第72話 領地開拓編 「スキンシップ」
では第三章の「スローライフ編」を始めます。以降「勇者編」が終わるまではイチャイチャしながら領地の開拓をしていきます。なのでほぼ国内で過ごすことになります。
で今話までの経緯ですが停戦から五日後。団長にエステリーナ、補佐にロザンヌ、その二人の護衛として山水と三つの騎士団、さらに(表向きは)交渉の立会人(証人)としてパルミラル王国を代表してシーラを含めた交渉団を編成し、敵国の本拠地であるコンラッド城に到着。
事前のすり合わせ通りに城に到着したところ、城門下で待機していた新王(前王の嫡男)と合流。その場で降伏の意志の確認と会談前の諸々の準備を終えた後、会談場に移動を始めようと四人(団長・補佐・山水・シーラ)と三人の騎士団団長、各団数名の団員を引き連れ(謁見の間を改造した)会議場に向かっていたところ、城の様子に違和感を覚えたロザンヌが山水と数名の騎士団員を連れ別行動を始めた、ところから開始となります。
で今までは山水君が主役でしたが、以降は(イベントにより)主役が変わっていきます(ただ基本的にはこれまで通り彼の視点で)
これ以降(勇者捜索が始まるまでは)奥様方の出番が多くなり、場面によっては「主役」が交代したり「第三者目線」が増えますのでご注意を。
(場面が大きく切り替わるときは「◇」を挟みます)
あと山水ですが皆と接する時の態度や言葉遣いに変化が生じています。これは念願が叶い気負いが無くなったことで(シルヴィアが惚れた)本来の性格に戻りつつあるからです(今までにもちょこちょことボロを出していましたが)
この辺りは本編では直接的な指摘はしませんので、予め断っておきます。
(現地妻の中で「全ての事情」を知っているのはエステリーナだけ。そのエステリーナが(山水の変化を)何も言わずに受け止めているのだから皆も気にしない)
あと一話の文字数ですが第二章までは一話当たり約三千文字程度に納めてきましたが、今後はやり易い六千文字前後に変わると思います。それと作者の特徴である「後書きでの注釈」も復活させ、本文に入れなかった「背景等」の補足も入れていきます。言動の根拠の参考にして下さい。
(代表作からお付き合いいただいている方には馴染みかと)
最後に、今話は72話となっており「71話」が抜けています。実は先の予告的な話を入れようと思っていたのですが、先の展開がまだ定まっていないので保留としました。ある程度固まったら挿入します。
城門にてエルアノームと同年代と思しき若いコンラッド王から釈明と謝罪を受け、戦う意思が無いことを再度確認。ならばと王の許可を得て連れてきた騎士団を城に入れ城を一旦支配下に置いた。
要所を抑え安全が担保された後は終戦交渉を詰める為、王自らの案内で席が設けられている謁見の間へと向かう。
その途中、城の中を見たロザンヌが違和感を覚える。そのタイミングを見計らっていたかのように「ある者」から『宰相さんに伝えて』と俺に連絡が入る。
言われた通りの内容をロザンヌに耳打ちすると急に立ち止まり目を細めて思案モードに入ってしまう。
それに気付いたエステリーナが声を掛けると「少々調べたいことが出来た」とのことで別行動の許可と俺の貸し出しを願い出る。
それを聞いたエステリーナは俺を見てから「いいぞ」と許可を出す。ついでに数名の騎士を付けるうに団長らに指示を出してからシーラと団長らを引き連れ交渉の場へと向かっていった。
一行が見えなくなったところでロザンヌが残った騎士に指示を出すと、指示を受けた団員らは駆け足で離れて行く。
二人だけとなったところでやっと移動を始めた。
「本来なら案内役を頼むのですが、誤魔化されても困るので」
あえて俺だけにしたらしい。
「先程の【先王は烏】と関係あるのか?」
「はい。習性ですね」
習性?
「で、どこに行きたいんだ?」
「裏を取るため主計課を探します」
「主計課とは?」
「お金やモノの流れを記録したり予算を管理している部門ですね」
「……そこにいけば分かるのか?」
「うーーん」
どうした?
「先王は「いかにも」という風貌だったんですよね?」
「ああ」
気配を読んでいた時の言動は醜いの一言。国民を戦場で戦わせておきながら、自分は酒を飲んで笑っていた。
今頃は「阿鼻地獄」で泣き叫んでいるだろう。
「心配なのは」
──旦那様。
「ちょっと待て」
一言ロザンヌに断ってから、
──どうしたシーラ?
