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第80話 錬金術師ギルド長の悩み

 二万字近くぽちぽちして、やっと納得いく形になった。で最終的には九千七百文字程度とかなり長くなっています。後書き含めたら一万は超えちゃった(汗)


 大半の床が開いた(抜けた)途端、フロアにいた全(・)て(・)の(・)者(・)が自由落下を始める。

 俺はサリーの様子から危険はないと判断、さらにこの事態を起こしたであろう本人も同じ状態なことから抵抗もせずに身を任せることにした。


 とはいえ懸念はある。

 侍には忍びとは違って落下から免れるスキルは存在しない。チートな身体も侍の技能に合わせた改造であり万能ではない。走る・飛び跳ねるは自分で調整できるが自然落下だけはどうしようもない。30mを越えたら無事では済まないだろう。

 それを知らないサリーが「俺なら大丈夫」とか勘違いしている可能性もあり得る。なので最後まで付き合うつもりはないが。


 幸い垂直落下を始めた数秒後、穴は曲線を描いているようで暗闇の滑り台の様相に。速度は落ちたが先の見えない状況にため息をつきながら右へ左へ揺さぶられること約10秒。突然明るい部屋の壁から放り出された。

 少しでも見えればコチラのもの。慌てず難なく着地をする。


 ……弾力のある床? 素材は何だろう?


 ここは地下にも拘らず広くて明るい天井が高い空間。


 ……ここで商談?


 何をするための部屋かは知らないが炎竜を出すには少々狭い。ただ外で出せば日光に当たる。陽の光に晒されせば遺骸の消滅速度は加速度的に早まる。だから敢えて地下を選んだのかも。


「ひゃっほ────と、と、と、と、グヘ!」


 僅かに遅れてミラが壁の穴から飛び出ると前方一回転してから両手を広げて見事な着地……をしようとしたが行き勢い余って顔面スライディングをしてしまう。


「…………」


 ……黒?


 ギルドに入った時の横顔は落ち着きのある二十代半ばに思えた。だがその後の言動や体格から違和感を覚え、その後に歳を聞くと納得した。

 なので正直に言わせてもらえば黒より白の方が似合うと思うが……背伸びしたい年頃なのかも?


 え? 黒って何の話だと?

 いやね、スライディング時の勢いでローブだけでなくスカートまで捲れてパンツ(下着)が丸見え状態になっているんだな。

 でその下着もエステリーナやルーシアが夜に履く下着なのだ。


「えーと、ギルド長?」

「…………」


 声を掛けるが反応がない。


 ……う──ん、どうすっかな?


 気配では痛がっている様子でもない、むしろ何かを期待しているご様子。


「……ちぇ」


 舌打ちしてやがる。もしかしてワザと見せたのか?


 ムクリと起き上がると俺のある箇所を直視してから一言。


「……これでも無反応? はあ──」


 いやお前じゃ無理だって、色々と。


「まあいい。先に商談を済ませる……の前にもう人足掻き」


 人足掻きって?


「他の者は?」


 全員同時に落とされただがここにいるのは俺とミラの二人だけ。サリーすらいない。


「君はありきたりな手段では落とせないよね?」

「いや落とされたぞ?」

「お? 確かに。いやあの落とし穴は逃走防止用に設置したもので君用に作ったわけでは無いんだな」

「逃走防止?」

「うん。設置した本人が言うのもなんだけどこんなに楽しとは思わなかったよ。これじゃ反省には……いやそうじゃない! 君の話をしよう」


 ノリやすいなコイツ。なら……


「ところでここは?」

「え? この部屋のこと?」


 この部屋は「反省ルーム」といって本部を移した時に造ったそうで、我儘を言う者の反省を促すための部屋だそうだ。


「ここに至るにはあそこを通るしかない」


 トンネルはミラの意思で行き先が決めれるらしい。


「物どころか扉すらもないが?」

「更生させるのが目的だからね」


 錬金術師にとって最大の苦痛は「錬金が出来ない状況」とのこと。何も出来ない・何もさせないことが一番効果があるのだと。


「飲食は? トイレは?」

「無いよ? 私も気の長いほうじゃないし、開き直られても困るから」


 平然と答えるミラ。


 錬金術師ってどういう性格してるんだ?


