14 封殺50年
それは巨大なサソリの集団だった。
反り返った尻尾を除いた体の大きさは、高さにして1メートル弱。体の表面は黒く、右の爪だけが妙に大きかった。
見たことのない魔物だ。怖ろしい外見ではないのに、なぜかぞくりと存在しない背筋が泡立つようなおぞけが走った。
「なんだ、あれ?」
自慢ではないが俺もあちこちのフィールドで魔物と戦ってきた。それなのに見たことがない魔物が出てきて、俺は警戒のレベルを上げた。
「私たちはシンプルにデルモアスコーピオンと呼んでいます」
ロザリンドが解説してくれた。
「ここでしか出ない魔物です。右手の鋏からは恐ろしい速度で砂や小石を射出してきます。威力は、薄い装甲を貫通するレベルです。尾の針は解毒不可の致死毒ですので、絶対に刺されてはいけません」
なるほど。鋏からの射撃は絶対回避だな。
「甲殻は私でも断てないほどですので攻撃は必ず隙間を狙ってください」
「弱点は?」
「胴体をぶった切ればそのうち死にますが、難しいので、鋏と尾と足を断って無力化します」
聞くだけで厄介そうだ。
「バリスタ、撃てー!」
ジグマール隊長が号令をし、城壁上のバリスタが一斉に射撃をした。その数20。
坑道から出てまとまっていたスコーピオンたちが、それを察知したのか一斉に飛び跳ねて散開した。
バリスタの矢のほとんどは外れたり、甲殻に弾かれたりしたが、5、6本程度は命中していた。胴に当たった一本は貫通してスコーピオンをその場に縫い付け、尾に当たった一本は節を破壊してその先をちぎり飛ばした。うまく当たれば十分なダメージを与えられるようだが、スコーピオンの動きがすばしっこい。坑道から出てくるところくらいでしか当てられないだろう。
「さて、では行きましょうか。首はつけたままか城壁上に残した方がいいですよ」
そう言い残して、ロザリンドが城壁から飛び降りた。城壁の下には聖騎士や神官戦士たちの一団30名ほどが整列していた。
「隊長は下降ります?」
「いや、私はここに残って指揮を執る」
「よかった、じゃあ首お願いします」
カラーダは俺をジグマール隊長に向けて放り投げた。
「なっ、おい!」
隊長ナイスキャッチ。
カラーダはロザリンドの後を追って城壁から飛び降りた。
「首……」
隊長は俺の扱いに困っている。
「隊長、すみませんが顔を広場の方に向けていただきたく」
「あ、あぁ、うん……」
戸惑うよね。気持ちは分かるよ。
広場の方では、さっそく騎士たちが突撃を始めていた。先頭はロザリンドが駆けている。
「カラーダ、ロザリンドについていけ!」
カラーダはまだ真下にいて俺の声が届く。俺の指示を聞いてカラーダはロザリンドを追って走り始めた。
騎士たちはスコーピオンの射撃を警戒して間隔を広く開けているが、よく見ると3人ずつまとまっていた。おそらく3対1でスコーピオンに対するのだろう。ロザリンドだけが一人だ。急遽参加したせいもあるとはいえ、それで先頭をいく度胸はすごい。
一人なのはカラーダも同じだが、ロザリンドについていけば面倒を見てくれるだろう。
バリスタの第2射が放たれた。
1射目よりもスコーピオンが散開した分、命中弾は1しかなかった。城壁上の騎士たちはバリスタから離れて槍を手に壁に並んだ。
槍はどうするつもりなのだろうか。
見ていると、城壁を登ってこようとしてくるスコーピオンを何人かで攻撃し、壁から落としていた。仕留めるためではなく外に出さないための攻撃だ。
騎士たちは常にこいつらと戦っているのだろう。相当慣れている様子がうかがえた。一人が右鋏をけん制し、残り二人が側面に回り込んで斬りつけていく。
スコーピオンがたまらず右鋏を開いて炸裂音と共に散弾を撃ち放ったが、タイミングを見切った神官戦士は懐に飛び込んで回避した。
ロザリンドは、カラーダとペアになったことで散弾のけん制役をやっている。
カラーダも頑張っているようだ。今、左足の一本を斬り落とした。ちょうど荷重がかかった瞬間で、スコーピオンがバランスを崩した。
ロザリンドがすかさず飛び込んで右鋏の間接に上手く刃を入れて断ち斬る。
「イレギュラーはなさそうですね」
この調子でいけば死者を出すことなく出てきたスコーピオンを討伐できるだろう。
「そうだな。今日は数が少ないようだ」
少ない方なのか。道理で安定している。出てきたスコーピオンはざっと20匹ほどだ。
「それにしても慣れているように見えます」
「ま、50年こいつらとやりあってるからな」
「……50年?」
とんでもない期間だ。
「まさか、50年ずっと坑道から出てくるスコーピオンを叩いているんですか?」
「あぁ、そうだ。なぜ連中の巣になっている中に入って行って倒しにいかないのか、不思議だろ?」
「疑問には思いますね」
「連中の鋏、物を打ち出すだろ。あれな、大きい石が転がってると、それを使いやがるんだよ。そう、ちょうど人の頭くらいの大きさの石だ。盾で受けても止めきれん、よけようにも坑道は狭い。しかも網目のようにつながっているから、包囲もされやすい。
初期のころには何度か聖騎士隊が踏み込んでいったが、一人も帰らなかったそうだ」
「なるほど、それで封じ込め戦略を」
「あぁ。大本を討てない以上そうするしかない。ここから出せばその繁殖力であっという間に一帯を席巻するだろう」
「それほどですか」
「あぁ。奴ら、毎日平均40匹は坑道から出てくる」
年間にすれば約1万5000匹は出てきていることになる。それだけ増えているということだ。
「中には恐ろしい数がいるのでは?」
「そうだろうな。我々がこうして封じ込めできているのは、奴らがみんなで一緒にピクニックに行こうとしていないからだ」
「……もし、そうなったら?」
「このあたりは食いつくされるだろう、その後は傀儡種のように討伐軍を組んで頑張るしかない」
さらりと大ごとである。
「た、隊長! 伝令です」
そこへ、神官戦士が駆けこんできた。
「どうした?」
「3番坑道口でリュゼ副隊長が戦死、砦が破られそうとのことです!」
波乱だ。




