第74話 領地開発編 「交渉2」
──お、そうだ。愚王の財宝を見つけたぞ。
──やっぱりあったか~。
──規模はどのくらいですか~?
若い二人は信じていなかったと。
──ロザンヌ曰く「5憶は軽く超える」と。
──それは……随分とため込んでたね。
──大半が賄賂だと俺は思うが。
──ではもう(貴族のところには)残っていないのでは?
──それはない!
──根拠は?
──第一は経済規模からの推測。第二は身銭をきってまで贈り物をするのは身内にだけ。
国民から集めた税金は領主と言えども横領しづらいが、それ以外の方法で手に入れた金は自由に出来る。
──……妙に納得。
──それと地理的な幸運にも恵まれていたし。
国内を通過する商人らに「通行税」を課していたらしい。
通行税自体は特に珍しくもない。代表的なのは「隧道」や「橋」や「河川舟運」で大幅な時間の短縮になったりとお互いにメリットがある場合に用いられるがここは違う。
アラナート王国と取引するにはこの地の通過は必須。つまり商人は従うしかないわけで、そこに目を付けたというわけだ。
──にしても多過ぎるような?
──確かに。
現役の王族から見ても多いらしい。ん?
──多過ぎる? もしやそれすらもお前の仕業か?
──正解。アイツを誘導して『戦に便乗して従う貴族から搾りとれ』と王に進言させてたの。
王には「戦費を名目として貴族から集め、多く納めた者には優先的に戦利品を分配する」と。雷明には俺に勝った後に奪い易くしとこうと。
──奴は俺に勝つ気でいた?
──主がどのような状態で現れるかは来るまで分からない。だから準備しておくに越したことない。
──なら選択肢に「国の乗っ取り」は入っていなかったのか?
──他人を信用しないアイツには無理でしょう?
確かに。奴は人の上に立つ器ではない。
──パイモンがいても?
──そこは契約に入っていないのだから手伝えない。だからヤツもやらざるをを得なかった。
契約。そう言えば契約内容をはっきりと聞いてはいなかったな。
──守秘義務につき話せません。
あっそう。
──パイモンらしいな。
──お褒めにあずかり光栄です、奥様。
──で所有権は?
──ロザンヌ曰く、俺だそうだ。
国の主計課が把握していない、つまりアレは国に寄贈したモノではなく王個人に渡した賄賂。所有者は死んでいるので第一発見者である俺のモノ。
そう、お前のモノはオレのモノ。オレのモノもオレのモノ。……え、違うって?
因みにロザンヌや騎士団員が発見してたら問答無用で国の物となるらしい。理由は国王の家臣だから。
それなら貴族の俺も家臣じゃないの? と聞いたところと、領地が与えられていない名誉伯は(領地持ちとは違い)権利やら義務が限定されているらしい。
今回の俺は「王からの依頼」で来たのであって命令で寄越されたのではない。なので「一応」俺の物となるらしい。
(第一騎士団員となったあの四人も名誉伯だが、彼女らは騎士団に所属している。なのでプライベート中に得た物なら「一応」彼女らに権利が生じる)
──尚よし。なら山水にあげる。
──俺は要らんぞ。
衣食住を面倒見て貰っているヒモ状態。名誉伯としてのお給料も減る気配が無いってのに。
──では今回の功労金として与える。
──多すぎるって。
──これは王命。なので拒否は許さない。
──はあ、分かった。
──後々に必要となるから【収納】に入れといてね。
後々って?
「城を解体って……今の我々では何年掛かるか」
「それはこちらでやる。直ぐに済むから気にしなくていい」
「ど、どうやって?」
「直に分かる。ついでに希望があれば聞くが?」
「希望、ですか?」
「貴公の住処。領主の館もついでに造るので何か希望があれば今の内に聞いておきたい」
「え? あ、ありがとう……ございます?」
展開に付いていけていないご様子。
「あ、あと6ですが場所を提供するだけで?」
「ああ。この城の敷地は騎士団用の駐屯地と貴公の館で折半させてもらう。国軍の駐屯地は市街に近ければ平坦な場所でなくてもよい」
──この流れはもしかしなくても俺達の出番?
──共に励みましょう!
シーラが手伝ってくれるなら空から見下ろせるので整地は早く済む。
この城は小高い丘の上にあり1km²程度。
「う、運営費用は?」
「全て国が持つ」
金の有る無しに関わらず、地方領主に任せたらどうなるか分かったもんじゃない。
何度も言うようだが兵は国防の要。国が面倒を見るのは当たり前。
「必需品の調達は可能な限り現地の商人を使うつもりだ」
「よ、よいので?」
「構わない。その代わり効率よく取引きが出来るような環境を整えておいてくれ」
「分かりました!」
自領に駐屯地を置く「メリット」を理解したらしい。
以前にも述べたが国軍の役割は外敵への対応。この国がアラナート王国の一部になるのなら国境は北に移る。なので必然的に軍の大半がここに移ることになる。
そして騎士団だがこの地域にも王の直轄地が設けられることになった。なので暫くの間は交代でこの地の巡回を行わなければならない。そのための拠点をここに造る。
つまり両方合わせて数万という数の住人が増えることになる。
その経済効果は計り知れない。
当然デメリットも生じるが王国に反意を抱かなければ安定した税収に繋がる。
「他に質問は?」
「今はありません」
「では決まりだな」
この瞬間、領土は倍、人口は2.5倍以上になることに……と話が纏まりかけたその時、
「へ、陛下!」
血相を変えたコンラッド側の事務方が乱入してきた。
「何事だ? 今は大事な」
「も、申し訳ございません! 実は今しがた北方の三国の特使が!」
「三国が?」
──どうした?