「まあここに来てから一度も使われることはなかったけどね」


 待遇が良くなったので脱走や怠けるものが皆無になった。だから愚痴を言いながらも皆仕事はしてくれているそうだ。


「そういえば建物に入る前に十字架に縛られた男が地面から現れたが?」

「あーアレね」


 錬金術師は基本的に既知の技で同じものを造るとしても他人に作業の行程を見せたがらない。つまり大半が単独作業となる。

 仕事さえこなしてくれればそれでも構わないが「好きなことに集中しだすと寝食すら忘れるほどに没頭してしまう」という、特に研究開発部門の錬金術師は難点を抱えていると。


 なのでギルド長権限で、一定時間出てこない者は強制的に拘束、地上に強制射出し「天日干し」を行うことで同胞を守っているのだと。


 ……そういえばあの男、ぐったりしてたな。


「何かの罰、かと思ったが」

「長たるもの、所属員の健康を第一に考えないとね」


 えっへん、と全く無い胸を張る。

 確かに日光を浴びないと病気になると言われてる。


「あとアレは?」

「何だい?」


 螺旋階段の脇にあった二本の透明な管。


「アレも福利厚生の一環」

「福利厚生?」


 一階の上(屋上)は広間となっており食事もとれるレストエリアにしており、そこへの通り道として左右で上下方向への一方通行としているらしい。


「どうやって移動するんだ?」

「空気の圧力を利用している」


 最下層に空気を圧縮する「こんぷれっさー」なるものがあり、筒の中の床面を加圧・減圧して上げ下げしているそうだ。


「何故階段を使わない?」

「面倒くさいから、ってまた話を逸らされた」


 ちっ、気付かれたか。

 もうネタ切れ。時間の引き延ばし材料がなくなった。

 なので話を戻される。


 誰もいないのは「ある事」を確かめたいので俺と二人きりになりたかったのだと。

 サリーがいると面倒くさいので、彼女には他の者の相手をしてもらっていると。

 そう答えながら俺に歩み寄ってくる。


「ちょっと待て」


 殺気は感じない。魔法は分からないが物理的な戦闘力も無いに等しい。なので俺からしてみれば脅威に値しない……筈なのだが何故だか身構えてしまう。


「どうしたんだい? 同意が無い限りは手は出さないよ?」


 微笑を浮かべながら歩み寄ってくる。


「ど、同意? ちょっと待て! 俺は商談をしに来ただけなんだが?」

「それは聞いた。素材はファイヤードラゴンだよね?」

「そう」


「滅多に手に入る者でもなし。喜んで買取りには応じるが、その前にもう一度確かめたい」


 俺の「必殺の間合い」であり害意から俺の身を守ってくれる「自動防衛機能」が働く3m手前でピタッと止まる。


「……何を?」


 間合いに気付いた?


 一段と警戒心が増す。

 俺の知識はこの世界の一般的な範疇しか知らない。特殊なジョブやスキル、さらには魔法の知識はないのだ。

 仮にエルアノームのような訳の分からぬスキルを使われたら対処は不可能。


「私と結婚してくれ」


 軽くコケた。

 ブレないなコイツ。


「いやかい? 妾でも愛人でもいい。なんなら定期的に子種を提供してくれるだけの関係でもいい」


「断る」


 十四歳。日本ならならそろそろ婚姻を考える年頃だがここはアラナート王国。王国法での婚姻可能年齢は十六歳以上であり、貴族であろうと決まりを破れば罰せられる。というか法以前に俺にその気は全く無いが。


「君も頑固だね」


 それはお前だ、と言いたくなる。だがそれよりも疑問を口にする。


「逆に聞くが何故俺なんだ?」

「直感、というより本能かな」


 はい?


