第79話 錬金術師ギルド1
もう暫く、更新頻度は下がります。
十五反(横約100m×奥行約150m)程と鍛冶師ギルドに比べたら狭いが、そこそこの広さがある敷地。
後方と左右は5m程の石壁で奥にはその三倍はあろう高さの城壁。その中心には一風変わった形の建物が。
この世界に来て初めて見る形状。
直径20m程の等間隔に窓が設けられた「円形」をしたレンガ造りの一階建て。敷地内にあるのはその建屋のみ……なのだが。
「ん? そこら中に穴が開いているぞ」
石畳の通路以外の地面には約10m×10mに一つずつ、人の頭ほどの大きさの穴が開いていた。
「その穴は地下に繋がっている」
「換気用?」
穴には銀色の網? が被せてある。
「の役目も果たしているが主な用途は」
と言いかけたところで離れた所にある穴に被せてある網が突然光り出す。
「?」
とそこに目を向けたそのタイミングで穴からキラキラと輝く粉末状の何かが勢いよく吹出してきた。
「何、アレ?」
「地下の実験場から噴き出してきた空気だぞ」
「空気? 光ってるが?」
「網が浄化してくれている」
地下では人には言えないような危険な研究も行われており「錬成に失敗する」と大抵は魔素が暴発、有害物質と化して撒き散らす。でそれをそのまま外に排出したら王都が汚染されてしまうのであの網で有毒化した物質を元の魔素に変換し無毒化しているそうだ。
つまりあのキラキラした物は無毒化した有毒物質の成れの果てということになる。
「あれも錬金術で?」
網である浄化装置のこと。
「そう」
「凄いな」
聞けばこの国では上下水だけでなく鉱山の鉱毒対策にも応用しているらしい。
「彼らのお陰で皆が安心して暮らせている」
「しかし随分と協力的なんだな、錬金術師は」
「先ほど変わり者が多いと言ったよね?」
「ああ」
「実は」
そこで先程の話に繋がるらしい。
元々、錬金術師ギルドの本部は他国にあったが扱いは良くなかったらしい。
当時、いや現在でもそうだが大抵の国では錬金術師の仕事は回復系のポーションの作成であり、回復系魔法が使える者がいない地方の住人や冒険者や旅人などに売っていたが、高すぎると買ってもらえない。なのでどうしても「薄利多売」に陥る。
逆に有れば確実に儲かる「エリクサー」や「ハイポーション」などの錬成には特殊な素材がいるし、完成までに時間がかかる。
食うにも困る環境で仕入れは不可能だった。
「細かい経緯は省くが」
アイデアはあるが金がない。金がないのは消費者も同様。そこにエステリーナが現れた。
本部をこの地に移したことで今では研究に没頭出来るようになったと。
数あるギルドの中でわざわざ大陸の端にある田舎に本部を置いているのは【錬金術】【付与術】【鍛治】の三つ。
鍛冶師ギルド長はドワーフ族とのこと。おそらく彼と当時の王の関係でここを選んだのだろう。アラナート王国に本部を構えた最初のギルドでもある。
そして錬金術師ギルドはエステリーナの勧めでここに本部を移した三番目のギルド。
残るは付与術師ギルドだが、本部を移したのは鍛冶師ギルドから数年遅れと結構古いらしい。名はちょくちょく耳にするが今のところ直接の接点はないので経緯は知らない。
「なるほど。因みに冒険者ギルドの本部は?」
「大陸中西部の海に面した【ポローニャ連邦】という国だな」
「連邦?」
「アラナート王国とは違い歴史の浅い国。ちょっとした事情のせいでどの国とも敵対はしていない」
「へ──」
そんな国があるんだ。
「あと商人ギルドの本部もそこ」
商人ギルドの業務は物の売買から流通・輸送と多岐にわたる。また先日「招待状」を送るのに利用した郵便配達や長距離乗合馬車運行など、ギルドと名のつく組織のなかでは最大の規模・ネットワークを誇る。
ただ各国にある「支部」を除けば、所属している大半は「加盟店」らしいので純粋なギルド職員は多くはないらしい。
では商人ギルド支部の役割とは?