──経過報告を。
シーラから会談の第一報が入る。
『賠償をしようにも金がない』
『食料もギリギリ』
『労働力も失った』
『ない』
『ない』
『ない』
と王自らが言ってきたらしい。
実はこの城の中では装飾品の類を殆ど見かけなかった。
アラナート城も似たようなものだが、目に見える所にはそれなりの飾り付けはしているし、庭も含めて手入れは行き届いている。
だがここには国の中心である城の威厳らしこ雰囲気が全くと言ってよい程、感じられなかった。
なので「賠償から逃れるため資産を隠したのかも?」とロザンヌは考え主計課を探しているのか思ったが、どうやら真実は違っていたらしい。
◇
エステリーナらはコンラッド国の王城の中にある謁見の間におり、そこで大きな机を挟んで終戦交渉の大詰めの真っ最中……なのだが場の空気は重く沈んでいた。
「この国は問題が山済みだな」
「その様で」
「「…………」」
エステリーナが敢えて声に出して言うとシーラが同意する。それに対し向かいに座っているコンラッド王と文官は俯いてしまった。
◇
「……らしいぞ」
「……見掛け通りだった?」
「それなら逆に期待できるのでは?」
「……成程、そういう考え方もありますね……って見つけました」
ここで主計室を発見。
コンコンコン。
「……どうぞ」
中から返事があったので俺が扉を開け、その場で「これより臨検を行う」と宣言する。
すると10人程の男女がその場でヨロヨロと立ち上がりこちらに対して頭を下げた。
全員を見渡しながら気配を探る。
……全員非戦闘員でへとへと。こちらに敵意はなし。よし……ん? へとへと?
何で疲労困憊なんだ? と思いつつ確認が取れたのでロザンヌに場所を譲る。
「失礼、責任者は?」
「私です」
最奥の机に座っていた男が書類を片手にコチラに近付いてくる。
よく見れば相当心労が溜まっているらしく、目の下に誰にでもわかるくらいのクマが出来ている中年の男性だった。
「失礼。私はアラナート王国宰相であるロザンヌ・ナート。この国の【財務状況】を知りたいのだけど?」
書類の提出を要求すると、聞かれると思っていたのか手にしていた書類全てを渡してきた。
ロザンヌがその書類に目を通す。
「コレで全て?」
「はい」
「……はぁ──」
済まなそうな表情で俯く文官など気にせず三十枚近くあった紙を一分足らずで読み切ったロザンヌは盛大なため息を吐く。
どうやら「無い無い尽くし」は事実だったらしくロザンヌが肩を落としていた。
「負けを考えてなかったのかしら」
独りごちるロザンヌ。
「いや後がないからこそ攻めたのでは?」
ウチの資金力をアテにして。
「つまり勝つ気でいた? コレで? 救いようのないアホ、ですね」
即答。
どうらや経済は破綻寸前、待った無しの状況らしい。
「再度聞きますが記載漏れはないわよね?」
「ありません。それが全てです」
「そう。でこれを作成したのは?」
「わ、私です」
そこで初めてロザンヌと目が合う。
「……貴方もやりくり大変だったでしょう」
「……それを見ただけでお分かりに?」
「勿論、というかとても分かり易く纏められているわ。今後は休みが取れるようにするからもう少しだけ頑張って」
「「「う、う、う……」」」
その男だけでなく部屋の中にいた全員が嗚咽混じりに泣き出した。
コイツらの対応は取り敢えずロザンヌに任せその間に報告を入れておく。
──一応、裏が取れたぞ。
──そうですか。
エステリーナではなくシーラに報告を入れる。
そのまま「そちらの様子は?」と尋ねたところ『雰囲気を変えるため一旦話題を変えた』ところ皆、先代の王には悪感情を抱いていたようで、先王やその取り巻きの好戦派貴族を排除してくれたことへの感謝の言葉を述べられたと。
なのでなんとしてでも賠償を行いたいが先立つものがない。賠償しようにも金がない。
で今はエステリーナが考えるフリをしながらエルアノームに相談している最中とのこと。
そこに、
「さ、宰相殿!」
ここで我が国の騎士団員が部屋に駆け込んできた。
「見つけた?」
「は、はい!」
「案内して!」
「こちらです!」
ロザンヌだけはその状況を信じていなかった。
いやロザンヌも城内を見たときは落胆の表情をしていたが【烏】と教えた後に「怪しいと思われる場所」を探すように指示を出していた。
で、その兵の一人が今戻ってきたのだ。
──ちょっと離れる。
──気をつけてな。
──何かありましたら遠慮せずお呼び下さい。
──はいよ。
その兵の案内で地下の牢獄エリアに向かう。
「こちらです」
地下牢の手前のT字路を右に曲がるとその先の通路の左右にも地下牢が続く。
「誰も居ない?」
「はい」
たまたまなのか? それにしては牢獄特有の臭いもないし妙に小綺麗にみえた。
魔道具のランタン片手に進むと突き当りの牢屋の鉄格子が開いていた。
「ん?」
奥の壁に違和感丸出しの鉄製の扉が。
「開けられる?」
「既に開錠は済ませてあります。ただ」
「ただ? もしや罠が?」
「はい。作動したらしく、対策も無しに扉を開けるのは危険かと」
なので開けていないらしい。
その扉をロザンヌが無言で眺める。
「なら俺が開けよう」
指を咥えているのは性に合わない。
「さ、山水様、危険です」
「だからこそ俺が開ける」
「で、でも」
「ハイハイ皆は下がって、いやこのエリアから出るんだ」
「……ではお願いします」
何が起きても良いように、俺以外は牢獄エリア手前の通路まで避難させた。
〈おい〉
パイモンを呼ぶ。
〈確かにトラップは作動中。でも魔力は感じないから物理的な罠だけのようね〉
〈念の為、シーラを呼ぶか?〉
大抵のトラップなら躱わす自信はあるが。
<多分、主一人で充分よ>
<そうか?>
まあ閉じ込められても切り札はある。
<あ、そうだ! 今回は縛りを設けよう!>
<?>
<刀や神器は使わずに切り抜けろ〜>
<マジ?>
<ルーシアとの稽古の成果をみせて♡>
それはどちらを指している? 格闘技? それとも寝技? どちらもまだ数回なのだが?
