第65話 魂の在処
修正に飽きた!
すいません。区切りが悪かったのでいつもよりは長くなりました。
あと最後にちょっとだけパイモンらのやり取りを入れてあります。
……リナとシーラは無事か。
これは直ぐに判明したので一先ず安心する。一方、
「こ、この感覚は⁈」
後方にいたエルフら全員が四方八方に目を向けながらザワついていた。
「恩恵が消えた?」
恩恵とはこの国に恵みを齎す力。だが俺にはルーナへの信仰心が無いせいか、何も感じられない。
「なら姫様が」
「そうよ、成功したのよ!」
「なら恩恵が復活するまで」
「我らはここを死守する!」
「「「お──!!」」」
歓声と共に戦闘体制に入る。
確か【恩恵】とはルーナを初めとした精霊が与えてくれる恵みだった筈。ダンジョンに施された【結界】もその類なのだろう。
自分達を守ってくれていたものが無くなれば高地特有の気候に戻り作物は育たなくなる。さらに樹木も枯れ荒れ果ててしまうだろう。
さらにそれだけでは済まない。
この国のダンジョンの周りは平地で、川といった「檻」がないがゆえに漏れ出た魔素は際限無く拡がってゆく。それを止めなければ王都は程なく「ダンジョン化」するだろう。
そういう意味では今、この場は大陸の中で最も危険な場所ということになる。
この場にいる者にはその程度は一般常識なのだが悲壮感などは微塵も感じられない。寧ろヤル気が増した気さえする。ということはこれは想定内であり何かしらの対策も立ててあると。
……だがここだけ守っていてもな。
全ての兵をダンジョン入り口に配置して何の意味が?
確かに背後には城や街もあるが、迂回されたら意味がない。
俺ならダンジョンを囲む……には人手がたりないので城あたりに住人を集めて守りを固めるが。
……まあエルフらはこの際放置。俺は俺の役割を果たす。
彼らのリアクションから俺は頭数に入っていなさそうなのと、ヤースやシーラがこの事態を想定していないとも思えなかったので早々に気持ちを切り替えダンジョンに意識を向け気配を探る。
「……クッ! な、何故?」
いつもの調子で情報を得ようとしたせいで脳の処理が追い付かずに頭がクラクラしてしまう。
当たり前だがダンジョン内は魔獣の巣窟であり魔素という「欲」が渦巻く世界。
普段はシルヴィアのサポートのおかげで情報を選別、楽をさせて貰っていたが何故か今回はフォローが無く不要な情報が脳へダイレクトに伝わってしまったのだ。
──シルヴィア!? 何か起きたのか!?
だが今までと同じく応答なし。
……まさかこのまま会えなくなるんじゃ。
不吉な予感、いや焦燥感が芽生える。
……落ち着け。シルヴィアはどこよりも安全な場所にいる。それに今まで通り存在は感じられる。
不安を無理矢理抑え込むと前を向く。今度は「魔獣以外」の気を探ってみた。
……いた。
入口からかなり先、十一時の方向に大集団が一つ。そこから僅かに離れた所にエステリーナとセシリアが。
その二人と対峙している? 不穏な気配が一つ。
……それとこっちは……これシーラだよな?
思わず闇夜で見えないにも拘らず空を見上げた。
シーラの気配が妙なことになっていた。昨晩、別れる前とは別人と思えるほどの変わりよう。
なんとも形容し難いその気配。人よりもどちらかといえばシルヴィアに違い気がする。
しかもシーラの傍には、
「やはりそこにいたか!」
奴がいた。だがこちらも妙だ。先程とは比較にならないくらいに弱弱しい。
今、シーラがいる「第9園」と呼ばれる100m以上の落差の崖を二つ乗り越えた先の高台がある場所。
流石の俺でもこの高さは登れない。
とりあえずの状況は判明。さらに詳しく気配を読もうとしたその時、
「山水様!」
声を掛けられた。
「マリアンヌか?」
「ハアハア、良かった間に合って!」
人混みを掻き分けて現れた。
城で仕事じゃなかったのか?
どうしてここに?
