23 再会
スライムが残した結晶の方についてはアルクスもよく知らないようだった。
「さて、それじゃあ私は行くとしようかな」
アルクスは一通り情報交換を終えると立ち上がった。
「ゆっくりしてけばいいのに」
「私の声を聞くことのできない彼女が困ってしまうだろう。私の方の時間は幾らでもあるんだ、ぜひまたこの町に寄ってくれよ」
「わかった。またな」
アルクスが去っていく。その途中で別の客のテーブルからひょいと串焼きを取り上げた。
「あっ!」
目の前で串焼きが消えたその客が声をあげた。
「アルクス様が持っていったぞ、今日はツイてる!」
「よし、あとで賭場いこうぜ!」
「あぁ、今日は勝てるぞ!」
吉兆みたいな扱われ方をしている。よほど熱心な信徒でない限りはこんなものなのだろう。
「行かれたのですね」
ロザリーが騒ぐ男たちをちらっと見て、アルクスが去ったことを認識した。
「気になることを言ってたよ。エルフは敵だ、ってね。俺たちが狙われる可能性があるらしい」
「先日の彼女は結晶を持って去りましたが……」
「もしかすると、俺たちが奇跡によって生きてるとは気づかなかったのかもしれないな」
もしあの場で襲い掛かられていたらかなり危なかっただろう。
「今後は気をつけておく必要がありそうですね」
「そうだな」
もともとうかつにポロリすればデュラハン騒ぎになる身だが、これまで以上に気をつけておいた方がいいかもしれない。
酔ってポロリとか特にね。
「ロザリーは、エルフについて何か知ってるのか?」
俺が質問すると、ロザリーは首を振った。
「長い耳と白い肌を持ち独自の術を使うということくらいです。見かけたら必ず速やかに聖騎士団長に報告をあげること、とは言われていました」
聖騎士団として対応が必要になる可能性があるからなのか、騎士団長からさらに別の部署に報告を回すためなのか、どちらかだろう。
「わざわざそんな指示があるということは、教会にはエルフについてそれなりに知ってる人がいそうだな」
総本山で調べなければならないことが増えた。
「そうですね。総本山についたら聖騎士団長に聞きにいきましょう」
俺は頷いて返した。
どうやら頼んでいた料理がきたようだ。
「ほい、串焼き盛り合わせと煮込みだよー」
テーブルの上にどんと料理が置かれた。
さて、食べるとしようか。
俺たちは一通り飲み食いをして店を出た。
宿にしている大聖堂に戻る途中、俺は通りに面してカウンターを設えている店で見覚えのある横顔を見つけた。
「なぁ、あの店にいるあいつってもしかして」
小声でティーナに知らせてみると、勝手にそっちに向かって歩いて行った。
近づいてみると、確かに知っている顔だった。記憶より年齢は重ねられているが、見間違うほどではない。
「もしかしてバルザックじゃないか?」
俺は声をかけた。
「ん? お前……え、アルトか!?」
バルザックは一瞬怪訝そうに俺を見たが、すぐに誰か気付いてくれた。
「やっぱりそうだ。久しぶりじゃないか、“斬鉄”バルザック!」
俺の身体であるティーナがバルザックの肩を強めに何度も叩いた。ティーナとも仲のいい男だったから喜んでいるようだ。
「待て待て待て、お前死んだって聞いたぞ!?」
バルザックの目が俺の足がちゃんとあることをチェックした。失礼な奴だな、俺は幽霊じゃないぞ、もっと高等なデュラハンだ。
「それについては深いわけがあるんだよ」
「アルト、その人は?」
ロザリーが俺に追いついてきた。
「ローラン隊にいたときに仲の良かった、バルザックって男だよ。バルザック、こっちは聖騎士のロザリンド、理由があって今一緒に旅をしている」
俺はお互いを紹介した。
「結婚したのか?」
バルザックは深く考えずに発言したのだろう。
だがその瞬間、ティーナの本気の拳がバルザックを襲った。ティーナを怒らせるようなことを言ったこいつが悪い。
バルザックは体をのけぞらせてその拳をギリギリでよけた。
