2 話を聞いてくれ!
俺の首は回転しながら一直線にキングスネークへ向かって飛んでいく。視界がぐるぐると回っているのに状況を把握した俺を誰か褒めてほしい。
キングスネークはまだ気づいていない。
ゴン。
俺の頭とキングスネークの頭がぶつかった。
衝撃が俺の頭を襲う。
「いってぇぇ!」
俺は思わず叫んだ。
俺は当たった衝撃で明後日の方向に跳ね返って、地面に転がった。首だけで地面を転がるのは人生初体験である。目だけはしっかり閉じて怪我をしないようにして、止まってから目を開いた。
幸い、首の向きはキングスネークを見れる方向だった。
俺の体が剣を抜いてキングスネークに迫っていた。
「シャー!」
キングスネークは俺の体を威嚇するが、俺の体は剣を上段に構えて迷わず踏み込み、キングスネークを斬った。
だがキングスネークはうまく体をくねらせてうろこで受け流した。蛇系魔物の得意手段だ。
「口の中に突き刺すんだ!」
俺は俺の体に指示した。口の中に鱗はない。しっかりと刃を立てて突き刺せば通る。
俺の体はその指示に従って、剣を突きさすように構えた。キングスネークのかみつく隙を探す動きに合わせて切っ先を口へと向け続ける。
「シャ、シャシャー!」
キングスネークはフェイントのような動きを交えながら俺の体にかみつこうとしている。
「待つな、攻めろ!」
俺の声に、体が思い切って踏み込んだ。剣が突き込まれた。
切っ先がキングスネークの喉に突き刺さり貫いた。
「そのまま振れ、たたきつけろ!」
俺の体はそのまま剣を持ち上げた。剣が根元近くまで刺さり、キングスネークの口が俺の体に近づく。
(やばい!)
やられるパターンだ。
牙が届くと認識したキングスネークが口を開き、俺の体にかみついた。上下の牙が俺の体に刺さった。
(いったぁ!)
痛みが伝わってきたわけではない。俺の体が傷つけられたという心理が俺の心の叫びとなったのである。
だが俺の体はひるまない。
かみつかれたまま左手でキングスネークの顎をつかむと、剣と握る右手に力を込めた。突き刺さったままの剣で、力づくでキングスネークを断ち切ろうとする。
渾身の力をかけられた剣がキングスネークの首の骨をへし斬った。
キングスネークはそれでもしばらく嚙みついたままだったが、次第にけいれんし、力が抜けた。
「……」
俺らしくない無茶な戦い方だった。
そもそも俺の首がちゃんとついていて俺の意志で剣が振れれば、スマートに最初の一太刀で殺せたはずだ。どうやら俺の体は弱い。
俺の体は近くの木から葉っぱをもいで刃についた血をぬぐい、剣を鞘に納めた。
「キングスネークには毒があるぞ、大丈夫か?」
そう問いかけたが、そもそも剣を収める動きに毒の影響は見えない。きっと大丈夫なのだろうと思った。
俺の体がこっちに来た。再び抱えあげられて、俺は再び周囲をちゃんと見れるようになった。
襲われそうになっていた少女は無事そうだ。
不安そうに倒れたキングスネークを見ている。
「あぁ、君、怪我はないか?」
俺が尋ねると、少女の目が初めて俺の方を見た。
「……ひっ」
そして気絶した。
不本意ながら、生首を持った首なし騎士を見れば普通はこういうことになるであろう。
もしかして俺はこの子を安全なところまで運んでやらないといけないのか?
