第78話 ギルド
今年もデスマーチが進行中(T ^ T)
「俺達は一旦戻る」
一緒に朝食をとっていたルーシアに事情を説明し、エステリーナ達への説明も頼んでおく。
「何かあったら直ぐに戻るから遠慮せず呼んでくれ」
「承知しました」
今回はルーシアは連れて行けれない。
ルーシアにはこの兵舎に配属される労働者の教育を担当してもらう予定なのだ。
その労働者だが既に確保してある。
先日取り壊したコンラッド城に勤めていた者が大半で、新領主には不要な「優秀な人材」をロザンヌが選別・確保しており、その内の内勤予定の者らが今日からやって来ることになっているのだ。
なので暫くの間、ルーシアはこの拠点から離れれられない。
それ以外にもエステリーナとシーラが不在な状況でロザンヌらに不測の事態が起きた場合、対応できるのはルーシアしかいない。
いや正確にはもう一人、頼もしい仲間? がいるが、今はちょっとした理由でここには来れないが、騎士団長達と連携が取れれば大抵の事態は乗り越えられるだろう。
それでもダメな状況、例えば「突然ドラゴンが現れた」とかあり得ない事態が起きたら指輪の機能を使えば俺だけでなくシーラらも転移魔法で駆けつけられる。
その後、アラナート王国の冒険者ギルドに向かうため転移した。
…………スヤスヤ
「(まだ寝てるのか?)」
現時点で王国領内で指輪を持っているのはエルアノームだけ。
一応、事前に断りの連絡を入れたが無視? された。
なので構わず転移したところ……寝てるじゃん。
そこにサリーも転移。寝ている姿を見た後、横目で俺を見てくる。
「「(……起こすの?)」
「(寝かせとこう)」
こちらの今の時刻は朝の八時過ぎ。この国の国民は日の出とともに動き出す。それは国王も同じなのだが今日は珍しくまだ夢の中にいるらしい。
「(お二方、こちらへ)」
不意に声が掛かる。見れば寝室の扉の隙間からあの初老執事長さんが手招きをしていた。
それに従い忍び足で部屋から出る。
扉を閉めると「昨日は夜遅くまで仕事をしていた」と寝坊の事情を明かしてくれた。執事長さんは留守番を任されているマリアンヌには話してあるのでもう少し休ませてあげたいと言われた。
『今回はギルドに用があって帰国した』と説明。もしかしたら数日間はこちらに滞在するかもと伝えるとエルアノームの為にも宿泊は自室でと念押しされた。
そのまま馬房へ向かう。
「久しぶりだな、紅蓮」
ヒヒン!
今回の交渉に俺達四人は馬車で出掛けたので紅蓮とカイエンは連れて行かなかった。
「乗せてくれるか?」
ブルル。
「では頼む」
係りの者に馬具を付けてもらいサリーに手綱を握らせ俺はその後ろに乗り街へ。
「そういえばあの執事長さんの名前は?」
もしかしてセバスチャン?
「ヘラクロス・ミバン殿」
全然違った。ごめんなさい。
「で、何が見つかったって?」
「【大豆】だそうだ」
「大豆か!」
それは楽しみだ。
「……ただ」
「ただ?」
「師匠が出した依頼書の内容とはだいぶ違っていたらしい」
「どんなふうに?」
この国にも大豆に色や形、又は食感が似ている穀物はそこそこある。だがシルヴィア先生曰く「日本食向けの加工には適さない」とのことで手は出さずにいる。
「一応【鑑定】では「大豆」と出たらしいので討伐されたそうだ」
「……討伐?」
農作物で植物なんだが?
「細かい話はギルドで聞くべし」
ということで冒険者ギルドの「依頼専用窓口」にやって来た。
「いらっしゃいませ」
「……これを入手したとの連絡を受けてきた」
と「大豆」の依頼書の控えをサリーが手渡す。
「え──と、はいお待ちしておりました」
「ここにあるのか?」
「はい。ですが今回はご依頼された内容と差が生じておりますので、先ずはご依頼の品かどうかの確認をしていただきま」
と席を立って裏方へ。暫くすると真っ黒な布を被せた金属製の虫かご? のような物を持ってきた。
「こちらです」
と虫かごをカウンターの上に置き布を取る。
網の隙間から中を覗くとそこには十粒程度の「白大豆」が入っていた。
「あ、あまり近付かない方が」
「? ってうぉ!」
いきなり大豆がゴソゴソと動き出す。さらに大豆の「ヘソ」に当たる部分に「小さな口」が現れ、こちらに向け襲い掛かろうとしてきた。
「な、なあサリー」
「なんだ?」
「これ、もしかして魔獣?」
「その通り」
だから討伐?
