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第60話 幕間(6)

 

 どうやらより高い位置にある「内側のエリアの下」にトンネルを設けているようで、左側の崩れた壁から夜の暗闇が見えており、20m程先から左側の壁は全て崩壊、フィールドに自生している植物による浸食が起きていた。


 一歩踏み入れると大量の湿気と魔素を含んだ空気が身体に纏わりつく。

 既にこの場が「ダンジョンの一部」と化したこと、そして第三園が「誰もが嫌いな密林型」だと知ったアラナート人の五人は顔をしかめた。


「うきぃ──!」

「確かに鬱陶し──わ!」

「騒ぐな! 余計暑苦しくなるだろ!」


「みんな声を抑えて~」


「「「ごめんなさい」」」


 普段は大人しいキーナが珍しくイラついた声を上げるとリアンが同意の声を上げる。それをサンタナが怒ったところでマーサに注意された。


 ……彼女らなりの緊張を解す方法?


 人や獣相手なら隠密行動は欠かせないが今回の相手は第三階位。奴らが顕現してまでやって来る目的は我々。声の有る無しに拘らずに襲ってくるだろう。

 ただし、


 ……今は魔族よりも……そろそろ動くかしら?


「来るぞ」

「「「⁈」」」


 そう、ここはダンジョンの中。相手は魔族だけではない。


 ……勘? なら凄いよね。


 私達は今し方、魔獣のテリトリーの中に入ったばかり。直後、莫大な魔力を持つ私の存在に気付いた魔獣が多数おりコチラの様子を窺っていた。その様子を私は「探知魔法」で見ていたが、不思議なことにエステリーナ様も気付いていたらしい。


 ……探知魔法だけでなく旦那様のような「気配察知」も使えないのに接近に気付けたのはどういう理屈で?


「良く気付かれましたね」


 素直な感想を述べる。


「山水のお陰かな?」

「旦那様の?」

「フフフ」


 意味深げな笑みにて誤魔化された。


「ここは我らにお任せを!」


 私と同等の装備(服装)のセシリアがサポート役のエルフ族に指示を飛ばす。

 すると後方にいたエルフらが慣れた様子で素早く四人を囲む配置につくと、魔術士は詠唱を、弓士は指示された方向に弓を構える。


「正面は貰っても良いかな?」


 片手に持った剣先を正面に向けると、後方で指揮を執るセシリアに背を向けながら聞いてくる。


「いえエステリーナ様には然るべき時まで体力を温存して頂きたい」


「今の内に準備運動をしておきたいのだが」


 はい? 準備運動?

 やり取りを聞いていたが、戦士ではない私にはピンとこない。


「ではお任せします」

「悪いね」


 と言うとまるで散歩にでも出かけるかの雰囲気で一人で前へと進みゆく。


「姫様は周囲の警戒を」

「任されました」


 今回の私の相手は魔族であり魔獣ではない。

 その魔族も様子見しているのか今のところ姿は見当たらない。


 ……いやいた。


 この先に一体だけ妙な存在を発見。


 ……ん? どういうこと?


 見付けた「個体の魔力」に覚えがあった。

 まさかと思いつつ、覚えたての気配感知で再度覗くと……


「え?」


 そこにいたのは奇妙な服を着た小柄な()()()()


「う……噓でしょ」


 まさか()()()()()()と?