まず、首なしの俺の体が少女をお姫様抱っこする。
俺の首はそのお腹の上に乗っける。
少女と俺の首を一緒に持ち運ぶには、この方法しかなかった。
(俺の体、って呼び続けるのもこんがらがるな)
俺はそう考えて、体に命名した。
「今日からお前はカラーダだ」
体は納得したように上半身で頷いた。
こうして俺は、カラーダに運ばれて少女が住んでいるだろう村へと向かった。
なぜ村の方向を知っているのかというと、カラーダに俺を真上に投げてもらって確認したからだ。鍛えた剣士の体は結構高いところまで投げ上げられるのである。
村までは歩いて1時間ほどとそう遠くはなかった。気のまばらな森から出ると、村の周りに広がる農地がある。畑には青々とした麦が絨毯のように敷き詰められていた。もう午後も遅くなりつつあり、農作業をしている農夫の姿はない。
俺たちは畑の間の農道を見つけて、村に向かって歩いて行った。
村は外周を柵に囲われている。魔物や獣に襲われるのを防ぐためだ。
入り口は木でできた門になっていて、村人が門番で立っていた。
「おーい!」
声が聞こえるだろう距離まで近づいて、俺は門番に声を投げた。
後から振り返れば馬鹿な事をしたと思う。俺は今、生首であること、カラーダには首がないことをすっかり忘れていたのだ。
俺たちに気付いた門番がじっとこっちを見たあと、首がないことに気付いて、腰を抜かすんじゃないかというほど驚いたようだった。
門番が笛を吹いた。
このころになってようやく俺は自分のやらかしに気付いた。
(自分が生首状態なのを失念してたな……)
一般的に言えば、化け物である。もちろん首なし騎士のカラーダもそうだ。
今の状況は、第3者が見れば、首なし騎士の化け物が村娘を抱えて村に近づこうとしているというものだ。
俺が村人側だったら間違いなく剣を抜くね。
だがこうなってしまった以上は仕方ない、今更逃げてもどうしようもないだろう。
俺はカラーダに足を止めさせると、まだ気絶している村娘を地面にそっと置かせ、少し離れた。俺はカラーダの左手に抱えられるようにして前を向いていた。
村人たちが手にめいめいの武器をもって数十人と集まってきた。
剣、槍、農作業用の鍬やフォーク。村では本当にいろいろなものが武器になる。
「落ち着いてほしい、村人たち。俺は怪しいものじゃないんだ」
俺はそう呼びかけるが、村人たちの返答はない。
「少女は無事だ、森の中でキングスネークに襲われていたところを助けたんだ。かまれていないから毒の心配はない」
事情を説明する。これで敵意がないことを理解してほしいと思った。
村人は相変わらず俺をにらんでいる。
「どうしたのです?」
村人たちの背後から女の声がした。
村人たちが俺への警戒を緩めないまま声の主に道を開けた。
村人たちの後ろから現れたのは、まだ10代半ばか前半くらいに見える小柄な少女だった。
透き通るような白銀の髪を短く切りそろえ、神官たちが教会外の活動で着用する黒い神官服を着ている。背には巨大な剣があり、幅広の刃に剣にしては長い柄がついている。
神官戦士。いや、佇まいに強さがにじんでいる。聖騎士にまでなっているかもしれない。
少女は俺たちの姿を見ると、殺気と共に無言で抜刀した。
重量感のある刃にもかかわらずそれを感じさせない動きでぴたりと構える。
ふわりと少女の周囲に燐光が舞った。
(神聖術まで使いやがる!)
聖騎士だ。間違いない。神への信仰心によってのみ得られる、超常の現象を実現する魔法が神聖術である。教会では神聖術を修め一定以上の技量に達した神官戦士を聖騎士と呼ぶ。
「首なし騎士よ、ただちに去れ!」
少女が気迫を放った。
「待て、早まるな。俺は生者を見境無く襲うアンデッド、デュラハンじゃないんだ。冷静に、話を聞いてくれないか!」
俺は声を張り上げた。カラーダは空いている右手をあげて抵抗しないことを示そうとしていた。
ここで逃げたら、ずっと追われ続けることになる。ここで少女を助けたんだということを示して、なんとか彼らと敵対的ではない雰囲気になっておきたかった。
少女の返答はない。
表情が語っている。
『悪と交わす言葉などない』
(これだから聖騎士ってやつは!)
思考が堅い。融通が利かない。このままではちょっとまずいな。




