13 自由特権
俺はロザリンドに先導されて山道を登っていた。
両側の斜面には木と呼べるものは生えていない。すべて伐採されているようだ。見通しをよくするためだろう。
「これって、教会の機密なんじゃないのか?」
建物を見た感じ、新しいものではなかった。数十年は経っていると思われた。それなのに俺はこんな場所があるなど聞いたことがない。鉱山があるということさえ聞いたことがなかった。
この場所は隠されている。
「分かっちゃいました?」
「そりゃあな。いいのか俺を連れてきて。怒られないのか?」
俺は教会の部外者だ。
「私を叱れる人なんていないですよ」
言い切ったよこいつ。天狗ちゃんか。
「カラーダ、げんこつ」
カラーダがロザリンドに軽く拳骨をお見舞いしようとしたが、ロザリンドはひょいとよけた。
「お前、聖騎士だからってあまり調子に乗らない方がいいと思うぞ」
「違いますよ。私は教皇様から天下御免の自由行動特権をもらってるんです。他にこんなふらふら出歩いている聖騎士いないでしょう?」
「そういえば……」
いない。聖騎士や神官戦士といった、俺が知る教会の戦士たちは皆、教会騎士団の命令に従って行動していた。
思い返せば最初に出会った村にいたのも教会の仕事としては不自然極まる。巡回の儀礼や説法なら聖騎士が出るまでもない。そのうえ俺を連れ帰り、持ち場などないかの如く総本山まで行こうとしている。公式に自由行動を認められていなければ確かにおかしいといえた。
「だからこれもその範囲内です。それに、きっとアルトはここを見ておいた方がいいと思います」
「なんで?」
「乙女の直感です」
直感かよ。
「そういうのはもう少し乙女らしくしてから言ってくれ」
「ほう、アルトは私に乙女要素をご所望です?」
ロザリンドは俺の前に出てくるりと回った。
「前言を撤回する。乙女要素はいらない」
「えー、残念です。教会や町の人みたいに私を特別扱いしないから、気になってるのに」
もじもじするな。
「年上をからかうんじゃねぇよ」
俺ももう30である。死んでからよみがえる時間を抜けばだが。
「うふふ」
ロザリンドの笑い方で確信した。やはりからかわれている。
一方的に遊ばれてたまるものか。
「しょうがねぇ奴だな。じゃあ今度、町で思いっきりかわいい格好してきたら考えてやるよ」
「お、言いましたね。教会の鈴蘭と呼ばれたこの私の本気、見せてあげます」
「こっわ。猛毒植物じゃねぇか」
絶対に花じゃなくそっちから名付けたと見たね。
そう言ったところ、カラーダが俺を小突いた。
『レディーには優しく』
と指文字。
「わかったよ」
遊ぶのはこれくらいにしておいてやる。
目を山の上の方に向ければ、山中に立つ建物の一つまでもう少しのところまで来ていた。
近くによれば、その建物もさらに内側からの攻撃に備えて建てられていることがわかった。世にも珍しい内向きの砦だ。
鉱山でさらに内側、ということは坑道から何かが出てくるのだろう。
鉱山で出る魔物など、外から入りこまない限りワーム系くらいしか思いつかないが、連中は地上に出てきたりはしない。
俺は色々な可能性を頭の中で検討してみた。
うんわからん。
俺たちが砦につくと、そこでも神官戦士の出迎えがあった。
俺たちは出迎えの戦士の案内で城壁の上に登った。
砦の中心には予想した通り、坑道の入口とその前面に広がる広場があった。まるで観客席のない闘技場のようだ。
城壁の上にはバリスタが並んでいて、その全てに複数の神官戦士たちがついて備えていた。
ピリピリとした戦闘開始前の雰囲気がある。
「隊長、ロザリンド様がいらっしゃいました」
隊長と呼ばれた男は、立派な口ひげをたくわえた50前後の男だった。マントの色は白、聖騎士である。体格も良く、歴戦の風格があった。
隊長はロザリンドの姿をみてにっかりと笑った。
「ようロザリー!」
「ジグマール隊長、お久しぶりです」
ロザリンドが挨拶をした。
「やっと寄りやがったか。もっと来て手伝ってくれって頼んでるだろ」
「私もいろいろとやることがあるんですよ」
「へぇ」
ジグマール隊長が俺を検分するように見た。
「その男か?」
「はい。奇跡により死を覆された男、アルトです。ただちょっと、首と体がくっつかなかったのが問題でして」
ロザリンドの視線が俺に向いた。
カラーダがその視線の意味を勝手に解釈して俺をひょいと持ち上げた。
「……!? デュ、デュラハンの類ではない、のか……!?」
来たぞデュラハン呼び。武器に手は伸びないから半デュラハン呼びとしよう。
「はい。私はこれが奇跡によるものである証を見ました」
「む、むぅ。分かった、信じる。神も首を繋ぐところまでしてくださればよいのに……」
ほんとそれな。
「で、ロザリー。ここに来たからには手伝ってもらえるんだろうな?」
「もちろん。ベストタイミングでしょう?」
「あぁ。もうすぐ出てくるはずだ」
「分かりました。私とアルトは下に入ります」
俺も手伝わされるのね。
その時、一人の神官戦士が叫んだ。
「来ます!」
「バリスタ、引け―!」
バリスタの弦がキリキリと引き絞られていく。
戦闘が始まるのだ。
そして、坑道の入り口からそいつが姿を現した。




