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ブレイク家の嫁 ~いつの間にか名門一族の重要人物になっていた件~  作者: 橋本彩里
はじまりは約束とともに

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36.無口なアリシア


 湖に飛んでいった光の玉は帰る時になっても姿を見せず、仕方がなく日が暮れる前にと屋敷に戻ることにした。

 自然を住処としてそのままいなくなってしまう可能性もあるが、もともと自由な存在のようだし気にかけはしても行動を制限するのは違う。

 それにここまで追いかけてきたのだから、気ままにまた姿を現すだろう。


 ――なんとなく長い付き合いになりそうな気がするし。


 後ろ髪を引かれながら屋敷に戻ると、先ほど話題に出ていたアリシアが彼女の専属メイドと一緒に私たちの帰りを待っていた。


「ノアを待ちかな?」

「だろうな」


 これから接し方を考えていこうと話したばかりのこともあり、目の前のアリシアに意識を向ける。

 メイドの服をぎゅっと掴んでいたアリシアはノアを見てぱっと顔を輝かせたが、私を見てさっとメイドの後ろに隠れた。


 食事をするときなど家族の恒例行事として同じ空間にいることはあるが、まともに会話を交わしたことも、目が合ったこともない。

 私のことが視界に入っているのかわからないが小さく会釈をし、アリシアは他人と接するのが怖いということなので、私はできるだけ存在感を消した。


「シア!」


 ノアが穏やかな声で彼女の名前を呼ぶと、メイドの後ろからおずおずと顔を出す。

 私を視界に入れないように頑なに兄だけを見つめ、それっきり動かない。


「おいで」


 ノアが呼んでも、メイドの服を掴む力が強まるだけで一向に動こうとしない。

 私のほうへと顔を向けたノアと目が合い、私は頷いた。


「私は少し離れて(・・・)いるわね」

「ああ。待って(・・・)いてくれ」


 その言葉にわずかになぜだとアリシアが顔を上げた。メイドも不思議そうにこちらを見ている。

 これまではアリシアをできるだけ刺激しないように私だけ先に部屋に戻るなど、露骨にならないように距離を取ってきた。だから、私たちのやり取りに驚いたのだろう。

 私がノアのそばから離れると、ノアは両手を広げもう一度アリシアに声をかける。


「シア。俺を待っていたんじゃないのか? せっかくなら近くで可愛い顔を見せてほしいな」

「……」


 ぴくりと腕が動いたが、じっと動かない。

 やっぱり私が見える範囲にいては無理なのかもと諦めかけたその時、メイドがスカートを握っていたアリシアの手を取った。


「アリシア様。ノア様がアリシア様を呼んでいますよ。少しでも早く会いたくてここで待っていたのではなかったのですか?」

「……」


 アリシアの声が聞こえなくても表情を見ただけで何を言いたいのかわかるようで、メイドはにっこりと微笑んだ。


「大丈夫ですよ。私はアリシア様のそばを離れませんから。怖いのでしたら、アリシア様が安心するところまで一緒に行きましょう」


 その言葉を受けアリシアはしばらくもじもじしていたが、メイドと一緒にノアのほうへと足を向けた。

 大きく円を描くように私を避けノアの前に立つと、ようやくメイドの手を離し抱き着いた。


「寂しかったのか?」


 ノアと同じ金の瞳が今にも涙がこぼれ落ちそうなほど潤み、どこに行っていたのかと責める。

 その姿に苦笑して悪かったなとノアが抱き上げると、アリシアは兄の温もりにほっとしたのかふるふると首を振り、ノアの首に腕を回した。


 ――仲が良くていいなぁ。


 互いに相手を大事に想い、大好きなのが伝わってくる。

 ノアがアリシアを心配する気持ちを聞いたばかりなのもあって、より二人の関係が眩しく映った。


 アリシアの身体つきは九歳にしては一回り小さめで実年齢より幼く見え、ふわふわとした金の髪が動くたびに輝く。

 花の精霊だと言われれば信じてしまいそうなくらい容姿は整っており、声も出せず引っ込み思案なアリシアだが、家族を前にすると感情を表に出す。


「待っていてくれてありがとな」


 こくこくと頷き、兄に気持ちを伝えようとするアリシア。

 話せなくとも、精一杯に自分の気持ちを表す姿は可愛い以外のなんでもなかった。


 目を離したら誰かに攫われてしまいそうなくらい儚さと可愛さを持ち合わせたアリシアは、公爵家の中でも特別で守ってあげたくなるような存在だ。

 声も出せないので見ていなければどこかに消えてしまいそうな怖さもあり、ここの人たちがつい過保護になってしまう気持ちもわかる。

 それと同時に、今後のことを考えるとアリシアを守るために改善できるきっかけを作りたいというノアの気持ちも理解できた。


「今度、アリシアとも出かけような」


 ぽんぽんと労わるようにアリシアの頭を撫でると、アリシアは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 いつもと違うことをして逆に気持ちが引っ込んでしまったらと心配をしていたが、私がいても遠慮なく兄に甘える姿にほっとする。


 メイドが機転を利かせてくれたことで、アリシアが諦めずにノアのところに行けた。

 さすがに専属メイドに選ばれたほどの人物だ。アリシアの気持ちを理解し促すのがうまい。

 しばらくアリシアたちを見守っていたが彼らから離れたメイドが少し気まずそうに私を見たので、アリシアの視界に入らないよう彼女の専属メイドのもとに移動した。



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