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ブレイク家の嫁 ~いつの間にか名門一族の重要人物になっていた件~  作者: 橋本彩里
はじまりは約束とともに

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【そのころ】悪巧み sideビビアン


 連絡を返すと、ハストン伯爵はすぐにやってきた。

 よほど待ちかねていたようだ。


「待たせてしまってごめんなさい。私も忙しくて」

「いえ。お時間いただけるだけで助かります」


 伯爵のアメジストの瞳はクロエと同じ色だが、随分と雰囲気が変わる。

 なんというか儚さと色気が混在しており、親子ほど年が離れているのはわかっているが年齢をあまり感じさせない。顔立ちが整っているため、こういう手合いが好きな女性も多そうである。

 ビビアンも自分の話を素直に聞きそうな、美しい男はわりと好きだ。従順であれば、ある程度目にかけるくらいはしてもいい。


「それで相談があるとのことでしたがどのようなご用件でしょうか? 先に言っておきますと、融資のことは私にはどうにもできませんので父とお話しください」

「そう、ですか。心得ております」


 頷きはしたが、その顔から残念がっているのは隠せない。

 取り持ってもらえるよう頼みたかったのだろうが、先に言われ断念したようだ。


 ビビアンはふっと笑った。

 わかりやすい男は使い勝手がいい。しかも、確実にこちらが優位だ。

 クロエと血の繋がった実父。この男を使ってクロエに一矢報いることはできないだろうか。


「それでお話とは?」

「お察しの通り、侯爵様への返済はぎりぎりでして。それで工面のためにクロエと連絡を取りたいのですが、返事もなくて困っております」


 こほんと咳をして促すと、伯爵は少し前のめりになりながら助けてくれと訴える。


「ブレイク家に手紙を送っているのね?」

「わかったのは最近なのでブレイク家宛に送ったのは一度だけですが、全く音沙汰がありません。再度送る前に、アカデミー時代のことを知るイレイド令嬢にアドバイスをいただけないかと」


 困ったと眉を下げる伯爵を前に、ビビアンはメイドのほうへと視線をやった。メイドも呆気にとられたようで、困った顔をしている。


 ――この男、頼りなさすぎるわね。


 だから、クロエも好き勝手して生意気な女になるのだ。

 ビビアンは溜め息をつき、諭すように話しかけた。利用価値があるなら、伯爵の味方だと示しておいたほうがいい。


「最近だったら、その手紙が届いてすらいない可能性もあるのでは? お金もないのでしたら普通便で送ったでしょうし、返事があったとしてもその返事も普通便ならもっと遅くなるのでは?」

「あっ」


 そこで、今気づいたとばかりに伯爵が目を開いた。

 やっぱりそこまで頭が回っていなかったようだ。


「距離も考えずにただ返事が来ないと嘆いていたのですか?」

「ええ。まずは連絡しなければとそのことで頭がいっぱいで。お恥ずかしいばかりです」


 執事も同じくバカなのか、もしくはわかっていても言わなかったのか。とにかく、ハストン伯爵家はろくに機能していないのがわかった。

 前回の契約について話を聞いた際は、クロエの父であり優男ぐらいしか感想を抱かなかったが、本当に頼りない。だから、事業もうまくいかないのだ。


「わかったわ。とにかくすでに送ってしまった手紙のことは忘れて、もう一度改めて近況をしたためて書くつもりなのですね。どのようなことを伝えたいのでしょうか?」

「帰ってこれるなら返ってきてほしい。それが無理なら援助を願いでるつもりです」


 契約では縁を切る話が出た上でこちらの計画も壊し隣国に行ったのだから、帰ってこいに応える可能性はかなり低い。

 だが、伯爵の動きがクロエのストレスになるのなら、何かしらのアクションを起こさせるのなら、ここで止めないほうがいい。


「それなら返事があるまで何度も手紙を書いたらどうでしょう? そのほうが誠意は伝わると思いますよ」

「誠意を伝えるために手紙を書く……。内容は同じでも構わないのでしょうか?」

「そうです。契約していたくらいですから、クロエは伯爵家と縁を切るつもりでいたのでしょう? つまり、それほど当時(・・)は本気だったということです」


 実際のところは知らないしクロエの意思などどうでもいいが、そう思わせることが大事だ。

 案の定、伯爵の目の奥に希望が宿る。


「今は違う可能性があると?」


 少し前までクロエが契約してまで家から離れたがっていたことを忘れ、呼び戻そうとまで考えていた。

 そして、契約の言葉で当時を思い出し情けない顔をしたが、すぐに表情が明るくなる。自分にとって都合のいいことしか耳に入らないようだ。


「言い出した手前、自らはすぐに折れることはないでしょう。でも、実の父である伯爵が何度も手紙を送ったら、最初は反応するつもりはなかったとしても無視し続けることは難しいのでは?」


 途中の紛失の可能性だってあるし、ノアがクロエを守るためにクロエに届かせない可能性だってある。

 何通届くのかはわからないが、諦めずアピールしておけばそのうちクロエの耳や目には届くだろう。


 しつこさは必ず不協和音を生むはずだ。

 もしノアやクロエが怒ったとしても、それは伯爵に対してなので自分は関係ない。


「そうだな。クロエは優しい子だから家のことを放っておけないはずだ。イレイド令嬢のおっしゃる通り、誠意を見せるためにも反応があるまで手紙を送り続けることにするよ」

「ええ。父親としての誠意を届けてあげてください。きっとクロエに届くと思います」


 問題が起これば責任は伯爵に取らせればいいし、娘であるクロエだってこんな身内がいると知られてブレイク家で厄介者扱いされるはずだ。


 ――見ていなさい。クロエ。絶対あなたを蹴落としてあげるわ!


 ビビアンはクロエに苦渋を舐めさせるために、クロエの父、ハストン伯爵を嗾(けしか)けた。



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