「その前に先程『時間がない』と言ったよね?」

「ああ」


「これを見てくれたら納得してくれると思う」


 と言いながら徐にローブだけでなく服まで脱ぎ出す。


「?」


 躊躇うことなく全裸になるとそのまま寄ってくる。あと一歩というところで立ち止まると俺に右手を差し出してくる。


「私の胸に触れて」

「…………」

「確認の手段はこれしかないし君の疑念も晴れる」

「え──と」


 胸と言われても……胸と言えるほどは……


「失礼なこと、考えてない? 一応これでも女なんだけど」


 とぷんぷんしながら手を強引に引き寄せ肌に重ねる。するとミラの身体が赤色? の光を発するとそのまま体がみるみる変容していく。


 ……お? おおお?


 変化が収まると発光も止まる。


「やっぱり反応したわね♡」


 とても嬉しそうに微笑む。


「どうかしら? ア(・)ナ(・)タ(・)か(・)ら(・)見(・)た(・)私(・)は(・)?」


 妖艶な笑みと怪(・)し(・)い(・)目(・)つ(・)き(・)。全てがエステリーナを凌駕しているその姿に、不本意ながらも目を奪われてしまう。


<…………>


 その時、俺と繋がっているシルヴィアが何かを言おうとしたようだが結局は何も言わず。シルヴィアの存在を感じ取れたお陰で我に返れた。


 そして10秒程だろうか。唐突に元(・)の(・)姿(・)に(・)戻(・)っ(・)た(・)。


「アンタ、いったい何者だ?」

「それはコチラのセリフ……ってまあいいか。今のが私の本来の姿。実はこの肉体はもう限界でね、百を迎えるまでに子を作らないと老いが始まり程なく死を迎えるんた」


 元の場所に戻ると脱いだ服を着ながら答える。


「死? 呪いの類か?」

「呪いとも言えなくは無いけど残念ながら種族的な体質なんだ」

「人族、ではないのか?」

「うん。【サキュバス族】って聞いたことない?」

「ある」


 知識なら。確か女だけの種族だったか?

 前の世界での「サキュバス」とはだいぶ違うようだが。


「内緒だからね。エステリーナ(女神)には迷惑を掛けたくないから教えちゃダメだよ」


「……リナが知らない?」

「誰にも教えていないからね」


 聞けばどうやらサリーと同じ境遇らしい。違うのは両親の種族が逆という点のみ。でそれ以外の「イレギュラーな体質」は同じなようだ。


「おそらくこの地を離れた同族は生きてはいまい。だから私が死ねばこの血は完全に途絶えてしまうんだ」


 大陸から逃れてもその先に「人族の男」がいなければ子孫は残せない、と。


 自分は百年前の混乱期、つまり異種族が迫害から逃れようとこの大陸から離れるときに産まれたが、運悪くこの地に父と共に残された。

 その後に父も他界。身バレを防ぐため父から習った錬(・)金(・)の(・)技(・)を(・)利(・)用(・)し各地を転々とし、気付けば今の地位にいた。

 だがそれもそろそろ限界らしい。


 ここで先ほどシルヴィアの呟きの中での「嘘」が何を指していたのか、そしてミラの焦りの理由かやっと分かった。


「だから必死なのか」

「そう。サキュバス族にはある能力が備わっていてね、そのせいで当時は逃げるしか道は無かったらしい」

「能力?」

「そう」


 自分が生き残れたのは死んだ父が「人族との接し方と錬金術」を教えてくれたから。


 だが自分は普通のサキュバス族では無かった。


「私は条件がちょっと特殊過ぎてね。成長しないんだ」

「?」

「今、見たのが本来の姿」

「あれが?」

「そう。あの姿になるには君に縋るしかない」


「それより条件とは?」

「ふふ、それはね」


 一つは人族、これは必須。

 サキュバス族からは女しか産まれない。なので古来から容姿が同じ人族に頼り共存共栄してきた。


「で、何故俺を頼る? 男なら周りにいくらでもいるだろう?」


 生きる糧である「生気」だけでなく子が欲しければ、どの男でもよいのではないかと。


「それが二つ目の必須条件」

「それは?」

「神格を備えた男」


 神格? 

