第61話 幕間(7)
本日、二話同時投稿。
第二章の幕間はこれで最後となります。
以降は「結果」で「経緯」を知る形となります。
「アレの情報は?」
巨人を見据えながら剣を抜く。
「名と容姿のみ]
我々の世界で魔族が顕現するには依り代が必要であり、その決まりは全ての魔族に例外なく適用される。
その中でも第一・第二階位の高位の魔族は顕現する際に依り代に使った人・動物・魔獣の身体を、己の魔力(こちらの世界での魔力とは原理が異なる魔力)を使い、その世界ごとの「理」を無視して「本来の姿」に変えてくる。
だが第三階位は能力が低いからか「理」の壁を乗り越えられないらしく、姿を変えるどころか身体も思うように操れない。
なので人形のように動く第三階位は存在を知らぬ者でも異様さが一目で分かる。
今あそこにいるのは第三階位。それは勇者様が残した手記に載っていたキュクロープス族の特徴である「目の数と大きさを除けば色白細身の人型男性」と一致しているので確かなはず。
「(コチラの)戦闘スタイルには変わりは?」
「ありません」
基本的には手に持っている斧による物理攻撃。もしかしたら魔法が使えるかもしれないが、第三階位程度の魔法なら鎧で防げる。
「ただ」
「ただ?」
「油断は禁物かと」
第二と第三の間には天と地ほどの差がある。それは身をもって知っている。だが、
「アレらは恐らく第二階位に近い存在なのでしょう」
でなければ姿は変えられない。
「心配するな」
「え?」
「あそこで踏ん反り返っているアレより明らかに劣っている」
「分かるのですか?」
「ああ、圧を全く感じない」
「はあ」
自分には「圧」がどんなモノかは分からない。内包魔力量なら調べらられるが分かるのは依り代となった肉体の魔力のみ。魔族の魔力はこの世界の魔力とは根本から異なっており調べられない。
と呑気な会話をしている間に目の前まで迫られていた。
「ではアレの気が変わる前に片付けてしまおう」
「分かりました」
「右側から一体ずつ順番に仕留める」
「はい。では足止めをしておきます」
「頼む」
そこで詠唱を開始。
「岩の壁!」
一秒も経たずに三体を囲むように壁が現れ閉じ込める。
今は取り敢えず十数秒間持ち堪えられる程度の造りで良いので詠唱を大幅に簡略させた。
残りの一体と接触。
巨大な斧がエステリーナ様の頭上に振り下ろされる。それを避ける素振りも見せずに巨人に迫る。
ドン!!
「え?」
……移動先に着くまで全く見えていなかった。
舞い上がる土煙。そして地面にめり込む斧の刃。その斧の柄を握った肘から先のみとなった両腕。
自分の腕が無いことに気付いた巨人は痛みは感じないようで消えたエステリーナ様を探し始める。
「ここだ」
声がした後方に身体の向きを変えようと動き出すが、
「遅い」
と視界に捉えられる前にジャンプ。横薙ぎし首を刎ねてしまった。
……す、凄い。身体強化も、(剣の)付与効果も使わず二振りで済ませた。
切られた巨人は赤い光の粒子に変わり拡散していく。そして粒子が消え去った後に残ったのは依り代となった人族の男の遺体が残った。
「うん、更に切れるようになったな」
術式が「刻印」されてある両刃の白い刀身を見て呟く。
あの剣は冒険者時代に彼女の父が鍛冶師ギルド長と付与術師ギルド長に頼み込んで作ってもらった、世界に一本しかない逸品であり使い慣れた愛剣。それの切れ味が上がったというならさらに腕を上げたと。
<山水のお陰>
……違う理由かな?
「次」
「あ、はい」
解放するため壁を消そうと詠唱を始めようとしたところで、
「いや、一気に解放してくれ」
オーダー変更。
「了解です」
一気に壁を消し去ると、何故か三体の巨人の視線が私に注がれる。
「どこを見ている? お前らの相手はここにいるぞ」
蚊帳の外? に置かれたエステリーナ様の声に三体が反応、全ての視線が彼女に向けられる。
「全く意味が分からない」
「?」
とためため息交じりに愚痴? を言うと姿を消す。
そして次に現れると、
「これならサリーでも楽勝だな」
と剣を一振りして汚れを落とす。
彼女の後ろでは斧の刃まで細切れにされた巨人が粒子に変わる。
それを見届けることなく体の向きを魔族がいる方へ。
「さてお遊びはお終いだ」
ここでやっと身体強化を発動。すると雰囲気が一気に変わる。
「シーラ」
「は、はい」
「先に行く」
返事を聞かずに姿を消した。
「え?」
間を置かずにパイモンがいる方向から閃光と衝撃音が伝わってくる。
……い、急いで向かわないと!
