49.再び変化
朝から騎士たちが集まる訓練場に行き、知り合いの騎士の剣にかけた保護魔法の調子を確認した後、調理場へと寄った。
あれからずっと光の玉に近づくことは敵わないままだ。
さすがに待ちの姿勢は飽きたので、まだ試していなかった手作り菓子で釣ろうと自作を抱え部屋に運んでいるところでアリシアとチェルシーに出会った。
「あっ」
ノアが王都に向かってからアリシアは食事も部屋でするようになり、姿を見ることさえなかったので思わず声が出た。
その声に反応して、アリシアはチェルシーの後ろに隠れる。
しまったと思ったが出てしまったものは仕方がなく、私は足を止めてアリシアに話しかけた。
「久しぶりね。体調を崩していたと聞いたけれど、大丈夫なの?」
「……」
私を避けていたのか今は誰も受け付けない状態なのかはわからないが、一週間ぶりに見たアリシアは頬が少しこけ痩せていた。
公爵夫妻もアリシアの状態について口にしていたので心配していたが、思ったよりも痛々しい。
――ただでさえも細いのに……。
あまり外に出ず色白であるため、余計に心配になる華奢さだ。
ブレスレットが目に入る。魔法具でもあるそれはアリシアの身体に合わせて収縮するようなので、しっかりとはまったままだ。
反応を示さないアリシアの代わりに、チェルシーが応える。
「今日は気分もいいようなので、気分転換もかねて屋敷のなかをぐるりと回っているんです」
「そうなのね。よかった」
これを機に回復するといいとほっと息を吐くと、アリシアがわずかに視線を上げた。
当然目は合わないが、逃げるでもない反応があるのも久しぶりだ。それだけでいつもより調子がいいのがわかる。
「これから私の部屋でお茶をするのだけど、アリシアとチェルシーも一緒にどうかな?」
アリシアがどのような状態でも仲良くしたい意志があることを伝えるため、これまで通りに誘ってみる。
また断られるだろうと期待していなかったが、今日は隠れながらも訴えるようにチェルシーを見上げた。
「アリシア様、どうしたいですか?」
目を細めたチェルシーが優しく訊ねると、私の手元の菓子に再度視線を投じ、くいっとチェルシーの袖を引っ張った。
「気になるのですか? 私もどのようなお菓子か食べてみたいので、お誘いに乗ってご一緒させていただきますか?」
こくこくと頷くアリシアは、少し前のアリシアに戻ったように見える。
「図々しくも私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
この調子なら大丈夫だとチェルシーも判断したようだ。私たちは視線を合わせ、頷き合う。
ぶり返す可能性もあり心配ではあるが、せっかく前向きな気持ちになっているのを遮ることはしたくなかった。
「ええ。もちろんよ。どこが落ち着くかしら? 部屋で食べようと思ってプララにお茶の準備してもらっているところなのだけど」
光の玉のために作ったお菓子に視線を投じる。
アリシアだけならわからないが、チェルシーやプララがいては光の玉が寄ってくることはないだろう。
でも、せっかくアリシアから寄ってきてくれたのだから今はアリシアが優先したい。
アリシアがどう応えるのかチェルシーとアリシアのやり取りを見守っていると、最後に頷いたチェルシーが応える。
「そのままクロエ様のお部屋でいいそうです」
「そう。なら私の部屋でお茶をしましょう」
それから一緒に私の部屋に移動し、プララも一緒にしばらくチェルシーを介しながらアリシアと会話をする。
気づかれないようにアリシアの状態を観察していたが、お菓子にも手をつけているし極度に怖がったり避けたりということはないようだ。
少し前の距離感に戻った柔らかな雰囲気が流れ、肩の力が抜ける。
本当によかったと目の前の菓子を摘み口に入れ、もぐもぐと食べていると部屋の扉がノックされた。
「失礼します。プララと、――チェルシーもここにいたのですね。急遽人手が必要でプララと、できればチェルシーの手を借りたいのですがよろしいでしょうか?」
応答して顔を出したメイド長が、プララとチェルシーを見て早口で告げた。
「何かあったの?」
「騎士の訓練でかなり服が汚れたようです。それに加え、洗濯されていたはずの物が魔法具の故障のため清掃ができておらず酷い状態となっております。体裁にも関わるため、人手を増やして当たることになりました」
「それは大事ね」
衣装や装備の装着は公爵家の名をつけているのと一緒だ。
彼らの振る舞いや見た目が、街の人たちの公爵家の印象に繋がるためこの件を軽く見てはいけない。
聞けば、大事なお客様を迎えるために見せる訓練でひとりの隊員が張り切り、全体が汚れる羽目になったのだそうだ。
替えの服もなぜか状態が悪く、メイドはそれぞれの状況に応じてそれらに対応しているとのことだった。
「大変そうね。プララは手伝ってあげて。チェルシーは――、アリシア次第かな。ひとりが不安ならチェルシーは行かないほうがいいし、大丈夫なら私とここでお留守番をしてもいいわ」
アリシアはしばらく迷う素振りを見せたが、ここに残ると意思表示をする。
チェルシーは心配そうにアリシアを見つめていたが、すっとスカートを整えると立ち上がった。
「わかりました。クロエ様。アリシア様をお任せしても大丈夫でしょうか?」
「人手がいるのでしょう? アリシアが問題なければ、大変そうだしチェルシーの力を貸してあげて」
「アリシア様をよろしくお願いします。用が終わればすぐに帰ってきます」
「ええ。この部屋で大人しく二人で待っているわ」
アリシアに目を向けると視線を下に向けたままだが頷いたので、それで安心したのかチェルシーはプララと部屋を出て行った。
最近の不調を思うと心配なのもわかるけど、少しでも気持ちが前を向いているときに進んでも怖くないことを教えるためにもその背中を押してあげたい。
「どれくらい時間がかかるのかな」
実際にどれだけの量と手間なのかがわからなくて首を傾げると、アリシアがわからないと小さく首を振る。
頼る人がいなくなったため、自分で意思表示をしてくれるようだ。
「早く終わるといいけど。アリシアさえよければ待っている間、光の玉を捕まえるのを手伝ってほしいのだけど。どうかな?」
せっかく二人きりになったので、共通の秘密である光の玉の話はしやすい。
ただ時間が経つのを待つよりここにいる目的があるほうがアリシアも落ち着くだろうし、光の玉とは花畑で何度か会っているようなので問題ないだろう。
そう考えて提案すると、アリシアがこくこくと頷く。
ノアが言うように、秘密のことはアリシアにとって負担ではなく光の玉関係は楽しみが勝つようだ。
「いいの? あれからずっと逃げられっぱなしで、今日は捕まえるために手作りのお菓子を用意したのよ。アリシアもいればもしかしたら出てきてくれるかも。出てきてくれなくても、アリシアと一緒だと待つのも楽しいから嬉しいわ」
いつものかごに多めにお菓子を置き、アリシアとともにお菓子を食べながらチェルシーが戻ってくるまで待つことにした。
ここ数日、飛び飛び更新で申し訳ありません。
うまく反映されず、いつもより倍以上の時間がかかるバグが起こっておりました泣
無事、本日解決しました~! やりにくかったので本当によかったです。
書く内容は決めていますがこの先見せ方に迷う場面もありますので、今後もたまにお休みする日もあるかと思いますがこれからもお付き合いいただけたら幸いです。
いつもありがとうございます!