 俺は神とは程遠い煩悩の塊だと思うが。


 ……あ! この身体か!


 確かに神界をモノが使われている。


「君には神格が備わっている。普通のサキュバス族は「生気」を糧に生きるが私の場合は生気ではなく「神気」が必要。先程、本来の姿に戻れたのは君のその力をちょっとだけ頂いたから。百年近く生きてて、生きる希望を抱けたのは君が初めてだよ」


 俺の必殺の間合いの中で呟く。


 色んな男で試したが一人も見つけられなかった。

 仮にこの世界に「神格を備えた者」が俺だけならばミラは……。


 ……な、いつの間に。それに何故反応しないんだ⁈


 刀も出ないし移動もしない。自動迎撃機能が働いていない。


 ……害する意思がないってことか?


 相手、ミラではなく俺の心の方に。

 にしても金縛りにあったように、指ひとつ動かせられないのは何故だ?


 あと一歩で手が届くといった距離まで迫られたところで救世主(黒い影)が現れる。


「何、やってんだ、アンタは」


「い、痛い!」


 唐突に転移してきた(現れた)サリーが再度脳天チョップをくらわす。


 お? 身体が動くようになった。


「なななな何故ここが分かった⁈ 君はこの部屋には来たことないだろうに‼︎」


 サリーの能力については知っているらしい。


「こっかひみつにがいとうするのでおこたえできません」


 何故に丁寧な棒読み口調?


「う──なら買取も」

「チクるぞ」

「ケチケチケチ! 分かったよ!」


 チクり先は当然エステリーナだろう。

 逆ギレしだすミラ。

 サリーが来たからか先程までの「珍妙な雰囲気」は霧散している。


「今回は買取りというより加工をメインにして欲しい」

「加工? どんな?」

「新侯爵領の土壌改良に使う素材の開発」


 ミラへの対応に慣れているのか、違和感なく本題にすり替えている。


 俺は【帰らずのパラダイス】に近いから開発が進まないと聞いた気がするが、どうやら土地自体にも問題があったらしい。


 ……まあ魔獣対策は既に考えておいたが。


 時間は掛かるが俺とシーラの力のゴリ押しで何とでもなる。

 一番「早い」のは物理的に分ける。つまり壁を拵える。

 ただそれでは「魔素」まで止めてしまうという問題が。


 一番「良い」のは川で仕切る。

 これなら安全は保たれるが、あの地帯には川がない。


 ……そういえばアチラの対処も考えておかないと。


 実り豊かな大地に変わっても、山が噴火を起こせば一瞬で無に帰してしまう。

 俺には解決策の知識が無いに等しいし「全ての世界」と関わってきたシルヴィア先生もこの世界での一(・)般(・)常(・)識(・)を(・)超(・)え(・)た(・)知(・)識(・)、つまり誰(・)も(・)知(・)ら(・)な(・)い(・)知(・)識(・)は(・)開(・)示(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)な(・)い(・)。

 この辺りは主神の方針である「対価を払わずして」が関係してくるのでどうしようもないのだが。


 ……知識を有している者を探さないと。


 そもそもこの大陸に火山は存在するのか?

