第75話 領地開拓編 「それぞれの事情」
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……第二階位の悪魔が最後に目撃されたのは千年程前の人魔大戦。大陸の北端に突如現れた魔王は当時の国々に壊滅的な被害をもたらしながら南下を続けた。
その勢いが大陸中部に差し掛かった頃、北部から避難していたとある国の研究者らが「勇者召喚」に成功する。
そして彼ら彼女らの活躍により魔王軍は徐々に勢力を減らし、最後は北端にて魔王と側近らは討ち取られたのだが、その魔王の補佐をしていたのが数体の第二階位の悪魔でありそれ以降は歴史の表舞台に出てくることはなかった……
コンラッド王国の北の山岳地帯にある三王国の方針が固まったのは三日前。その日の早朝、各国にある冒険者ギルド内の広報板にとある情報が張り出されたことから始まる。
『特等級が世界初のイヴィルデーモンキラーの称号を獲得!』
所持が義務付けられている冒険者ギルド発行の身分証は特定の付与がなされた魔道具であり、討伐対象の魔力量等を自動で収集し(登録を行なった)支部に情報を送る仕組みとなっている。
その情報を受け取る側のギルドはそれを基に蓄積された情報と照会しと対象を特定する。
さらに魔獣の特性や能力・内包魔力労を推測したり生息域の把握等をし、組織の円滑な活動に活かしたり所属している国や周辺地域へ情報を提供、注意喚起に役立てている。
ただそれらの情報を外部へ公開するのは魔獣に関する部分だけであり「誰がいつどこで討伐した」といった冒険者の個人情報は伏せている(護衛等の依頼者と直接かかわる依頼=クエスト受注時は別)
但し以下は例外として、所属ギルド名(・・国・・支部)と冒険者のフルネーム、及び所属パーティー名を無条件で公開している。
①「各等級十位以内」とその者が所属しているパーティ―名。
②ギルドが定める「偉業」の達成者とその者が所属しているパーティ―名。
例えば先日セーレを瞬殺した山水だが、第二階位の悪魔を討伐をした事実をギルドは前記の手段にて把握している。
このような「偉業」が達成された場合は本人の意思とは関係なく、登録支部から一旦ギルド本部に個人の情報と討伐結果が送られ、そこから全てのギルド支部に「偉業」が伝えられる。
受け取った各支部は遅延なく支部内の目立つ場所に設置してある広報板で公表を行うこととなる(広報板は「依頼受付け側」と冒険者専用窓口の二か所)
この仕組みは初期登録の際に渡されるハンドブックに記載(字の読めない者には口頭で説明)されているので基本的には皆知っているし、この広報板も目立つ場所に置かれてあるため、名が張り出されると必然的に冒険者だけでなく依頼者の目にも留まる。
結果、冒険者どものやる気も上がり冒険者の質も向上する。また客からのギルドへの評価も上がるし、評価が上がれば依頼の数も増えるしギルドの安定収入にも繋がる。
なので今回も例に漏れずに公表した。
数時間後、その情報が北方三国の王の耳にも届いた。それが三日前の早朝のこと。
『こんな時に第二階位の悪魔が出た? どこでだ?』
流石は国を守る立場。冒険者達とは受け止め方が違う。
言い伝えによれば第二階位は天災と同じで、巻き込まれないことを祈りながら災いが去るまで逃げるか大人しくしているしかない。
『エルフの国?』
アソコとは付き合いはないし伝手もない。
事情を知らないだけに不安が増す。
『魔族を一人で討伐しただと?』
誰だそいつは?
『……山水・ナート。ナート? ……まさか』
山水の方は聞かない名で発音を間違ってしまう。だが南部の貴族で「ナート家」を知らぬ者はいない。
『陛下、書状が届いております』
そこに(タイミングよく)アラナート王国から【婚姻の儀の案内】が、商人ギルドの手により届けられた。
『……何? 前王と現王が同じ男と結婚? しかもエルフの姫とも? その相手がその山水?」
コンラッド国との戦争の最中ではないのか?
いったい何が起きているのだ?