──分からん。
コンラッド王ですら状況不明。
事務方の慌てぶりにエステリーナの気配が変わる。通訳の代わりをしてくれていたシーラも同様で『三国が』で止めてしまう。
まああの場には三人の騎士団長が同席しているので何かあっても……いや二人なら自分で動くか。
まさか攻めてきた、とか?
現在、この国にはエステリーナとロザンヌの護衛は第三・第四・第五騎士団の150名のみ。二人を守るだけなら充分な戦力だが、国を守るには全く足りない。
まあ俺とシーラがいるのでいざと言う時は暴れるが、この国はまだアラナート王国とは停戦中で敵国扱い。諸々の公文書にサインが済むまでは(表立って)手は貸せない。
「いえ、そうではなくこの会談に加えて欲しいと!」
「「「?」」」
「どういうことだ?」
「どうやらアラナート王国の傘下に入る心積りかと」
「「「…………」」」
──とのことです。
通訳再開。
──やっぱりそうきたか〜
──そっちは何もしてないわよ。
──いや、天使ちゃんを疑ってたわけではないんだな。
──なら何に対してのやっぱりなんだ?
──お姉様、ここの状況は北方と似ているんですよ。つまりなるべくしてなった、必然の結果です。
──……成程。
アラナート王国は平和で長閑な国。それは遠く離れた国でも知っている。
だがその平和を愛する国が数倍の兵を擁する敵に半日程度で勝ってしまった。つまり「猫の皮を被った虎」だったと。
これは「傘下に加わる決意」するのには充分な要因。
〈今の内に強者の側に加わり、大国の脅威に備えよう〉
──売れる内に売っとけ、か。
──その通り〜。価値が無くなる前にと〜
強い者の下に付けば一先ず自分の身と地位は守れる。話の通じる相手ならそれは最善策と言える。
──行動が早いわね。
──そりゃ自分達の身がかかってるからね〜。
──なら戦前からスパイが潜んでいたのかも。
──ある意味優秀だな。
停戦から間もないのに正確に条件を見極めている。コチラとしてはこのタイミングで言い出したことが気に入らないが。
──良いの? 間違いなく負担は増えるわよ?
混乱の極みにあるコンラッド王国よりかは統治はし易いだろうが。
──シーラ姉様も心配性ね。そうこれはボーナス! それに苦労するのはコイツらだし!
──その為の6ね。
──その通り! そこには当然ダンジョンの管理も含まれているのよ。
確かにどの国にも最低一つはある。
ウチのように地理的に恵まれていたり経済力のある国なら兎も角、小国ではダンジョン管理経費も馬鹿にならない。戦争を起こせは自滅に繋がりかねない。
──ダンジョンか〜。確かこの国は小規模なのが一つ、だったかしら? なら期待薄ですね。
──そうだな。
脳筋嫁二人が何やら残念がっている。
チートな力を手に入れた二人が組めば【特異点】あたりまで楽に行けそうな気がする……って俺も行って狩りをしてみたい。
──それより一気に国土が四倍? いや五倍近いか。北は山だし色々と面倒だな。
取り敢えず愚痴を言ってみる。
──その辺りはノイエン卿に任せる。
使者を送ってきた国は山岳地帯。小国で経済規模も低いし人口も少ないので。開発も大して進んでいない。
エルアノームはその辺りも含めて仲の良かったノイエン伯に任せるのが最適だと言いたいのだろう。
──いやそういう意味じゃなくてだな、
──それは別としてノイエン伯爵の領地が広過ぎるような。
確かに直轄地の土地の面積を含めればエステリーナの領地の次に広い……ってワザと口を挟んだなシーラ。魂胆が見え透いてるぞ。
土木関連の整備にはシーラと俺が組むのが最適であり、二人だけでの移動時間が増えるからだろう?
──コンラッド側の直轄地は管理させるだけで、早めにアラナート側から誰かを送り込む。そうなればウチの公爵家以下になるでしょ。
──なるほど。
──貴族は良いとして、管理を行う人材は?
──元々いた奴を再雇用すればいい。
取り潰したから「はいサヨナラ」とはならない。あくまでも船頭を排しただけで「統治機構」は残しておく。
──成程。侯爵領にも欲しいな。
──お姉様のお好きなように。有能な者がいたら引き抜いても構いませんよ。
妻三人のやり取りを聞いて思う。皆、憂いもなく軽くなったなと。
ま、仲は良いに越した事ないけど。
(貴方様もそうですが、これで良いんですよ)
(そうか?)
