバルザックの胴を狙う。
バルザックが怪我をしていたはずの片手も剣に添えてその剣戟を受け流した。
こいつ、やっぱり治ってるのを隠してやがった。
「っく!!」
渾身の一撃を流されて、ティーナの体が伸びあがった。バルザックの目の前にがら空きの俺の首がある。
「あばよ!」
バルザックは俺の首を断ち斬ろうと剣を横に薙ぎ払ってきた。
狙いは過たず、バルザックの剣が俺の首を断ち斬った。
首を断ち斬られて俺の頭が宙を舞った。
狙い通りだ。
ティーナの剣が再び翻り、バルザックの肩口からわき腹にかけて深々と切り裂いた。
「は……?」
首のない胴体が動く。
およそ人間ではありえない事態にバルザックの表情が呆けた。
「首なしで動くって、なんだよ」
その頭めがけて、ティーナがとどめの一撃を振り下ろした。