 思わず声を出してしまう。


 転移魔法があるとはいえルーナ様の近くで片を付けたい。


「ん? 何を始めるんだ?」


 顔を上げると歩みを止めたエステリーナ様がこちらを見ていた。


「え、エステリーナ様!」


「どうした? なにを焦っている?」


「だ、第二階位です! パイモンが現れました!」


 これは思い込みによる、この状況を想定していなかった自分のミス。この想定外に心が乱れてしまう。


「⁈」

「「「!」」」


 動揺丸出しの私の声に皆が反応したその時、パイモンとは離れた場所に数体の魔族が現れる。


「あ、アレは……第三階位」


 コチラは宣言通り。先ずは眷族の第三階位(魔族)を召喚、その魔族に仲間を呼ばせる。

 この魔族の出現により動揺が収まる。すると止まっていた思考が動きだした。


「シーラ!」


 呼ばれていたことに気付く。


「え? あ、はい」

「落ち着いて」

「はい。もう大丈夫です」

「で、私はどうすれば良い?」


 距離はまだ離れている。時間的猶予はある。


「先ずは目先の障害物の排除を」


 このエリアの魔獣はまだ弱い。圧倒的実力差を見せつければ警戒して距離をとるだろう。


「分かった」


 ……アレはあくまでも提案。無理なら切り捨てればよい。


 予想外な行動に不信感が増すが一旦悪魔から切り替える。

 エステリーナ様の姿が消えるのを見届けてからセシリアに目配せをする。


「魔法放て!」


 セシリアの合図にて各属性の攻撃系魔法が放たれ暗闇の中へ。僅かな間の後に様々な色をした爆発と衝撃波が伝わってくる。


「弓士は各々の判断で漏れた敵を討て!」


 弦を弾く音と風切音が続く。


「全ての目標、行動停止」

「了解です」

「セシリア」


 続けざま名を呼ぶ。


「お呼びで?」

「予定変更、この場でカタを付けます! 必要があれば呼ぶのでそこで指揮に専念」

「承知しました。任務を遂行します」

「お願いね」


 体の向きを戻すとエステリーナ様が消えた場所に剣を鞘に収めた状態でいた。


「今戻ったが」


 息一つ乱れていない。


「お疲れ様です。準備運動になりましたか?」

「ああ。で奴は?」

「今だ動かず」

「第三階位の方は?」

「現在100を超えたところです」

「ひゃ、百? どれだけいるんだ?」

「無限に近いかと」


 悪魔曰く「第三階位は依り代が用意できれば幾らでも召喚可能」とのこと。つまり代わりの魔物はいくらでもいるらしい。

 その悪魔が依り代とする肉体も数十年前から今に至るまで()()()()()()()()()()()()()

 おそらくだがこの世界では百万単位のストックを持っているのでは。


「アイツらで大丈夫か?」

「それは我々次第かと」

「先に倒せば解決?」

「はい」



『これは貴方達への試練。望みが手に入るかどうかは貴方達次第』



 あの悪魔はそう言った。『自分か契約者のどちらかが討伐されるまで召喚は止めない、いや終わらない』とも。その時が来るまでは手を緩めないぞと。


 理想は旦那様が本懐を遂げる前にルーナ様を解放しておくべきなのだが、それには先に(邪魔をしている)悪魔の討伐が必須。


 ……本懐と討伐。どちらも「決定事項」ではあるが、そこまでの過程をルーナ様は言われなかった。そして悪魔が言った「試練」に関しても。


 討伐に向かうか、それとも悪魔が動き出すまでここに残るか迷う。


 ……ここからが運命の分岐点?


