27.はじまり
第二部 あらすじ
頼りなく自分のことばかりの父に愛想をつかし、伯爵家を出て自由を得るためにアカデミー卒業を目指していたクロエ。
卒業資格をビビアンの策略によりはく奪されそうになり崖っぷちから助けてくれたのは、顔を合わせれば口喧嘩をしていたノアだった。
ノアのおかげで無事卒業できたが、交わした契約によりウェスタニア国の盾と呼ばれる名門ブレイク公爵家に嫁ぐことになる。
自分の役割を見つけながら、精神的なショックを受け声が出なくなったノアの妹、アリシアと家族として距離を縮めていたある日、アリシアに異変が起き倒れてしまう。
その時に一緒にいたクロエは疑惑の目に晒され――!?
新しい仲間? とともにブレイク家の嫁として進みだした第二弾。
精霊を信仰し剣と魔法国家であるウェスタニア国は、緑に溢れた自然豊かな土地を持つ。
国内にある独立国家の神聖国を含め、精霊や神に守られていると言われるウェスタニア国は、精霊の存在を感じるような事例も多く、見える者や精霊と契約している者もいると聞く。
そんな神秘の国であるウェスタニア国に入国し、馬車を走らせること数日。
クロエ・ハストンから、目の前に座るノアの妻、クロエ・ブレイクとなった私はぼんやりと外を眺めていた。
「子どものころからよく遊んでいたため、兄弟のようなものだ。クロエも彼らに身構えすぎずに家族のように接してくれたらいい」
ウェスタニア国の王族の話になり、悪魔の王子と噂される二人の王子がノア目線からだと随分可愛い人たちであることは新鮮だった。
私たちの一つ下の王太子は唯我独尊で周囲の意見を聞かないかなり自由な人、下の王子は触れればすぐに噛みつく狂暴さで二人ともかなり癖がある人たちだと噂されている。
そんな彼らが唯一懐いているのがノアだと聞いているが、噂とノア目線が違いすぎて結局どのような人たちなのか掴めない。
とにかく王宮内でもノアの存在は重宝されているらしいことはわかり、夫となったノアの有能さをまた一つ理解した。
「そうね。対外的なこともあるからどうなるかわからないけど、なるべくフラットに見るようにするわ」
「ああ。それでいい。クロエはクロエの思うように動いたらいい」
「ありがとう。それにしても、ノアは私に気を遣いすぎじゃない?」
ノアはことあるごとに私の好きなようにと伝えてくれる。
これまでの私の環境と自由になりたいとの意思を考慮してくれているのだろうが、正直、これまでよく口喧嘩をしてきたのでここまで気を遣われると変な感じだ。
前のように口喧嘩したいわけではないが、追求した際に「これからよろしく、俺の花嫁」とあっけらかんと言い放った時のようにノアには堂々としていてほしい。
そのほうがらしくて落ち着くとさえ思うのは、純粋な優しさに慣れないからか。
「いや、なかば騙すような形で婚姻を結んでしまったから」
「それも私を助けるためでしょう? ちゃんと理解しているし、内容に納得してサインはしたから心配しないで。それにノアは私がいいと声をかけてくれたのでしょう」
「もちろんだ」
大きく頷くノアに、私も満足して頷く。
「なら、それでいいよ」
ノアは私のピンチを助けてくれただけでなく、私の人生も背負うつもりで声をかけてくれた。
成り行きと勢いで結婚したが、契約や誓約内容に嘘はなく履行するつもりでいること、嘘をつくような人物ではないことは知っているのでこの件に関して憂いはない。
結婚に夢を見ていたわけではないし、常に最悪は想定にあった。
そう考えると、生涯の伴侶が自分のことを思って動いてくれたノアであることは幸運だったとさえ思っている。
「そうか。王子たちだが、急に………ことが……が、…………っておいていい」
ただ、ノアもブレイク家もあまりにも次元が違い私の知らない世界の住人のような話も多く、その中に嫁として身を置くことの現実が迫ってくると戦々恐々とする。
王子たちには実際に会ったことはないためまだ判断しようはないが、まずはブレイク家に溶け込めるかが大事だ。
もうすぐ着くとなるとどうしてもそちらに思考が持っていかれ、わずかに頬を緩めたノアの言葉を聞き逃してしまった。
――自分で思っているより緊張してるのかも……。
目の前の話に集中できていないのがその証拠だ。
なるようにしかならないし腹をくくったつもりではいたが、さすがにノアの家族、公爵家の面々ともうすぐ対面するのだと思うと気が重くなる。
気を紛らわせようと窓の外に幾度となく視線を走らせるがそれらの風景に感情が伴わず、ただ流れていくだけだった。
小さく嘆息すると、私の様子に気づいたノアが話しかけてくる。
「どうした?」
「うまくやっていけるか心配になってきて」
「クロエでも緊張することがあるんだな」
「でも? 私をなんだと思っているのよ」
失礼すぎないかと眉を寄せると、ノアはははっと軽快に笑う。
「度胸はあるだろ? アカデミーでも何を言われても忙しそうにはしていたが平然とこなしていたし」
「それは他人のことなど気にしている余裕がなかっただけ。当時の私にできることは、目の前のことを片付け結果に繋げることだったから」
アカデミーでよい成績を修め、伯爵家から逃れ独り立ちすることしか頭になかった。
そこを乗り越えられなかったら私の人生は終わるのに、ほかのことを気にする余裕なんてない。それに尽きた。
「俺も適当に相手されていたからな」
「ノアは暇つぶしで絡んできただけじゃない」
「半分間違ってはいないが、絡みたい相手がクロエしかいなかったのだから仕方がない」
落ち着き払った声で堂々と言われ、んんっ? と目を見張ると、ノアは長い足を組み直し、意味ありげに口元を緩ませた。
大したことを言っていないのに、偉そうに見えるのはどうしてなのか。
「私だけ?」
「そうだ」
「そうなんだ……」
堂々とした態度に最初わからなかったが、じわじわと内容が脳に浸透し胸をくすぐってくる。
入学してすぐに突っかかれてきた印象があるのだが、そんな最初の頃から私を見ていたのかと考えると、無性に叫びたくなった。




