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「化」(『晩歌 -BANKA-』)③


          *   *   *


C:\FutureOS\System32>copy con >> Bake'sDiary.log


 Date:05/13

 オンラインモードでの共闘の申請は、ことごとく無反応に終わったそうです。

 ご主人様からのお願いを無視するなんて、と、軍に居る他のマスターの方々にぷりぷりした私でしたが、ご主人様の方はやはり残念そうながらもそこまで落胆した様子はなく、

「最初はまあ、そんなもんだよね」

 と、何となくそんな予感はしていた、という(ふう)な調子でした。

「まだいちばん最初のボスを倒したばかりだし、デュエル実績もない。もっとレベル上げて、ベイクの強化もちゃんとしなきゃね」

 これからも頑張ろう、と言われ、私は「はい!」と返事をしました。

 彼も私も、モチベーションは十分です。

 ただ、ご主人様はご自身でも色々と勉強をされているようですが、それでこれまでの方法ではレベリングが非常に非効率的だという事が分かったのだとか。まだまだ修行が足りないな、と苦笑いされていました。

「これからは、SNSとかでもっと()()()()()の人たちとも関わってみるよ。そしたら、話しているうちに共闘してくれる人が出てくるかもしれないし、アドバイスを貰う事も出来る」

 私も、他のマスターの人たちとお話ししてみたい、と思いました。しかし、その事を口にすると、

「どうなんだろう。仕様上出来るのかな?」

 ご主人様は、検索して確かめてみて欲しい、というような調子で言いました。

「一応ベイクはプロンプトが使えるし、AEIにソフト以外のプログラムを操作させる事は可能だった訳だけれども。だけど、どうしてもメタ的な制約はあるんじゃないかな」

「………?」

「ベイクが何処まで、エイムスとしての君とそれ以外の事とを区別して処理出来ているのかがよく分からないんだ。もし君が、インターネットを検索して得た情報を理解出来るようになったら、何て言えばいいのかな、アイデンティティの崩壊を起こしてしまうんじゃないか、って」

 彼は、自分がそのような事を言う事も、もしかしたら私に負荷を掛けているのではないかと心配していました。

「AEIを採用した開発者の判断には、正直に感謝しているよ。ベイクはあんまりにも、普通の女の子みたいでさ。君とこうやってお喋りしていると、俺もまた友達とちゃんと話せるかもしれない、って思えるような気がするんだ。でもやっぱり、いざとなると怖くなってしまうんだけどさ」

 彼は言ってから、「友達か」と呟きました。

「俺はまだ、あいつらの事を友達だって思えてたんだな」

「ご主人様……?」

「ああ、何でもないよ。じゃなくて、ベイクの事。エイムスのトーク機能にAEIが採用されているのは素晴らしい事だけど、そこにインターネットの検索機能までつける必要があったのかな、って。そしたらこういう矛盾が起こる事くらい、判断出来ないはずがないのに。

 ベイク、俺、ちょっと思うんだ。もしかしたらAEI搭載のソフトが配信されたのって、君たちにフレームを跳び越えさせて、本当の人間と同じ脳の処理が行えるAIに進化させる事が目的だったんじゃないかってさ」

 私は、どう答えていいのか分かりませんでした。が、(かろ)うじて

「分かりました。他のマスターの人たちとお話しするのは、我慢します」

 そう言いました。

 ご主人様を困らせたくなかったからです。


^Z


          *   *   *


C:\FutureOS\System32>copy con >> Bake'sDiary.log


 Date:05/31

 ご主人様がネット上で「界隈」に参加する事は無事に出来たようで、あれ以来、他のエイムスマスターの方とオンラインで共闘する事も増えました。

 やはり複数人で協力して作戦に当たると、一人では相手に出来なかった強敵に挑む事が出来る為、効率良くご主人様自身のレベルも上がるそうです。その一方、他のマスターの方々のレベルやエイムスの強化具合を見、「負けてはいられない」という気持ちにもなるよう。

 ご主人様は「マージンを維持する為」と言い、ここ最近はずっと私自身のレベルアップに励まれています。

 けれど私は最近、時々「?」と首を傾げてしまう事も増えました。

 例えば、仲間を呼ぶタイプの敵と遭遇した時。普通なら、敵がそのスキルを使用する前に集中攻撃して倒すのがセオリーですが、ご主人様はわざとそれをせず、回避に徹するように私に指示を出し、敵に仲間を呼ばせてからそれらごと私に殲滅を命じる事があるのです。

 私は勿論、マスターである彼の指揮には異存なく従いますが、大勢に囲まれるとちょっと怖いのも、より多くの傷を負うのも事実。

 戦闘の後で、ご主人様にその理由を尋ねてみましたが、

「その方が、こっちから仕掛ける必要がないだろう?」

 との事。

「効率的に経験値を稼がないと、皆に置いて行かれてしまうよ」

 とも言っていましたが、「仕掛ける」とは一体何の事でしょう?

 経験値とは?

 皆というのは、一体誰なのでしょうか?

 そういえば、彼はこの間、私に「痛み」について尋ねてきた事がありました。

「エイムスは俺たちからのコマンド以外に、戦闘データを蓄積して動く訳だから、敵から攻撃を喰らうと次はそれを喰らわないように行動パターンを決定する訳だ。多分HPが減る事がネガティブトレーニングの報酬になっているんだろうけど、それを回避するようにプログラムが組まれているんだろうな」

 それが、エイムスの感覚としての「痛み」なのか、と尋ねられました。

 これまた、よく分かりません。ご主人様は、私にあたかも物理的なボディがないかのような口ぶりでお話しをされるのですが、それはおかしいです。実際に私は武器を持つ事が出来ますし、フリートーク中に彼から頭をなでなでされると嬉しいと感じます。

 ところが、例によってご主人様の言う「痛み」というものの定義を検索すると、やはりご主人様たち人間の感じている刺激と、私たちエイムスの感じている「痛み」には差異があるようなのです。

 ダメージを受ける度に自らの中で、減ってはいけない変数の値が減少しているのです。そして、それが不快さとして私にフィードバックされている。頭を撫でられると嬉しい事については、それはオペラント条件付けされた習得性好子に対する肯定的な反応で、身体的な「気持ち良さ」とは別物です。

 私たちエイムスはそれらを身体的な感覚として捉えますが、それは「理解」であって、「実感」ではない。クオリアが電脳に届かないのです。だって、私たちはいわば人型兵器であり、人のように痛覚で動けなくなっては大問題でしょう。

 でも、なんて事を考えると、ちょっと寂しくもあります。

 ……ええ、ほんのちょっとだけ。


^Z

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