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第77話 領地開発編 「今後」

今話は会話過多です。

 




 二人は「指輪の機能」で帰るとそのまま各部屋の浴室へ直行。

 俺はその間にエルアノームに連絡を取る。


 ──エル?


「待ってました!」


 と笑顔で答えながら目の前に現れる。


「あ、あのな、いきなり来たら驚くだろ?」

「あら? 婚約者と久しぶりに逢えた第一声がそれ?」

「……悪かった」

「分かれば良し」


 え──と、俺が悪いの?


「で、お姉様は?」

「今は」


「ご入浴中です」


 トレーにティーセットを乗せたルーシアが現れる。


「そうなんだ?」

「はい」


 近くのテーブルに手際よく準備しながら答えた。


「ん? 貴方、なんだか浮かれてない?」


 ルーシアを見て言うが……俺には違いが分からない。


「流石ですね」

「これでも国王だもん。で、何か良いことでもあったの?」

「はい。久しぶりに旦那様に可愛がって頂きました」


「…………」


 ジト目が俺に向けられる。


「……スケベ」


 い、いやね、俺から手を出したんじゃなくてね、逆に襲われたというか。


「誰がスケベだと?」


 そこにタイミングよくエステリーナが現れる。


「お兄様」

「山水? いや今日はルーシアの日か」


 エルアノーム、俺、ルーシアの順に目配せをしてから「程々にな」と笑みを浮かべた。


 お前もなと俺は言いたい!


「あらエルちゃんいらっしゃい」


 遅れてシーラも現れる。


「で、何の話をしていたの?」

「聞いて! お兄様ったら今日はルーシアとイチャイチャしていたらしいの!」


 それを聞いたシーラの時が止まる。さらに彼女を中心にして気温が下がり始めた。


「るーしあ」


 気温と同じく冷めた声色を発しながらルーシアを見るが……


「「「いない?」」」


 既に逃走していた。


「旦那様、すいません!」


 唐突に謝られる。


「「「?」」」

「どうせ『連れて行ってもらえなかった』とか言って迫ったのでしょう?」


 ま、まあその通り。


「それについては帰国後に「帳尻合わせ」をすることで話がついているんです!」


「へ?」


 そうなの?


 〈そうなのです〉


 シルヴィアさん、今更だよね?


「まあその辺りは後で話そう」


 そろそろ時間らしい。


「では山水、外の見張りを頼む」

「はいよ」

「シーラは念のため建物に魔法防壁結界を」

「はい」

「ルーシアは(夕食の準備を)続けてくれ」


「畏まりました」


 扉の向こう側から返事が。


 バルコニーから見える空は陽の光が落ち、段々と星の瞬きが増えている。

 夕食前に地下のトレーニングルームにて第二から第五の「騎士団員全員参加」でのミーティングを行うことになっている。


 全員参加、つまり門で警備についている団員も参加させるので、俺は外への警戒、シーラは兵舎に魔法防御の結界を受け持つ。これで防備は万全。


「では行こう」

「「はい」」




 騎士団専用の室内着きたエステリーナを先頭に私服のロザンヌとエルアノームが階段を使い地下へ向かう。

 1階を通り過ぎると地下空間特有の雑味の無い静寂に切り替わる。


 程なく地下に到着。

 降りた先は通路で左右に続く廊下と正面に重厚で木製の大きな両開きの扉が。


 その扉をエステリーナが開ける。すると室内の明かりとともに、団員らの話し声が聞こえてきた。


 中に入る。

 見れば兵舎内用の服で思い思いの場所で小さなグループをつくり、それぞれ話に花を咲かせていた。


 因みにこの服は各団共通。外見では見分けがつかない。


「あ、殿下が来られた!」

「宰相も居られる!」

「皆、始まるよ!」


 といつものノリで和気藹々と団・中小隊ごとに整列を始めようと動きだしたその時、


「みなさ~ん、ごくろうさま~」


 とエステリーナとロザンヌの間からエルアノームがヒョコっと顔を出す。


「「「…………へ、陛下──?!」」」


 団長三人は気付いていたのか、それとも予想していたのか、はたまた慣れているのか慌てることなくその場で背筋を正しエルアノームに一礼をする。また夜間警備に付くため鎧を身に付けていた団員は反射的に儀礼の型を取った。


