13 天使の特訓
身体の下地が整ったところで、基礎訓練の場所を室内から庭に移す。
さんさんと照るお日様の下、独自のトレーニングメニューでルシファー様を鍛えることにした。
「まずは鬼ごっこです。わたしを捕まえてみてください」
「えっ、鬼ごっこ? それって子供の遊びじゃないか。強くなるためのトレーニングをしたかったのに……」
「そう言うことは、わたしを捕まえてから言ってください」
「そんなの簡単だよ」ばびゅんっ!「ああっ、待って!」
わたしは庭を縦横無尽に逃げ回り、ルシファー様を翻弄する。
彼は数秒もたたずにへばってしまった。
「どうしたのですか、簡単ではなかったのですか?」
「くうっ、負けないぞぉ!」
へばっては走り、走ってはへばるを繰り返し、まずは基礎体力と呼吸器、循環器系の能力を向上させる。
そうやって1週間ほどで、運動がすごく苦手な中学生くらいの能力にはなった。
「今日からは筋トレも並行してやっていきましょう。まずは腕立て伏せです。最初はヒザを付いた状態でやってみてください」
ヒザを付いた状態での腕立て伏せは、普通の腕立て伏せに比べて負荷が軽い。
身体がまだできていないルシファー様にとっては、ちょうどいいトレーニングになるはずだ。
ルシファー様は、わたしのトレーニングメニューを投げ出すことなくこなしてくれた。
それどころか、辛いのに笑うようになった。
「はぁ、はぁ、はぁ……! こんなに楽しいのは、生まれて初めてだよ! 僕はずっと、窓の外から見える鳥の巣から、雛鳥が飛び立つのを応援してたんだ! そしていつか僕も、あんなふうに自分の力で飛び立ってみたいって思ってた! その夢がいま、叶ったんだ! 僕はいま、自分の力で飛んでるんだ! 僕は生きてる、生きてるぞぉーっ!!」
生きる喜びを叫びながら、腕立て伏せ40回という新記録を打ち立てたルシファー様。
身体から湯気がたつほどに、全身汗びっしょりになっている。
たまらず脱いだタンクトップ。
裸の上半身は、もはや痩せマッチョ待ったなしと呼んでも差し支えないくらいの身体つきになっていた。
わたしは舌を巻く。
この短期間で、ここまでの筋肉が付くだなんて。
神族は、普通の人間に比べて身体能力が高いけど、それは成長が速いというのも関与しているのかもしれない。
しかもいまのルシファー様は成長期だから、ダブルで効果が出ているようだ。
心なしか背も伸びたみたいで、顔つきも精悍になりつつある。
ブロッコリーには男性ホルモンであるテストステロンが豊富で、それを摂取しているからだろう。
わたしにとってのルシファー様は、いままでは『親戚の子供』みたいだった。
でもここにきて急に『男子』っぽくなったような気がする。
なんてことを考えた途端、わたしの『トレーナーモード』の仮面は剥がれてしまう。
タオルで汗を拭くルシファー様に微笑まれただけで、カッと身体が熱くなってしまい、それ以上は直視できなくなってしまった。
「急に後ろ向いたりして、どうしたのセリージャさん?」
「い、いえ、なんでもありません。それよりも次は鬼ごっこですよ」
「よぉーし、今日こそは捕まえてやるぞっ!」
ばびゅ……ガシィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
「やった! 捕まえた!」
「どっ、どどっ、どうして……!?」
「ずっと毎日やってたからね。セリージャさんのフェイントも、だいぶ見抜けるようになったんだよ。それに、今の逃げ方はセリージャさんにしては動きが単純だったから」
半裸の美少年は爽やかに笑いながら、わたしをギュッと抱きしめてきた。
「あはは、もう離さないよ、セリージャさん!」
それだけで、わたしの心のダムはあっさりと決壊してしまう。
「フォッ、フォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」
「わあっ!? どうしちゃったのセリージャさんっ!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
なんじゃ……? おぬしが直々にワシのところに来るとは珍しいな。
ほう、ルシファーが儀式に挑戦するというのか。
なに……!? ルシファーの元には、あのセリージャがいるだと!?
お前も知っておると思うが、あのセリージャは死神と寄生虫が合わさったような女なのだ。
権力者に取りついては、生き血を吸うように富を我が物にしようとするんじゃ。
かつてミカエル様にも災いをもたらしていたのだが、ブリケ様の手によって悪業が暴かれたのは有名な話じゃな。
しかし、またとない組み合わせではないか……!
ルシファーといえば、ディアブロの派にとっての泣き所……!
それにセリージャといえば、我ら神族、いいや人類にとっての敵……!
その2匹に屈辱的な死を与えてやれば……ワシの出世は間違いない……!
よぉし、ここはひとつ、特別な『忖度』をしてやるとするかのう……!
ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ……!




