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マッチ売りの少女、前世の記憶を取り戻す  作者: 佐藤謙羊


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19/19

19 エピローグ

 心地良い振動とともに、意識が戻ってくる。


「ん……?」


 ゆっくりと目を開けると、天使がわたしをじっと見つめていた。


「あっ、気がついたんだね、セリージャさん! あぁ、よかったぁ!」


「ここは……天国……ですか……?」


「違うよ! 僕たち勝ったんだよ! 儀式をクリアしたんだ!」


 やたらとフレンドリーな天使だなと思って目をこしこしして見たら、ルシファー様だった。


「そ……そうだったんですね……。でも……わたしは……」


「一時はどうなるかと思ったよ! でもセリージャさんがポーションをたくさん持ってたでしょ? それを飲ませたのが良かったみたい! ブラッドジャック先生が言うには、少しでも処置が遅かったら死んでただろう、って!」


 それでわたしはようやく理解する。


「あ……ありがとうございます。ルシファー様はストーンゴーレムを倒したあと、わたしを介抱してくださったんですね」


「うん! でも正確には、まだその最中だよ!」


 そういえばわたしは横たわっているのに、まわりの風景は動いていた。

 顔をあげてみてようやく、自分の置かれている状況を理解する。


 ルシファー様の腕に、わたしは包み込まれ、ルシファー様の胸板に、わたしは抱かれていた。


 こ……こここっ、これは……!?

 俗にいう、『お姫様抱っこ』……!?


「僕の家まで連れて帰ってあげるからね! いままでさんざん看病してもらったから、今度は僕が看病する番だよ! スープをフーフして食べさせてあげる! ……なんてねっ!」


 天使のいたずらなウインクに、わたしはあっさりオーバーヒートした。


「フォッ!? フォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」


「わあっ!? 暴れちゃだめだよセリージャさんっ!?」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 打ち上げられたミカエル様とブリケちゃんは、闘技場から離れた森の中で発見されたらしい。

 その森はモンスターがいない平和な森なのに、争ったような跡があったのと、処置が遅れたせいでふたりは入院。


 普通、『神族の儀式』をやって入院するのは挑戦者くらいのもの。

 審査する側の神族が入院するのは前例にないことで、しかも神族最弱といわれていたルシファー様にやられてしまった。

 ミカエル様はディヴァイン派の恥さらしと呼ばれるようになり、出世の道は完全に断たれてしまったらしい。


 そしてルシファー様はというと、晴れて神族の仲間入りを果たす。

 神族として認められるとディヴァイン様から剣を授かるんだけど、それは最初のうちはただの鉄の剣でしかない。


 剣がルシファー様を主と認め、ともに成長していくうちに独自の聖剣になっていくんだ。


 さらにルシファー様は剣術にすっかりハマってしまったようで、儀式後も修業に励んでいた。

 1ヶ月前はハエも殺せなかった剣撃は、もはや大人の神族顔負けの威力にまで成長。

 でも斬岩剣や破岩剣を放てるようになるのは、まだまだ先のようだ。


「あの時は無我夢中だったから、偶然だったみたい!」


 ルシファー様の部屋に呼び出されたわたしは、剣術練習用の人形相手に爽やかな汗をかく彼に、こう言われた。


「でも見てて、必ず強くなってみせるから! セリージャさんを護れるくらいに!」


「ルシファー様、わたしはマッチ売りですよ? マッチ売りを護る神族なんて、聞いたことがありません」


「でも今の僕は、セリージャさんから1本も取れないくらいに弱い! もっともっと、強くなりたいんだ!」


「目標があることは良いことだと思います。でもわたしから1本を取るのは、簡単なことじゃありませんよ?」


 すると、ルシファー様の剣の舞いがピタリと止まる。

 彼は剣を鞘におさめると、まっすぐな瞳でわたしを見据えた。


「それはわかってる。だから、もし僕がセリージャさんから1本を取ったら、その時には……」


「そのときには?」


 それまでルシファー様はハツラツとした言葉遣いだったのに、聞き返した途端に急に歯切れが悪くなった。

 何かを言い出そうとして言葉を引っ込め、違う言葉を選んでいるようだった。


「……僕が勝ったら……。僕の言うことを、なんでも聞いてほしい」


 なんだ、そんなことか。

 そんなことならお安い御用だ。


「はい、かまいませんよ。ルシファー様がわたしから1本を取ったら、なんでも言うことを聞いてさしあげます」


 わたしはてっきり、好きなスープを大盛りで食べたい、とかそんな願いなんだろうと思っていた。

 だから快く承諾したら、ルシファー様も子供のように喜んでくれるかと思っていた。


 しかしルシファー様は、わたしがドキッとするほどの熱い眼差しで、こう言ったんだ。

 「約束だよ」と。


 そして剣の練習を再開する。

 たったこれだけのやりとりをしただけなのに、剣の鋭さはさらに磨きがかかり、一撃で人形の心臓を貫いていた。


 彼の真剣な横顔の意味を、わたしはまだ知らない。

 まさかルシファー様が、こんなことを望んでいたなんて。



 ――僕はセリージャさんから1本を取って、セリージャさんの恋人になりたい……!


 でもたぶん、セリージャさんは男の人が苦手だ。

 僕が鬼ごっこで抱きついたときの反応で、なんとなくわかった。


 だからこの願いを先に言ってしまったら、セリージャさんはそれを意識してしまい、弱くなってしまうだろう。

 そんなセリージャさんに勝ったところで、なんの意味もない。


 セリージャさんは僕のことをたぶん、弟のように大切に思ってくれている。

 嬉しいけど、それじゃ嫌なんだ。


 僕はセリージャさんに、生きる希望をもらった。

 そして今まで誰も好きにならないほうが幸せだと思っていた僕に、人を好きになる喜びをくれたんだ。


 だから僕はもっと、強くなる!

 強くなって、セリージャさんにひとりの男として、認めてもらうんだ!


 セリージャさんはきっと、ストーンゴーレムなんかよりずっとずっと手強い。

 今の僕には、1本を取るどころか剣をカスらせることだって無理だろう。


 でも不可能なんてないんだって、セリージャさんが教えてくれた。


 僕はこの剣で、セリージャさんのハートを貫いてみせるっ!

 そして……ミカエル様のことを、忘れさせてみせるっ!



 ……ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーッ!!

ひと区切りつきましたので、このお話はひとまずこれにて完結です!

好評なようでしたら、続きを書くかもしれません!


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