第67話 召喚
やり残しは・・ないよね?
「お前がパイモンだな?」
そこそこの大きさの大岩の上に、身長はサリーくらいの小柄で色白で赤眼、金髪のツインテールで周囲の闇よりもさらに暗い漆黒のドレス姿をしている女が座っておりソイツと目が合う。
「あらこれは……何故?」
俺を見て何故か驚いている。
この距離だ、つい今しがたの戦いは見えていた筈。
まさか俺が負けるとでも思っていたのか?
「ごちゃごちゃ言ってないで質問に答えろ!」
「あら怒りん坊さんね。では挨拶を始めましょう」
緊張感の欠片もない笑顔で答え空中で立つと、優雅に一礼をする。
「初めまして、アタシがパイモンよ」
この場にはパイモンと裸で十字架に吊るされているエステリーナ。その足元で横たわっているセシリアのみ。
ここで集中、片目を閉じ気配を読む。
肝心のシーラは……先程の場所にまだいる。
そしてここにいる二人にはザームのような靄は無い。
……よし、まだ乗っ取られていない。
ルーナとの繋がりを断ち切ったザームから奴の気配が消えた。
それは何故か?
奴はザームの中にいたのではなく、ルーナの中におり、そこからザームを操っていた。
それを知っていたシーラは俺が繋がりを断ち切ったタイミングで「封印」しようと待機していたが、既所で逃げられた。
ではどこに逃げた?
鍵となるのは二十年程前に王城で起きた事件。
恐らくルーナの力を掌握した奴が王族を対象にした呪いを掛けたのだろう。
ここで重要なのはザームとシーラの兄妹。
片方が死ねばもう片方も死ぬ運命だとルーシアが言っていた。
それが本当なら俺にとって(目的を達するだけなら)好都合だが、逆に奴は(ザームが殺されるだけで)シーラという最強の手駒を失う。つまり何の得もない。
奴がそんな真似をするか?
しない。つまり共倒れはフェイク……の可能性が高いが、だからといって違うとも断言できない。
だが問題はそこではない。
もしザームに繋げられていたパイプがシーラにもあったら?
繋がりが切れたと知ったらルーナを捨てシーラに乗り移るかもしれない。
それはそれで困るし相当の覚悟がいる。
だがそれ以上に困るのはシーラからエステリーナに乗り移られた場合。
そうなったら最悪だ。俺には手は出せない。
雷明やルーナが呪術を使えるとは思えないが、奴の傍には呪術のエキスパートがいる。しかも都合よく目の前に。
つまり最悪の状況になりうる条件は揃っているのだ。
そして状況は最悪に向け、一歩ずつ確実に近付いている。
守ると誓った女は縄で手首と足首を十字架に吊るされており、胸元にはどんな時でも身につけていた「癒しのペンダント」の代わりに大きさの異なる金の鍵が二つ光っている。これは「何かしらの儀式」を行おうとしている。
「……二人に……何をした?」
感情の抑えが聞かずに声が震える。ついでに僅かに殺気が漏れ出てしまった。
「な、何もしていないって」
俺の殺気は第二階位にも効くらしい。
「ではこの状況をどう説明する⁉︎」
「ん──、知りたい?」
立ち直りが早い? 上辺かもしれないが。
「いやもういいいい。返してもらうぞ」
「え──と、エルフの子だけなら。奥さんはダメ」
セシリアは良くてエステリーナはダメと。
「お前の都合なんぞ知るか」
歩みを再開。
いい加減この手のやり取りにはウンザリしている。どうせ尋ねたとしても納得のいく返答は出まい。
「だからダメだって」
空中を移動しながら俺とエステリーナの間に割り込んだ。
「邪魔をするならこの場でお前を叩き斬る!」
それでも歩みを止めずに柄に手を掛ける。
「アタシを斬ったら君の負け。その時点で何も得られず終了」
「そんな話は」
足だけでなく口も止まる。
悪魔、パートナーに手を出したら負け? そんな決まりは聞いていない。いやそれ以前につい最近までいたのにさえ知らなかった。
「少し考えれば思いつくでしょうに。でないとフェアじゃないでしょ?」
「フェアだ⁈」
どの口が言う!
