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10-2:扉の向こうにあるもの(後半)

// portal.open("district.alpha")

周はセルジの忠告通りに壁外の安宿に泊まった。

翌日、周は改めて狩猟ギルドに出向いていた。

狩猟ギルドでは適性検査などはないが、登録条件として仕事をこなさなければならなかった──今回割り当てられたのは、郊外のフィールド調査。

周は、ギルドの指示で同じく今週登録された新人二人──剣を腰に差した青年リクと、弓を担いだ少女ナナと共にパーティを組まされていた。

二人は若く、10代の中頃といった風貌だった。

”おっさんが高校生と乗り合い教習受けるみたいな居心地の悪さだな”

リクという青年は、明らかに鍛えられた肉体をしており、剣を差していることから狩人というよりもその先の兵士の道を目指しているように見えた。

ナナという少女も、すらりとしながらもしなやかに鍛えられており、弓もよく手入れされているように見えた。

”身体能力で言えば、俺なんか運動不足のおっさんに過ぎないからなぁ”


「俺はリクだ!よろしくな。おっさん、そんな年で今更ギルドに登録するなんて、気合入ってるな」

笑いながら肩をたたいてくるが、周はそれほど嫌な気はしなかった。

「やめなさいよ、あんた失礼よ。人にはそれぞれ事情ってものがあるんだからさ」

ナナはそう言ってリクの手をどける。

「それにギルドの人に聞いたけど、魔術師なんでしょ?頼りにしてるから。私はナナ、猟師の娘なのよろしくね」

そう言って、ナナは周に手を差し出す。

「周だ。こちらこそよろしく」

リクはともかく、ナナはしっかりしているようだった。周はナナと握手を交わす。

「周は魔術師なのか?魔術が使えるのにレンジャーになろうなんて珍しい奴だな。変人だな、お前は」

狩猟ギルドに所属するものは基本はレンジャーと呼ばれるものらしい。

「はははっ、そうだな俺は変な奴かもな」

遠慮のない言い方に思わず周は笑ってしまった。


それからギルドでルーキー向けのブリーフィングのようなものを受ける。

「現地は切り立った岩場だ。谷間が、行商人の通り道になることがあるんだが、最近岩場で落石の被害が多くなっている」

「今回は、その調査となる。出くわすことはないと思うが、岩場には硬質の外郭を持つ魔物が出ることもあるため注意しておくように。危険と感じたら即逃げろ。そういった判断を含めての初仕事だ」

「……なるほど。硬質の外郭か。既存の魔法で突破可能なんだろうか?……まぁしかし、ルーキーなら逃げ方や危機回避も知れということかな」

「タスクは調査ですからね。無駄な危険は避けるべきですよ」アイテルにメッセージで忠告される。

「分かってるよ」


 現地に到着した一行は、まず岩場の地形や崩落の痕跡を調査していた。

「……この爪痕、魔物か?」

リクが岩肌を指さす。

「落石も、こいつが原因なんじゃないの?」

ナナが爪痕を差しながら問いかける。

「接触痕からみて、爪が岩盤に食い込むほどの硬度。データにない強力な魔物の可能性が高いです」

アイテルのメッセージを確認して周は思考を巡らせる。

「……逃げ道さえ確保できてれば、まだ……」

ナナが小さく呟く。

「まずは周辺の確認が先だな。《-風よ巡りて、響き帰れーリフィノ・レゾナ》 」

周は探知魔法を展開するが、周辺地形の影響かノイズが前よりも多く判別精度は不安定だった。

画面には比較的大きめの反応が三つ映し出されていた。

その時、岩陰に重低音の振動が響いた。三方向からの足音──。

「──三体!? そんな……!」

ナナが驚いて声を上げる。

周が状況を整理する前に、三方向から来た同種の魔物に囲まれてしまっていた。

それは硬そうな外殻に覆われ、体躯はトカゲを思わせるようなまさしく魔物と呼ぶにふさわしい外見をしていた。

尾まで合わせれば3メートルほどはあるように見えた。

「囲まれてるっ……!?」

リクとナナが反応するも、もはや遅かった。

切り立った岩場の斜面は登れる類のものではなかったし、岩場以外の方向は塞がれてしまっていた。

ナナはすかさず弓を構え、一体に矢を放つ。…しかし、鋭く放たれた矢は外殻に当たって跳ね返された。

「──効かない……っ」

ナナが息を呑む。

「くっそがぁ」

リクは一番近い個体の前足の部分に剣を振り下ろす。

ガキンッ、という鈍い音とともにリクの剣ははじかれる。

音からもかなりの硬度を持つことが容易に想像できた。

次の瞬間、丸太のような腕が大きく振りかぶられる。

「リクっ!距離を取れ!!」

周がとっさに叫ぶ。

リクは声に反応してとっさに後ろに向けて大きく距離を取る。鍛えられた動きだった。周では同じようにはいかなかっただろう。

大きな音を立てて爪が地面に食い込む。先ほどまでリクがいた場所は地面が数十センチの深さで抉り取られていた。

リクとナナは慌てて再度、距離を取るが、三人ともがじりじりと間合いを詰められていた。

最初はばらけていた三人だったが、追い詰められて岩場を背に密着するように身を寄せ合う形になっていた。

「くそっ、これが初仕事だぞ。…こんなところで。……死んでたまるかよ」

リクはか細い声でぼそぼそと呟いている。

「こんなの聞いてないよ…」

そう言いながらナナは周の裾を握っていた。その手は小刻みに震えていた。

周も正直に言えば恐ろしくて仕方なかったのだが、なぜだか二人を見ているとカロスと対峙した時の自分を思い出して逆に冷静になる部分があった。

”意外と俺は死線を超えてるな…”

