14 無我の太刀
わずか3週間ほどで、ルシファー様は超中学生級ともいえる身体能力に成長。
何をするにしても、もってこいのコンディションとなった。
それからわたしは本格的に、ルシファー様に剣術を教える。
「剣術において重要なのは、捨て太刀をしないことです」
「捨て太刀?」
「ようは、雑念を込めて剣を振ってはいけないということです。剣の道は一意専心。それは練習でも本番であっても例外はありません。剣を振るときは他の事に惑わされず、それだけに集中してください」
「わかった。でも、捨て太刀でも相手を倒せればいいんだよね?」
「そうですね。でも、捨て太刀は人形相手には通用しても、生身の相手に通用するほど甘くはありません。それに、専心することにより剣は本来以上の斬れ味となるのです」
わたしは近くにあった岩に視線を移す。
「たとえば、この岩をまっぷたつにすることだってできます」
「ウソだ、金槌じゃあるまいし。いくらなんでも剣で岩を斬るなんてできっこないよ」
「では、やってみせましょう」
わたしは腰に携えていた木刀を抜き、剣道の上段の構えで岩と向き合った。
「ええっ、僕は真剣でも無理だって言ったんだよ!?」
「……ちぇすとぉーーーーっ!!」
掛け声とともに振り下ろした木刀を、ピタリッ! と岩のギリギリ真上で寸止めする。
「なんだ、やっぱり無理なんじゃないか。真剣だって折れちゃうのに、木刀なんかで斬れるわけが……」
その言葉の最中、岩の中心にピシピシとヒビが入り、バカンと音をたてて二つに分かれる。
ルシファー様は目玉が飛び出さんばかりに驚いていた。
「……えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!? なっ、なにいまの!? どうやったの!?」
「いまのは『斬岩剣』といって、岩をも断つ剣術です。捨て太刀をせずに修業を重ねた成果とも言えます」
「す……すごい……! やっぱりセリージャさんはすごいや! わかった、これからは真剣に剣を振るよ! そうすれば、僕にもできるようになるかな!?」
「もちろんです。その気持ちを忘れずに修業を重ねていけば、20年もすれば岩を斬れるようになるでしょう」
「よぉーし、がんばるぞぉーっ!!」
さらにやる気を出したルシファー様は、乾いた土地に水が染み込むようにメキメキと上達していく。
『神族の儀式』では多少の例外はあるが、ほとんどの場合はゴブリン1匹と戦うことになる。
大人ならまだしも、子供がゴブリンと戦うのは死闘に近い。
しかしいまのルシファー様であれば、このまま修業していけばゴブリンの1匹くらいなら倒せるはずだ。
当初は1パーセントくらいで見積もっていた勝率は、ここにきて80パーセント以上に跳ね上がっていた。
しかしその日の夕方、ダンテ様より非情な知らせがもたらされる。
「……儀式についての通達がありました。日取りは二週間後、戦うモンスターはゴブリン20匹だそうです」
「に……20匹!? そんなムチャな!? 20匹なんて、プロの冒険者でもパーティを組まなきゃ勝てませんよ!?」
「わたくしも抗議はしましたが、覆りませんでした。本来儀式は12歳に行ないますが、ルシファーさんは14歳。その2年間ぶんの延滞料だと言われてしまいました」
「延滞料って、レンタルビデオじゃあるまいし……!」
「……れんたるびでお? なんですか、それ?」
「あ、いえ、なんでもありません! ところで、儀式には同行人をひとり連れていけるんですよね!? なら、わたしが立候補します!」
「それは構いませんが、同行人というのはあくまでサポート要員ですよ? 同行人がモンスターを倒しても儀式達成にはなりません」
そのルールは百も承知だ。
だってわたしはミカエル様の儀式のときに男装して、ミカエル様にはナイショで同行人をつとめたんだから。
あの時も大変だったけど、今回は20匹ものゴブリンが相手だから、なんとしてもわたしがサポートしないと。
ルシファー様は強くなったとはいえ、いちどに相手にできるゴブリンは1匹までだ。
なんとか儀式の日までに、残りの19匹の注意をわたしに引きつける方法を考えなくちゃ。
それに相手が集団となると、ルシファー様に集団戦闘の訓練をしなくちゃならない。
でも儀式の日までは残り少ないから、剣術の修業のほうに専念してもらうことにした。
その後のルシファー様は、もはやゴブリン1匹程度には遅れを取ることはなくなる。
たった1ヶ月の修業としては、上出来すぎる仕上がりだった。
そしてわたしはというと、指導のかたわらで秘密兵器を開発。
ふたりして満を持して、『神族の儀式』当日を迎えることとなった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『神族の儀式』は、街でいちばん大きい闘技場で行なわれることとなった。
普通は、こぢんまりした道場みたいなところでやるのに……と思っていたんだけど、現地に着いてその理由を知る。
闘技場の客席には大勢の観客たちが詰めかけていた。
街の人たちはもちろん、名だたる王族や神族の姿がある。
それどころか、客席の最上階にあるVIPルームには、ミカエル様とブリケちゃんの姿まであった。
神族において最上位とされているミカエル様、その本妻であるブリケちゃんが、ただのいち神族でしかないルシファー様の儀式を見に来るなんて、常識では考えられないことだ。
わたしは察する。
きっとこの儀式は仕組まれたもので、公の場でルシファー様とわたしを抹殺するための罠なのだと。
今回の対戦相手であるゴブリンは残忍な性格で有名で、楽しんで生き物を殺す。
人間を負かそうものなら、さんざんいたぶってから殺すはずだ。
おそらくディヴァイン派の神族たちは、わたしたちが情けなく命乞いをすることを期待している。
拷問にかけられ泣き叫ぶ姿を大勢の前で晒しものにし、ディアブロ派を攻撃するキッカケとしたいのだろう。
観客の神族たちはわたしたちを見て、さっそくヤジを飛ばしてきている。
「見ろよ、ルシファーが出てきたぞ! 風が吹けば寝込むような、最弱の神族が!」
「いままで逃げてたくせに、どのツラ下げて出てきやがったんだ!」
「それよりも同行者を見ろよ! ありゃ女じゃねぇか!?」
「女なんかを同行者にした神族は初めてだぜ! あんな女、なんの役に立つっていうんだ!?」
「しかも見ろよ、あの女、タルなんか背負ってるぞ!」
「きっとふたりして、おままごとと勘違いしてるんだぜ!」
「ぎゃははははは! いざ儀式となったら、情けなく逃げ惑う姿が拝めそうだな!」