「へ、陛下からの言付けです!」
「エルから?」
「はい。『お姉様を救えるのはこの世で貴方だけ。だから絶対に、何が何でも救いなさい』と」
「…………」
「それともう一つ『報告は二人揃って行うように』と」
「……わかった」
「確かにお伝えしました。では私から山水様に一つ餞別を」
と背負っていた1m程の長さの杖を前に出す。
「マリアンヌも魔法が使えるのか?」
「はい。私の得意な魔法はこれです」
と言いながら呪文を唱えると杖の先で浮いている透明な球体から青白い光りが漏れ出してくる。
「……悪意からかの者を守り、風のように愉快な歩みを与え賜え、妖精の舞い!」
詠唱の終わりと同時に青い光が俺の身体に降り注ぐ。
「これは?」
「幻影魔法の応用で対象者が望む最適なルートを示してくれます。これに沿って進めばリナ様とは労せず合流できるかと」
「?」
「アチラを」
と後方にあるダンジョンを指さす。
何を言っているんだと思いつつダンジョンに目を向けると、その言葉通りに地面に青いラインが敷かれていた。
「ありがとう、これで迷わなくて済む」
光り具合から俺だけにしか見えていないようだ。
どんな理屈なのかは知らないが手段は多いに越したことはない。なので素直に礼を言う。
「必ず、リナ様を連れ帰って下さい」
「ああ」
動揺しているようなので近付き小声で耳打ちをする。
「ヤバいと感じたら俺達のことは放っておいて逃げろ」
「え? で、ですが」
「紅蓮を使いエルアノームがいる王宮に報告に行くんだ。これは命令だ」
「うぅ……」
承服しかねる命令? に逆に動揺が増したようでやるせない表情で俯いてしまう。
このまま命令で押し切ろうかとも思ったがそれをしたら後にシルヴィアに怒られる。うん、間違いなく叱られる。
なのでマリアンヌの背と頭に手を回し優しく囁く。
「大丈夫。リナは連れて帰る。それにお前達姉妹を残して死ぬつもりはない」
「私達?」
「ああ。リナとは立場が違うが俺も二人の味方だ」
元侯爵の悪事を暴いたのは俺であり、一時とはいえ二人を罪人に落としてしまった。
その後はエステリーナ家に養子入りし侯爵家一員に復帰したが、それは陛下やエステリーナの温情によるもの。そんな裁定に快く思っていない者もいるだろう。
となると腹に一物を抱えた奴らが望まぬ婚姻を迫ってくるかもしれない。
エルアノームならその辺りは見抜けるだろうが、決めるのはあくまでもナート家当主であるエステリーナ。アイツならやむにやまれず婚姻を推し進めるかもしれない。
それを阻止できるのは俺しかいない。
当初とは異なり俺にも二人に対して少なからず家族としての愛情が芽生えている。
義理とはいえ娘になったからには本人が望まぬ婚姻は絶対に認めない。
そんな俺の思いをこの姉妹は言わなくても理解してくれる。同じく賢いエルアノームも同様も分かってくれている。
なので「仮に」俺達二人が帰らなかったとしてもエルアノームなら良きに計らってくれるだろう。
「…………」
返答はなかったが理解してくれたと判断、身体を離すと俺の瞳をジーと見つめてくる。
一応、気配を調べたところ波紋の無い湖のように落ち着いていた。
……今後はもう少し接し方を変えよう。
お前達と違って俺は王国にはなんの柵もないただの男。そんな奴を相手に肩ひじ張っても意味はない。だからエステリーナやサリーのように敬語もいらないし「娘」として年相応の振る舞いで頼って欲しい。
「では行ってくる。もしもの時は(エルアノームを)頼んだぞ」
祭儀に笑顔で片をポンと叩く。そして向きを変え一気に加速しダンジョンの中へ。
先ずは線沿いにエステリーナの下に向かう。
「第一園は草原か」
そこそこの高さの起伏はあるが総じて見通しは良い。とはいえ夜なので遠くは見通せないが障害物は見付けやすい。
「おっと、ルート変更?」
暗闇の中、起伏に沿ったラインのお陰で先読みが出来るで速度を落とさずに済んでいる。さらに「殺気」をばら撒きながら進んでいるので魔獣との遭遇も皆無な状況。
「ここから第二園?」
ある時点を超えると臀部程の高さの草に変わる。お陰で速度が早馬程度まで落ちる。
「っとなんだ?」
ラインの色が黄色に変わる。
「魔獣か」
気配によるとこの先にはエステリーナを助けた後に出会ったブラックキラー程度の強さの魔獣の群れがおり、自分達よりもレベル的に劣る魔獣を襲っていた
「アイツらは崖飛び降りたのか?」
ここはまだ第二園で、入口付近にいたエルフらでも充分に戦える強さのヤツばかり。だがそいつらを蹂躙している魔獣は「弱り切っていた時のエステリーナ」が躊躇する程度の強さということは、出入り口付近にいた奴らでは苦戦するかもしれない。
というかコイツらどこから来たんだ?
