12 鉱山砦
翌朝、俺は昼前に目を覚ました。
ベッドの上でカラーダに抱えられている。カラーダはまだ寝ているようだ。
復活して初めての酒だ。だいぶ飲んだと思う。俺とチェルシーの勝負は、どちらが勝ったのかわからない。飲みすぎて記憶が無いからだ。
首は、ポロリしていなかったと思う。自信ない。もしかすると何回か『首芸やりまーす』とかやってしまったかもしれない。
まぁ過ぎたことだ。飲んだのは半個室になっている席だったから、万が一やっていてもほかの客には気づかれていないはずだ。たぶん。
昨日ロザリンドと話した限りでは、今日は特に何も行かなければいけない場所はない。
出発は明日。今日は体調を整えたり、準備をしたりする日だ。
俺はカラーダが起きたあと買い物に行くことにした。
俺にはなるべく速やかに解決しなければならない問題があるのだ。
それは、戦闘中に俺をどうするのかだ。
カラーダの上に乗っているままでは、指示役として十分な仕事ができない。これまでは誰か持ってくれる人がいたが、常にそのような人がいるとは限らないのだ。
喫緊の課題というべきであろう。
それを解決するためにちょうどいいものがないか、店を回って考えたいのである。
なにかいいものがあればいいんだが。
そう思って一日中店を回り、俺はある物を見つけた。
(こ、これだ!)
衝動買いとはこのことだね。そのほかにもいくつかあるとよさそうなものを買い、俺は出発の準備を整えたのだった。
翌日、俺とロザリンドは町を出た。荷物は教会のロバを借りて、その背につけた籠に水と食料や衣服などを載せた。
「そういえば、どこに行くんだ?」
「デルモア鉱山というところです」
「鉱山?」
寄りたい場所というイメージにつながらないうえに知らない名だ。
「聖地的な場所に寄るのかなと思ってたんだが」
「聖地ではないですが、教会には重要な場所ですね」
「へぇ。行けば分かるかな」
「もちろんです」
「じゃあ行ってみてのお楽しみにしよう」
こういう楽しみがあってもいい。鉱山と教会。一見つながらない二つだが一体どういう場所なのか。
「何日ぐらいで着く?」
「明日には着きますよ。あちらに見えるエーデルモア山脈の中にあります」
ロザリンドの指さす先には遠くに山脈の姿がかすんでいる。なるほど、あれが目的地か。
鉱山への旅はトラブルなく進んだ。1泊の宿にはちょうど良い場所に集落があり、寝床を借りることができた。
翌日、目的地のデルモア鉱山が見えてきた。
木が伐採された山肌にいくつもの建物が立っているのが見える。
だがその建物が妙だ。
魔物に対する防備は必要だから、外周に城壁を備えているのはいい。だがその内側にまで小さな砦がいくつも建っているのはどういうわけだろうか。
「坑道の入り口を守っているのか……?」
思わず考えが口に出た。
ロザリンドが称賛の目を向けてきた。
「気づきましたか。行ってみてのお楽しみということなので、説明はしませんよ」
なるほど、寄るだけの何かがあるのだろう。
俺たちはどんどんと鉱山へ近づいていき、昼過ぎには城門にたどり着いた。
城門は開かれていた。
門の前に鎧を着けた一人の男が立っていて、どうやら俺たちを出迎えにきてくれているらしかった。
銀の鎧にグレーのマント。グレーのマントは神官戦士の証でもある。
俺たちが近づくと彼はその場にひざまずいた。俺にではない。当然ロザリンドにである。
「ロザリンド様、来訪感謝いたします」
「息災のようですね、レイモンド」
ロザリンドが声をかけると、レイモンドと呼ばれた神官戦士は立ち上がった。
「はい。ロザリンド様に鍛えていただいたおかげです。そちらの方は?」
「故あって私が預かっている者です。奇跡に関係していると考えています」
「おぉ!」
レイモンドは感嘆した。
「ようこそ、デルモア鉱山防衛区へ。私は神官戦士のレイモンドという者です」
そして俺に自己紹介をしてきた。
(防衛区って言ったな)
もはや絶対にただの鉱山ではない。そもそも、ただの鉱山で神官戦士が武装した姿で出てくることなどないだろう。
「冒険者アルトです、よろしく。首と胴が離れても生きているという奇跡を受けてしまいました」
カラーダは帽子を取って挨拶するかのように、俺の首を一瞬持ち上げた。教会の人間だし言っても大丈夫だよね。
レイモンドの顔がビックリマークになった。
効果は抜群だ!
「こ、これはだいぶ新しいタイプの奇跡ですね……」
ロザリンドが預かっている、ということからデュラハンだなどと罵ることはできない。ふはは、俺はついに聖騎士の威を借りてデュラハン呼びを回避するに至ったのだ。
「ニュータイプと呼んでくれ」
「分かりました、ニュータイプのアルトさん」
こほん、とロザリンドがわざとらしい咳をした。話がそれているから本題に戻れということだろう。
レイモンドはきちんとそれを承知した。
「失礼しました。隊長は今、第3坑道入口におります。直接行かれますか?」
「そうですね。ロバの方はお願いします」
「分かりました」
レイモンドはロバの手綱を取って城門の中へと向かっていった。
俺たちもその後についていって中に入る。
背後で城門が閉まった。
入ってすぐのその場所は、まさに砦の内側だった。レンガを積んだ無骨な建物が並んでいる。人が住む町ではない、軍事施設の、兵士が住む区画の雰囲気がした。鎧を着ていない男女も歩いているが、どこかで緊張感を残していて、引き締まった表情のままだ。
見かけるのはすべて教会の人間だけ。それが一層異様な空間に入ったかのように感じられた。
俺たちはレイモンドと別れた。道はロザリンドが把握しているらしい。
それだけ何度も来ているのだ、と思った。
居住区画を抜けると、もう一つ城門があった。こちらの城門の方が先ほどくぐってきた城門よりも大きく、様々な防御機構が備えられているようだった。
(おかしい)
俺はそう思いながらも2つ目の城門をくぐった。
違和感は確信に変わった。
城壁の内側に堀があったのだ。外側にはなかった堀が、である。
「この城壁、内側からの敵に備えているのか」
俺はそう結論付けた。そうでなければ説明がつかないと思ったからだ。
「そうですよ」
ロザリンドは短く肯定した。




