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ブレイク家の嫁 ~いつの間にか名門一族の重要人物になっていた件~  作者: 橋本彩里
はじまりは約束とともに

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39.内緒の出会い


 無邪気な光の玉に苦笑し、なるべく頭の上を意識しないよう状況を整理する。

 予期せぬ展開に驚いているのはどちらも同じだが、アリシアから動くことはない。

 なら、私がどうしたい、どうすべきかだが、私たちの関係は置いておいても、アリシアがひとりならこのまま何もせず放っておくことはできない。


 ――唐突だったけれど、これも機会といえば機会よね。


 怖がらせたくはないので、このまま離れた場所から話しかけることにする。


「アリシア。こんにちは。ここにはひとりでいるのかな? それともチェルシーも一緒?」

「……」


 まず知っている人の名を口にするが、きゅっと口を引き結んだだけでアクションを起こそうとはしない。


「えっと、私はさっきも言ったのだけど光の玉に連れられてここに来たの。このような場所があるなんて知らなかったし、アリシアと会うとも思っていなかったから驚いたわ」

「……」


 光の玉と告げた時、わずかにアリシアの視線が動いた。

 私はアリシアを観察しながら頭の上に手を出すと光の玉がふわりと手のほうに移動し、今度はぽんぽんと手の上で跳ねる。

 アリシアもしっかりと頭から手に視線が移動したため、確実に見えているようだ。


「この光の玉はアカデミーの時に知り合ってついてきちゃったの。今のところこの子の存在はノアと私だけの秘密というか、私たちにしか見えないみたいで。でも、アリシアも見えているようね?」


 ここまで来るまでも誰も光の玉に視線を向けなかったので、見える人は限られているようだ。

 反応をじっと待ってみると、アリシアはゆっくりと頷いた。


 光の玉がいる、見えるということで、何かしらの警戒心を解いたのだろうか。ノアも知っていると知り、安心したのもあるかもしれない。

 とにかく、これまで徹底的に避けられてきてようやくできた話す機会だ。逃してはいけないと、この雰囲気を壊さないように話しかける。


「やっぱり! この子かなり自由で、今日も二か月ぶりに現れたと思ったらここまで連れてこられて。本当に綺麗なところね。あっ、ちょっとまたするの?」


 話しかけている最中に以前したことを思い出したとばかりに、光の玉がせっせと私の髪に花を突き刺していく。

 止めても聞かないだろうし好きなようにさせていると、アリシアが興味津々にこちらを見ていた。


「前もね、頭がすごいことになってノアにも笑われたのよね。部屋の花だけでなくどこからか花を持ってきたのだけど、もしかしたらここからなのかな」


 ここだけ季節関係なくとまではいかないが春と夏の花が咲き乱れており、特別な空間であることがわかる。

 自然に愛された場所と言われれば、精霊の類いの光の玉がここを好むのも頷ける。


「ブレイク領って素敵な場所が多いわね。ここに来てから身体がすごく楽になった気がするの」


 ずっと気を張っていたため余計にそう思うだけなのかもしれないが、とにかくここに来てから調子がいいのは確かだ。

 ちらりとアリシアを見ると、こくこくと頷いている。自領が褒められて嬉しいようだ。


「アリシアはここでひとりのようだけど、誰か知っている人はいるのかな?」


 そう訊ねると、アリシアは顔を強張らせスカートをきゅっと掴んだ。

 どうやら誰にも伝えずここに来たようだ。

 どうやってひとりになれたのか、本当にチェルシーが把握していないのかはわからないが、アリシアは後ろめたく思っているのが伝わってくる。


「誰にも言っていないのね」


 私の言葉にアリシアの手が小刻みに震え、アリシアの細腕に似つかわしくない太いブレスレットが存在感を主張する。

 魔力を抑えるための魔法具でアリシアには欠かせない物だが、華奢な少女がするにはあまりにも厳つくて重そうだ。

 彼女がそれをつけなければならなかった経緯を考えると、胸が痛む。


「大好きだからずっと一緒にいたいわけでもいなければいけないわけでもないし、ひとりになる時間も必要よね。アリシアとここで出会ったことは内緒にするわね」


 リラックスしていた様子から来慣れているようだし、ここは陽の気が漂っているので悪い場所ではないし何よりも敷地内だ。

 私からはこの件は黙っていたほうがいいだろう。


 アリシアが、本当に? と私のほうを見た。

 やはり視線は合わないが、少なくとも対話するつもりであること、いつもより目線が上に来ているので警戒と不安とともに期待が伝わってくる。


「私もね。とってもしんどくなったときは植物園に逃げ込んでいたの。そこで光の玉とも出会ったし、ノアともよく話すようになったの」


 アカデミーでは常に世話しなく動いていたため、植物園は唯一の癒やしのスポットだった。


「せっかくなら私もゆっくりしたいのだけど、少し近くに行ってもいいかしら?」


 訊ねるとアリシアは私と光の玉を交互に見てしばらく考えた後、ゆっくりと頷いた。

 互いに手を伸ばしても届かないくらいの距離のところで腰を下ろすと、私の頭を見て落とした花冠を拾い作業の続きをしだす。


 その様子を眺め、後ろに手を置き空を見上げる。

 ゆっくりと薄雲が流れ、しばらく光の玉は私とアリシアの頭を交互に行き来し遊んでいたが、作り終えたアリシアの花の冠を奪うと私の頭に乗せた。


「あっ、こらっ。勝手に取ったらダメでしょう。ごめんね。返すわ」


 花冠を取ろうとすると、アリシアがぶんぶんと首を振って頭を指した。


「もしかして、私にくれるの?」


 こくりと頷く。

 光の玉が奪ったのではなく、アリシアの意志を汲んで私の頭に乗せたようだ。

 目線は合わないままだけど、だいぶ進歩ではないかとぶわぁっと喜びが全身に広がる。


「ありがとう。大事にするわ!」


 表情は変わらない。だけど、確実に意思疎通ができている。

 これも光の玉のおかげだ。ありがとうと手を差し出すと、ぽよんぽよんとまた飛んだ。

 今日ばかりは部屋を散らかしても怒らないでおこう。それくらい嬉しい。


「せっかくもらったからノアに自慢したかったけど、ここで出会ったことは内緒だったわね。どうしようかなぁ」


 状態維持魔法をかけるのはマストとして、飾る場所も考えなければいけない。

 せっかくもらったし、秘密にすると言ったのだからそちらも約束を守りたい。


「しばらくは隠しておかないといけないけど、もしノアにも告げてもいい時がきたら教えてね。それまでは私の秘密の宝物にするわ」


 そう告げると、アリシアはじっと私の頭に花冠を見てわずかに口元を綻ばせた。

 すぐに無表情になったが、その小さな変化に気づきこの件はアリシアが動くまで絶対秘密にして約束を守ろうと心に誓った。



お付き合い、ブクマ、評価、リアクション、誤字報告とありがとうございます!!

明日から数話、ビビアンと伯爵サイドです。

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