冒険者ギルドと同じで「仲介」が主な仕事。
入会し一定の手数料を払えば様々なサービスを提供してくれるそうだ。
「まあ細かい説明は機会があったら」
機会って。フラグになりそうなことを言うな、と思ったところで「ヒャッハー」とか叫びながら走り回る世紀末の世界に合いそうな音楽がどこからともなく聞こえてくる。
「お?」
先程空気が吹出した穴の隣の地面が約1m×2mが扉を開けるように持ち上がると何かがせりあがってきた。
「お、おい。アレは」
茶色のローブを着た男が十字架に吊るされている。
「気にするな」
え? 放っておいていいの?
と短い会話の合間に建物入口の扉に到着。
両開きの扉の片方をサリーが開ける。
カランカラン
扉上部に掛けられた鐘が音を立て、客が来たことを知らせている。
「こんちは」
挨拶しながらサリーが中へ。それに俺も続く。
入ると仕切りや壁などが一切ない円形の空間と何故だか数十にも及ぶ椅子が乱雑に置かれているのと、手前に置かれたコの字型のカウンターがあるだけ。
その空間の中央にある天井と床を貫く直径3m程の円柱は上下階への螺旋階段らしい。
ただその脇の1m程の二本の透明な円柱は何のためにあるのだろう?
天井と床を貫通しているところを見るに換気用の穴なのだろうか?
「いらっしゃい」
そしてカウンターの先にはこの空間で唯一いる者。眼鏡をかけた二十代半ばと思しき小柄で茶色のローブを着た女が椅子に座り書物らしきものをニヤけながら読んでいた。
「なんだい? 忘れ物かな?」
独り言を言うようにコチラを見ずに話している。
「「…………」」
「……って君か」
俺達が反応しなかったのでコチラに目を向けた女? いや少女はサリーを見て書物を置いた。
「お、おおおお?? こここここれはこれは神の使いではないか! 久しぶりだね!」
サリーを見て態度が豹変。
「名で呼べと何度言ったら分かるんだ、アンタは」
「まあまあ良いではないか! で女神様はいずこに?」
十代前半? と思しき少女はカウンターから身を乗り出し俺達の後ろを覗き込む。
「今日は団長はいない」
団長? ってことは神ってリナのこと?
「…………で、何の用?」
いないと分かると態度が一変。明らかな落胆の表情を見せたが、サリーは構わず話を続ける。
「今日ここに来た用事は二つ。一つは二件の商談。もう一つは耳寄りな情報の提供」
「商談と情報…………しょしょしょしょ商談だと!」
何故か目と口を大きく開けて固まっている。
「……も、もしかしてポーションの増産? 言っておくがこれ以上は無理だぞ⁉︎」
何故か怯えている。
「やればできる……じゃなくてやる気がないのは知っている」
「流石だ神の使い。じゃあ何をしに?」
「ファイヤードラゴンを討伐した」
「……へ?」
「だーかーらーファイヤードラゴン」
「「「なんだと──」」」
部屋の奥? から無数の声が聞こえると地響きのような振動と共に中央の階段から数十人のローブを着た男女が下階方向から我先にと押し寄せてきた。
「ど、どこ? どこにあるの?」
「はははは早く見せてくれ!」
全員目を血走らせながらハアハアと荒い息で迫ってくる。
「み、皆の衆、待つんだ! ここじゃ不味い!」
受付にいた少女が皆を制止する。
すると勢いがピタリと止まる。
「そ、そうだな、ドラゴンだもんな」
「生き返るかもしれないし!」
「マジ? 討伐したんだろ?」
「お前、ゾンビ化って知ってる? 定番じゃん!」
「なら呪詛と毒を撒き散らして王都を滅亡させるの? こりゃ逃げねば!」
「「「…………」」」
と小声でやんややんやと盛り上がり始めた。
「フ──これで少しは時間が稼げるね。ところで素材は今どこに?」
話には加わらずに少女が話しかけてくる。
「こちらの御方のアイテムボックスに」
「え──と、見慣れぬ容姿の貴方はどちら様?」
ここでやっと俺と目を合わせる。
「団長の夫の山水・ナート名誉伯」
「…………へ? そ、そういえば新聞に載っていた似顔絵の?」
「似ている、じゃなくて本人なんだが」
「な、なんと! 神の夫か!」
瞬きもせずに俺を見つめている。
「……結婚してくれ!」
はい? 何言いだすのコイツ?
