33.光の玉
「クロエ、ちょっと外に出ないか?」
「あっ。ノア、ちょうどいいところに! 散らかってるのだけど入って」
人ではない意志があるもの、精霊に関する造詣はノアのほうが深い。
本当にいいところに来てくれたと歓迎すると、扉を閉めてノアが入ってくる。
「どうした?」
「アカデミーの植物園からついてきた子がいるみたいで、少し困ったことになったの」
「ついてきた子? これはすごいことになっているな」
部屋の惨状に感想を述べ、立ち上がった私の頭上と光の玉を交互に見たノアがふっと笑う。
「そうなの。アカデミーからついてきちゃったみたいで。これって大丈夫かな?」
アカデミー時代、光の玉は教授の魔法によってつくられたのか、教授が使役している何かかと思っていたため、そこにあってそういうものであるとあまり気にしていなかった。
だからこそ、この同行者は想定外だ。
勝手に荷物に潜り込んだようだが、教授も生きているものを入れたのなら告げるはずだし、もしかして植物園から横取りした形になるのではないだろうかと段々不安になってくる。
あと、単純に離れた場所に連れてきてしまって生態的に大丈夫なのかも心配だ。
「ああ~、なるほど。植物園で存在は感じていたが、クロエに懐いていたのか」
「ノアも感じるということは精霊とかそういった存在であってる? 実際に見たのは初めてだし、もっと形があるのだと思っていたのだけど」
アカデミーにいた頃、ノアといるときも近くを飛んでいたが光としては見えていなかったらしい。
「確かに一般的に知られる妖精は小さな人型で姿を現すことのほうが多いが、力が弱い精霊は形を成すことはできず、こちらは光として認識することもある」
「精霊にも地水火風の四大元素を含め光や闇と属性もいろいろだと教えてくれたけど、精霊にもレベルがあるのね」
大地のエネルギーと常に密接な精霊は、人間にはまだ解明できていないことも多い。認識できたこと、伝え聞いたことしかわからないのだ。
だから、ウェスタニア国の人々は大いなる大地と接するように精霊に敬意を払う。
「そうだ。光として見えた場合に俺の場合は属性がわかるのだが、その光の玉は属性がよくわからない。精霊の類いとして括るのが正解だろう。形を成すことはできないというよりは、形になる前とでも言おうか。はっきりとわからないが精霊と同等の自然的な存在でありながら、それ以上のエネルギーを感じる」
「形になる前というのは、生まれる前の赤ちゃんみたいなものかな?」
「ああ。そう捉えるのがいいだろう」
「へえ」
手を差し出すと、光の玉が転がるように乗ってくる。
赤ん坊だと言われると、この自由さや話の聞かなさも納得だ。悪戯も気を引くためや、単純に目新しくてやっているだけの可能性もある。
「確実に上位精霊以上の存在だろう。もともとアカデミーにいてついてきてしまったことだが、それも問題ないだろう。契約していれば優先はその者になるし、他者を気に入ることはあってもついていかない」
「ついてきたという時点で誰かと契約していたわけでもなく、この子の意思なのね。ならよかった」
精霊は自然と一緒だ。ある程度コントロールできても、決して縛ることはできない。
どうやら光の玉は、精霊の類いとして大きな括りの中にある意志を持ったものであるようだ。
「それにしてもその頭……、ぷっ。えらく気に入られたようだな」
「暴れる代わりにのりのりで飾ってくれたから、止め時がわからないのよね。そういえば、何か用事があった?」
「ああ。今日は天気もいいし、外に出ないかと思って。少し遠いが敷地内に湖があるからそこに行ってみないか?」
「湖? 前に言っていたところよね? 行きたい!」
屋敷内ではある程度慣れてきて動ける範囲も増えたが、まだ外はノアと一緒にしか出かけることはない。
ノアは好きにしてくれていいというけれど、自由とは己の行動に責任が取れてこそ本当の自由だ。
まだこの国の、ブレイク家のルールは勉強中であり、把握できていないことのほうが多い。
あまり勝手に行動すると意図しない迷惑をかける可能性もあるし、屋敷内で完結してしまう生活なのでたまに連れ出してくれるだけで今のところ不満はない。
それをわかっているからノアも誘ってくれるのだろう。
「クロエはどこに連れて行っても喜ぶから連れて行きがいがあるよ」
「どこも目新しいし、何より景色が素晴らしいんだもの。誘ってくれて嬉しいわ」
アカデミーで植物園を息抜きの場としていた私は、自然の中にいると気持ちが落ち着く。
幸いブレイク領は自然が多くあり、一部の区域以外は緑が豊かな領地のため、どこに行っても自然を身近に感じることができる。
片づけをしようと思っていたが光の玉も出てきて気分も変わってしまったし、また後でもいいかと、うきうきと私は支度をした。