体は熱く鼓動はうるさいほど耳元でなっている、しかしその視界は驚くほど鮮明だった。

「ふぅ……アイテル頼む」

周は呼吸を整える。そして、即座にアイテルに指示する。

「データベース照合──種別不明、表皮強度が非常に高いと推測。現状までに使用した魔法での損傷は困難かもしれません」

「だったら──破るまでだろ?」

 周は街で入手していた、インゴットとも言えない金属の塊を取り出し、指の間に挟んで構える。

「構造の再構築で貫通力を付与、スピンを加え、火魔法で推進、射出構造を強化する」小声で周はつぶやく。

「イメージは伝えた。細かいところは頼むぞアイテル!!」

「了承。金属片の再構築・構造の最適化、射出方法を最適化して構築、発動可能!」

《螺旋をまとい貫け、大地の欠片、爆炎とともに──ゴント・リフィグ・ヘリクス》

 轟音と閃光。放たれた金属片は魔物の外殻を穿ち、内側へと突き刺さる。その一撃は衝撃波を伴い、貫通点から内部の肉を抉り取った。

「いってぇぇぇー。次は反動制御も追加だぞアイテル!」

そのものすごい反動で、周は後ろに向かって吹っ飛ばされていた。

「命中確認。従来構文では貫通不可と思われる対象への破壊を確認。内部構造の一部が崩壊しています。従来比で大幅強化ですが──正確な数値は次回に持ち越しですね。名称、アンチマテリアル・インパクトというのはどうでしょう?」

アイテルは思わず音声で反応してしまっていた。

「……いい響きだな。そうしてくれ」

”……アイテルも中二になってきてないか?”

リクとナナは一瞬、呆気に取られていた。

「お、おまえ……それ、何の魔法……?」

「──あ、あはは、この変なアーティファクトあるだろ、これの力……みたいな?」

周は気まずそうに視線を逸らす。すると驚いて動きの止まっていた残りの二体が混乱から立ち直り動き出そうとしていた。

「て、こんな話してる場合じゃないな。今のうちに突破するぞ!」

周の判断に従い、三人は隙を突いて駆け抜ける。

「私は、変なアーティファクトではありませんよ、マスター」

アイテルからの通知が入る。

「今、言うことか!!」

心の中ではなく声に出して叫んでいた。

足の速さは二人のほうが圧倒的に早く周はおいていかれるところだった。


無事に仕事を終えた三人は、壁外にある小さな酒場でひと息ついていた。初めての依頼と意図しない死線を共にしたということもあって、互いに少しだけ打ち解けた空気が流れている。

リクはジョッキを片手に、ぽつりとつぶやいた。

「それにしても、グラヴァガルの群れに出くわすなんて……初仕事が人生の終わりになるかと本気で思ったよ。俺の村じゃ、あんなのが近くに出ただけで大騒ぎだ」

あの魔物はグラヴァガルというらしい。

本来はもっと山側の険しい地帯に生息しているようで、ギルド職員も、現れたとしてももっと小物を想定していたようだ。

ギルド側としても今回の調査結果には意味があったようで、報酬は思っていたよりも多かった。

ナナがギルドの受付で物凄い剣幕で怒っていたので、黙らせておきたいというのもあったのかも知れない。

あの岩場には、安全確保のための討伐隊を送ることになったようだ。


「あんたの故郷ってどこなの?」

ナナがリクに出身を尋ねる。

ナナは先ほどまで自分の出身地の話を嬉しそうにしていた。

「国境近く、古戦場の近くの村さ。”アタラクシア”ていう、誰も近寄らない遺跡が有名だから知ってるかもな」

 ナナが小声で割り込むように言った。

「ギルドの掲示板にも載ってた。危険区域って。昔、魔術師が何かを研究してたとか。あんたそんな所からきたの?」

「近くの村だって言ってんだろ。あんなところ今じゃ魔術ギルドすら近寄らない。霊魂とかホムンクルスだかの研究をしてたとかで、中では空っぽの人型が魂を求めてさまよっているって噂だぜ」

リクはナナを怖がらせるように不気味な話し方をする。

「あはは、せいぜいゴーストでしょ。怖がらせようったって無駄よ」

ナナは怖がる様子もなく笑い飛ばす。

“ホムンクルスか。ただ…ゴーストもいるらしいな”

「記録。関連情報として保持」

アイテルの無言の通知がスマホに映し出される。

リクとナナが騒ぐ喧騒の中で、周は胸がざわつくのを感じていた。


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― 新着の感想 ―
AIと魔法という題材ですが、単純な「AI万能」ではなく、現場で培われた知恵や経験がしっかり活きているのが印象的でした。 理論と経験が噛み合っていく感じがとても好みです。 AIの描き方や表現の見せ方も…
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