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第59話 幕間(5)

投稿までに時間が掛かりました。前半はダンジョン関連の説明が入ってます。

その後はシーラ達のやり取りが続きます。


 この世界では【極点】と呼ばれる「魔素」が吹出す場所があると言われており、そこから大気へと放出された魔素は風に乗って広範囲に拡散されていく。

 この魔素という無色で無味無臭の物質は地上に生ける全ての生物には害はない。むしろ何かしらの恩恵を与えており、多分に(あずか)ってきた。


 だがこの魔素には無視できない厄介な性質があった。

 魔素の濃度が一定の値を超えると前触れもなく「変質」を始め魔獣という個体へと姿を変えてしまう。一度実体化すると例外なくより多くの魔素を求めて彷徨いだす。

 それが常時・連鎖的に発生しているのが極点を抱えている「ダンジョン」なのだが、そのダンジョンの地下空間も地上から(魔素を含んだ)空気が供給され続ければ魔獣に変化してしまう。


 今、シーラ率いる魔族討伐隊がいる隧道(トンネル)はダンジョンの地下に設けられた「抜け道」で、ダンジョン入り口の検問所に併設された専用入口から攻略が進んだエリアまでショートカット出来るようにと「人の手」によって掘られたものであり【帰らずのパラダイス】を除く全てのダンジョンに存在する。

(経緯は割愛するが工事及び維持管理はダンジョンを抱える国の「義務」となっている)


 ただ抜け道といっても「渋滞を回避するような道」のように気軽な気持ちで造られてはいない。

 ここは地上で最も魔素が濃い場所の地下であり、魔獣が常時徘徊している危険エリアの直下なのだ。当然だが魔獣が侵入出来ないように幾重にも安全対策を施す必要がある。


 その対策だが先ずは入口及び各エリアへの出口()は隙間無く、そして「人が一人ずつでないと通れない大きさで頑丈な素材と強固な構造」にし、風景と同化させるなどの偽装をし、魔素や魔獣の侵入を物理的に防いでいる。


 次に中だが人力か魔法での穴掘りとなるので「炭鉱のようなゴツゴツと不定形で岩肌丸出しで丸太などで補強された薄暗いトンネル」が多くなる。


 アラナート王国は魔鉱石を燃料とした魔道具が使えるのでまだマシな方だが、ダンジョンへの方針は他国と大差なく「人が行き来出来ればそれでいい」程度と変わらない。


 最後に「換気」だがダンジョン外にて魔素を極限まで除去した空気を入口付近から入れトンネル内を加圧、各階層への(出口)付近から排出させるような仕組みとなっている。

 これはトンネル内にあるかもしれない、気付けない程の僅かな隙間対策と出口付近の魔素濃度を下げるのが目的。


 魔素が無ければトンネル内は安全だし、出口付近での「事故」も減る。


(魔獣は臭いではなく魔素を嗅ぎ分ける(炎竜がエステリーナに夢中だったのは体内に溜め込んだ魔素のせい。逆に魔素が全く無い山水には声を掛けられるまで気付けなかった)


 だがここ【ルーナの箱庭】の抜け道は他とは根本的に違った。

 凹凸の無い地面。

 補強が一切見当たらない半円形の滑らかな壁と天井。

 道幅と天井高は馬車一概が余裕で通れる広さ。

 地下トンネル特有の「湿気」の対策もしてあるし、等間隔に「不思議な明かり」も灯っている。

 さらにトンネルが崩壊した場合に備え、各エリアの境に設置が義務付けられている「隔壁」にも装飾までもが施されていた。


 実はこの抜け道の工事は王国が総力を上げて、ではなく(回復系魔法以外は全属性使える)シーラがほぼ一人で行っている。

 さらに完成後の維持管理は精霊達に任せているためほぼノーコスト。いや扉の加工代のみ。


 そしてこのトンネルの(現在の)最終到達地点は第九エリアの特異点の手前と、一般的なダンジョンの中心(物理的な中心という意味ではない)に最も近い所まで進んでいる。


「言われている」と曖昧な言い方をせざるを得ないには理由がある。

 ダンジョンは【極点】がある中心部に向かうにつれ、あの魔王を討伐した「勇者一行」でさえ倒すのに難儀する凶悪な魔獣が増えてくる。そんなレベルの魔獣と戦いながら極点どころか【特異点】を目指すのは現状の戦力では不可能である。つまり「勇者の手記」を基にした想像でしか語れないのだ。


(特異点とは「ある地点から達人級の技量の持ち主であっても太刀打ち不可能なレベルの魔獣が存在するエリアのと境」を指す。このラインを超えたのは(公式には)勇者一行のみ)