その直後、今後の方針を決定付ける報告がやってきた。
『アラナート側の圧勝? コンラッド側は大半が戦死か捕虜で帰還兵は数名?』
コンラッド国内で戦争の推移を探らせていた密偵らから耳を疑う報が続々と届き始めた。
敗戦。
幸い今回は珍しく、コンラッド国王からなんの要請も無かった。なので我が国としては無関係で通せるが。
だが胸騒ぎが止まらない。
『……まさか』
この招待状は『アラナート王国に付くかそれとも滅びを待つのか』といった選別を行っているのだと三国はほぼ同時期に悟る。
帝国が大陸中央域を南を目指して問答無用で真っ直ぐ南下を続ける目的は未だに分かっていない。
ただ一つ言えるのは進路外にある大陸の東西に位置する国家には手を出していないことろを見るに、大陸制覇を目指しているとも思えない。
だが進路の途上にある大陸中部にある大・中の国家群には問答無用とばかりに襲ってきている。
今は戦線がジワジワと南に押されている状況でいつまでもつか分からない。
もしそこが突破された先には我々弱小三国とベルカノン公国・アラナート王国・パルミラル王国の三国のみ。
では帝国の目的とは?
ベルカノン公国の騎士らを手中に収めたい?
これは正直無謀の極み。仮にベルカノン公国に勝利出来たとしても土地しか残らないのでは意味がない。しかもその土地が山岳地帯で旨味が少ない。
どちらにしても非常識に強いあの国の騎士には近付かないだろう。
ではアラナート王国か?
確かに穀物の生産量は魅力的だが毎年適正価格で分け隔てなく卸してくれている。わざわざ戦争で金と人を浪費しなくとも手に入る。そんなことに金と人をつぎ込むのなら広大な自国の領土を開発した方がトータル的に安く済む。
なら魔鉱石を使った魔道具の技術を欲した?
該当の魔道具は軍事転用には向かない民生品ばかりだし、そもそも売り出したのはここ数年。帝国が侵略戦争を始めたずっと後のこと。
そのアラナート王国はベルカノン公国に食糧援助を行っている。
仮に援助に支障が出ようものなら帝国は側面から襲われ戦線を維持出来なくなる。
ならばパルミラル王国が最終目的地?
エルフの血を欲している?
それが目的ならアラナート王国を通らなければならない。その場合はアラナート王国と全面戦争となる。そうなればエルフ共も参加する。
そしてアラナート王国が戦闘を始めればベルカノン公国も参戦する。
その場合、主戦場になるのはコンラッド王国。南からはアラナート・パルミラル連合軍と東からはベルカノン軍がやって来る。我が国の総人口よりも多い兵が押し寄せればなす術なく滅ぼされるだろう。
そうなる前に手を打たなければ。
我々から北は比較的に起伏の少ない平原。
地の利を生かし今のウチに北側国境を要塞化出来ればあるいは……
『そう考えれば吉報なのかも』
迫りくる脅威に我々だけでは抗えない。そしてアラナート王国にとっても迫りくる脅威は他人事ではない筈。
なら手を取り合うタイミングは今しかない。生き残るためにはなりふり構っていられない。
三国の王は同時期に同じ決断をし、終戦交渉が行われるコンラッド王国に使者を送ることを決めた。
だがそこで問題となったのは特使役。
というのもエルアノームへの王位継承に伴う儀式は行われなかったし、外交もエステリーナの時代に必要な取り決めを済ませていたので、現国王と挨拶を交わした者は誰もいない。
さらに三国ともエルアノームになってからはコンラッド王の方針でアラナート王国とは敵対していないが有効的ともいえない立場で通してきた。
そのせいでアラナート王国からは敵視されているかもしれない。
それならばと今回は相手をエステリーナ一人に絞り、彼女と話したことがありさらに彼女の父とも交流があり、さらにコンラッド前国王とは距離を置いていた人物を探し出し送ることにした。
その様な「消去法」により中央とはほど遠い下級貴族が「全権委任大使」として選ばれた。
「(どうやら間に合ったようだな)」
「(ああ。だが未だに解せないんだが)」
「(解せない? ではそちらも)」
「(そう、情報がない)」
「(参ったな)」
「(成り行きにまかせるしかないか)」
などと小声で愚痴をこぼし合っていたところ、両国の許可が出たとのことで会談の場である謁見の間へ通される。
