15-1:余白の器
Golem / Undefined Behavior
リクの案内でたどり着いたのは、高台を超えた先にある小さな集落だった。彼の家は古びた木造だったが、手入れは行き届いているように見えた。夜更けというのもあり、リクは少し遠慮がちにドアを叩く。
「親父、お袋! 俺だ」
戸を叩く音に出てきたリクの両親は、泥と血にまみれた一行を見て息を呑んだ。
「お前たち、一体何を……とにかく中へ入りなさい」
その後、リクの両親は事情も聞かず、布と湯を用意してくれた。
ナナのローブ一枚だったアイテルには、リクの母親が古着を見繕ってくれた。素朴な麻のワンピースだが、アイテルには少し丈が余ってぶかぶかに見える。
「……ありがとうございます。お母さま」
アイテルは感謝と共に丁寧に頭を下げる。
「まぁ、お母さまだなんて。リクがこんな知り合いを連れてくるなんてねぇ」
リクの母親は少し照れながらも、まんざらでもなさそうに奥へ引いていった。
「マスター、いかがですか? このコスチュームは?」
アイテルはスカートの裾をひらりと揺らしながら、からかうように周に尋ねる。
「コスチュームって……」
周は呆れつつも、その姿に目を細めた。
「まあ……よろしいのではないでしょうか」
周が照れながら答えると、アイテルは満足げに微笑んだ。
その後、急ごしらえだが、野菜と干し肉を煮込んだ温かいスープが振る舞われた。
湯気の立つ木の器が、アイテルの前に置かれる。
「……これが、食事」
期待を込めてスプーンを手に取ったアイテルを見て、周はふと真顔に戻った。
「聞いてなかったが、その体……エネルギー源は?」
「はい。基本的な構造は人間的な生体機能を模倣していると推測されます。しかし、現在の自己診断データの中では解析しきれない不可知領域が含まれています」
「そうか。なら食事は可能だし、魔力以外にも物理的なカロリー摂取が必要とみるべきか……」
ぶつぶつと考え込む周の背中を、リクが叩いた。
「何難しい顔で考えてんだ? 早く食えよ! 旨いから」
リクは周の杞憂など知る由もないようで、アイテルにスープを勧める。
アイテルはおそるおそる口に運び、一口含んだ。 動きが止まる。
「……」
「どうだ?」
「……熱源としての摂取以上に、情報量が多いです。味覚への入力……これが『食事』なのですね。比較対象がないので、おいしさの判断は出来かねます」
アイテルは淡々と、一つ一つ確かめるようにスプーンを動かした。けれど、器が空になる頃には、彼女の白い頬にはほんのりと赤みが差していた。