<ではれっつごー!>
ドアノブを回し手前に引く。
「ん? 開かないぞ?」
<何ボケかましてるの! 引くんじゃなくて押すの!>
和式でしたか、それは失礼。
「では……なっ!」
軽く押した途端、頭上で何かが動く気配を感じたので、バックステップにで牢屋から廊下へ。廊下に出たタイミングで分厚い天井が床に落下。風圧の押されて体勢を崩しかける。
「! 次は下か⁈」
足元から妙な気配がしたので出口に向け走り出す。
すると通路だけでなく他の牢屋の床からも隙間無く槍が突き出てくるのがスローモーションで見えた。
「これじゃ間に合わん!」
50m程の距離を本気で走り抜ける。
<ごーる!>
「っと」
「キャ!」
<あら? もしかして狙った?>
<娘だぞ?>
<形式上でしょ? 気に入ったのなら遠慮せずに手を出せば?>
<はぁ……>
<あ、良い事教えてあげる。貴方達の子は主神の祝福を受けるのが確定しているので親戚同士でも血が濃くなることは無いから>
「あ、あの──」
「お、親子のスキンシップだ」
「え? あ、はい……」
だってロザンヌったら入口の中央に立ってるんだもん。ぶつかる瞬間、怪我をさせたくなかったので咄嗟に身体を抱えてしまった。
<スキンシップ? 身体はそうは思っていないようだけど?>
え? あ、マズイ。
最近忘れていたが俺の奥さん達と同様にロザンヌ姉妹も「高嶺の花」級の美人なのだ。普段は娘というより「年の離れた妹」的な目で見ていたが、パイモンが余計な事を口走ったせいで女として意識したらしく身体の一部が反応していた。
念仏でも唱えて平常心……良し!
「……怪我は?」
「……ありません」
腕の中で縮こまるロザンヌに聞くと小声で返される。
気付かれていないよね?
<スキンシップなんでしょ?>
<うるせえ!>
<奥様方には黙っといてあげる>
コイツは何故だかエステリーナを「奥様」と呼びシルヴィアと同等の接し方をしている。
今まではそれを気にも留めていなかったが今回だけは背筋に寒気が走る。
「閣下?」
護衛の騎士団員がバツが悪そうに俺を呼ぶ。
「ど、どうした?」
「お楽しみのところ申し訳ありませんが」
だーかーらー楽しんでないって!
「トラップが」
「…………トラップ?」
見れば作動したトラップの全てが元に戻っていた。
「……念の為、もう一人で行ってくる」
「はい。お気をつけて」
<期待してる?>
<何を?>
ってロザンヌはまた入口中央に陣取ってるし。
<らっきーすけべをご所望なら、もういちど扉を閉めて~それから開ければ~トラップ発動~>
やなこった。誰がやるか。
ランタンを借り再び扉の前へ。
用心しながら開いていた扉を閉めずに全開に。
中を照らすと部屋の広さは十二畳ほど。
「…………」
俺にとっては勝ちの無いものばかり。
なのでそこにあったモノを粛々と【収納】し皆の所へ歩いて戻る。
「どうでしたか?」
「流石はロザンヌ」
聞かれたので真顔でサムズアップをして見せる。
するとロザンヌも口元を綻ばせながら同じ仕草で応えた。
「このエリアはどうする?」
放置しておくのは良くないと思うが?