「雷明は二度と神界には踏み込めない」
「そんな保証は」
「偶然は二度と起きない」
「…………」
「入れないのだからシルヴィアには絶対に手が出せない。つまり君のナビゲーターは安全は保障されている。だからこそお互い戦いが続けられる」
「…………」
「だから君も私に手を出しちゃダメ。ナビゲーターに手を出したらその時点で強制終了。公平とはそういうもの」
「ならどうして切り離した?」
シルヴィアと会話が出来ない状態を言っている。
「エルフの妻に聞いたら?」
「お前が唆したんだろ?」
「……なるほど、どうやら壮大な勘違いをしているようね」
「……勘違い?」
「そう。もしかして今回に関する呪術は全てアタシが行使した、と思ってる?」
「当たり前だ」
「やっぱり。信じられないだろうけど私自身はこの世界に来てからは一度も呪術は使っていないわよ」
「では誰が?」
「アイツ自身」
「奴にそんな能力は無かったはずだが?」
「そこは契約になるから言えないけど」
呪術。この悪魔はここでは使っていないと。
そこで契約。
奴はパイモンの能力の一部を「契約」によって得たのか?
「本当よ。私はこのダンジョンから一度も出ていないし、アイツとも会っていない」
「出たことがない? ではアラナート王国にも?」
「行ってないわ」
「奴とは会っていないのか?」
「そこは契約と重なる部分があるので言えない。ただそちらと同じくアドバイスはしてたけどね」
「ではシルヴィアと連絡が取れなくなったのは?」
「その質問はアタシにではなくエルフのお姫様にしたら?」
「チッ」
確かに実行したのはシーラ。
だが今はそんなのはどうでもいい。
「だからダメだって言ってるでしょ? 今、動かしたら二度と会えなくなるわよ? それでも良いの?」
更に前に進むがパイモンも引き下がる気はないらしい。
「何故?」
「魂が戻れなくなる」
「はぁ? 説明しろ! 今すぐ!」
「今回のアタシはただの調整役なんだけど……まあいいか。影響の無い範囲で昔話を一つ」
と言ってから俺に背を向けて空中を移動、元の大岩の上に腰掛けた。
「先程、セーレと戦ったよね」
「それが?」
「そのセーレもアタシも悪魔……もとい、天使なのはご存じよね?」
「ああ」
「で天使の中にも位があって私は上から九番目なんだけど、一番上のお方は知っている?」
「サタン?」
「そう、ルシファー様」
「そいつがどうした?」
「そ、そいつ? まあ貴方から見ればソイツ程度なんだろうけど。とにかく天使の中では一番偉いお方なのよ」
「…………」
話が長くなりそうな予感がし、眉間に力が入る。
「覚醒まで時間はあるからそう急かさない。我々天使は主神の眷族でもあり僕なんだけど、神界にはルシファー様と同格の者が他にもいるのよ」
「同格?」
「そう。そのうちの一人が今回の賭けの対象となっている」
「シルヴィア?」
「当たり。でこの優秀な巫女の仕事は、下界には干渉しない決まりのある主神の代わりに、下界を監視している存在との調整役。それくらいはご存知よね?」
「ああ」
「である時その優秀な巫女の功績に報いようと主神が「望みを一つだけ叶えよう」と決められた」
「……シルヴィアは何と?」
「話は最後まで聞く。叶うかは別としてもう直ぐ分かるから」
「…………」
「それよりその願いを聞いた主神は大層お困りになられた。何せ下界には干渉できないお立場であり、主神でもその希望は叶えられない」
何を願ったんだ?
