怪物の略奪
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――数日後
「高田さん、これ……タカシが命を削って書いた新作なんです。読んでください!」
楽屋裏で、美優は祈るような気持ちで紐綴じの原稿を高田に差し出した。美優は机の上に無造作に置かれていた脚本を持ってきていたのだ。
高田はシャンパングラスを置き、「ああ、例の素人脚本か」と鼻で笑いながら、片手で適当にそれを受け取った。美優の手前、一応目を通すだけのつもりだった。
だが、表紙をめくり、最初の数行を読んだ瞬間。
「――――ッ!?」
高田の身体に、凄まじい衝撃が走った。ズガガーン、と脳天を割られたかのような衝撃。
タバコを持つ指先が、目に見えて震えだす。
(な、なんだ……これは……っ!?)
そこに描かれていたのは、美優が信じ込んでいるような生ぬるい「純愛物語」などでは断じてなかった。人間の底知れぬ悪意、嫉妬、愛憎が、緻密かつ圧倒的な熱量でサスペンスとして構築されている。
一文字読むごとに、心臓を直接掴まれて引きずり回されるような錯覚に陥る。プロデューサーとして数々の名作を見てきた高田だからこそ、理解できてしまった。
これは、天才の領域すら超えた、時代をひっくり返す「怪物の脚本」だと。
「高田さん……? どう、ですか……?」
不安そうに顔を覗き込んでくる美優に対し、高田は一瞬でプロの「邪悪な顔」に戻り、原稿をパタンと閉じた。
「あぁ、まぁ、素人の割には頑張ってるんじゃないか? プロの俺から見れば手直しが必要だが……預かっておいてやるよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
美優が嬉しそうに楽屋を出て行った後、高田は鍵を閉め、狂ったようにタカシの脚本を貪り読んだ。
「素晴らしい……! 素晴らしいぞ、これは……!!」
読み終えた高田の顔は、興奮で紅潮していた。
だが同時に、どす黒い独占欲が首をもたげる。こんな天才的な脚本を、あの一介の素人であるタカシの名前で世に出してなるものか。これは俺の、プロデューサーであるこの高田の作品として世に出すべきだ。
高田はすぐにパソコンを開き、タカシの脚本の骨組みをなぞりながら、キャラクターの名前や設定を巧妙に変え、**「高田最高傑作の新作映画」**としてアレンジ(盗作)し始めた。タカシの血が通ったセリフを、自分の都合のいい言葉で書き換えていく。
数時間後。データ化を終えた高田は、デスクの脇にあるゴミ箱を見つめた。
その手には、タカシが涙と血を流しながら紡いだ、オリジナルの紐綴じ原稿がある。
「ふん……用済みだ」
バサリ、と冷酷な音を立てて、タカシの魂の結晶は、紙クズと一緒にゴミ箱の底へと捨てられた。
高田は誰もいない部屋で、紫煙を燻らせながら、邪悪な笑みを浮かべる。
「想像以上だよ、タカシ君。美優を寝取り、君の精神を限界まで壊したのは、大正解だったわけだ――。君が絶望すればするほど、俺に極上の果実が転がり込んでくるんだからなぁ」
自分がタカシの才能を完全に奪い、支配したと確信する高田。
しかし、彼はまだ知らない。
ゴミ箱に捨てられたその「呪いの原稿」が、撮影所の暗がりのなかで、静かに次の持ち主――大女優・世奈を呼び寄せようとしていることを。
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