「一からご説明いたします」
元は体長2m程の植物系の【クリーピングハンター】という名の魔獣で【帰らずのパラダイス】の外縁でたまに見かけるらしい。
本体の攻撃力や防御力はかなり低いらしいが、音も立てずに忍び寄り枝にぶら下がった「さや」からこの大豆を飛ばし、相手が怯んだところをツタのような枝で捕獲し捕食するそうだ。
「今回は【帰らずのパラダイス】の外縁の木の伐採を行っている木こりの護衛についている冒険者が『これなら似たようなものを見たことがある』と参考に持ってきてくれたのですが」
依頼書には魔獣ではなく植物と書かれていたため、一旦保留にしていると。
「食えるのか? これ?」
「さ、さあ?」
食おうとは思わないよな? この様子じゃ。
未だにガチガチと尖った歯を鳴らしているし。
<貴方様>
<どうした?>
<私が一度鑑定してみます>
<わかった>
鑑定するには大人しくさせないと。
「ちょっと失礼」
と活きの良い大豆らに「殺気」を飛ばす。すると一瞬で元の姿に戻った。
そこで大豆を一つ手に取る。
<…………なるほど、ひと手間かければ大豆になりますねこれは>
シルヴィアが「手を加えれば」大豆に生まれ変われるらしい。
「これでいい」
「「え?」」
いきなりOKを出したので二人に驚かれた。
「これで構わない」
「わ、分かりました。では契約完了の手続きをしておきます」
「ありがとう。で聞きたいんだがこれは追加で手に入るか?」
気絶? して動かなくなっている大豆を【収納】に入れながら聞いてみる。
「と仰いますと?」
「最低でも千粒は欲しい」
ここから増やすのには時間が掛かる。
「千ですか。依頼料次第かと」
「というと?」
「クリーピングハンターという魔獣の難易度は正直高くはありません。なのでギルドの規定で基本対処料は低く抑えられております」
「それで?」
「今お渡しした大豆ですが、攻撃兼目眩ましに使ってきますが一度に使う量が限られておりまして」
一度に撃つ数は良くて4~5個。連射はしない。倒してしまうと大豆ではなく「枝豆」として残るがそれでは「種」として使えない。
「……つまり?」
「安い上に数を揃えるにはかなり時間が掛かる。低ランクの冒険者にとっては良い訓練になるが長時間の戦闘はリスクになる。中堅以上は「効率厨」になるから受けたがらない」
他の依頼でも同様の事が起こり得ると。
「なるほど。ならこういうのはどうだ?」
今回は緊急依頼という形にし、一番多く収めた者もしくはパーティ―は十倍の「臨時報酬」を渡す。
「いいよな?」
サリーに聞く。
「御自由に」
「では追加の依頼で最低千粒」
千までは七倍。二千までは五倍。以降は臨時報酬はなしで。
あれも欲しい、これも欲しい。だが欲しいものの大半は完成までには時間が掛かるものばかり。
だから一つずつ試すのではなくいくつかを同時に進めたい。もちろん将来を見越して栽培しながら。
「それなら1カ月もあれば」
「では二千を超えた段階で【常時クエスト】に」
してもいいよな? と再度サリーを見る。
というのも依頼料や達成料の支払いは国が行う。
「心配しなさんな。この程度はスズメの涙にもならない」
そうか。もしダメなら素材を……
「そうだファイヤードラゴン」
しまい込んだままだった。
「売ってもいいか?」
肉以外。
「……う──ん、まいっか」
必要なら狩れば良い。今のパーティーメンバーならそれは容易だろうから、とOKしてくれた。
「ところでシーラは何処から連れてきたんだ?」
ファイヤードラゴンを。
「【ルーナ様の箱庭】じゃないかな」
あくまでも「一般論」として、と前置きをしてから、
「どこのダンジョンでも特異点から先にはドラゴン族がいると」
ドラゴンも魔獣なのでダンジョンで生まれる。だがどのダンジョンでもワイバーン等の下級はちょくちょく見かけるが中級以上は見掛けない。
ではどこにいるのか?
消去法でいけば人が立ち入れない「特異点」から先となる。
「恐らく自分の保有魔力を囮にした」
魔獣は魔素に引き寄せられる。
シーラは特異点に近付いて自分の魔力(魔素)を餌に呼び寄せたのだろう。
「危ない真似を」
確かドラゴン族には魔法が通りにくいと言っていた。
「それはそうだがそのお陰で今がある」
「確かに」
「んじゃ売っちまおう」
「待った」
何故に止める?
「前にも言ったが冒険者ギルドに売るのは最後。先ずは錬金術師ギルドに行く」
錬金術師? 確かポーションを作っているんだっけ?