程なく「謁見の間」の入口に到着。両開きの大きな木製の扉の前で横に整列をする。準備が出来たところで衛兵により扉が開かれると、それにタイミングを合わせ同時に頭を下げる。
扉が開き斬ったタイミングで揃って頭を上げるとほぼ予想通りの光景となっていた。
中央に置かれた会談用に用意された長机の中央でノイエンとエステリーナが向かい合って座り、その二人の隣にはサポート役の文官が一人ずつ。
この配置は会談の場ではよく見られる光景なのだが、一般的でないモノが二つ目に入る。
一つはナート侯爵の後方にのみ武装した男一人女二人の騎士団が控えている点。
記憶が確かなら彼らは団長格。それが三人もいるということは本国に上がってきた「戦争の結果」は確かなもの。つまりコンラッド王国の完全敗北。
だがもう一つは分からない。
公爵の斜め後方で椅子に座っている、今では見かけなくなったエルフ族。しかも王族にのみに許されたという純白な長衣を着ているところを見るに、
……あれがシーラ姫か×3
と皆同時に同じ発想に辿り着く。
少し前にに届いた「婚姻の儀への招待状」に名が乗っていた三人目。名はシーラ・マーシャル・パルミラルでパルミラル国の第一王女。エルフの王族はたった一言で一軍を滅ぼせるほどの魔法が使えると言い伝えられている。
アラナート王国以外とは一切関わりを持たないエルフ族。その中でも頂点に君臨するであろう姫を妻に向かえる国。両国の仲の良さは噂通りであったと。
だからこそ余計に混乱してしまう。
<山水とはいったい何者なのか?>
出発する前に、急ぎ金を積んで商人から情報を得ようとしたところ、冒険者登録する前に【ファイヤードラゴン】の討伐も成し遂げ、それを理由に元国王と現国王を手に入れたと教えてくれた。
『あーあれか、俺も見たぜ。そうだ、丁度証拠も持ってるぞ』
と我々の国では珍しい新聞の号外を自慢げに見せてくれた。その一面には二人が仲睦まじそうに抱き合う姿が描かれていた。
証人は信用が第一。なので言っていることは事実なのだろう。
なのでその線で行こうと作戦を立ててきたのだが、その山水とやらの姿はここには無かった。到着寸前の情報では皆一緒に城に入ったと聞いており、行動を共にしているものとばかり思っていた。
……これは誤算だ。
我ら三人とも先々代、つまりエステリーナの父とはそれなりの付き合いがあり、その関係でエステリーナの戴冠式にも参加したが、その際は両親との思い出話をしたくらい。
それ以降は付き合いも無く、現在に至る情報は皆無。
この様な場合はおめでたい話を持ち出すのがセオリーなのだが……
……無いとは思うが、もし逆効果なら
単に別行動しているのか?
それとも一時の気の迷いとか、望まぬ政略結婚で一緒にいたくないのか?
などと迷っているとナート侯爵がその場で立ち上がった。
◇
戸惑う様子を眺めていた「三人」の中で、真っ先にリアクションを起こしたのはエステリーナだった。
「これはこれは、お三方とも久しぶりだな」
席についている二人に断りも入れずに立ち上がると三人に近付いてゆく。それを機に、
「陛下ではなく殿下。お久しぶりでございます」
「ご無沙汰しております」
「我らを覚えておられたとは、流石はエステリーナ殿下でございます」
三人とも初老の男。向かってくるエステリーナに対し緊張しながらも深々と頭を下げる。
因みにエステリーナはシンボルカラーである青系統のパンツスーツと国旗である「三本の剣と穂」をあしらった金色のマントの姿。
もう一人、シーラは定番の白の長衣と二人とも王族らしい服装である。
──お知り合いですか?
──ああ、戴冠式に参列してくれたんだ。
と手身近に所属国名と名だけを教えてくれると三人の相手を始めた。
「「「先ずはご結婚おめでとうございます」」」
三人揃って再度頭を下げる。
結婚の件は式の予定日も含めて招待状を送っているので知っていて当然。
「いやいや殿下のようなご聡明でお美しいお方のハートを射止めるとはお相手の方が羨ましい」
「式には必ず参列させていただきます」
「陛下も快気なさられたとか。これで父君も安心されることでしょう」
エステリーナの顔色を窺いながら矢継ぎ早に褒めまくる三人。
褒められた側のエステリーナの頬が緩む。
──んー確か三人とも男爵じゃなかったかな?