 幸いにしてどの国家もダンジョンの制御は(とりあえずは)出来ているし(下手に手を出して傷口を増やすよりかは)現状維持の方が無難と考えており、環境を整えた後の攻略はアラナート王国も含め民間(ギルド)に任せて静観、おこぼれで我慢しているのが殆ど。


 そのトンネル内には魔素がほぼ存在しない。なので魔力は自然回復しないし体力の回復もかなり遅いといったデメリットがあるが、ポーションやサポートメンバーを待機させておけばrest point(レストポイント)といったセーフティーエリアにも使えるのでメリットは大きい。

(その辺りは狩りや攻略に参加する者次第だが)


 余談になるがダンジョン管理の一環で必須となる「送風」は、ダンジョンを囲っている川から魔素を取り除いた空気を水車等の力を利用し取り込んでいるところが殆どなのだが、これの維持管理が思った以上に苦労する。


 一方、アラナート王国(フィールドダンジョンの方)では魔道機を使った自動化に成功しており、リスクだけでなくコストの削減にも成功しているがそれは稀な例であり、大抵の国では収支のバランスは取れておらず悩みの種となっており、中には手を抜いたり放置する所も僅かだが存在している。


 これはダンジョンという「金喰い虫」を各国がどう考えているの違い。「いつかはどこかの国が極点の謎を解明してくれるだろう」という「日和見主義」が蔓延っているから。

 今は戦乱の世でありダンジョンにかまけていたらあっという間に滅ぼされてしまう、


 なので勇者らが去って千年経った現在でも多くのダンジョンでは攻略が進んでいない。


 いや全てが進んでいないかといわれたらそうではない。最近になり攻略が進んだケースもある。

 それはここパルミラル王国にあるルーナの箱庭とアラナート王国にある【天使の階段】の二つ。共に類稀なる才能を持った英雄により徐々にだが特異点に迫りつつあった。

 その英雄の名は魔術のスペシャリストである【シーラ・マーシャル・パルミラル】と剣技の申し子である【エステリーナ・ナート】の十代前半と半ばのうら若き乙女達。両名は積極的にダンジョンに潜り己の力を高めようと切磋琢磨していたのだ。


 だが彼女らでも特異点には辿り着けていない。いや厳密にはシーラは超えていたが魔法が全く通じず即退散、その後は近付いていない。

(だがごく最近、とある依頼を受け「ある獲物」を「ある場所」に送る為に特異点を超えている)





 トンネルを総勢二十名程で進む途中でエステリーナ様がこのダンジョンについてご質問された。


「パルミラル王国のダンジョンは十一()で構成されています」


 隊の先頭でエステリーナ様と肩を並べて進む途中であったが、丁度良いとこのダンジョンの説明を済ませておく。


「されている? あ──ルーナ様か」

「はい」


 どのダンジョンも特異点の先がどうなっているのか殆ど不明な状態である。ましてその先にあるであろう極点がある場所は現状では調べようがない。だがパルミラル王国のダンジョンでは極点がある場所は判明しているのだ。


 確定させるには勇者らと同じくその目で確かめるか、又は上空から目視で眺めるしかないが、どちらにも魔獣が徘徊しており近付くことは容易ではない。


 ではどうやって確定させたのか?

 それはルーナを始めとした精霊らのお陰。

 実体のない精霊なら魔獣に邪魔をされずに移動できる利点を使い、地形や魔獣など多くの情報を得ている。


(その)とは?」

「階層、またはエリアと同じ意味でパルミラル王国での呼び方です」

「そういえば【ルーナ様の箱庭】だったか」

「はい。その影響ですね。極点がある中心を第11園。その11園を囲むように東西南北に逸れぞれ10~7層、さらにその外側に1~6園となります」


「ウチとは地形が異なるんだ」

「はい。このダンジョンは螺旋状になっています」


 そこで一旦立ち止まり説明を始める。


 アラナート王国にダンジョンは二つ。

 一つはダンジョンに関わる者なら誰もが知っている大陸で唯一の地下迷宮型ダンジョン。

 コチラはエステリーナ様が打ち立てた「地下三階」が最高記録であり殆ど攻略は進んでいない。マップも「地下一階」はほぼ埋まったが、その先の「地下二階」はまだ三割程度埋まったタイミングで「地下三階」への階段を発見。様子見で足を踏み入れたが全く歯が立たずに撤退。そんなところに「王の訃報」が入ったためその場で冒険者業を諦めたとか。