 だがそれ以外の団員、正確には百四十三名の正騎士は思わぬ人物の登場に思考を止めてしまう。


「……陛下に敬礼!」


 その様子を見たエステリーナは真顔に変わるといきなり凛とした声を発する。

 すると剣が無いのに抜剣の態勢をとったり訳のわからぬ敬礼をしたりとバラバラな行動をしだした。


「「「整列!」」」


 静まり返った場に三人の団長の息の合った怒号が響き渡る。


 国王の前に出る時は正騎士としての装備を身に付けるのが決まり。さらに敬礼の際は抜剣し剣先を真上に向け両手で持つのが騎士団の正しい「儀礼」なのだが、今この場でそれができるのは今晩の門の警備に当たる四名のみ。


 ではこのような不意の遭遇の場合の作法はどうかというと、貴族の当主等に行うのと同じ、団長らが取った「背筋を正して一礼」が正解であり、一応新人教育での講義で教えている。


 なので「出来て当たり前」なのだが、滅多に機会がなかったからか、実際に行動に移せたのは団長達と警備予定の四人のみ。


「はあ──」


 エステリーナの盛大な溜息。

 部下の前ではあまり感情を出さない上司が露骨に落胆している。

 その様子を見た団長達の額に一筋の汗が流れる。


『想定外な状況に対応できていない。これは今一度鍛え直さないと』と思っているに違いない。このままではまたあの「生かさず殺さずの地獄の鍛錬」が始まる、と。


 実際のところ、その想像は当たっていた。


『死と隣り合わせの実戦、さらにエンリケを失うという経験した今の国軍ならば即座に対応できたのではないか? 先々を考え今の内に意識を変えておかないと手(・)遅(・)れ(・)になりかねない』との危機感をこの時のエステリーナは覚えた。


 ……帰りに【天使の階段】にでも寄って鍛え直すか?


 アソコの施設は今なら空いている。


「まあ良い。これから陛下から皆に一言あるそうだ。楽な体勢で聞いてくれ」


「「「はい!」」」


 準備が整ったところでエステリーナが横へ移動。


「宜しいですか? お姉様?」

「ああ始めてくれ」

「では」


 と二人の前に進み出る。


「これから話す内容は他言無用ですからね」


 そんな騎士団の規律や方針など知らぬエルアノームが陽気な声で「今後の方針」を語り始めた。

 すると話が進むにつれ、団長だけでなく団員らの顔も蒼ざめていった……


 


 翌朝。

 いつもなら東の空がうっすらと白みがかる頃に目が覚めるのだが、今日はまだ星明かりが見えている。


 ここで久しぶりとなる広域の気配を探ってみるがここも含めて平穏そのもの。城下町や周辺の町や村にも不穏な気配は無し。


 ……時差、のせいか。


 それに気付いたのは階下で寝ている騎士団員の様子から。

 彼らも普段から起床時間が決まっており、もう馴染みとなった「起床ラッパ」はまだ吹かれいないが、約半数の者が目を覚ましている……のだが床から出る者は殆どおらず、大半は二度寝を決め込み起きようとはしない。


 で俺は用事があるのでそろそろ起きないと。


 ……ん? ルーシアがいない。


 どこに? と思ったらまだ寝ているロザンヌを除いた「四人」が中央デッキスペースに集まっていた。


(因みにエルアノームも泊まろうしたがロザンヌに叱られた。なので夕食後に泣く泣く(転移魔法で)帰国している)


 衣服を着てから皆の所へ。


「おはよう」


「ああ、おはよう」

「「「おはようございます」」」


 エステリーナに続きシーラ・ルーシア、そしてサ(・)リ(・)ー(・)が(・)続(・)く(・)。


 ん?


