表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチ売りの少女、前世の記憶を取り戻す  作者: 佐藤謙羊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/19

14 無我の太刀

 わずか3週間ほどで、ルシファー様は超中学生級ともいえる身体能力に成長。

 何をするにしても、もってこいのコンディションとなった。


 それからわたしは本格的に、ルシファー様に剣術を教える。


「剣術において重要なのは、捨て太刀をしないことです」


「捨て太刀?」


「ようは、雑念を込めて剣を振ってはいけないということです。剣の道は一意専心。それは練習でも本番であっても例外はありません。剣を振るときは他の事に惑わされず、それだけに集中してください」


「わかった。でも、捨て太刀でも相手を倒せればいいんだよね?」


「そうですね。でも、捨て太刀は人形相手には通用しても、生身の相手に通用するほど甘くはありません。それに、専心することにより剣は本来以上の斬れ味となるのです」


 わたしは近くにあった岩に視線を移す。


「たとえば、この岩をまっぷたつにすることだってできます」


「ウソだ、金槌じゃあるまいし。いくらなんでも剣で岩を斬るなんてできっこないよ」


「では、やってみせましょう」


 わたしは腰に携えていた木刀を抜き、剣道の上段の構えで岩と向き合った。


「ええっ、僕は真剣でも無理だって言ったんだよ!?」


「……ちぇすとぉーーーーっ!!」


 掛け声とともに振り下ろした木刀を、ピタリッ! と岩のギリギリ真上で寸止めする。


「なんだ、やっぱり無理なんじゃないか。真剣だって折れちゃうのに、木刀なんかで斬れるわけが……」


 その言葉の最中、岩の中心にピシピシとヒビが入り、バカンと音をたてて二つに分かれる。

 ルシファー様は目玉が飛び出さんばかりに驚いていた。


「……えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!? なっ、なにいまの!? どうやったの!?」


「いまのは『斬岩剣(ざんがんけん)』といって、岩をも断つ剣術です。捨て太刀をせずに修業を重ねた成果とも言えます」


「す……すごい……! やっぱりセリージャさんはすごいや! わかった、これからは真剣に剣を振るよ! そうすれば、僕にもできるようになるかな!?」


「もちろんです。その気持ちを忘れずに修業を重ねていけば、20年もすれば岩を斬れるようになるでしょう」


「よぉーし、がんばるぞぉーっ!!」


 さらにやる気を出したルシファー様は、乾いた土地に水が染み込むようにメキメキと上達していく。

 『神族の儀式』では多少の例外はあるが、ほとんどの場合はゴブリン1匹と戦うことになる。


 大人ならまだしも、子供がゴブリンと戦うのは死闘に近い。

 しかしいまのルシファー様であれば、このまま修業していけばゴブリンの1匹くらいなら倒せるはずだ。


 当初は1パーセントくらいで見積もっていた勝率は、ここにきて80パーセント以上に跳ね上がっていた。

 しかしその日の夕方、ダンテ様より非情な知らせがもたらされる。


「……儀式についての通達がありました。日取りは二週間後、戦うモンスターはゴブリン20匹だそうです」


「に……20匹!? そんなムチャな!? 20匹なんて、プロの冒険者でもパーティを組まなきゃ勝てませんよ!?」


「わたくしも抗議はしましたが、覆りませんでした。本来儀式は12歳に行ないますが、ルシファーさんは14歳。その2年間ぶんの延滞料だと言われてしまいました」


「延滞料って、レンタルビデオじゃあるまいし……!」


「……れんたるびでお? なんですか、それ?」


「あ、いえ、なんでもありません! ところで、儀式には同行人をひとり連れていけるんですよね!? なら、わたしが立候補します!」


「それは構いませんが、同行人というのはあくまでサポート要員ですよ? 同行人がモンスターを倒しても儀式達成にはなりません」


 そのルールは百も承知だ。

 だってわたしはミカエル様の儀式のときに男装して、ミカエル様にはナイショで同行人をつとめたんだから。


 あの時も大変だったけど、今回は20匹ものゴブリンが相手だから、なんとしてもわたしがサポートしないと。


 ルシファー様は強くなったとはいえ、いちどに相手にできるゴブリンは1匹までだ。

 なんとか儀式の日までに、残りの19匹の注意をわたしに引きつける方法を考えなくちゃ。


 それに相手が集団となると、ルシファー様に集団戦闘の訓練をしなくちゃならない。

 でも儀式の日までは残り少ないから、剣術の修業のほうに専念してもらうことにした。


 その後のルシファー様は、もはやゴブリン1匹程度には遅れを取ることはなくなる。

 たった1ヶ月の修業としては、上出来すぎる仕上がりだった。


 そしてわたしはというと、指導のかたわらで秘密兵器を開発。

 ふたりして満を持して、『神族の儀式』当日を迎えることとなった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 『神族の儀式』は、街でいちばん大きい闘技場で行なわれることとなった。

 普通は、こぢんまりした道場みたいなところでやるのに……と思っていたんだけど、現地に着いてその理由を知る。


 闘技場の客席には大勢の観客たちが詰めかけていた。

 街の人たちはもちろん、名だたる王族や神族の姿がある。


 それどころか、客席の最上階にあるVIPルームには、ミカエル様とブリケちゃんの姿まであった。

 神族において最上位とされているミカエル様、その本妻であるブリケちゃんが、ただのいち神族でしかないルシファー様の儀式を見に来るなんて、常識では考えられないことだ。


 わたしは察する。

 きっとこの儀式は仕組まれたもので、公の場でルシファー様とわたしを抹殺するための罠なのだと。


 今回の対戦相手であるゴブリンは残忍な性格で有名で、楽しんで生き物を殺す。

 人間を負かそうものなら、さんざんいたぶってから殺すはずだ。

 おそらくディヴァイン派の神族たちは、わたしたちが情けなく命乞いをすることを期待している。

 拷問にかけられ泣き叫ぶ姿を大勢の前で晒しものにし、ディアブロ派を攻撃するキッカケとしたいのだろう。


 観客の神族たちはわたしたちを見て、さっそくヤジを飛ばしてきている。


「見ろよ、ルシファーが出てきたぞ! 風が吹けば寝込むような、最弱の神族が!」


「いままで逃げてたくせに、どのツラ下げて出てきやがったんだ!」


「それよりも同行者を見ろよ! ありゃ女じゃねぇか!?」


「女なんかを同行者にした神族は初めてだぜ! あんな女、なんの役に立つっていうんだ!?」


「しかも見ろよ、あの女、タルなんか背負ってるぞ!」


「きっとふたりして、おままごとと勘違いしてるんだぜ!」


「ぎゃははははは! いざ儀式となったら、情けなく逃げ惑う姿が拝めそうだな!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