「神の夫は神と相場が決まっている!」
そうなの? 今のエステリーナは神に近い存在だが、俺はただの人だぞ?
「山水君! 今日ここで君と会ったのは運命なんだ!」
そ、そうなの?
「妾でも構わないから是非私も末席に加えてくれ!」
と再度カウンターに身を乗り出して俺に迫ってくる。
……何だろう、この危機感迫るテンションの高さは?
「私には時間がないんだ!」
「いい加減にしろ、ギルド長」
脇からサリーが脳天チョップをくらわす、ってギルド長? この娘が?
「い、痛いじゃないか! 私にその趣味はないぞ!」
涙目で頭を押さえている。
「商談に応じないなら【農業ギルド】に卸すぞ?」
「農業か~。それはそれで大地に豊かな実りをもたらす…………って待て! 君は馬鹿か? この恵まれた土地に希少なドラゴンの素材を使っても意味はないだろう⁈」
「そんなことはない、ってゆーか新聞読んでないのか?」
「新聞?」
「新侯爵領」
「…………お!」
「実は新侯爵領の「開発計画」はかなり進んでいてな、他のギルドには既に話が通っているんだな」
「う、ウチは知らないぞ?」
「アンタらに話したら纏まるものも纏まらないだろ? だから最後にした」
「いや〜照れるな〜」
え? そこ、照れるところ?
「あの雑草しか生えない不毛な土地の改良は【農業ギルド】に任せるしかない。だが彼らだけでは手段が限られるし時間もかかる。だからその手伝いの依頼とついでに侯爵領に本部の移動をしてはどうかと団長から言われたんだが……どうすっかな」
ギルド長? を見ずに独り言を言っている。
「し、しかたないな~。神の願いなら断れないよね~」
「…………」
サリーは無視? している。
「ごめんなさい。お手伝いさせてください」
「よろしい。では先ずは名誉伯に挨拶を」
「私は錬金術師ギルド組合の長をしているミラ・ミノンで十四歳です。以後お見知りおきを」
「こちらこそ」
サリーよりも背が低いので、若干前屈みになりながら手を差し出し握手を交わす。
<あら? この方は>
手を離したところで不意にシルヴィアの声が。
デジャブ? 以前にもって似たようなパターンがあったような?
<嘘をついていますね>
嘘? と聞き『もしやリナに害意を?』と思い気配を読んでみたが……不審なところは見当たらない。
<まあ利害は一致しているのて問題はないでしょう>
意味深い事ばかり言ってないで教えてくれって!
<内緒にしておきます>
はいはい。
「では挨拶も済んだことだし地下でお披露目してくれ」
サリーを見る。すると頷いていた。なので俺も頷く。
「では諸君、作業場に移動だ!」
「「「…………」」」
ミラが振り返る。聞こえている筈なのに誰一人としてヒソヒソ話を続けており、誰も耳をかそうとしない。
「お前達、私を無視するとは良い度胸だな」
ローブのポケットから親指サイズの筒? を取り出すと先端にあるボタン? に指輪を添える。
……あのボタン、何処で似たものを見たような?
王城の寝室の壁にあったボタンに似ている。
「師匠」
「何だ?」
「落ちるぞ」
「落ちる?」
落ちるって?
もしかしてこのやり取りのオチ?
「っなことでポチッとな」
「なっ!」
物が置いてある部分を除き、床の大半が外れ穴が開く。
「「「うわ────!」」」
サリーが言った通り、全ての者が暗闇に落とされる。
「ハハハハ──」
悲鳴が響き渡る中、一人だけ勝ち誇った笑い声? をあげるギルド長であった。