「うお危ねぇ! 違うなら悪かったが、そんな殺気込めてくることないだろ?」
「はは、聖騎士に対する礼儀ってもんがあるだろうが」
俺は拳が出た理由についてごまかしておいた。それを説明するには今の俺の状態について説明をする必要があるが、先ほど気を付けようとロザリーと話したばかりだ。
「ロザリー、すまんが俺はこいつと飲み直すから、先に帰っててくれ」
「分かりました。飲みすぎないよう気を付けてくださいね」
ロザリーが去っていく。
「かわいい聖騎士サマじゃないか。おーい、カップもう一つくれよ!」
バルザックが店員を呼んで俺の分のゴブレットを手に入れてくれた。
バルザックがそれになみなみとワインを注いで渡してきた。
「バカ言え、俺の好みに入るにはもう10年必要だね」
俺はバルザックのゴブレットと打ち合わせて乾杯すると一口飲んだ。物を飲むには俺とティーナで上手くタイミングを合わせて動かないとこぼれてしまうのだが、最近はお互いに慣れてきた。
「で、“飛剣”のアルトよ、お前タスナムあたりで死んじまったって聞いたんだがね?」
「死に損なったんだよ。ティーナに助けられてな」
「そうか。ティーナは?」
「死んだよ」
俺の返答に、バルザックは数秒間目を閉じて黙とうをささげた。
「戦場の似合ういい神官だったなぁ」
「あぁ。お前は今どうしてるんだ?」
「ローラン隊が傀儡種の親玉を討ったからな、褒賞で気ままに旅暮らしをしてるよ。お前は?」
「ちょっと野暮用で教会の総本山に向かって旅をしてるところさ」
「そうか。すぐ出るのか?」
「明日には出発しようかって話はしてるよ」
「そうだな。目的地のある旅はだらだらするもんじゃない。ま、今日は飲もうぜ。とにかく飲もうぜ。いいから飲もうぜ!」
バルザックが飲め飲めと酒を注いでくる。
「しょうがねぇな。よっしゃ飲もう!」
作戦、ガンガンいこうぜだ!
そしてその結果、俺は見事に飲みすぎた。
翌日、昼頃にロザリーにたたき起こされるまで寝ていたのである。
「首ポロリはしてないでしょうね?」
「してないよ」
俺はしれっと断言した。記憶ないし自信もないけどな。
「そうですか、ともあれ、こんなに遅くなってはもう出発できないので、出発は明日にしましょうか」
「そうだな、すまん」
俺は謝った。今からでは、暗くなるまでに安全な場所にたどり着くことができない。野宿などよほどの緊急事態でない限りするべきではないのだ。
「いつまでという期日があるわけではないのでいいですよ。せっかくなので剣の稽古でもしましょうか」
「そうだな、頼むよ」
「では後程」
ロザリーは部屋から出ていった。
酒の影響で眠りが浅かったのか、頭がぼーっとする。支度といっても、首だけの俺がやれることは一つもない。
俺はティーナが着替えて荷物を整理し準備を整えるのをぼーっと見ていた。
「服はちゃんとたたんでからしまいなさい」
ほっとくと雑に済ませようとするのでいちいち小言を挟まなければならなかった。こいつこういうところあるんだよな。“生前”は俺がたたんでやればよかったが、今ではそうもいかない。おかげで母親みたいなことを言わなきゃならないわけだ。
俺の小言にティーナは一応畳みましたというくらいの感じで適当に服をたたんだ。背中にうるさいなぁって気分が出ている。やれやれ。
身支度を整えて俺は大聖堂の裏庭に出た。
ロザリーが一人でゆっくりと剣を振っていた。型を確認するための動きだ。ゆっくり型を確かめる、というのは意外と重要なのだ。ゆっくりと正しい形で動かせれば、速度を乗せたときにも同じように動ける。体の動きを把握するのに一番いい修行だという者もいる。
ロザリーの剣も、こうしてゆっくり振っているのを見ると、細かい足捌きや体重の移動、剣を持つ手の位置など様々に工夫がされているのが分かる。力と勢いに任せるだけの剣技ではない。
「さ、やろうか。まずは素振りだな」
俺たちは日が傾くまでロザリーと一緒に剣の稽古をした。