「で巫女自身も「無理な望み」と分かっていたので謝罪し引き下がった。だが主神は自ら「望みを叶える」と口にしたからには何としてでも叶えてあげたい。そこで「何か妙案は無いか?」と下界専門に活動している天使、いやアタシにお鉢が回って来たんだ」
「…………」
「そして今に至る」
意味深げに微笑を浮かべながら締めくくる。
「皆まで言わずとも、察しの良い君ならもう分っているよね?」
「…………」
「『対価無く手に入れたものは為にならず』これは下界で活動するアタシら天使に主神が課した決まり事。だからアタシも最後まで手を貸すつもりはなかったんだ」
「では今までの戦いに勝ててこれたのは?」
「君の実力と運、あとは純粋な想い。まあシルヴィアという「ハンデ」もあったし多少は裏で調整していたけどね」
「…………」
「あ、アタシに礼は不要。なにせ最後の最後で「契約」を結べたし「下地」も築けた。アタシはこれで充分♪」
満面の笑みで話している。
「これで昔話はお終い」
「もう一つ聞きたい。何故アイツらを鍛えてるんだ?」
騎士団員の事。
「そこに気付くとは流石ね。それを答える前にアタシからも質問があるんだけど」
「何だ?」
「セーレの依り代を見たのに何でそんなに落ち着いていられるの?」
「それは」
たぶん「みかん」のお陰かと。
「千年前の勇者? あのダンジョンで生きている? マジで? 流石「理」から外れた奴らだわ」
信じられないといった表情。
「ってことは体を張ったのに取り越し苦労? 王様可哀想に。まあでもそれはそれで遊べるか」
「?」
「で質問の答えだけど……アタシよりも女王様から聞いた方が納得できると思うよ」
「エルか」
パイモンが頷く。
「さあ時は満ちた! 残る試練はあと二つ! 君がどの道を選ぶか高みの見物としゃれこもう!」
「山水様!」
そこにシーラが転移にてやって来た。
「お怪我はございませんか!」
と変わりない俺を見て安堵の表情を見せるが、俺の後方で吊るされているエステリーナを見るや否やパイモンを睨みつける。
そのシーラだが様子もそうだが容姿が少し、いやだいぶ変わっていた。
白くて長い髪は輝いているし保有魔力量がヤバいくらいに増えている。
さらにもう一つ。シーラの中にもう一人、誰かがいた。
「…………」
「?」
俺の警戒心に気付いたらしく、その場から動こうとしない。
中にいるのが誰か分からない状態では「会話」も出来ない。
……いや、しかしこれは奴の気配じゃないよな? ではこの気配は誰だ?
敢えて声に出して尋ねると「これはルーナ様です」との返答が。
完全に当てが外れたが、代わりに「何故ルーナが?」との疑問が湧いてくる。
「それは……ごめんなさい」
体を直角にしてまで頭を下げて謝られた。
どうやらそれすらも言えないらしい。
「決して悪いようにはしません。今は私を信じて任せてはいただけないでしょうか?」
「雷明は……いないんだよな?」
「はい、申し訳ありません」
取り逃したことへの謝罪だろうか。その時の状況を聞くと「前触れもなく突然消えた」らしい。
完璧に対策を施して挑んだのに逃げられた。あり得ない状況に困惑したが「引き継ぎ」の作業を優先したため、その後は分からずじまいとのこと。
「引き継ぎとは?」
「…………」
パイモンを見ると俺達のやり取りを興味津々といった様子で眺めているだけで、口を挟む気はなさそう。
「何かが起きてからでは手遅れ。どうか、どうかお通しください!」
必死に頭を下げている姿を見て罪悪感が芽生えてくる。
「分かった」
横に数歩移動、道を開ける。
「ありがとうございます! これで最悪の事態だけは」
パッと表情が明るくなる、がその時、
「逃がさない」
どこからか聞き覚えのある声が。
「ウッ!」
突然シーラが呻き声を上げ首を垂れる。
「なっ!」
見ればシーラの胸から刀が突き出てきた。
突然のことに思考が追い付かない。
そして勢いよく刀が抜かれるとシーラが口から血を流しその場で力なく崩れ落ちる。
すると後ろにいた者の姿が見えてくる。
そこには「気配を消した状態」で忍び装束姿の眼鏡を付けていないサリーがいた。
「し、シーラ!」
シーラに駆け寄り抱え起こす。
サリーは焦点の合っていない瞳で放心状態。
「さ、サリー! 何してるんだ!」
名を呼ぶ。
「ししょ? 何って……アタイは……るーなさまを」
フラフラしながらルーナの名を口ずさんでいる。
「さ…んすい…さま」
「お前は喋るな! 今ポーションを」
エリクサーを出そうとしたが無い!
ならハイポーションで!
「と……めて」
な、何を⁉︎
と聞こうとした瞬間、シーラの身体から力が抜ける。
「お、おい!」
ま、不味い! このままでは死んでしまう!
問題の先延ばしにしかならないが取り敢えずは【収納】に入れようとしたが、何故だか入らない。
代わりにシーラの全身が眩く光り始め……傷が塞がってゆく。
そして、
「クッ!」
今度はサリーが苦しみだす。
「お、おいサリー?」
するとサリーの中に……
「お、おい! どうなってるんだ? この気配は!」
「遅い」
「その声は!」
言葉を残してサリーが消え……エステリーナの正面に移動した。
……ま、まさか!!
「ま、待て!!」
叫ぶが時すでに遅し。
シーラと同じ場所に、正面から刀が突き刺される。
「さ、雷明────!! 貴様────!!」
全力を以てサリーに斬りかかるが寸でのところで転移されてしまう。
だが手の届く範囲に現れたのでその場から斬撃を飛ばそうとした。
だがそのタイミングでエステリーナを拘束していた縄が消えてしまい落下してきたので攻撃を中止、地面スレスレで受け止めた。
「貴様! 何故サリーの中にいる!」
接点は無かった……いやあった! ミランダが!!