 あるなら専門家がいるとは思うがもしなければ……


 等と考えている間にも二人の話は進んでいた。


「……なんだ、そんなことか」

「そんなこと?」

「で、どのくらいの面積を?」

「取り敢えず王都の五倍」

「期限は?」

「可能なら一か月内」

「一ヶ月か。加工装置自体は半日あれば創れるよ」

「では」

「その前に素材を確保しないと」

「素材とは?」

「魔素を閉じ込める素材」

「……成程。で何を使うんだ? どこにあるんだ?」

「そこら中。捨てる場所に困るくらいに余ってる」

「?」

「使用後の魔鉱石」

「魔素の抜けた魔鉱石? 確かにあるが」


「その魔鉱石に小細工して適度に撒けば地中の魔素を吸収してくれる」 


 ミラ曰く『特定の植物しか育たないのは【帰らずのパラダイス】から漏れ出す魔素が多すぎる。だから森から魔獣が出てくると。


 あの地域は西側の山脈が壁となっており雨が降らず風も穏やか。風に流されることなく行き場を失った魔素は地面に落ちてゆく。


 生物にとっては欠かせない魔素だが動物なら兎も角、植物の多くは取り込んだ過剰な魔素を外部に排出する手段を持ち合わせていない。この地域は短い雨季を除けば安定した気候で、日本のような寒暖差による生え変わりも起きない。

 なので王国南部では環境に適応できた植物だけが生き残ってきたそうだ。


 つまり現時点であの地は人ですら暮らすのは困難なくらいに地中の魔素の濃度が高いということになる。

 そこに魔素の抜けたただの石を【錬金術】で魔素を吸収するように錬成し直す。

 それを一定間隔で撒いて地中の魔素を吸収させ、溜まったところで回収すれば農業に適した土地の出来上がり。



「ただし一つ問題がある」



「どんな?」

「それを創れるのは私のみ」

「……で?」

「でって……実は最近ちょっとした事情で錬金ができないんだ」

「サボり過ぎで?」

「ちが──う! もっと深刻な問題!」

「ウチらで対処は可能な問題か?」

「うん!」

「何だ?」


「山水君との子作り♡」


「…………」


「じょ、冗談じゃないよ? マジな話!」


 サリーが上げた右手に反応、頭を押さえて縮こまる。


「その件は当人同士でじっくり詰めるとして、その後はどうするんだい? 魔獣対策は?」


「考えてある。そちらの心配はしなくていい」


 サリーが俺をチラ見する。


「そうなんだ?」


 ミラも俺を見る。


 その対策も俺とシーラで行うつもり。というかそちらの下見も早めにしておかないと。


「お、そうだ。これでもう一儲けしない?」

「同じこと考えてた。今回は模倣出来ないようにブラックボックス化できるか?」

「簡単簡単」

「なら高額設定にすっか」

「それじゃ売れないんじゃ……ってダンジョン管理用にかい?」

「その通~り」

「なら諸々の調整は任せる。装置の構想は進めとくからね」


 製品の輸出の目論んでの発言だろう、二人が息の合った不気味な笑みを浮かべていた。


「何の相談?」

「「儲け話」」


 目を付けたのはどの国にも最低一つはあるダンジョン。

 魔鉱石を使う魔道具の売り上げは模倣品が出回ったお陰で、肝心の魔鉱石の輸出は鰻上り。

 その魔鉱石は使えばただの石ころになるし、その後は捨てるしかないがその捨て石を利用した「ダンジョンの管理用の魔道具」を開発するぞといった内容であった。


 ダンジョン管理の基本は水(大抵は川)で全体を囲って魔素の過剰な流出を防いでいるのだが、天候によっては水量が減ることもある。その場合は魔素が外側へ流出、つまり魔獣も外に出てくることも。その場合は水量が回復するまで人が対応するしかない。勿論少なくない犠牲が伴う。


 だがその装置があれば水量の管理や監視の手間が省けその分経費が浮くだろう。

 しかも素材となる石ころは民から常時排出され続ける。それを集めれば良いだけでなのでタダ同然。


「因みに魔素が溜まった後は?」

「埋め立てにでも使えばいい」

「勿体ないな。再利用は出来ないのか?」

「…………その手があったか!」

「そこも要検証だな」


 元々は我が国で採れた魔鉱石。魔素が溜まったのなら「質の変化」に使えるのではないかと。


 現状では「特殊な魔鉱石」と「質の変化」は我が国の独占状態であり機密漏れ対策も完ぺきな状態。


 だが今の鉱脈も無限ではない。

 採れなくなってもリサイクルが可能なら?