 その後は冒険者ギルドに攻略を任せたそうだが地下型ダンジョンという構造上、魔素は抜けずに溜まる一方。結果魔獣の凶悪化は続くし浅い階の魔獣のレベルも上がってしまう。


 冒険者ランク序列第三位。つまり剣や魔法の総合力で世界で三番目の強者ということになる。そんの者でも敵わないのだから攻略は夢のまた夢。

 なので地下一階を除きダンジョンがどのような構造をしているのかは未だに謎のままなのだ。


 もう一方は旅の行程で寄られたという【試練の階段】と呼ばれるフィールドダンジョン。こちらの構造はある程度までは判明している。

 最上段となる第七層がある平坦なエリアから東側に向かって順に一段ずつ広がりながら下がり、麓とほぼ落差の無い位置が第一層とした「棚田型」である。因みに各エリアは10~50k㎡ほどの広さ。

 片やパルミラル王国(こちら)のダンジョンは「螺旋状の階段」であり、1園(1段)~10園(10段)の先の山頂に11園で上に行けば行くほど範囲は狭まる。


(今回の攻略には関係ないが両方とも山の山頂付近に「極点」がある点は同じ。ただ魔素が広がる「方向」が異なっているのは風の影響であり、魔素も空気と同じで風の影響は受ける)


 そしてもう一つ、自然のサイクルにて発生した水で形成された川や湖の上には魔獣は近寄らない。飛行する魔獣も極力避けるか川幅が狭い場所を選んで渡る。

 これは『水は魔素を吸収する性質があるらしくその影響で近寄らない』という説が数百年前に唱えられ今では常識となっている。

 実際に「恩恵」でその説は証明されているの疑いようの無い事実として認知されている。


 ただその理屈によれば、水中には大量の魔素が溜まっていることなるが、水中で魔獣が誕生した、又は魔獣がいたなどの話は聞いたことがない。

 しかし水が辿り着く先である海には巨大で凶暴な魔獣が数多く存在しており、陸上以上に人類の活動範囲を狭めている。

 仮に「極点」が海中にあり、それにより魔獣が誕生したなら「魔素と水の説」では説明が付かなくなる。


 これらのことから一部の者の間では「誰かの意思」が、そう「この世界の創造主の意向が働いているから?」との噂が上がっていた。

 その辺りをルーナ様にお聞きしたことがあったが…… 未だに答えは教えてくれない。なので現在でも謎のまま。


 持っていた魔法の杖(スタッフ)の先端で地面に、上と側面から見た簡単な見取り図を描いて説明を続けた。


「「「…………成程」」」


「真上から見ると亀の甲羅の模様に似ているな」


「入口となる南東の「第1層」は地表との落差は殆どありません。そこから時計回りに坂を上るように6へと上がり、特異点となる「第10層」と最終地である「第11園」は平坦な地となります」

「今回の目的地は?」

「第9園です」


 上面図で答える。


「第二階位はそこに?」

「はい」

「どのルート通るんだ?」

「1~4は弱い魔獣、5~8は中堅クラス、9園以降は私やエステリーナ様でないと歯が立たないエリア。本来なら数字順に攻略し徐々に慣れていきたいところですが、今回は時間が無いので地下の「抜け道」を使います」


 杖の先で線を引く。


「ここにもあるのか」


 パルミラル王国は「抜け道」に関しては義務は負っていない。

 そもそもパルミラル王国を「正式に」国として認めているのはアラナート王国だけであり、他の国は国として認めていない。なので国同士の話し合いの場には呼ばれない。


「はい」


 パルミラル王国のダンジョンは一般には開放していない。友好国の元王に対しても同様に非公開。


「ですが……」

「ですが?」

「途中で(トンネルが)破壊されておりまして」

「どの位置の?」

「3園と4園の間です。なので一旦地表に出ねばなりませんが、そこには第三階位の魔族が行く手を阻んでおります」

「では一旦そこで?」

「今回は急を要します。なので私とエステリーナ様、そしてセシリアの三名は()()()()先に進みます」

「隙? あの程度なら殲滅も容易いと思うが」


 エステリーナ様から見れば第三階位はその程度。

 私もそう思うが今回は「条件」が違う。そう上手くいくとは思えない。


「時間も限られているのでエステリーナ様には第二階位の討伐に向かって頂きます」



 ……旦那様が片を付ける前にこちらを片付けておきたい。そうすれば自由になれるし不確定要素も無視できる。



「分かった。出来るな、お前達」


「「「…………」」」


 同行している騎士団の四人は戸惑った表情でお互いを見ている。


「第三階位は大したことない」


 エステリーナ様が【帰らずのパラダイス】での経験を聞かせるが不安の払しょくには……ならなかった、というか話を聞いていた私も「はい?」と声を漏らすほどの衝撃を受けた。


 ……剣技に優れた者の感性とは(かく)くも違うものなの?


