5-1:小さな村と、最初の観測
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朝の光は、思っていたよりもやわらかかった。
昨夜は、初日の夜とは違いしっかりと睡眠をとれていた。
ラナ婆さんの用意してくれた寝床は藁のようなものを詰めたものに、かけ布一枚で、当然客用のベッドなどあるわけもなく床だった。元居たところの寝床とは比べようもないが、初日の夜に比べると天と地の差だった。
昨日、会話の後は、食事を貰った後にすぐに床に就いていた。
ミリィは、周が泊まることを知ると「お兄ちゃんここに泊まるんだね!」と喜んだ様子を見せていた。
「おーい! 起きてたんだね!」
明るい声が門の向こうから聞こえた。
顔を出したのは、ミリィだった。
「村を案内してあげろって、婆ちゃんに言われたんだ!」
「……よろしく頼むよ」
少し照れくさそうに笑い返すと、ミリィは小さく頷いた。
ミリィと歩きながら、村のあちこちを案内して貰った。
井戸と、干し台と、獣避けの柵。
家のつくりは石と土と木。漆喰のような素材で固めた壁と、茅葺きに似た屋根。
「マスター、周囲の建材・構造物・日用品をスキャン中──」
アイテルのシステム音にも近い音声が聞こえてくる。
「素材の比率と技術水準から推定──生産拠点は村単体、外部交易は限定的。保存性よりも即時利用を重視している生活圏です」
周は、木の皮を削っていた老婆を目にしながら、ミリィに聞いてみた。
「ミリィ、あれは何をしてるんだ?」
「あれ? あれは干しておくすりにするの。虫よけとか、やけどの粉にしたりするの」
「薬効成分の推定:有効。熱乾燥で酵素失活を抑える処理──」
(うん、なるほど。この世界なりの工夫か)
畑のそばで、周は立ち止まった。
ミリィが小さな苗を指差して教えてくれる。
「これがヤネリって言って、こっちがニシュ。どっちもよく食べるよ」
アイテルがすかさず補足する。
「ヤネリ:デンプン質多め、根茎可食部。ニシュ:葉が可食部と推測」
「……なんか、すごいな」
「何が?」
「いや、ミリィじゃなくて、こいつ」といいスマホを掲げる。
「むぅー。案内してるのはわたしでしょ」
ミリィが拗ねたように頬を膨らませる。
歩きながら周は、周囲の風景をひとつずつ「観察」していた。
素材、習慣、道具の使い方、家畜、仕草、声の調子、子供の走る速度。
そのすべてが──この世界で“できること”を見つけるための、きっかけになる気がした。
そう思えた。
周はふと足を止め、村の一角、壊れかけた荷車に目をとめる。
「……なあ、これ、直す人いないのか?」
「うん。これは壊れちゃって、今は使えないんだ」
ミリィの返事を聞いて、周はゆっくりしゃがみこむ。
「アイテル、構造解析できるか?」
「──応答。荷車構造、回転軸破損、固定具劣化。使用可能部品:残存73%。再設計、可能」
「よし……。これ、やってみてもいいか?」
ミリィが目を丸くして見ている。
「これ、直せるの?」
「分からない。でも、“やれるかもしれない”って言ってくれてる」
「お姉ちゃんが?」
「そう。俺じゃない」
「でも、“やってみたい”のは、お兄ちゃんでしょ?」
周は、少しだけ頬をかいた。
「……まあ、そうかもしれない。ミリィの家には道具はあるかな?」
「あるよ」
「なら──やってみるか」
少しずつでいい。今は、出来ることをひとつずつ積み重ねていく。
最終調整では、アイテルが荷重分散を警告するなど適格なアシストをしてくれたおかげで、荷車は無事に息を吹き返した。
それが再び村の道を転がるように、この村での周の役割も回り始めるのだろう。




