10-1:扉の向こうにあるもの
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エアレンは、石造りの大門と城壁を持つ都市だった。門の前には荷車や旅人が行列を作っており、警備兵が一人一人に簡単な確認を行っていた。
周は、セルジの少し後ろについていた。
「なに、心配するな。俺が同行してる限り、妙な詮索はされん」
セルジが門番に一言なにかを伝えると、あっさりと通してもらえた。
都市に入ると、石畳の道と整然とした区画に、周は軽く目を見張った。
木造と石造の建物が混在し、人々の声と市場のざわめき、香る香草や油の匂い、路地裏からは都市特有の悪臭、多くの情報が一気に押し寄せる。
「……人の密度が違うな」
「これまでの景色にはない密度の情報量です」
アイテルも思わず声を上げる。
「慣れろ。そうすりゃ、お前らが言うところの当たり前になる」
数十分後、二人は中央区画の広場へと出た。魔術ギルドと狩猟ギルド、それぞれの拠点が並び立つ区画とのことだ。
「ギルド、顔出しとくか?お前ならどっちでも登録できる」
「ああ、案内してもらえるか?」
魔法を生業に活動する場合は、魔術ギルドに登録するのが一般的なようだが、魔物などに対応もする場合どちらにも登録したりするらしい。
まずはセルジも登録している狩猟ギルドに魔術師として登録すると、魔術師ギルドを案内された。セルジとは今回の荷の整理や、皮を鞣し屋に持っていくために、魔術ギルドまで案内してくれた後に別れることになった。
「おい、周」
「ん…なんだ?」
珍しくセルジは真面目な顔をしている。
「お前が使っていたあれ。短い詠唱とか、詠唱しないやつ。あれはここではやるな」
「ああ、分かってるよ」
「お前は本当は俺にだって見せるべきじゃなかった。…根拠もなく人を信じすぎるな」
「根拠はあるさ」
「何がだ?」
「ラナ婆さんがあんたに託した。…十分だろ?」
そう言って周は笑う。
「よく言う。あとな、アイテルか?あのアーティファクトとも普段の会話はするな」
「ああ、分かったよ」
それから赴いた魔術ギルドでは、簡単な魔法の行使の確認を行うこととなった。
ギルド職員が手渡してきた羊皮紙には、テストに使用される魔法の呪文が記されていた。
”……本当にこれ、やるのか?”
周は小さく息を吐いて、ぎこちなく口を開いた。
《火よ、灯となりて、集い、閃き示せ──イグ・フィリオルム・アーク・ルーメン》
指先にほのかな光球が灯る。無害な照明魔法だ。
「安定して発動できていますね。魔術師というのに偽りはなさそうですね」
「演劇調で詠唱するのは……ご出身地の習慣ですか?」
”中二の習慣です”
「……まあ、そんなとこだ」
「※心情記録:羞恥。──過去最大値?」
喋れないアイテルが通知を画面に出す。
「黙れ、アイテル」
スマホを握る手に力が入る。
ギルドを出たあと酒場でセルジと合流する。
「どうだった?」
「問題なかったよ。そっちは?」
「あぁ、こちらも問題ない。お前が狩った獲物も売ってきた。これがお前の取り分だ」
セルジは銅貨一握り程をテーブルに積む。
「いくらになったんだ?」
「処理が不十分だったからな。肉は安かった。皮はどちらもそこそこの値段で売れたが合わせても銀貨一枚くらいだ」
「それだとこれは多い」
積まれていた銅貨はおそらく半分の50枚程度はあった。
「何がだ?」
「俺はとどめを刺しただけだ。解体も保存も…売り物にしたのはあんただ」
「それに旅費もだ。村で俺が渡した分が十分だとは俺は思えない」
「そうか」
セルジは何かを思い出したような顔をする。
「……実はな」
セルジの言葉に周は首をかしげる。
「ラナ婆さんから少し商品を都合してもらったんだ」
「婆さんが?」
「ああ」
「代金は?」
「取ってるなら言わんさ」
セルジは軽く酒をあおって間をおいた。
「婆さんが言ってた、ミリィのあんな顔は初めて見たって。たまにしか見ない俺すらも、そう思った」
「だからだよ」
そう言ってからセルジは酒を一気に飲み干すと積まれていたテーブルの銅貨から二枚を取ると、店主に渡して出口に向かった。
「おい」
セルジが振り返る。
「ん?」
「宿は外壁の外にしろよ」
「なんでだ?」
「中は高い」
「……」
周は苦笑いする。
「金は大事にしろ」
そう言ってセルジは出て行った。




