31.最初の自己証明
美しく盛られ運ばれてきた皿を見た公爵は目を細め、夫人は興味津々に、アリシアはわずかに目を輝かせた。
まずまずの反応にほっとする。
甘い物が苦手でなければ、やはり女性はこういったものが好きなのは万国共通のようだ。
「これはグルターニュ地方のアドベンチャーミラクルアイスです」
「あのアドミアイスだというのか?」
「はい。そのアイスです。こちらに戻ってくる道中、偶然巡り合いました。現地で食しましたが噂以上に美味しかったため、クロエがブレイク家の皆に土産にと――」
アドベンチャーミラクルアイスとふざけたような名前は、作り販売している元冒険者がノリでつけたとされている。
秘境でしか採れない特別なフルーツと、魔法によって冷やされたアイス。しかも作り手のこだわりの温度と時間だそうで、口触りと物珍しさは唯一無二の物だ。
「これがそうなの? ずっと気にはなってはいたのだけど、個人で食べることは難しく半分くらい諦めていたのよ」
ノアが説明し終わる前に夫人が声を弾ませ、まじまじと皿に視線を投じる。
「はい。彼らは一定の場所で店を構えるわけではなく地方のあちこちを移動するため、お金を積めば食べられるとも限らないのでなかなか味わうことができませんから。ラッキーでした」
アドベンチャーアイスは少しでも温度が変われば品質も変わるため、現地で食べるか、本人を呼び寄せ作らせるかしかない。
元冒険者は縛られるのは嫌だと呼び寄せも気分次第で断られ、高位の身分だからといって簡単に食べられるような物ではない。
彼らと出会えたのは幸運だった。
そのおかげでお金だけでは買えない珍しい物を土産として持ってくることができ、私にとってはいい出会いの一つだ。
公爵が何かを考えるように顎に手をやった。
「これが希少だとされるのは希少な材料や作る本人たちが捕まりにくいのもあるが、一番は運搬が難しいからだ。どうやってここまで運んできた?」
「馬車一台を改良して持って帰りました」
「馬車一台を?」
「クロエには簡単なことなので」
夫婦そろって目を見開き、私とノアを交互に見て二人は頷き合った。
表に見える表情は全然違うのに、こういうところの動作が一緒なのは長年連れ添った夫婦なのだと感じる。
「本当か?」
「確かめればすぐにわかるようなことに嘘はつきません」
そこでノアがこちらに視線をやったので、私は頷き言葉を引き取った。
「状態維持魔法は私の得意分野ですので、その場で魔法を見せてもらい温度を解析して保存して持ってまいりました」
「品質もそのまま、何より冷たいまま運ぶことはほぼ不可能だと言われていることをやり遂げたと?」
盗賊防止のため偽装しているとはいえ公爵家の馬車をそんな簡単に改良していいのか心配だったが、今後そちら方面で使えば問題ないとノアとオーブリーが言うので、手土産を渡せるし今後の役に立つならと張り切った。
そういった事情があり、途中からもともとそっちの馬車に乗っていたオーブリーが一緒に乗ることになったのだ。
「馬車に設置したのは魔法装置というほど大がかりなものではなく簡易的な魔法具なので、そこまで手間ではありません。たまたま適した物を持っていましたので」
別れ際に教授たちからもらった(押し付けられた)物の中にちょうどいい物があったので、それと私の魔法を組み合せるとびっくりするほどうまくいった。
だから、多少調整に時間はかかったがそこまで大した手間はかけていない。
「開発したのか? これまでの常識では氷魔法が得意な者でも凍らせすぎてしまうことも多く、たとえ適温を維持できたとしても長時間の魔法をかけ続けなければならず割に合わないものだ。魔法具を使うとしても、道中の魔力補充は必要なはずだ」
「魔力操作も得意分野ですので、魔法具との掛け合いも良好だったのもあってこれくらいなら片手間の範囲です。本格的に活用するなら改良は必要ですが、私がいればメンテナンスもできますし今後あの馬車をそういった用途で利用するのは可能です」
大体的に魔法装置として開発できればいいが、さすがにそれにはすることも多く時間がかかる。
ひとまず自分がいればそういったことは可能で、それなりに使える者であることをこのタイミングでアピールしておくことが重要だ。
ブレイク家の嫁としての、後ろ盾もない私にできる最初の自己証明。
むしろ、ノアと公爵家にはすでに助けてもらっているため役に立てるのならば使ってほしい。特に金銭的にかなり迷惑をかけている。
どんなことで利害が一致するのかわからないが、ノアも今後の活用に希望を抱いているようであったため、私の能力が全く役に立たないということはないはずだ。
「これは俺の妻、クロエの魅力の一端にすぎません。彼女の能力はこれだけではありませんし、これから追々知っていくことになるでしょう」
ノアがゆったりと笑みを浮かべ、私を愛おしそうに見つめた。
私たちの仲が円満であることを示すためだろうが、ちょっとやり過ぎじゃないだろうか。
それでも、ここで否定するわけにもいかず私は曖昧に笑みを浮かべた。
「なるほど。だから、先ほどの言葉になるのか。わかった。まずは味を確かめてからだな。さっそくいただこう」
ノアにこのまま任せると次々とハードルが上がりそうなので、ぜひともそうしてほしい。
公爵がまず口をつけると、夫人もアリシアも食べた。
「うまいな」
「ええ。口にした者が大絶賛するのもわかります。この滑らかさは癖になりますし、濃厚なフルーツの味がまた味わい深い。アリシアも美味しい?」
「……」
聞かれたアリシアはこくりと頷いた。
好評な反応に満足しながら私も口をつける。現地で食べた感触そのものだ。
「出先で一度だけが食べたことがあるが、その時と美味しさは変わらないな。これをまさかここで食べることができるとは」
「それをできるのがクロエなんです」
「だが、アカデミー時代には彼女の名前はここまで届かなかったが?」
名前を聞かないイコールたいした成績も残せていないことを言及され、ノアと顔を合わせた。
公爵の探るような視線を前に、ノアは不敵に唇を釣り上げた。
「それは彼女の実家のしがらみや大人たちの競争ゆえですね。正当な評価がされアカデミー外に漏れていたら、俺が彼女を捕まえるのはさらに困難になっていました。幸いにも勝手に自滅してくれたため、手に入れることができました」
「なるほど。ノアは国王を脅して神聖国に単身で乗り込み騒ぎを起こしただけの価値があると言いたいのだな」
「すでにわかっておられるのでしょう?」
ノアが探るように公爵へと視線を向けると、はははははっと公爵が笑う。
「まあ、初っ端から証明されたらな。紙上でしかわかっていなかったが、ここまでされたら認めないわけにはいかない」
「俺がどうしても欲しくて口説いた女性ですから」
ノアが誇らしげに胸を張る。
「わかった。ブレイク家の嫁として今後を楽しみにしている」
事前に調べているとさっきは言っていたし、それを踏まえて顔通しが出来ている時点ですぐさま追い返される心配はなかいとわかったが、ようやく公爵の口から未来の言葉をもらえた。
「よろしくお願いします」
聞き捨てならない発言があった気がするが、とにかく最初の関門は突破したと安堵の息をついた。




