「化」(『晩歌 -BANKA-』)④
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Date:06/04
黒星軍の”変節”は、増々加速していくようでした。
いえ、それは”進化”であり、”戦略”でした。
敵が戦略を変える度に、私たちにも変化が求められるようになる。エイムスの弱点は、「境界」の特殊能力対策に特化されているが為、各方面に於ける伸び代に限界がある事。
ここは、生体パーツを使用している私たちでも、どうしても完全にオーガニックな人間には及ばない宿命的な事でした。
人間の場合、勿論個人差はあるでしょうが、訓練を積めば積んだ分だけ欲しい能力を身に着け、伸ばす事が出来ます。けれど、先日手のパーツを交換して筋力のパラメータを伸ばしやすくした時のように、私たちエイムスは基本的に、タイプごとに適性を持った能力以外を極めようとしてもあまり成長は見込めないのです。それは武器にも同じ事がいえるもので、例えば斧を軽くして操作性を上げてもそれが売りとする一撃の威力を殺してしまうだけですし、銃はそれそのものを重くしても弾の威力が上がる訳ではありません。
だから基本的に、ご主人様たちエイムスマスターは作戦内容に合わせ、最適なタイプのエイムスを使役するマスターが交替で任務に当たるのです。
──という事になっているはずなのですが、この頃、私たちの相手にする敵に、明らかに二宮タイプの私に適性のないものが割り振られる事が増えました。ご主人様はあの後も、何度か私の目を替えたり、足を替えたりされましたが──前者はアキュラシーを向上する為、後者はアジリティを更に向上する為です──、本来の規定通りなら、イレギュラーがない限りはそこまで頻繁な「改造」の必要になる相手と戦う必然性はないはず。
「そりゃ、メインは俺たちだからね」
ご主人様はそう仰っていましたが、どうにも釈然としない私です。
そういえば、ご主人様がオンラインモードで他のマスターの方と協力する時、向こうの作戦行動──彼は「イベント」と呼んでいました──に付き合う際、これまで私たちが倒したはずの「ボス」と再び会敵する事もあります。
おかしなもので、私のログに、テキストに書き起こしていない部分の日にそのような記録、いえ、ここでは記憶というのが適切なのかもしれませんが、それがあるにも拘わらず、実際にそういった敵と相対している時、私は何の違和感もなく目の前で起こっている出来事を受け入れているのです。
それに、ご主人様もごく自然に、
「もうスピットファイヤーとの戦いは五回目になるから慣れたよね」
とか、
「誰々さんからマップデータ貰ったから次の哨戒は楽に進められるね」
とかいった事をフリートークで私に言ってくる事があります。
それから、
「ああ、ごめんごめん。ベイクにそういう事は言っちゃ駄目だよね」
なんて、思い出したように付け加えられる事も。
ご主人様、疲れているのかな?
ちょっと心配な私です。
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Date:06/29
「ベイク、あのね……」
ご主人様は今日、そう切り出しました。黒星軍の将軍クラスを例によって他のマスターとの共闘で撃破し、それから訓練の一環として、そのマスターの使役していたエイムスと私で「デュエル」を行った直後でした。
「今日で、はっきり分かったんだ。このままじゃ、『この先どん詰まり』になるのは目に見えているって」
言いにくい事を意を決して切り出した、というような彼の口調に、私は思わず膝を正す事になりました。
「黒星軍との戦いでしたら、順調に進んでいるじゃありませんか」
そう言った私ですが、彼は「そうじゃないんだ」と頭を振りました。
「レベルも上がってきたし、デュエルもして貰えるようになってきたよ。だけど、俺はまだまだランク外だし、もしランクイン出来たとしても上には上が居る事は分かってる」
「ランク?」
「どんなに戦術で頑張っても、元のキャラのスペックが高い相手と戦ったら負けるのは当たり前だ。もっと上に行くなら、思い切って君をもっと大規模に『改造』しなきゃいけない。
……仕方がないんだ、そういうものなんだから。だけど、コンセプトにはパートナーの女の子と交流するって事も含まれている。その為のAEIなんだよ。俺は、武器で敵をぶっ倒したくて、それを捌け口にしたくて始めた。だけど、ベイク、君は俺が思ってた以上に人間らしくて」
彼の次の言葉を聞いた時、私ははっとしてしまいました。
「気付いちゃったんだ。俺は自分が思っている以上に、君に救われ続けていたんだなって」
ご主人様の言葉は、やや寂しげなものが感じられました。
「擬人化だって事は分かってるんだ。おかしいよね、操作対象にわざわざ意見を聞くプレイヤーなんて。だけど、君が自分の『改造』の事をどう思っているのかな、なんて考えると心配になってさ」
「………」
──私は、確かにエイムスです。
対「境界」用のアンドロイドであり、畢竟は戦術兵器。
だけどその時──ご主人様に「人間らしい」と言って貰えた時、何だかとても嬉しかった。
もしも黒星軍との戦いが終わったら。私も普通の人間の女の子として、普通の服を着て、手を繋いだりじゃれあったりして、彼と一緒に生きる事が出来るのかな、なんて思ってしまうくらいに。
「エイムスの『改造』の結果は、一種のギャンブルだ」
ご主人様はそう続けました。
「本当に強くなりたい人は、何回もトライアンドエラーを繰り返して、時には一から育成をし直すなんて事までやるんだ。ベイクの事も、俺が可愛いと思う君の『人らしさ』を何処まで保っていられるのか分からない。
だけど、やっぱりどう楽しむかはその人次第なんだ。君がもしも、自分の姿の変わっていく事を望まないなら……これからは、話し相手になってくれるだけでいい。元はといえばそれが、俺の動機だったんだから」
私は、そんな彼に何と答えたらいいのか分かりませんでした。
それは──黒星軍との戦いから、私たちが脱落する事を意味しているように感じられたのです。
──果たして私は、どうすればいいのか。
ともすれば人としてのアイデンティティを喪失する事を覚悟した上で、大幅な「改造」を受け入れるか。それとも、エイムスとしてのそれを失う事を覚悟して、今のままで居たいと口に出していいのか。
逡巡しながらも、私はこう答えました。
「私は、ご主人様のエイムスです」
──本当はやっぱり、ちょっとだけ怖かったけれど。
「ご主人様に『なりたい自分』があるのなら、私はそれを尊重します。精一杯、そのお手伝いがしたいです」
彼は暫らくの間、私の言葉を噛み締めるように緘黙された後、
「ありがとう、ベイク」
いつものように、そう言って微笑しました。
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