 明らかに異質なモノに気付いて躊躇わずに切れる感性。命のやり取りに最も近い前衛職ならではの研ぎ澄まされた反射神経と鍛え抜かれた身体。後衛職の魔法使いからしてみれば全てが異質な存在。

 ただ全てがそうとは限らない。そうエステリーナ様が特別なだけでここにいる四人は特別ではない。


「今回の魔族は少々事情が異なります」


 直接指摘するのも憚られたので話題を変える。


「どのように?」

「多分……武装しています」

「それは誠か?」

「多分としか。さらに連携してくるかもしれません」


「「「…………」」」


 初めての対魔族戦。しかも連携。つまり最低でも二体はいることになる。

 経験の浅い彼女らからしてみれば不安なのは理解できる。

 ただ実際に敵を目の当たりにしてから戸惑ってもらっても困る。

 なので今の内に話しておくことにした。


「ですが今の皆さんの実力なら問題ないかと」

「お前達が防いでくれないと我々が背後から襲われる。第二階位相手に挟撃されたら致命傷になりかねない」


「「「は、はい!」」」


 さすがに上官、いや尊敬するエステリーナを危険には曝せられない。元王でもある彼女は守るべき相手でもあり今回は護衛として付いてきている。そのことを思い出して覚悟を決めたのだろう。戸惑いながらも力強く返事をした。


「「「エルフ族(我々も)も精一杯援護します」」」


「「「は……はい」」」


 エルフは「人の価値観」で言えば比較的美男美女が多いとのことで、同行するエルフの男性の励ましを受けて顔を赤らめていた。


 そうこうしている間に各園の間に設けられた扉に到着。


「この先で一度フィールドに出ます。それぞれ準備をしてください」


 皆に目配せをする。


「全員抜剣」


 五振りの剣が一斉に抜かれる。

 エステリーナ様は自前の剣。護衛はパルミラル王国で用意した特別品。

 因みに護衛の鎧もエステリーナ様と同じくパルミラル王国で用意したもの。


「身体強化発動」


 号令で()()()同時にスキルを発動。


「疲労を感じたら遠慮せずに回復薬を受け取れ」

「「「はい!」」」


「お互いの位置を常に把握しフォローし合うんだ!」

「「「はい!」」」


「訓練通りにやれば勝てる!」

「「「はい‼︎」」」


「では最後に私から二つほどアドバイスを。高位の魔族に魔法が効かないのはご存じですよね?」

「ああ」


 エステリーナ様が代表して答える。


「ですが【聖属性】の魔法だけは効果があります」


 意外だったのか皆が顔を見合わせた後、最後に回復系魔法が得意なマーサへと視線が向けられる。

 一般的なイメージとして回復系魔法=聖属性と認識されているがそれは正しくもあり間違いでもあるが、今は講釈を垂れる時では無い。


「では聖属性の魔法を使えば倒せるのか?」


「いえ、使用禁止というか悪魔に聖属性は禁忌となります」


「「「?」」」


 結果だけを伝えれば当然混乱する。


「そうなのか?」


 そう、私も最近までそう思っていた。イメージ的には効くと。

 だが実際に戦ってみて痛感した。

 勇者様が残してくれた情報は正しかったのだと。なのでその情報を教える。


「魔族、いえ悪魔は堕とされたとはいえ()()()()()()使()()()()


 そう、地に堕とされただけであり能力は変わらない。そして主神への忠誠心も変わっていない。


「つまり?」


()()()()()()()()()使()に聖属性の魔法を使えば?」


「……まさかの逆効果?」


「はい。敵に塩を送ることになります」


「「「塩?」」」


「えーーと、敵に利するというか回復されてしまいます。それは今回皆さんに相手をしていただく第三階位であり魔法が効きやすい魔物も同様です。ただ今回は誤射を防ぐのと今後の為にも魔法は使わずひたすら切りまくって下さい」


「「「はい」」」


「それともう一つ。この先に現れる人は()()()()()()()()()()。そこを忘れずに心を保つこと」


「「「?」」」


 四人が首を傾げながらエステリーナ様に「答え」を求める眼差しを向ける。


「お前達には良い経験となる。今後の為にも割り切れるようになれ」


「「「…………」」」


 魔力や気配の質を感じ取れれば人ではなく異質な存在だと割り切れるがまだその域に達していないのだろう。

 逆に今の彼女らの歳の頃に第三階位を討伐したエステリーナ様はその頃には割り切れていたと。


 ……流石は()()()()()()()()()()()()()()()



「では行こう」

「はい。扉を開けます」



 外に出るとそこは密林だった。ねっとりと絡みつく湿度に一行の気分が沈んだ。



螺旋状・・バベルの塔みたいな感じで1から順に「登って」いく。


回復薬か。スキル扱いにしたから(カイエンの件も含めて)適当な言い訳考えないと。例えばMPポーションには疲労回復効果もあるとか。


次回も幕間の予定。

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