コンマ数秒で「浮遊魔法」を発動。身体を浮かせ戦場へ向かう。
「お前がパイモンか?」
爆心地? の中心で上段から振り下ろしたと思われる剣を左手で持ったスタッフで受け止めている状態で対峙していた。
……あのスタッフのせいで。
手も足も出なかった。
あの杖は千人の生き血を吸わせて育てた冥界の木を素材にしており、魔法の効果を高めるだけでなく物理防御も兼ね備えている。勿論、装備すれば呪われる。
「やっと会えたってのに乱暴な挨拶だな~♪」
困り顔でスタッフを一振りし剣を弾く。するとエステリーナ様も後方へ飛び退き距離を取った。
「やっと?」
「会いたかったんだ、君に」
今度は興味津々と言った様子でエステリーナ様を見ている。
「私に?」
「うん、合格」
「何が合格か知らないが念願が叶ってよかったな。なら思い残すことはもうないだろう?」
「ちょ、ちょ──と待って! 戦う前にちょ──とだけ話しない?」
「……とーく?」
「うん女子トーク♪」
「…………」
エステリーナ様の動きが止まる。
「了解ってことで良いかな? では剣を一旦納めてくれたまえ」
「いや信用できない」
「う──ん、ではこれでどお?」
と手に持っていたスタッフを私に向けて放り投げる。
「これでアタシは丸腰。君の剣を防ぐ手段は無くなった」
両手を上げておどけて見せる。
「……分かった」
「よしよし、冷静な判断ができる良い子だね」
うんうんと頷いている。
「で、そこの姫さんはどうする?」
【パイモンの杖】を魔法で浮かしそのまま【アイテムボックス】へ入れたところで私に話し掛けてくる。
「ど、どうする?」
「アタシがここに居る。その意味が分からないのかな~?」
「…………まさか」
「そのまさか。この繊細一隅のチャンスをみすみす逃すほど甘ちゃんなのかな?」
確かに今あの場所はガラ空きで私の行く手を阻むものは誰もいない。
「で、でもどうして?」
「これはアタシからの感謝の証」
「感謝?」
「エルフの姫の「協力」があったからこそ、この大事な話し合いの場をもてた。その礼ってことね」
協力との言葉にエステリーナ様がピクリと反応する。
恐らく私と悪魔の間で「取引き」があったと勘付いたに違いない。
「……裏切り?」
「それはない。悪魔は契約に忠実」
その契約の内容を私は知らない。知っているのは契約者と悪魔のみ。
「……分かりました」
「もうすぐ決着がついちゃうよ、急げ!」
……契約者の動向をチェックするのは当然か。だが何故ここまで協力的になったの? 実力を示せと言われて覚悟して挑んだのに!
裏がありそうに思えるが今は一番の障害である杖を手放しており、魔法呪文や呪術の効果も格段に落ちている。この状態なら私でも(勝てないが)対等に戦える。
「エステリーナ様、暫く外します」
「どこへ行く?」
「ルーナ様のところです。セシリアを寄越しますが、私が戻るまではご自重を」
パイモンの意図が読めない状態で討伐されたら後で後悔しかねない。
ファイアー系の魔法を打ち上げ上空で破裂させる。
これでセシリアが駆け付けてくれる。
彼女には事前に「もしもの場合は身を挺してでもエステリーナ様の身を守るように」と言いつけてある。
準備を終え詠唱を始めるとパイモンが待ってましたとばかりにエステリーナ様に話しかける。
「ではエルフの姫が戻るまでの間、天使であるわたくしとお話をしましょう、山水様の奥方♪」
ソッチか!
気付いて詠唱を中断したところ、パイモンが「何もしない」との意味で手のひらをこちらに向けて見せる。
それを見て判断に迷う。というのも最終目標は私も悪魔も同じであり、誰かがエステリーナ様を説得しなければならない。その役目は本来私が負う予定だったところパイモンが買って出てくれると言っている。それはそれでとてもありがたいのだがパイモンの立場は今でも「敵側」であり信用できない。意図しない方向に引っ掻き回される可能性もある。だからと言って私にパイモンを止める手段はないのも事実なのだが。
……今優先すべきはこっちじゃない。アレを手に入れるチャンスは今しかない。
手に入らなければ先はない。なので結局は詠唱を再開する。
「では」
転移魔法を発動。ルーナ様が封印されている大樹の前の湖の畔に移動した。
場面は山水君に戻ります。