 優位性は揺るがない。


「引き渡しに応じない国が出たら?」

「その辺りは商人ギルドに任せる」


 彼らなら上手に「調整」してくれると。


「「質の変換」はウチでしか出来ない。抵抗すれば自分達が不利になるだけ」

「強気だね。でも初めのうちは『捨てるのであれば買い取りますよ』と下手にでといた方が後々やり易くなると思わないかい?」

「それだと次第に調子に乗ってくる」

「まあどちらにしても実験が先だよね」

「そう。適材適所」


 エルアノームに丸投げするのが一番上手くいくらしい。


「でファイヤードラゴンだが」


「実物を見てみないと何とも言えないよ?」


 とミラが俺をチラ見する。


「ん、見る? 鑑定のスキルを持っているのか?」

「ああ。錬金術師なら誰もが錬金鑑定スキルを保持している、というかジョブチェンジした時点で【錬成】と【錬金鑑定】の二つがセットで手に入るんだ」


 因みに【鑑定】と名のつくスキルはジョブによって異なるらしい。錬金術師の鑑定スキルは物の名だけでなく「今ある素材から何が創れるか?」「不足なものは何か?」「錬成に必要な手順」など錬金に関わる情報が思い浮かぶのだが、レベルが上がればやれることの幅が二乗的に広がるんだと。

 でスキルレベルがカンストしているミラでも「初見の生物」を見ないことのは「想像の翼」は広がらないらしい。


 なら面倒だし……

 と片手を空き空間にかざし【収納】から炎竜を……


「し、師匠待て!」


 とサリーが叫ぶが時すでに遅し。

 討伐した状態の遺骸全(・)て(・)を(・)出してしまう。


「「…………」」


 言葉を失う二人。

 サリーは頭を抱え、ミラは炎竜ではなく俺を見ながら口と目を開けた状態で固まっている。


「……師匠」

「な、なんだ?」


 珍しく怒気を含んだ声色。


「私が対応すると言ったよね?」

「え? う、うん」

「とても面倒な事態になった」

「面倒?」

「これはアタイの指示を聞かなかった師匠の責任。こうなったら団(・)長(・)で(・)も(・)説(・)得(・)は(・)無(・)理(・)。なので責任は自分で取るべし」


 どういうこと?


 理由を聞こうと思ったら片手の親指を隣に向けクイっと向ける。

 その先には目をランランと輝かせて俺を見上げるミラの姿が。


「やはり直感は正しかった」

「…………」

「協力はしよう。ただし一つだけ条件を追加させてもらうね」

「……結婚は」

「しなくていい。その代わり実験には付き合ってもらう」


 実験?


「な~に、簡単な実験だ」

「もし断ったら?」

「要求が通るまで仕事はしない」


 随分と強気に出たな。


「君、この世界の人ではないだろう?」


 …………あ!


 普通の「アイテムボックス」では炎竜を収められるほどの容量は無かったんだっか?


