29 光
「アルト?」
どういう話をしているのかと心配したロザリーが声をかけてきた。俺は今アルクスが述べたことについてロザリーに説明した。
「……私も同感です。アルクス様がお亡くなりになる前提の作戦など、私も絶対に嫌です。
確かに、やむを得ず斬ることが必要になることはあるかもしれません。けれど、それはやむを得ない場合には当たらないと思います。生きている限り力を尽くせと、私はそう教わりました」
ロザリーも反対したから、この作戦はどうあってもなしだ。
「ロザリー様、大変です!」
部屋の外からレットの声がした。
ロザリーがすぐに動いてドアを開けた。
「どうしました?」
「外へ! 西の丘が!」
西の丘。住民たちが避難して集まっているはずの場所だ。
そうだ。西の丘に避難した住民の中に操られている者が混じっている可能性があったのだった。
(くそ、まさか)
俺の危惧が当たっていて、彼らが暴れ出したのかもしれない。
レットと共にロザリーが部屋から出ていく。
「行こう」
ティーナに声をかけ、俺とアルクスもその後を追った。
大聖堂から外に出ると、西の丘から、暗くなり始めた空へ煙が何本も立ち上っているのが見えた。
「アルト」
ロザリーが西の丘に行きたそうにしている。
だが本当にそれでいいのか。バルザックの狙いが奇跡の核で、そのためにまず分かりやすい場所である薬水の泉を狙った。
「……アルクス様、西の丘にアルクス様に由来のある場所はありますか」
「いや、ないよ」
そうであるなら、バルザックは泉の次の本命として西の丘を狙うだろうか。
そうだとは考えにくかった。
俺がバルザックなら、次に狙うのはどこだ。俺とロザリー、2人の戦力でできることはバルザックをどうにかすることだけだ。
「西の丘には行かない」
俺は思考しながら言葉を発した。
「奴らが次に狙うのは、大聖堂だ。奇跡の核がある可能性が次に高いと考えられる場所だ」
俺は泉に向かう道へと目を向けた。
泉でよほどのんびりしていなければ、そろそろではないだろうか。
俺の予想はドンピシャだったらしい。ちょうど角を曲がって2つの人影が現れた。
一人はもはや言うまでもないだろうが、バルザックだ。もう一人は知らない。だがバルザックと並んで歩いているのだ、敵側なのは間違いない。
バルザックたちは、俺たちから15メートルほど離れた場所で立ち止まった。剣を抜き飛び掛かればすぐだが、不意打ちはできない程度の距離だ。
バルザックと並んで歩いていた男もまたエルフだった。鎧を着て、反りの入った細剣を腰から下げている。
「アルト、お前まだいるのかよ。とっとと町を出ろって言ったろ?」
バルザックの調子は普段と変わらない。
「残念ながら、相棒がそれを良しとしてくれなくてね」
「俺たちの邪魔をするっていうなら、手加減できないぜ?」
「しょうがねぇだろ。聖騎士ってのは制約が多いんだよ」
「そうか」
バルザックが大きく息を吐いた。そろそろ来るかな。
そう思った時、俺の背後から光が迸った。
虹色をはらんだ白光が黄昏時の町を明るく照らし出す。
奇跡の光。
「おいおい、そこにいやがったか!」
バルザックがその光と共にアルクスを認識した。
「アルクス様、何を!?」
ロザリーもその光を見て、アルクスが何かしようとしていることを察したらしい。
「エルフたちよ、私を甘く見ないでもらいたいものだね」
アルクスがバルザックたちに告げた。
「私は、この町を守り、救う者。お前たちの好きになどさせない」
アルクスを中心に円状に光の波動が広がった。波動が道を走り抜け、町中へと広がっていく。
「何をしやがった!?」
その波動を受けてもバルザックたちには何の影響もないようだった。
もちろん俺たちにも何もない。
「やれることを、ね。この町の人々を蝕む、その剣の呪いを解いたのさ」
そんなことができるなら最初から言ってほしい。そうすればもう少し違う動き方ができたのに。そう思わずにいられなかったが、それはすぐに間違いだとわかった。
「アルト、後は任せたよ」
かん、と固いものが地面に落ちた。
小さな白い八面体。先ほどまでそこにあったはずのアルクスの体はどこにも見当たらない。
ティーナがそれを拾った。
片手に収まるほどの小さな結晶体だ。
「……最後の力で、ってやつか。ほんと奇跡ってのはなんでもありだな」
バルザックが苦々しく漏らした。
俺はそれになんて返せばいいのかわからなかった。
結局勝手にやっちまいやがった。
「だがこれでシンプルにはなったな。念のため聞いておくが、そいつを渡してくれるなら、これ以上何もせずに撤退するが、どうよ?」
「おいバルザック」
仲間のエルフがバルザックに異論を言おうとした。
「この町の作戦は俺が仕切る、そういう話だろ」
バルザックの一言で黙った。
「で、どうだい? お前たち、別にそれが必要なわけじゃないだろ? それで町が守れるんなら悪くないんじゃないか。俺たちだって無駄に人間を殺したいわけじゃないんだ」
俺はロザリーと目を見合わせた。
小さくうなずく。俺たちの答えは一致している。
「これは今俺に任されたものだからな。残念だがくれてやらん」
回答と共に、ティーナは結晶を胸元の鎧の中に放り込むと、剣を抜いた。ロザリーもそれに倣った。
「そう答えると思ったよ。じゃ、力づくで奪うとするかな」
バルザックが剣を抜いた。
「バルザック、分かり切っていたことを聞いたお前はバカ者だと思う」
もう一人のエルフも剣を抜いた。
「ありがとよ。ウェスタ、お前はあっちの聖騎士を足止めしといてくれ」
もう一人のエルフの名はウェスタか。剣の抜き方、そして構えを見る限り、かなりできる奴だろうと思った。
「分かった。くじるなよ」
ウェスタの姿が消えた。速い。
鋼と鋼が打ち合う音がして、俺を斬ろうとしたウェスタの剣がロザリーの剣で止められていた。
「あなたの相手は、私でしょう?」
神聖術の燐光を纏い、ロザリーがウェスタを挑発した。
「これくらい止めてくれなければ、私の相手には不足でね」
「そ、う、で、す、かっ!」
ロザリーが一瞬のうちに5連撃をたたき込んだ。
ウェスタはそれを剣でさばき切り、距離を取った。やはり強い。
「さて、こっちもやるとするか」
バルザックはロザリーとウェスタの戦いに巻き込まれないように歩いて離れると、剣を構えた。
(1対1か。やばいな)
俺はそう思わずにはいられなかった。
傀儡種討伐軍時代、俺とバルザックの差はあまりなかった。それはつまり、ティーナの腕前ではバルザックに敵わないことを意味する。