進む先は緩やかな上り坂。そちら方面にはまだ場違いな魔獣は見当たらない。
「やはりあの高さを?」
100m以上ある、足場もない垂直な崖を飛び降りる度胸は俺にはないが、上質な魔素の塊であるエルフ族を前にしてはいてもたってもいられなかったのだろう。
その予想は直ぐに的中する。
一段上にある第七園やその前の六園から下段に向かって飛び降りてきたのだ。
……成程、その為に一箇所に集めたのか。
仕方ない。気付いた分だけでも処分しておくか。
そう決めた途端、ラインの色が青に変わる。
「この魔法、便利だな」
内心でマリアンヌを褒めながら先行している集団に向け速度を上げる。
……たが。
魔獣は不思議なことに騎士団員らがいる集団には近づこうとはしなかった。
……多分、退治している奴らのせいだな。
あの気配には覚えがある。
そう、つい先程討伐した第三階位と同質。
今は均衡が取れているようだがいつまでもつか。というのも敵の増加数が尋常ではない。
……アイツらには早過ぎたか。このままでは押し切られるぞ。
人を切る。その「壁」は乗り越えたようだが覚悟がまだ足りなていないようで気配に迷いが見える。
これが騎士団長クラスなら確固たる意志を持って切り捨てているが。
……エルフらには感謝だな。
団員らが動き易いように的確、そして自己犠牲を厭わない援護。しかも常に退路を考えた配置に感銘を受ける。
……ただ。あの数ならその気があれば押し切れそうな気がするが。
敵は何故か攻勢に出ようとしない。
そこに違和感を覚えた。
そして斬撃の有効射程圏内に入ると同時に様子が見えてくる。
そこには三体の巨大な土蜘蛛型? の魔獣が小型の爬虫類型魔獣を糸で縛り上げていた。
「これなら」
正面に向け刀を二度振る。そのまま左手を翳し全ての残骸を【収納】に入れる。
「よし」
上位の存在である魔獣を瞬殺したお陰か? か第二園の魔獣が俺を脅威と認識、距離を取り始めた。
だがそれとは別に上段から果敢にダイブしてくる魔獣の数は増える一方。
そして着地に成功した決して少なくはない数の魔獣らは俺に見向きもせずダンジョン入り口に向け突進していった。
その光景を横目に走りながら壁を見上げる。
──忍びの「壁走り」ならいけるかも。
エステリーナらがいるのは丘の反対側でその途中の八合目辺りにシーラがいる。気分的には壁をよじ登りシーラの所に寄ってからエステリーナの場所に行けば一度で済むが、実際のところは走破距離は倍近く増える。いやその前に刀を振るうしか能の無い俺に壁は登れない。
……詮無いことを。
そんなことを考えながら第三園へ。
「この先は密林か」
恩恵がないからか大量の湿度が流れ込んできている。
「あちらか」
ここから1kmも離れていない場所大規模な戦闘が行われている。
そちらに向かおうと体の向きを変えたところに、
──山水様!
この声は。
──シーラか?
──はい! 私の方は今のところ順調です!
順調? 何が? それよりも、
──ザームは確保した。
──ではお父様が?
──……(なら急がないと)。
──? ところでどうしてリナと別行動をしているだ?
訳があるのは他から聞いているが「シーラの口」からは一切聞かされていない。
そもそも俺には「魔族討伐をしたいから」と言っていた。
なのに別れて行動しているのはなぜか? と尋ねている。
──そ、それは……少々訳がありまして。
──何故俺に相談しなかった? 俺が信頼に値しないと男だと?
──そ、そういうことでは!
──まあいい。言い訳は後でじっくりと問い詰める。
──は……い、申し訳ありません。
ちょっと脅しすぎたかな?
ヤースやみかんのお陰でシーラへの不満度は確実に減った。ただそれは外野からの言い訳であって本人からはまだ何の弁明も受けていない。そんな状態で俺が安易に妥協したら今後の夫婦生活に支障が出かねない。
なので釘をさす意味で「意味深げに言った」だけ。
因みに「じっくりと問い詰める」とは拷問の類とかではない。
そのシーラだが離れた場所にいるにも拘らず、妙な存在感をビシビシと発している。
まるで別の存在に進化したかのごとくに。
──あ、あの?
──なんだ?
──一つお願いがございます。
──どんな?
──それは……
先ずはやむを得ず離れてしまったことへの謝罪から始まり、今は急ぎやらねばならないことがあるのでこの場から離れられないと。後でどんな罰でも受けるので自分の代わりにエステリーナの所に向かって欲しいと懇願された。
──分かった。罰は十日間、俺の背中を流すこと。
風呂での話。
──え? それはむしろご褒美……はい!
いいのか軽々しく返事して? 後でリナと揉めるぞ。
と冗談はここまでにして、先ずは確かめとかないと。
──ルーナの中に奴はいるんだよな?
──は、はい!
やはりそうか。
──い、いえ正確には先程までですが……
?
──封印する前に……消えてしまいました。
消えた?
──ではどこに?
──私にも理由はサッパリ……そうか! 新たな依り代を得たのね! 山水様、一刻も早くエステリーナ様のところに!
──何をそんなに焦っているんだ?
──お父様から聞いていませんか?