 その逡巡の隙を突くようにパイモンの脇に巨大な何かが四つ出現する。


「あ、あれは確か……giantHades(ハデスの巨人)?」

「ハデスの巨人?」

「冥界の門を守るキュクロープス族で一つ目姿をした巨人達かと」


 体長5m程の人型の巨体が四体も。


「それも魔族か?」

「はい。第三階位の中でも上位の存在です」

「ソレも倒すべき相手に?」

「障害になるのは確実かと」

「なら行こう」

「で、でも」

「時間がもったいない」

「時間、ですか?」


 確かに時間経過とともに敵の数は増えていくだろう。このまま手をこまねいていれば状況は間違いなく不利になる。


「ここだけの話、私には幾つか夢があってね」

「夢? どんな?」

「パルミラル王国には新婚旅行の名目で来てるだろ? 一応」


「……あっ」


 確かにその理由で連れ出している。


「立場上、二人きりで出掛けたことが無くてね」

「…………」

「二、三日だけでいい。()()()()()出掛けたい」


「……はい」


 共に第一王女という生まれだが背負ってきたものが違う。そして我慢し諦めざるを得なかったモノの数も。


 ……そういえば勇者様の日記にもそんな記載が。


 勇者の手記に「勇者召喚の対象に何故ニホンジンが選ばれるのか?」との記載があり、そこには「とある仮説」が立てられていた。

 それによれば勇者として大成するには適性があり、その多くをニホンジンが備えているからと。

 確かにこの世界の住人も「その条件」を兼ね備えた者は少ない。私も含めた王族も見ず知らずの者の為に命を投げ出せるかと聞かれたらいいえと答えるだろう。


 旦那様は勇者ではない。だが同じ容姿であり同じ思想の持ち主。恐らく同郷と思われる。

 だからこそ「条件を満たしている」エステリーナ様に共感を覚え、そして惚れたのだ。


 ……いつかは同じ立場に立てるだろうか?


 諦めたくない。


「なのでサッサと終わらせたい」

「そう……ですか」

「シーラにも夢はあるのだろう?」


「…………はい」


 確かにある。無事、事を成せば私だけでなくエステリーナ様、そして「あのお方」の幸福にも繋がる夢が。

 だが幸せを得るにはエステリーナ様はパイモンを、私は……()()()()()()()()()()()()()()()

 天使と大精霊という雲の上の存在を。


「よし。では行こう」

「え?」

「ここで戦う訳にはいくまい?」


 確かに第二階位と戦えば周囲に及ぶ被害は甚大になる。


「そうですね。では場所を」

「あっ、その前に今の話はエルには黙っておくように」

「陛下に?」

「エルにはまだ早い、というか私の事は気にせずに自由に生きてもらいたいんだ」

「……はい」


 陛下の性格、そして姉妹と旦那様の関係、さらに何故陛下が旦那様と婚約したのかも含めて知らないことが多い。この辺りは早めに知っておきたい。


「では適当な場所に飛ぶので私に触れて下さい」

「……こうか?」


 空いている手を私の肩に置く。


「では」


 と詠唱を開始。パイモンがいる手前に転移する。


「アレか」

「はい」


 50m程先に巨人のシルエット。そしてその足元にある闇には、金色に輝く二つの目。


「アレが……彼女がパイモンです」

「あの光が? 暗くてよく分からないが」


 椅子? 腰掛けた状態でこちらを見ていた。


「確かに「気」が違う。コレが第二階位か。……不味いな」

「と言いながらもニヤけてらっしゃいますが?」

「強者と戦う機会は滅多に無いからね」


 強者? 強者ならそばに。


「……旦那様とは……まだ?」


「…………」


 いきなり不服そうな表情に。


 え──と、怒ってる?


「(サリーの相手はするのに私は相手にしてくれない)」


 不満そうにボソリと呟く。


 ……妬み? いやこれは嫉みよね?


「フフフ」

「な、何故笑う!」

「いえ、羨ましいな〜と」

「なっ⁈」


「私では叶わない夢ですね」


 戦士と魔術師、剣と魔法、近距離と遠距離。これらは言わば水と油。

 低レベルならまだしも、呼吸も間も異なる高レベル同士の本気の手合わせは一歩違えば死に繋がる。

 逆に似たジョブ同士なら得られるモノは多いだろう。


「それは……そうだな」

「はい。なので違う方法でのアプローチを考えています」

「あ、アプローチ?」

「はい」


 それが私の夢。その夢が叶えば旦那様のいる場所まで上がれる。


「エステリーナ様、そろそろ」

「え? あーそうだな」


 巨人四体が同時に動き出した。


 いきなりの大出血で血が止まらず右往左往中に「死ぬまでに「俺の⚪︎が魔力スポット/ch⚪︎ppiバージョン」のアニメが見たい」と呟いてみたら・・30分後に止まり命拾いした(-_-;)

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