 サリーを見るが「アタシャ知らねー」とソッポを向いていた。


「それと「神」の依頼だが、本部は君が拝(・)領(・)す(・)る(・)領(・)地(・)にさせてもらおう」


 ……長に就いているだけのことはあるな。


 先夜エステリーナから式までに俺の『身分を上げる』と言われた。表向きにはパルミラル王家を救った功績と、敵国の首脳陣を単独で討ち取った功績として【大公】という爵位が与えられると。


 その功績を得る前の俺はただの平民であったが、エステリーナの窮地を救った際に「取引き」を持ち掛けた。そしてエルアノームの命を救い、約束通りエステリーナを嫁にした(手に入れた)のだが、それと引き換えに名誉伯という肩書きを押し付けられた。

 これは侯爵のエステリーナの肩書きに合わせるため。公爵だと力のバランスが崩れるし男爵だと低すぎる。なので土地も持たない、さらに他の貴族との間に柵のない名誉伯に決めた。


 だがそこに問題が。「女王」というオマケが付いてきた。


 この時点で肩書きと立場が釣り合わなくなった。無理難題を言い出した本人以外は「どうしたものか」と頭を悩ませていたところにトドメ……いや救いの使者が現れた。


 誰とは言わないが、ソイツの思惑通りの「結果」を残した。これで悩みの種はクリアとなった。つまりそれぞれの面目に目処がついたのだ。

 なのでその功績に報いるという名目で「公爵」「侯爵」と同位となる【大公】を新たに作り、誰もが納得いく形で収まった。


 当の俺は家名と領地となる土地を決めるだけなのだが……まだ公表はされていない。

 貴族なら想像がつくだろうが平民がそれに気付くとは。


「……いいぞ、いいよな?」


 サリーをチラ見しながら答える。

 すると意味深げな笑みを浮かべてコクリと頷いた。

 俺が「どこを選ぶ」か、分かっているのだろう。


「え? マジで?」

「本部も俺が建てようか?」

「あ、いいの?」

「ああ」


 何の実験だかしらないが、結婚しないで済むなら大抵のことは許せる。


「…………な、なんだいその目は」

「約束だからな」


 念を押す。後で文句を言うなと。恨むなら場所も聞かずにドヤ顔宣言した自分を恨め。


「わ、分かってるよ! 自分から言い出したんだから」


 ならば良し。


「なら後は任せていいか?」

「仕方ない。これは師匠への貸しだからな」

「へいへい」


 付き合いが長くなればいずれはバレるって。

 どうせバレるのなら利用しよう。



 その後、もう一つの商談である「買取り」に話が移る。最終的に「背骨」と「奥歯4本」を買い取ってくれた、というよりそれを使って加工用の魔道具を創ってもらうので支払いはこちら側がすることになる。

 ただし……創るのは実験をしてから。なので近いうちにまたここに来なければならなくなった。


『コレは手間を省いてあげる』


 呪術師ギルドが喜びそうな『内蔵系』も引き取り代理で売ってくれることになった。こちらに関しては手間賃や仲介料は取らないと。

 今日中には話を纏め売却しておくので製品の完成の時に買い取り代金を渡すことになった。


 ……あれ? これでは再訪しないと装置は完成しないってこと? 早めにシルヴィアに相談しよう。エステリーナに話すのはその後だな。


 壁に現れた通路に出て、例の螺旋階段を使い1階へ戻る。


「鍛冶師ギルドは?」

「ファイヤードラゴンか……。あのギルド長なら【暗黒竜(ダークドラゴン)】レベルじゃないと興味示さないかも」

「知り合いなのか?」

「飲み友達さ」


 あ、そう。


「なら後は冒険者ギルドに?」

「そうだけど行くだけ言ってみたら? 冒険者ギルドはその後で構わないと思うよ」

「それでいいか?」

「師匠の好きなように」

「では明日また来る」


「今度は茶菓子持参でね~」


 笑顔で手を振りながら見送られた。


 ……いやそこは「用意しとくね」だろううに。



 そのまま鍛冶師ギルドに向かった。


*最後まで付き合う・・最悪は指輪の機能で転移する


*日本なら・・何度も言いますが「室町時代末期」の日本です



 今後長い付き合いとなる(少々残念な性格の)ミラさんですが、必死なのには他にも理由があります。*妻にはなりません。なりませんが・・



残りの主役級の女性は「みかん」と「銀の指輪」を受け取る二人の妻のみ。

なのでこれを機会に「脳内設定」をまとめてみました(山水君から見た外見的特徴)