「…………」
──宿敵の狙いは山水様ではなく『 』様のお命なのです!」
「な……なん……だと」
聞き取れなかったがシーラが言わんとすることは知れた。
そう雷明の狙いは俺ではなく「エステリーナ」だっのだと。
ここで抑え込んでいた負の感情が一気に膨れ上がり周囲に殺気をばら撒いてしまう。
と丁度その時、第二階位の悪魔の傍にもう一つ、同格と思しき気配の「悪魔」が現れた。
それに気付いたのはシーラだった。
──ま、まさかアレは……失敗した……? 不味い、あれはダメ! 旦那様、急ぎ……ヒ!!
その悪魔を見てしまい絶望感を覚えたらしく、そのせいで言葉を続けるのが困難に。しかも俺の殺気がシーラに届いてしまい悲鳴を上げさせてしまう。
俺が発する気圧のせいで地面には亀裂が生まれ、周囲にあるものがガタガタと音を立てて震えだし、崖にもヒビが生じ始めた。
そしてシーラの声も徐々に途切れ最後は聞こえなくなってしまう。
更にもう一つ、ダンジョンから離れた場所で予定外なことが起きた。
ある術者が負傷、一時的に気を失ってしまったこと。さらに山水の殺気を浴びたことにより、ある者に掛けた術が解けてしまった。
◇
そしてシーラが目撃したものだが、
「お? もう戻ったの?」
パイモンの正面に紫の光を纏った鎧を着た、清廉そうな青年が現れた。
「我を呼んだのは貴公か?」
青年が問う。
「そうだよ。楽しめたかな?」
「三人では物足りないがまあ我慢しよう。ところで貴公は?」
「アタシはパイモン。ルシファー様の忠実なる僕」
「ルシファーか。して何故我を呼び出した?」
「ルシファー様を呼び捨てって……まあいいか。もう少しの間、君に時間稼ぎをしてもらいたい」
「貴公が相手か?」
「違う」
「なら帰る」
「へ? い、いや空気読んで戦ってくれないと」
「何故貴公の指示に従わなければならぬ?」
「……君、面倒臭い性格だね」
「我を勝手に呼び出した上に戦いを中断させ、さらに指示に従えとは。大体、我が従うのはアモン様のみ。貴公に従う義理はない」
「あ──エンドロール間近に面倒くさい奴がきた!」
「それは誉め言葉か?」
「んなわけあるか! もういい! 『第九階位であり主天使の王であるパイモンが命ずる。第六十階位である【セーレ】は我の命に従え!』」
「グッ!」
強制力が働いたらしくパイモンに向き直り背筋を正した。
「は──良々。ではこれで遊んできて」
と一本の剣を渡そうとする。
「こ、断……わる」
「まだ抵抗するってか? 意外と頑固だね。あ、そうだ! 次の遊び相手だけど」
「?」
「とっても強いから」
「我……よりも?」
「ああ。我々よりも遥か高みにいる存在。至高を目指す君には良い経験になるんじゃないかな」
「し、仕方ない。今回は貴公に従う」
と剣を受け取った。
流石戦闘狂。チョロいぜ。
「その剣は特別製で簡単には折れない。だから思う存分楽しんでね」
「ふっ」
「はいはい。でそれは邪魔になるからアタシが預かっとくね」
と右手をセーレに向ける。すると彼が掴んでいた手甲を付けたままの肘から先しかない手がパイモンの手に移動する。
次にパイモン前に黒くゆがんだ鏡のような空間が現れるとそこに手を入れた。
……ここでこんなの見せたら全ての苦労が水の泡だわ〜
数秒程、腕を動かした後、自分の手だけを引き抜いた。
「さあ、思う存分戦って死んでおいで」
笑顔で見送るパイモン。
「死ぬ? 我がか?」
「そういうストーリーなんだ」
「すとーりー? もしや神か? なら詮無きことよ」
と納得したのか、あのお方に向け歩いていく。
「さて全てのお膳立ては整った! もう直ぐ極上な魂が喰えるし、その後は長期休暇! 今日はなんて良い日なんだ!」
笑顔で叫んでから横を向く。
そこには裸の状態で十字架に吊るされた、気を失っている金髪の女騎士の姿が。その首には一つのネックレスが掛けられており、先には大小一つずつの【純金の鍵】がぶら下げられていた。
その十字架の下にはエルフと思しき女が横たわっており、視線をその女に向ける。
「死とは無限ではなく一時のモノ。全ての御霊は主様の元で一つとなり永遠の時を生きる」
先程までとは打って変わり冷めた口調と表情でエルフの女に対して呟く。
そのまま視線を十字架に吊るされた女に向けるとこう言った。
「ただし神に見初められし者にそれは許されない」
◇
次・・かその次で第二終了!




