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マッチ売りの少女、前世の記憶を取り戻す  作者: 佐藤謙羊


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18 愛の太刀

 圧死のカウントダウンが終わろうとしていた最中(さなか)

 薄れゆく意識のなかで、わたしは見ていた。


 暗黒の空に輝く凶星のような、深紅の輝きを。

 その双星が、流炎のごとき軌跡を描き、翻る様を。


 流れ星と見紛うほどの剣閃が後を追う。


 ……キィィィィィィーーーーーンッ!!


 その音は、わたしがいままで聞いたどの剣撃の音よりも澄んでいた。

 一切の曇りがなく、天上からの音色さながらの美しさだった。


 雲の切れ間から日差しが差し込み、闘技場を明るく照らす。

 そこでようやく、ずっとシルエットだった姿が明るみに出る。


 ルシファー様は剣を振り切ったポーズで、天に立ち向かうように立っていた。

 陽光が刀身を滑り、全身が神々しく浮かびあがる。


 何者も止めることができないはずの、神の踏みつけ。

 しかしそれはいまや、ルシファー様の頭上スレスレで止まっていた。


 直後、その落盤のごとき足裏が弾け飛んだ。

 まるで、炸薬が破裂したような爆音とともに。


 しかもその一発だけでは終わらず、爆発はストーンゴーレムの足を這い上がっていく。

 スネ、ヒザ、太ももが爆散し、あっという間に片足が無くなってしまった。


 周囲には大勢の人がいるというのに、もう誰も言葉を発しない。

 目の前で起こっていることが、あまりにも信じられないからだ。


 ストーンゴーレムはとうとう、全身が爆発しはじめる。

 その光景はまるで、シューティングゲームのボスキャラがやられた時にソックリだった。

 さっきまで余裕をぶっこいていたパイロットのふたりも大慌て。


「なっ!? なんだ!? なんなのだ!? なぜ爆発する!? なぜだなぜだっ!? なぜだぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?!?」


「そ、そんなことより逃げましょう、ミカエル様! ブリケちゃんを抱いて飛び降りてください! でないとこのままじゃ……!!」


「この高さから飛び降りるだと!? そんなことをしたら足をくじいてしまうだろうが! ブリケ、貴様がクッションになれ!」


 言い争いの後、とうとう掴み合いをはじめるルシファー様とブリケちゃん。

 この闘技場でもっとも注目を集めている場所で、世にも醜い争いを繰り広げていた。

 その醜態はきっと、闘技場の観客どころか外にいる人たちまで丸見えだろう。

 みな立ち尽くし、神が去ったような表情でふたりの様子を見ていた。


 やがて、トドメの爆発がおこる。


 ……ズドォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 ストーンゴーレムの頭部が大爆発とともに吹っ飛んだ瞬間、


「「ふんぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」」


 ケンカしているネコのようなポーズと絶叫、全身黒コゲになったふたり組が、打ち上げ花火のごとく天に向かって飛んでいく。


 しかしそんなことはもうどうでもいい。

 ルシファー様の放った剣撃に、わたしはすっかり心を奪われていた。

 残ったわずかな力を振り絞り、言葉を紡ぐ。


「あ……あれは……まさか……」


 剣圧のみで岩をまっぷたつにする剣技、『斬岩剣』。

 それは、剣に生きる者が目指す境地である。


 体得できれば『剣聖』と呼ばれるようになるほどの技。

 しかし剣の道にとってそれは通過点に過ぎず、さらなる高みが存在する。


 その先にあるのは、『破岩剣(はがんけん)』……!

 岩をまっぷたつどころか、粉々に砕き、砂塵に帰す剣……!


 破壊力も斬岩剣とは比べものにならない。

 斬った対象がたとえ空にそびえる岩山であったとしても、数秒後には砂山と化すのだ。


 わたしがいくら修業を積んでも、到達しえなかった最終奥義。

 それを体得できるものは、『剣神』のみだという。


 剣の師匠が教えてくれた。


 無我、すなわち我欲を捨てた先にあるものは、『愛』。

 自分を捨てても誰かを守りたいという気持ちは、すべてを打ち砕くほどに強い。

 そのため破岩剣は、『愛の太刀』とも呼ばれているのだ。


 前世でのわたしは愛とは無縁だったので、体得できなかった……。

 それを、剣を習い始めてたったの1ヶ月でなし得ちゃうなんて……。


 きっとルシファー様には、想いを寄せる女性(ひと)がいるんだ……。

 それも、自らの命なんて惜しくないと思えるほどに、強く想う女性が……。


 きっとその女性が、ルシファー様に破岩剣を与えたに違いない……。


「いい……な……」


 わたしは他人のことを羨ましく思ったことはほとんどない。

 でも……いまだけは、その女性になれるのならどんなことでもするのに……と思った。


 しかし……その願いも……叶うことはない……だろう。

 だって……わたしは……もう……。

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