<その1 / 内四人は予想>

大ミラ>エステリーナ>ルーシア・キーナ>シルヴィア・ロザンヌ姉妹>セシリア・マーサ>エルアノーム・サリー・サンタナ・リアン>シーラ・シーラママ・パイモン>>小ミラ


<その2 / こちらは確定>

大ミラ>エステリーナ≒シルヴィア≧ルーシア≧セシリア・マーサ>≧シーラ・シーラママ・ロザンヌ姉妹>エルアノーム・サンタナ・リアン>>サリー・キーナ・パイモン>小ミラ


何の「順序」かはご想像にお任せします。*大ミラは本来の姿



それとこの世界では、


〇男と女の平均出生率は6:4と男の子が生まれる割合が多いが歳を重ね二十代前半を境に男女生存比率は逆転。三十代半ばを過ぎると4:6で女性が多くなる。これは生活環境や戦争の影響による。

 アラナート王国のように戦争とは無縁で自然環境も安定している国の男女出生比率は4.5:5.5と女性の比率が若干高くなる。これは平和な環境に起因しているが、どちらにしてもほぼ全ての国で男性の数は少ない。なのでほぼ全ての国では一夫多妻が認められている。

 因みにアラナート王国の平民は妻は二人まで認められている(諸条件アリ)


 また貴族の場合は人数への制限はないがそれ以外の決まりごとがある。跡取りの観点から妻(又は夫)の序列を定めなければならず、その都度国に報告をしなければならない。また外国籍の者との婚姻をする場合は事前に国王の許可がいる。

 序列1位は「正妻」と呼ばれ男児を産めば(側妻が正妻よりも先に男子を産んでいたとしても)その子は(余程のことがない限りは)無条件で家を継ぐことになる。これは無用な争いを防ぐ目的で決められた。


 但しこれには例外が存在する。一つはやむを得ない事情で当主を任せられない状態にある者、つまり病気やケガ、または法を犯したとの理由で継がせられない場合。その時は次点にいる者に継承順位が繰り上がる。


 もう一つは「国王」が認めない場合。

 アラナート王国土は全てアラ・ナート王家の土地であり特定の有力者に爵位(貴族位)と特権を与え監理(統治)を任せている状態。そのような理由から代替わりするには(度の貴族でも例外なく)国王の許可が必要となる。

 仮に認められなければ爵位を引き継げないし、現領主が無くなった時点でお家断絶(貴族位消失)となってしまう。これは王国法で明文化されているのと任命式の際にも宣誓しているので文句は言えない。不満に思い反抗しても国軍と騎士団相手が雪崩れ込んで一瞬で片が付いてしまう。

 平和な土地柄からか平民・貴族の家族関係はかなり良好で、国土の広さの割に人口も少なかったので幸い今まで「不慮の不審死」なども起きなかった。なので先日の某元侯爵家取り潰し以外に強権は一度も発動されなかった。

 余談だが王から特権を与えられたのは爵位を持った当主であり、その権限は家族には及ばない。あくまでも貴族の一員であり身分が保証されているだけ。偉いのは当主だけであり、当主(親や配偶者)が「公爵」だろうと「男爵」であろうと、法の上では同等の扱いとなる(経済的な力関係は別)。また「侯爵」の家族も法律上では同じだが、王の血族であるため大貴族の当主であろうと敬意を払う決まりとなっている。(現在侯爵家はナート家のみ。その家族はロザンヌ姉妹しかいない。山水は「どちらの立場」で接しても敬意を払う対象となるので気にする必要はない)



〇大陸で暮らしている人の平均寿命は約60歳(医療環境が整っているアラナート王国は70歳越えている)

 

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