何なら埋めとくが。
「どうするかは既に決まっております」
「?」
「それより鹵獲品の検分を」
一旦上階に引き上げ、誰もいない部屋を見繕い俺とロザンヌだけ部屋の中に入り扉を閉じる。
「でそれで収穫は?」
「見て驚くなよ?」
【収納】から全てを取り出す。
「やはり烏だったか」
「烏?」
「この世界の烏ですが、光物を集める習性がありまして」
「ほう」
それは日本の烏もおなじ。
「執着心が強く、仲間同士でも平然と奪い合いをします」
「…………」
「しかし……軽く見積もって5億以上。よくもまあここまで貯め込んでたわね」
呆れるロザンヌ。
「で、コレどうするんだ?」
「先程主計課の者は『無い』と断言しちゃいました。なのでコレは「所有者不明の遺物扱い」でありこの国とは無関係。つまり第一発見者に権利が生じます」
「つまり俺達の物?」
「正確には第一発見者である山水様の物となります」
「教えなくていいの?」
「誰に? もしかしてコンラッド側?」
「そう」
引き渡し、これを賠償金として俺達が受け取る。これなら全てが丸く収まるような気がするが。
「それではこの国の為になりません」
「それもそうか」
苦労してこそ教訓は生きる、欲しいものは苦労して得ろと。それはこの世界を創った主神の方針でもある。
「で、如何なさいます?」
「何を?」
「山水様ならこれらは全て国に寄付して頂けると」
「うん、要らない。では国に寄付……する前に」
ミスリル製の短剣と付与効果がついているマジックアイテムをいくつか手に取り一旦【収納】に入れる。
そして出来上がりをイメージしながら目を閉じ静かに念じる。次に目を開け右手の手を開くと、コバルトブルー色の指輪が二つ出てきた。
「これは?」
「お前たち姉妹へ、俺からの贈り物だ」
エステリーナやエルアノーム、さらにアラナート王国の為に働いてくれていることへの感謝のしるしと断ってから手渡す。
エステリーナやエルアノームは侯爵家を取り潰しの裁定を下した立場故、礼は言えないだろうし、後の無かったロザンヌらも職務を真っ当しようと必死だったに違いない。
実際、二人は罪人の子からいきなり宰相職に抜擢されたワケだし、それをよく思わない者もいただろう。
その辺りは推挙したエステリーナが陰ながらフォローしていたとは思うが、少なくとも俺は何もしてあげられなかった。さらに俺は個人的な事情で二人に多大な迷惑を掛けている。
それらの感情を考慮したら、柵なく礼を言えるのは俺しかいない。
「え? で、でも」
「まあこんなオッサンから貰っても嬉しくはないだろうが」
素材はミスリルなので見た目は曇りのない鮮やかなブルー色。それにいくつかの付与効果を混ぜた。
神から貰った神器の指輪とは比較にならないが、間違いなくこの世界では値がつけられないくらいの貴重な物のはず。
「そんなことは……ありがとうございます」
「礼を言うのはこちらだ」
モッタイナイと怒られるかな? とも思ったが素直に受け取ってくれそう。
「一つだけ宜しいでしょうか」
「ん?」
「さ、山水様の手で付けて頂けないでしょうか?」
「ん、いいぞ」
「では」
と右手の薬指を差し出してきたので何も考えずにつけてあげる。
「……ありがとうございます」
ウットリとした目で指輪を摩っている。
「どう……いたしまして」
「あ、申し訳ありませんが妹にも同じように山水様自ら付けてあげて下さい。その方が喜びます」
「あい分かった」
指輪を付けるくらいならお安い御用。
「それと」
急に表情を引き締める。
「?」
「奥様方以外にプレゼントを渡すような行為は極力なさらぬように」
「……何故?」
「今、一番避けたいのは夫婦の不和。意図せぬ誤解が生じるかもしれません」
……成程。
「女性に物を送るなら先ずはリナ様にご相談を。リナ様に聞き難い場合は私か妹でも構いません」
「はい、そうします」
〈あ~あ、全く〉
ん? どうしたパイモンや。
〈あたしゃ知らな~いと〉
〈知らない?〉
〈もしかして知らないの?〉
〈だから何が?〉
〈男が女の右手の薬指に指輪をはめる、それを文句も言わずに女が受け入れた、その意味〉
〈意味があるのか〉
〈罪な男ね〉
〈…………〉
何が罪なのかで悩んでいたところにシーラから一報が。
──旦那様。
──どうした?
──コンラッド王が全ての国土をアラナート王国へ譲渡すると言い出しました。
はい? 何でそうなる?
*パルミラル王族が使う「転移魔法」ですが、術者が行った事がない場所には飛べません。「見える所なら」も無し。但し「サリー」は別である時点を境に(制限付きですが)行ったことのない場所にも飛べれるようになりました。




