3 執行猶予、ですか?
少女がじり、と足をにじった。
(くるよな)
俺は悟った。それでも、友好を望む以上は、飛びかかられるまでこちらが抜くわけにはいかない。
後の先をとれるか。頼むぞカラーダ。
少女が地を蹴った。
「カラーダ!」
俺の合図に、カラーダが右手だけで剣を抜いた。
少女が迫ってくる。その剣は切っ先を水平にして後ろに向けていて、一気に薙ぎ払おうという構えだ。
カラーダの剣は普通の長剣。リーチはあちらの方が長い。
「踏み込め!」
俺の指揮のもと、カラーダが大きく踏み込みながら斬り付けた。
少女は大剣を薙ぎ払うのではなく、目の前で回すようにしてカラーダの剣を弾いた。返す刀でカラーダの胴を狙ってきた。
間一髪、カラーダが剣を戻すのが間に合い、鋼と鋼が打ち合った。
少女の体の大きさはカラーダの肩より頭1つ分は低い。体格差は俺のほうが圧倒的にしているもかかわらず、少女の剣にカラーダが押されていく。尋常ではない大剣をふるう力が押し合いにも発揮されているのだ。
「だから聞いてくれって。俺はその少女を助けただけなんだってば!」
「問」
押し合っていた少女が脱力した。
「答」
いきなり圧が消えて、カラーダの体が前に流れた。
「無」
少女が半歩さがって、剣を上に構えた。
「用!」
振り下ろす。
「さがれ!」
俺はとっさに叫んだ。カラーダはその指示通り飛びのこうとしたが、剣を退くのが間に合わず、少女の大剣がカラーダの剣を打ちすえて地面にたたきつけた。
少女の剣が迫る。
(あちゃ)
負けたな。俺は思った。少女は強い。俺の首がつながっていたころでも勝てたかどうか。
このまま斬られるのだろうか。
そう思っていると、少女の剣は俺の目の前でぴた、と止まった。
「降参です」
すぐに斬る気はなさそうだ、と思った俺はすかさず表明した。
「……誰か彼女を!」
少女は相変わらず俺と会話する気はなさそうだった。
村人の一人が、地面に寝かされている村娘に近づき、体を起こした。
「い、生きてます!」
「さっきからそう言ってるだろ」
俺の抗議は誰も聞いてくれない。
「洗脳されているかもしれません、起こしてください」
「はい」
村人は村娘の名を呼んで起こそうとした。村娘が身じろぎし、ゆっくり目を開けた。
「起きました!」
「え、あれ、ここは……?」
「村の近くだよ、大丈夫か、怖いことなかったか?」
「えと、私キングスネークに襲われて……助けてもらったんです」
村娘はきょろきょろとあたりを見渡すと、俺たちの姿を見つけ、またびくっと体を硬直させた。
「そ、そちらの、首なしさんに、助けてもらいました」
村娘は震えながらも真実をそのまま話した。
少女はそれを聞いてやっと剣を引くと、村娘のところまで歩いていき、目を覗き込んだ。
「薬や魔術の影響はなさそうですね」
少女はそう言うと剣を背中に収めた。
「ひとまず、この子を助けたというあなたの言葉を認めます。望みは?」
「できれば、話を聞いてほしいんだけど」
「村の皆さんは中へ。門は閉めていいです」
どうやら少女は俺の話を聞いてくれる気になったらしかった。
村人たちは顔を見合わせ警戒する様子は見せながらも、少女の指示に従って村の中へと戻って行った。
木の門が軋みながら動き、閉まった。
「私は聖騎士、ロザリンド・ヴァーハイツ。あなたの名は?」
話すといっても、ロザリンドは腰かけたり近づいたりするつもりはなさそうだった。
この距離はいつでも剣を抜いて斬りかかれる距離だ。
彼女は相変わらず警戒を緩めていない。
「俺の名はアルト、剣士だ。こっちの体はカラーダだ。実は俺の元々の体なんだが、なぜか今は別々に動いてて呼ぶときややこしいから、さっき名付けた」
カラーダが礼儀正しく礼をした。
「アンデッドなの?」
「俺もわからん。鎧の傷を見た限りかなりの傷を受けたとは思うんだが、人間を襲いたいとは思わない」
アンデッドの最大の特徴は生者を見境なく襲うところにある。その観点から、俺はアンデッドとは違う状態ではないかと思っていた。
俺の答えに、ロザリンドは目を細めた。何かを探るような視線を送ってくる。
「次の質問よ。あなた、神はどのくらい信じている?」
「食事の前に軽く祈るくらいには」
そういうのにうるさい仲間がいたからな。
「じゃ、いまやって」
「え、今!?」
「できないならいいですよ」
ロザリンドの手が背中に伸びた。
これはやらないといけないやつだ。
俺は記憶をたどってお祈りの言葉を思い出した。
「神よ、この命を繋ぐ恵みに感謝を。願わくは、この糧に穢れなく、我らの血肉を養いたまえ」
過去一くらい真剣に俺が唱えると、カラーダが右手だけでお祈りの形を作った。
指示していないのに合わせてくれるとは、できた体だ。
「とりあえず、世にも珍しい敵対的ではないアンデッドくらいには認めてあげます」
「ありがとう。村の中に入れてもらえないかな?」
「それは無理です」
「駄目?」
「不可能です」
取り付く島もない。
「この場は見逃してやるからとっととどっか行け、てことかな?」
即答されるかと思ったこの問いかけには、ロザリンドは少しの間何か考えていた。
「あなたがあくまで善良な者だというなら、町の教会でどうするか審理してあげましょう」
「審理の結果、殺しとこう、となる可能性も?」
「もちろんあります」
正直な答えがありがたいのも、時と場合によるよな。




