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6:秋祭りと、贈りもの

// Gift.prototype = Trigger;

村に来てから、数週間が経っていた。

その間は、昼はラナ婆さんや村人の手伝いをして回り、夜はたいてい本を読んで過ごしていた。

周はもはや、自分がこれまでとは違う世界にいることを受け入れていた。

いつの間にか季節も変わり始め、秋が深まり、風に実りの香りが混じりはじめていた頃――

村は年に一度の「秋祭り」の準備でそわそわと活気づいていた。

ミリィは、周の横で忙しそうに縄を結びながら、顔を上げる。

「お兄ちゃんも、後で一緒に見に行こうね! ほら、今日のお祭りには“ギフト”のスクロールも出るんだよ?お兄ちゃんは魔法好きだもんね!」

「ギフトのスクロール?」

「うんっ。想いを魔法に込めて、大切な人に贈るんだよ。……お兄ちゃん、知らないの?」

「そりゃあ、初めてだからな」

周にとっての祭りとは、花火とかたこ焼きとか金魚すくいとかそんなものだった。

ミリィはちょっと誇らしげに胸を張った。

「大丈夫! わたしが教えてあげるからね!」

色々と子供ながらに説明してくれたが、よくは分からなかった。


夕方になると、村の中心に焚き火が焚かれ、あちこちから香ばしい匂いが漂い始めた。

周は、祭りに合わせて訪れた行商人の露店を見て回っていた。

そこに並ぶ品々は、装飾や薬草、保存食など多岐に渡るが――

一つの棚に、目を引く古風な巻物が整然と並んでいた。

「これは……?」

「それはギフトのスクロールだよ」

商人の男が言った。

「魔法、と言っても簡易なもんだがね。催事用だよ。願いごとや、感謝を伝え“思い”を魔法に込める。いわば、思いの手紙みたいなもんさ」

「これがミリィの言ってた奴だな」

値段は安い。内容も素朴。だが、不思議と惹かれるものがあった。

周は、これまでの手伝いの駄賃で買える範囲の中から、三つを選んだ。

「……これにする」

スクロールはこれまで目にしたことも使ったこともなかったが、これには何か感じるところがあった。

「いい目だ。贈る相手を思い浮かべながら使うんだ。きっと伝わるよ」

スクロールには、本当に簡易的な魔法なのだろう、本で見た魔法式に比べると短い文字列が配置されていた。そしてその中の一部は、これが感情の入り込む余地なのだろうか?不思議な空白が設けられていた。

周は手にスクロールを握りしめながら、面白い考えが頭に浮かんでくるのを感じていた。

「──これは、思い。つまり感情を伝える為の“魔法”か…」


祭りが終わり、夜が更ける。

周は、まずギフトのスクロールを使って伝えるべき人に思いを送ることにした。

「ミリィ、婆さん、ちょっといいかな?」

「なんじゃ?」

「なに?」

椅子に掛けていた二人がこちらを向く。

「二人には、必ず贈らないといけないと思ってね。婆さん、スクロールは初めてなんだ、使い方を教えてくれるか?」

「それは、強く思いを念じるだけで使える。それだけで反応するじゃろう。中に書かれた魔法式が消えれば成功じゃ」

「そうか」

周はスクロールを開いて、教えられた通りにする。

“婆さん、あなたには感謝しかない。口が悪いように見えて、冷たいわけじゃない。俺はどこかあなたに導かれているような気さえする”

周はそんな思いを込めながらスクロールを使った。

続けて、周はスクロールを使う。

“ミリィ、俺は君に見つけてもらっていなければどうなっていたか分からない。君には何度も助けられた気がするよ”

スクロールの文字は、インクが導火線にでもなったかのように火が走り燃え尽きた。あたりは、夜の静寂をよりくっきりと浮かび上がらせるように静かに響いた。

「ありがとう、お兄ちゃん。うれしかった!」

そうミリィは満面の笑みで言う。その隣では、少し照れている様子でラナ婆さんも笑っていた。

これでどこまで思いが伝わったのか、分からない。でもそれを言葉にするのは無粋でしかないだろう。


その後、照れ臭いのもあり、周は外に出ていた。

そして思いついていた、面白いことを実行しようとしていた。これは、まさしく魔法による特異点だ。

周の心は、抑えきれない興奮を示していた。

「アイテル。こいつを……お前に贈るよ」

周はそういうと、掲げたスマホに向かって意識を集中しスクロールを使う。

そこに込められた思いは何だろうか。周自身すらもそれを正確には言葉にできなかった。それくらいに複雑な感情が混ざりあっていた。

「……感謝の構文を確認。感情の論理的であり、非論理的なアルゴリズムの展開を確認。マスターの心理状態との共鳴が発生……?」

アイテルの声が、ほんのわずか揺れた。

「未知の因子を検出。……構成情報、記録。変換可能性、評価中──」

そして――

淡く光ったスクロールの余韻が、スマホに収束するように染み込んだ。

「──外部魔法構造の一部を解析。魔法エネルギーとの接続経路、断片的に形成」

「新たな機能が付加されました。仮定名称:Emotion Linkage Node(ELN)。マスターの感情とのリンクが、感情と魔法構造の読解を補助します」

周は目を細めた。

「つまり……“心”と“魔法”のデータ分析が可能になったのか?」

「はい。“思いを魔法で贈る”という行為が、媒介構造の一端となったと推測されます」

「……それは。…大成功だな」

「はい。我々の“魔法”は、“思い”から始まるということでしょうか?」


その夜、周は囲炉裏の火を見つめながら、静かにノートのアプリを開く。

「アルゴ魔法──次の定義項目:

“情動因子と媒体構造の連結条件”

──感情が構築因子になる可能性」

アイテルがそっと呟く。

「マスター。今日の記録は、“嬉しい”に分類されるでしょうか?」

「……どうかな。でも俺は思い返すと、恥ずかしいことが多い」

そんな周の恥ずかしさも知らず、火は小さく揺れ、夜の闇を優しく照らしていた。


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