エルアノームが補足してくれる。
──そうなのか?
──うん。いた気がする。というか名前聞くまで忘れてた。
──つまり要職ではない者を送ってきたの?
国と国との重要な取り決めごとをその場で決めるには国の要職に就いている者か位の高い者を送らないと相手に信用されない。
──いや敢えて顔見知りを送ってきたんだろう。こちらを刺激したくないのと、敵意がないことを理解してもうらうために。
そもそも北方三国はコンラッド王国の援助で成り立っていた筈。今回の戦争には表立って加担していないが、裏で何かしらの便宜や協力をしていたかもしれないがその証拠は何処にも無い。
エステリーナは元国王。その辺りの情勢は理解しているが、噯にも出さず和やかに握手をしながら挨拶を続けている。
そして区切りが良いところで、
「今日はどの様なご用向きで?」
和かに問い掛ける。
「アラナート王国にお願いがあり、王の代理として参りました」
「お二方とも?」
左右の特使らにも笑顔を向けて問う。
「「はい」」
「承知した。ノイエン伯」
「は、はい」
「席をあと三つ、用意してもらえるか?」
「は、はい、今すぐに」
と協議への参加を決めてしまう。
その決定に三人は安堵の表情に変わった。
<貴方様>
<どうしたシルヴィア?>
<問題ありません。エステリーナ様にもお伝えしておきました>
<調べてくれたのか、ありがとう>
シルヴィアのお墨付きなら文句は言うまい。
三ケ国とも(先を見据えて)アラナート王国が吸収してくれるのを望んでいるとのこと。特に断る理由も見当たらなかったことから同じテーブルに着かせたそうだ。
その後、旧コンラッド王国とは既に話が纏まっていたのでその場で署名をし正式にアラナート王国の一員とした。
三国とは意思の確認をした上で、今後の方針を記した「覚書」を交わし一旦帰国させることにする。
覚書に記した条件は大まかに二つ。
①元々のアラナート王国貴族とのバランスを考え、領地を安堵する代わりにそれぞれ1段降爵(王はコンラッド王国同様に伯爵とする)
②アラナート貴族として陛下へ忠誠、王国法の順守、国軍と騎士団への協力。各旧王都に国軍を置くことへの同意。
その場で作成した覚書を持ち帰らせ、後日その国の代表者(王)自らアラナート城に赴き合意文書にサインをするという方針にした。
揉める事なく話し合いが終わると周りが慌ただしく動き始めた。
まずは北方から来た特使。彼らは書面を携え急ぎ帰路へ。
彼らが帰国し、それぞれの王が合意文書に同意し、アラナート城で調印をした段階で王国の一員になれる。それが済むまではただの隣国であるため(第三国に攻められても)助けてはくれない。
挨拶もそこそこに引き上げていった。
そして特使らと入れ替わりでコンラッド伯の部下が多数入ってくる。
こちらは既に王国の一員となった。なったからには双方交わした約束は守らなければならない。
*偉業・・魔獣の討伐だけでない。
*フルネーム・・この大陸では苗字は貴族の特権で平民は持てない。代わりに「○○の子の○○」とか「○○町の○○」と名乗るのが一般的(作中では面倒いのでしませんが)
*商人ギルド・・国際郵便配達業務も請け負っている(料金はかなり高めなのと届くまでに多少時間が掛かるが専門の「ジョブ持ち」が運ぶので一番確実な信頼のおける手段。因みにどの国も共通の言語)
国内向けは国によって制度が異なる(アラナート王国では識字率か高いので配達専門の民間組織が起業している)
*選別を行っている・・報告がたまたま前後しただけ(密偵の情報収集に時間が掛かり報告が遅れた)
*降爵を1段下げる・・山岳地帯で大陸の中でも辺境国に分類され国土の広さを除き、人口(ベルカノン公国よりかは多い)や経済・軍事力は低い。なので貴族の総数も少なく王の下は伯爵と男爵しかいない。