「ポーションも、だぞ」
そういえば先日「エリクサー」も使っちゃったしハイポーションも残りわずか。
上級ポーションの類は錬金術師ギルドにしか作れないそうだ。
というわけでそのまま錬金術師ギルドへ。
「なんで町外れにあるんだ?」
鍛冶師ギルドも王都を囲む外壁の傍にあったが。
「……迷惑だから」
はい?
「変わり者が多い」
そうなの?
「ここも塀に囲まれているな」
鍛冶師ギルドと同じく重圧な塀と鉄製の門扉。そこに武装した門番らしき兵? もいる。
「何か物々しいような」
何処か緊張感が漂う雰囲気。
「アレは中ではなく外を守るために配備されている」
はい?
「これはサリー殿、お久しぶりです」
近付くと門兵が話しかけてくる。どうやら顔見知りらしい。
「こちらこそ。異常はありませんか?」
「最近は大人しくしておりますね」
「…………」
異常? 大人しい?
「ところで今日はどのようなご用件で?」
「こちらの山水・ナート名誉伯が素材を売りに」
と門兵の視線が俺に向けられる。
「……アッ、貴方はあの記事の!」
記事?
「い、今門を開けますので少々お待ちを!」
と鉄製の門にある小窓を開けて中に対して何やら声を掛ける。
「では開けますね」
とこちら側、つまり俺達がいる街側から開門の操作をした。
「ここからは徒歩で行く」
門兵に紅蓮を預ける。
「しかし……小さくないか?」
門から見える内部。草一本は生えていない広い敷地の中央には店舗? らしき建物だけ。門からその建物まで石畳の一本道があるのみ。
「一応、この大陸の錬金術ギルドの本部がここ。で師匠、錬金術のことは何処まで知っている?」
「確か」
始まりはの名の通り、金を創ろうとしたのが始まりだが金を生み出すには至らなかった。だがその発想は様々な分野に波及し、金属の加工だけでなく薬の生成にも生かされた、と。
なので俺がいた時代では「錬金術」という言葉は廃れたと聞いている。
「そうか、師匠がいたところは魔法が存在していない世界だったな」
「魔法? 錬金術はスキルで行うものではないのか?」
「確かに物質の生成・変化はスキルが無いと行えない。それは付与術師にも言えること」
「では魔法は関係ないのでは?」
「魔法の源は?」
「魔素?」
「そう魔素。魔素はこの世界のあらゆる物の中に存在している。勿論師匠の中にも」
俺は呼吸や飲食により体内に取り込んでいるらしいが、皆とは違い活かされることなく老廃物として体外に排出されているそうだ。
「錬金術や付与術は物の中に存在している「魔素」を媒介の代わりにスキルを使って変化させたり変質させる。勿論、無から有は生み出せないので原材料はいるが」
スキルのレベルが上がれば「作れる物の種類」も増えるらしい。
「一階は事務所で地下で作業や実験が行われている」
「地下?」
「危険なので作業場は地下に設けられている。因みに実験場は地下三階から下」
「一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
先程から物騒な言い回しをしているが?
「以前「厨二病」の話をしたと思うが」
「ああ、覚えている」
シルヴィアに聞いたら「妄想癖」がどうのこうのと言っていたような。
「会えば分かるが奴らは基本的には無害。だが想像力と探究心が豊か過ぎてちょっとした拍子で周りを巻き込み暴走を始めてしまう」
「…………」
「高位の錬金術師は皆そうらしい」
ただエステリーナはそんな者達と真摯に向きあった。彼ら彼女らの「厨二病」を理解してくれたエステリーナに感銘を受けた錬金術師らはクズ石でしかなかった【魔鉱石】の研究に協力。その結果、利用法が確立されこの国に巨万の富みをもたらした、とのこと。
取り敢えず中へ。入りきると有無を言わせない勢いで門が閉じられると中にいた兵らが門の前で警備に付いた。
「これ以降はアタイが対応する。師匠は出来るだけ黙っていて欲しい。あと何があっても我慢してくれ」
「なぜ?」
「バレたら間違いなく、いや絶対に狙われるから」
……意味が分からん。
*エステリーナ達への説明・・気を利かせて伝えていない。
*新領主には不要な・・基本的には「コンラッド国に勤めていた者」で規模が縮小されたノイエン伯爵では宝の持ち腐れになると思われる者達の内、騎士団と国軍の兵舎や関連施設の維持管理を行う予定の者の教育を担当する(因みにエステリーナ侯爵領と「もう一家」に必要と思われる人材もその中に含まれている。後日「エステリーナ&シルヴィアの検査」に合格した者は移動することになる。またそれ以外の「優秀な者達」は用意が整い次第、順次アラナート城に移動してもらう)
*サリーに手綱を・・まだ道を覚えていないから。
*以降は臨時報酬はなし・・新人冒険者の訓練になるらしいので。