 見ればエステリーナとシーラは運動に適した外出着を着ている。


「お出掛け?」

「今の内に調査しておきたくてな」


 何処を? と聞くと「北方三国」だと。


「急いで帰ったとはいえ、特使らはまだ国境にも着いていないのに?」


 どうせ思い付きだろうし先触れも出していないだろう。見つかったら不法入国になるのでは?


「隠蔽魔法を使い(姿を消し)ながら空から調べます」


 あ、そう。


「暫くはこの時間に出て、夜までには戻る」

「ロザンヌには?」

「団長らにも昨夜伝えてある」

「昼は?」

「ルーシアにお弁当を作ってもらいました」


 あ、そう。で、俺は?


「旦那様、調査には一週間程掛かります。その間、羽を伸ばされては?」

「そうだ。どうせ国軍が来るまでの間は身動きが取れないんだから」


 休めと言われても、ね。


「では行ってくる。サリー、暫く山水の面倒を頼む」

「了解」


 はいはい。いってらっしゃい。

 笑顔で見送った。


「そういえば朝飯は?」

「二人ともお済みです」


 もう食べたの?


「旦那様は如何なさいます?」


 そうか、ルーシアは知らないか。


「毎朝この時間にサリーと一時間程、鍛錬をしている。朝食はその後の朝風呂が済んでからにしている」

「承知しました。準備は整っておりますのでいつでもお声がけください」

「ありがとう。ルーシアがいてくれて助かるよ」

「ふふふ、持ちつ持たれつ、ですよ」


 左様ですか。


「んじゃ始めるか」

「うす」


 三日ぶりとなる、毎朝決まった時間に行うサリーとの朝練。


「では基本の素振りから」


 お互い愛刀を取り出し横並びで素振りを始める。


 ◇


これは事後にパイモンから聞かされた。


 今回エルフの王族に呪術を行使したのは(操られていたとはいえ)大精霊のルーナ。

 対象とされたのはエルフの王族とその血を受け継ぐ者。


 一般的に「呪術をかけられた者」が自らの手で「呪いを行使した者」の命を断てば解放される。

 だがエルフの王族は信仰上の理由によりルーナを害せない。


 片やサリーは自身の置かれた境遇からルーナに対し(山水と同じで)信仰心のカケラも持っていなかった。なので自らの手でケリをつけるのに躊躇いはなかった。


 だがルーナへの信仰心のないサリーはルーナの加護が強く働いているダンジョンには立ち入ることが出来ない。さらにルーナもダンジョンから出てこないことから山水に依頼した。


 その後、シーラがルーナの力を奪い、ルーナの魂を自身の中に入れた段階でダンジョンの【加護】が消滅。

 それに気付いた「雷明」がヤームが掛けた睡眠魔法が解けない内にサリーに働きかけた結果、シーラの中にいた無防備な状態のルーナをサリーの手で消滅させた。


(それにより王族やサリーへの呪いは解除されたが、同時にサリーへの乗っ取りも完了してしまう)


 その後は知っての通りだが、俺が天界から戻るまでの間にパイモンが『シーラの姿をしたルーナを討った』とサリーの記憶を改変してくれたのと、皆が口裏を合わせてくれたことにより、事なきを得ている。