(はい、良い傾向ですね)
最後はシルヴィアとの内緒の会話。
ここまでの「会話」は主神から貰った【金の指輪】の能力の一つである【魂話】を使ったもので、最後のシルヴィアとは以前から使っていた内緒話。
◇
パルミラル王国から帰国し、事の顛末の報告をしにエルアノームと会った。
その際、人払いをしてからエステリーナにお願いをしシルヴィアに変わってもらう。
そこで皆には初めてシルヴィアの姿を見せたのだが、その時の反応は千差万別でそれなりに楽しめたが、おおむね好意的に受け止めてくれていた。
その時に主神から貰った指輪の説明をしてくれた。
これを身に付けた者同士(俺、エステリーナ、シーラ、エルアノーム)なら距離や障害物に関係無く内緒話が可能になるとの事……だったが問題が一つ、懸念が一つ生じた。
問題は指輪を渡していないパイモンシレッと参加してきたこと。
金の指輪はもうないし、妾用の銀の指輪はまだ二つ余っているが、パイモンにこれを渡すつもりは無い。
なのに何故か参加しているし、シルヴィアも含めて誰も不思議に思っていない。
懸念とはエステリーナ&シルヴィア。
エステリーナはシルヴィアの「声」しか知らない一つの身体を二人で使っているのだから二人が直接会う機会はない。都合上、一方が起きている時はもう一歩は休むことになるのだが、休んでいる者には指輪の効果は及ばない。
なのでリアルタイムでの情報共有は無理では? と思われた。
そこで閃いた!
だが俺には「裏技」がある!
そう以前から使っていた方法が!
これが使えるようになればな~と、モノは試しと指輪を外した状態で休んでいるエステリーナに話し掛けたところエステリーナだけでなくエルアノームからも返事があったのだ。
驚く二人には状況を説明し納得してもらったが、その時の反応は大きく分かれた。
エステリーナは「逸話が現実になった!」と歓喜し、次の日の二人の公務は全てキャンセル。俺は翌朝の「交代時間」まで王城にあるエステリーナの私室に監禁された。
(因みにエステリーナとシルヴィアは神の恩恵により自分で「その時」を決められる。なのでエルアノームやシーラに使っている魔法は不要である)
そしてエルアノームだが俺の呼び名が変わった。
一回り以上歳が離れているのに兄呼ばわりしてきた。
エステリーナが条件を満たしたのは「本人が気にしていた件が解消されたから」だと思うがエルアノームが何をきっかけとして信頼というか好感度が上がったのか全くと言って良いほど思い浮かばなかった。
翌日の夜、どうしても気になったので俺の横で下着を脱いでいるシルヴィアにその件を相談したところ『話せるようになったのは条件を満たしたからでは?』とごもっともなことを言われる。
『どんな要因であっても結果が全て。貴方様が信頼を勝ち取ったことには変わり有りません』
うん、そうなんだけどね、
『その理由を知りたいんだ』
『相変わらず女心には疎いんですね』
『え? いいい痛!』
背後から抱きつかれ頬をつねられた。見れば笑顔に見えない笑みをしている。
『大体、イチャイチャ前に他の女の話をするのはいかがなものかと』
『……ごめん』
叱られた。全くのその通りで弁解の余地はない。
『いいえ、今日は許しません』
その後は朝までコッテリと絞られた。
そして交代のタイミングで、
『私とエステリーナ様の件ですが』
『?』
『心配は不要です』
そう言い残してから入れ替わる。
『お、おはよう』
『ああ、おはよう。で、もう忘れたのか?』
『何を』
『城で私と手を繋いだ時の事を』
手? ……!
『直接は話せないがお前に触れてさえいれば話せるんだよ』
成程。ってことは……
『その顔は……気付いたようだな』
ニヤリと笑みをこぼす。
どうやら筒抜けだったようで、二日連続で搾り取られた。
◇
で俺とシルヴィア・エステリーナ・エルアノーム・シーラの四人との間には二通りの連絡の手段があることになる。
一つは金の指輪の効果(の一つ)で、同じ色の指輪をしている者同士での念話。
これは相手の了承さえあれば最大四人(+パイモン)同時でのグループ会話が可能となる機能。
もう一つは以前から使っていた念話で、こちらは俺との一対一での会話。
コチラの最大の利点は休んでいるエステリーナorシルビアと話せる点。
因みに銀の指輪も同じで銀同士でのグループ通話が可能らしいが、残念ながら今は俺とルーシアの二人だけなので試せていない。
あと金と銀とでは一対一でしか話せないそうだ。
それと指輪でもう一つの目玉となる機能あるがそれは後ほど。
*筒抜け・・あくまでも「会話」で、見えているわけではない。それと応じるかどうかは相手次第。