それで全てが繋がった。
日本人でないサリーが刀を使えたり忍びになれた理由も。
「はははは! 今頃気付いたか間抜けめ!」
満面の笑顔で勝ち誇る。
「どうだ? 奪われる者の気分は? 最高だろ?」
「クッ」
それをお前が言うのか!
腹が立つが今は構っている暇はない。
【収納】からハイポーションを取り出し傷口に振り掛ける。すると傷は治ったが……心臓は動かず。
「……り、リナ、目を開けてくれ」
「惨めだな。女一人も護れずに。主神に唆されここまで来た結果がこれだ」
「……りな」
「そう、その顔だ、その顔が見たかった! 情けなく泣くその姿が見たかった! ハハハハハハハハハ!」
奴の声でサリーが笑う。
「満足した?」
「ああ、満足どころか大満足だ!」
「そう」
いつの間にかサリーの脇にはパイモンが。
「あとはコイツが闇堕ちしてこの世界を滅ぼせば」
「残念だけど堕ちないしこれでお終い」
「な、何故⁈」
「見てみなさい」
「ん?」
「……な、殺気がない? 何故怒らない?」
「アナタとは根本的に性格が違うのよ」
「な、ならエルアノームも殺せば」
「だーかーらお終いっていってるでしょ?」
「な、何故だ? まだ山水は生きてるぞ!」
「そうじゃない。今貴方は「満足した」と言ったわよね?」
「言ったが? ……ま、まさか」
「そう、契約。貴方が望んだ結果になった。つまり望みは叶った」
ここでシーラのアイテムボックスに入れてあったスタッフが現れパイモンの手にパスっと収まる。
「……ま、待て」
「あーくーまーはーまーたーなーいー♪」
半月状に開かれた口から歓喜に満ちた声を発する。するとスタッフが黒い靄に変わり、手から擦り抜けると直径2mほどの球体に変わる。
「では……いただきまーす♪」
持ち主の言葉に反応したのか、球体に巨大な目が一つ浮かび上がると周囲にキョロキョロと目配せをし……雷明で止まる。
さらに巨大な口が浮かび上がるとパカっと開かれた?
「クッ」
転移で逃げようとしたのか雷明が消える。
「無駄よ」
次の瞬間、球体の口に下半身を喰われた状態で現れる。
「ま、待て! 待ってくれ!」
「だから待たないって」
「どうしてだ! まだ決着は付いてないぞ!」
「あのね、決着云々の前に主神の所有物に手を出したんだもの。天罰が降るのはあたりまえでしょ?」
「アレはお前が仕組んだんだろ!」
「アタシは誘っただけ。実際に実行するかは貴方次第。他人のせいにし・な・い」
「な……ま、ま……」
徐々に球体が回転を始める。
「お、おい待て! サリーはどうなる!」
ゴクリ。
俺の叫びは無視。球体が回転? し口が真上になったところで口を開け飲み込んでしまった。
「大丈夫♪」
飲み込んだ直後、目と口は消え元の黒いだけの球体に。
「ゲプ」
球体ではなくパイモンの口から漏れた声。
その数秒後、球体の下部からサリーが排出され地面に落ちた。
「サリー!」
どうやら呼吸はしているらしく見た目にも変わりがない。
「ご馳走様でした♪」
一方、パイモンはトロケ顔? で腹をさすり満足そうな様子で俺に向き直る。
「無事二つ目の試練は終えました。これから最後の試練に挑んで貰います」
「し、試練?」
「奥様をお抱えを」
「リナを?」
言われた通りお姫様抱っこする。
……リナ。
呼吸と鼓動は止まったまま。
……鍵が一つ無くなってる。
首から下がっていたペンダントに掛かっていた二つの鍵。その内の一つがいつの間にか消えていた。
「では……くれぐれも粗相のないように、ね♪」
パイモンが微笑みながら囁くと抱いていたエステリーナが不意に消える。
そして……「あの時」と同じように意識が途切れた。
攻機の新作が7月から放映!
少佐役を誰がやるんだ?原作のウリである「ボケとツッコミ」を取り入れるなら「少佐」よりも鶴様が適任だと思うが二人とも亡くなられてるし。
で、第二章は次話で終了となります。