 そして雷明が消滅したことにより【忍び】をジョブは名実ともにサリーのモノとなった。

 あの日を境に飛躍的に伸び始めた成長速度に本人も疑問を覚え俺に聞いてきた。


『心の重荷が取れたからだろ』


とそれらしい理由を付けて答えておいたら納得していた。


 今のサリーは【中忍程度】の実力。

【侍】でいえば師の下を離れ、一人己と向き合いながら技と精神を高めていく段階に入っている。

 そろそろ独自性を持たせるには良い時期だと思うが、その前にマスターさせておきたい能力があった。


◇


 ──九百九十八。

 ──九百九十九。

 ──千。


 無心で振り続けた約15分。今日も息切れもさせずに素振りを終える。

 因みにこの素振りは基礎訓練なので身体強化系のスキルは使わない。


「よし、刀をしまえ」

「?」

「今日は【気を読む】訓練をする」

「読む?」

「そう。探るの次は読む」

「…………」

「まあいいからその場に座れ」

「…………正座?」

「でなくていい」


 多分、使える様になるには時間がかかる。そのことを一言添えると「では遠慮なく」とデンと胡坐をかいた。

 対して俺は立ったまま。


「先ず気、気配だが人には喜怒哀楽があるよな」

「うん」

「その喜怒哀楽は「己の欲望」の現れ。ここまではいいな?」

「いいけど何の話? 哲学?」

「いやどちらかといえば宗教だな。で以前俺がいた国の宗教では「人は誰しも108の煩悩を抱えている」と言われていた」

「煩悩とは?」

「先ほど言った喜怒哀楽の源となる欲望を指す。代表的なのは「三大欲求」と言われている【食欲・睡眠欲・性欲】、それ以外には金銭欲や独占欲などがある」

「ふむふむ」

「で、これらの欲求は聖人君子であろうとも例外なく心に抱えているものであり、その欲求によって「人」は成り立っている、と言われている」

「分かった。これは宗教の勧誘だな?」

「話の腰を折るな」

「へい」

「でここからが本番。お前は他人の気配を探れるようになったよな?」


 今のところ範囲は良くて数百m。探知範囲をかなり絞れば二km程度。その範囲内であれば死角にいようとも見付けられるようになったがその先はまだ無理……なのだが何故だか距離に関係なく俺の居場所だけは分かるらしい。

 そのお陰で遠く離れた異国の地でも毎日稽古がつけられるわけだが。


 そんなサリーの転移魔法、いや転移スキルにはいくつかの制限がある。


1.行ったことのない場所には転移できない・・これは魔法による転移と同じ。


2.転移できるのは自分だけ・・理由は不明(魔法ではなくスキルだから?)


3.精神力が続く限りは何度でも・・精神疲労は少ないらしい。また距離の長短による消耗度合いも同じ。


4.ノーリアクションでスキル発動・・転移魔法は「今のシーラ」でも詠唱がいる。スキルもスキル名を言うか思い浮かべないと発動しないのだが……


 とシーラの転移魔法と比べたら長所とも短所とも取れる制限が存在する。

 だが考えようによっては短所は短所でなく長所に変えられる。

 特に1の制限が無くなれば使い勝手が向上する、と俺は思う。


「うい」

「次はソイツの感情を、自分の中にある「煩悩」と比べてみろ」

「比べる?」

「ああ。近いと思われる煩悩、つまり欲求を見つけ、一つ一つ照らし合わせていけば相手が何を欲しているのかが自ずと分かるようになる」

「…………」

「勿論、人の性格は千差万別。絶対とは言えないが「無意識下」ではそう大して変わらない」

「…………」

「では先ずは傍にいるルーシアの気を読んでみろ」

「はい」


 ルーシアがいる方向に向き直り目を瞑る。


「………分からん」


 最初から出来るとは思っていない。


「一つ尋ねるが、俺のことはどうやって見分けているんだ?」

「……なんとなく?」

「では先ずその何となくを突き詰めてみろ」

「…………」


 首を傾けたまま暫く動かなくなった。

 10分後。


「やはり分からない」


「まあ焦らずゆっくり考えろ。それから身内以外に「気を読める」ことは言うな」

「どうして?」

「逆手に取られる。それと勘の鋭そうな奴には安易に使うな」

「了解」

「では本日はここまで」

「ありがとうございました」


 ぼうよみかい。


「あ、師匠」

「何だ?」

「ギルドから連絡が入った」


 ギルド?



「例のブツが見つかったらしい」



騎士団の儀礼・・国に忠誠を違う衛兵や国軍の兵の敬礼の方法は異なる。これは【アコレード】を受けていないから。因みにアラナート王国でアコレードを受けれるのは正騎士、国軍の将軍と副将軍のみ。正騎士になれたサリーも先日受けている。


思わぬ人物の登場・・機密保持の観点から【指輪の機能】は伝えていない。なのでエルアノームの登場には皆驚いた(あまりの出来事に転移魔法が使えるシーラの存在すら忘れた程に)

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