19 エピローグ
心地良い振動とともに、意識が戻ってくる。
「ん……?」
ゆっくりと目を開けると、天使がわたしをじっと見つめていた。
「あっ、気がついたんだね、セリージャさん! あぁ、よかったぁ!」
「ここは……天国……ですか……?」
「違うよ! 僕たち勝ったんだよ! 儀式をクリアしたんだ!」
やたらとフレンドリーな天使だなと思って目をこしこしして見たら、ルシファー様だった。
「そ……そうだったんですね……。でも……わたしは……」
「一時はどうなるかと思ったよ! でもセリージャさんがポーションをたくさん持ってたでしょ? それを飲ませたのが良かったみたい! ブラッドジャック先生が言うには、少しでも処置が遅かったら死んでただろう、って!」
それでわたしはようやく理解する。
「あ……ありがとうございます。ルシファー様はストーンゴーレムを倒したあと、わたしを介抱してくださったんですね」
「うん! でも正確には、まだその最中だよ!」
そういえばわたしは横たわっているのに、まわりの風景は動いていた。
顔をあげてみてようやく、自分の置かれている状況を理解する。
ルシファー様の腕に、わたしは包み込まれ、ルシファー様の胸板に、わたしは抱かれていた。
こ……こここっ、これは……!?
俗にいう、『お姫様抱っこ』……!?
「僕の家まで連れて帰ってあげるからね! いままでさんざん看病してもらったから、今度は僕が看病する番だよ! スープをフーフして食べさせてあげる! ……なんてねっ!」
天使のいたずらなウインクに、わたしはあっさりオーバーヒートした。
「フォッ!? フォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」
「わあっ!? 暴れちゃだめだよセリージャさんっ!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
打ち上げられたミカエル様とブリケちゃんは、闘技場から離れた森の中で発見されたらしい。
その森はモンスターがいない平和な森なのに、争ったような跡があったのと、処置が遅れたせいでふたりは入院。
普通、『神族の儀式』をやって入院するのは挑戦者くらいのもの。
審査する側の神族が入院するのは前例にないことで、しかも神族最弱といわれていたルシファー様にやられてしまった。
ミカエル様はディヴァイン派の恥さらしと呼ばれるようになり、出世の道は完全に断たれてしまったらしい。
そしてルシファー様はというと、晴れて神族の仲間入りを果たす。
神族として認められるとディヴァイン様から剣を授かるんだけど、それは最初のうちはただの鉄の剣でしかない。
剣がルシファー様を主と認め、ともに成長していくうちに独自の聖剣になっていくんだ。
さらにルシファー様は剣術にすっかりハマってしまったようで、儀式後も修業に励んでいた。
1ヶ月前はハエも殺せなかった剣撃は、もはや大人の神族顔負けの威力にまで成長。
でも斬岩剣や破岩剣を放てるようになるのは、まだまだ先のようだ。
「あの時は無我夢中だったから、偶然だったみたい!」
ルシファー様の部屋に呼び出されたわたしは、剣術練習用の人形相手に爽やかな汗をかく彼に、こう言われた。
「でも見てて、必ず強くなってみせるから! セリージャさんを護れるくらいに!」
「ルシファー様、わたしはマッチ売りですよ? マッチ売りを護る神族なんて、聞いたことがありません」
「でも今の僕は、セリージャさんから1本も取れないくらいに弱い! もっともっと、強くなりたいんだ!」
「目標があることは良いことだと思います。でもわたしから1本を取るのは、簡単なことじゃありませんよ?」
すると、ルシファー様の剣の舞いがピタリと止まる。
彼は剣を鞘におさめると、まっすぐな瞳でわたしを見据えた。
「それはわかってる。だから、もし僕がセリージャさんから1本を取ったら、その時には……」
「そのときには?」
それまでルシファー様はハツラツとした言葉遣いだったのに、聞き返した途端に急に歯切れが悪くなった。
何かを言い出そうとして言葉を引っ込め、違う言葉を選んでいるようだった。
「……僕が勝ったら……。僕の言うことを、なんでも聞いてほしい」
なんだ、そんなことか。
そんなことならお安い御用だ。
「はい、かまいませんよ。ルシファー様がわたしから1本を取ったら、なんでも言うことを聞いてさしあげます」
わたしはてっきり、好きなスープを大盛りで食べたい、とかそんな願いなんだろうと思っていた。
だから快く承諾したら、ルシファー様も子供のように喜んでくれるかと思っていた。
しかしルシファー様は、わたしがドキッとするほどの熱い眼差しで、こう言ったんだ。
「約束だよ」と。
そして剣の練習を再開する。
たったこれだけのやりとりをしただけなのに、剣の鋭さはさらに磨きがかかり、一撃で人形の心臓を貫いていた。
彼の真剣な横顔の意味を、わたしはまだ知らない。
まさかルシファー様が、こんなことを望んでいたなんて。
――僕はセリージャさんから1本を取って、セリージャさんの恋人になりたい……!
でもたぶん、セリージャさんは男の人が苦手だ。
僕が鬼ごっこで抱きついたときの反応で、なんとなくわかった。
だからこの願いを先に言ってしまったら、セリージャさんはそれを意識してしまい、弱くなってしまうだろう。
そんなセリージャさんに勝ったところで、なんの意味もない。
セリージャさんは僕のことをたぶん、弟のように大切に思ってくれている。
嬉しいけど、それじゃ嫌なんだ。
僕はセリージャさんに、生きる希望をもらった。
そして今まで誰も好きにならないほうが幸せだと思っていた僕に、人を好きになる喜びをくれたんだ。
だから僕はもっと、強くなる!
強くなって、セリージャさんにひとりの男として、認めてもらうんだ!
セリージャさんはきっと、ストーンゴーレムなんかよりずっとずっと手強い。
今の僕には、1本を取るどころか剣をカスらせることだって無理だろう。
でも不可能なんてないんだって、セリージャさんが教えてくれた。
僕はこの剣で、セリージャさんのハートを貫いてみせるっ!
そして……ミカエル様のことを、忘れさせてみせるっ!
……ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーッ!!
ひと区切りつきましたので、このお話はひとまずこれにて完結です!
好評なようでしたら、続きを書くかもしれません!
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