「化」(『晩歌 -BANKA-』)⑤
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Date:07/01
ご主人様の施してくれた「改造」の結果、私の耳は猫のような三角になり、お尻にも尻尾が生えました。前者は現在日本国防軍を悩ませている射撃特化型の敵「スリンガー」に対応し、遠距離でも初動の音を聞き逃さないようにする為、後者は三次元座標でZ軸方向への移動に──即ち高所での機動性を上げる為、重心のバランス調整の精度向上を図ったオプションだそうです。
勿論、それらの能力向上を行う為にどのような外見の変化が求められるか、という事を、私もご主人様もあらかじめ把握していた訳ではありません。だから、ご主人様はこの結果に、
「大成功だ!」
と快哉を叫ばれました。
「可愛いじゃん。俺は好きだよ、そういうの」
……やっぱりちょっと、照れちゃいます。
彼が気に入ってくれたというなら、これもいいのかも。
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Date:07/04
更に何度かの「改造」を経て、今度は両手首のパーツの切り替えが可能になりました。外見的には、丁度肉球を模した大きめの手袋を嵌めたような形です。元の手首を折り畳むと、自動的に展開されるようになっています。
二足歩行から、その「前足」を使用した四足歩行に切り替える事で移動速度の向上を図ると共に、爪は強力な武器にもなります。
例の特化された聴覚で遠距離からの銃声を拾うや、すぐに手首をコンバートして前足へと変化させ、そのまま敵に肉薄、切り裂く事が可能です。勿論、そこまで接近するよりも、M240Bの射程に入ったらその使用に適した大型の手に戻し、直ちに狙撃を行っても構いません。
……やっぱり、増々「人」っぽさはなくなってしまったよう。
けれど、ご主人様はこういうのがお好きなんですよね。
彼に可愛いと褒めて貰えるのでしたら、私もまんざらでもありません。
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Date:07/09
五日間のうちに、ご主人様はそれまでSNSで繋がっていた「界隈」の方々と繰り返しデュエルを行い、その全てに勝利出来る程になっていました。送られて来た「チャット」では、皆ご主人様が今までそんなに強かったか、という事に感嘆しているような調子でした。
彼も、私に「改造」を行った事を本当に良かったと思ってくれている様子。
けれど、私には気になる事もあります。
私はコマンドを与えられればその通りに動きますが、段々ご主人様からのそれが容赦のないものになっているような気がするのです。デュエルはあくまでも対人戦形式での「訓練」のはずですが、デスマッチで行う場合、どちらかのエイムスが破壊されるまで戦闘は行われます。
私はここ五日間で、優に三十体を超えるエイムスを破壊しました。
黒星軍との戦いが激化し、関東からの物資の供給も滞る中、他のマスターのエイムスをそこまで壊してしまっては、後で困る事になるのはご主人様たちなのではないでしょうか。
しかももっと不思議なのは、私の破壊したエイムスのマスターたちは、そのデュエルの結果を悔しがりこそしても、怒らない事です。それどころか、またやり直しが利き、ご主人様との再戦を仄めかすような事を言ったり……
それに、私自身の戦い方も段々と野性的になりつつあります。
ここ二日間、黒星軍を相手にして戦った時も、銃を撃ったのは数える程度でしかなく、手首を切り替える間もなくパットハンドを振るって敵を切り裂いている事の方が多くなっていました。
自分で、自分が怖くなってしまいそうでもあります。ご主人様としては、この事について
「可愛くて強いのはいい事じゃん」
と言います。
「俺はこういうのが見たかったんだよね」
とも。
私はご主人様の為なら、そして自由と平和を取り戻す為なら、持てる能力は全て使って戦います。敵との戦いでも、デュエルでも、躊躇なく相手に武器を振るうつもりです。
そう思ってはいるのですが──。
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Date:07/14
更に一週間が経過し、ご主人様はとうとう「ランク入り」を果たされました。
ご主人様がエイムスマスターとなってからの期間を鑑みると、これは異例の速さだそうです。
彼が「自分の得意な事が見つかった」と言っていたのは、こういう事だったみたいです。
そんな中、彼からフリートークでこんな事を切り出されました。
「ベイク。俺さ、また学校に行ってみようと思うんだよね」
私はその言葉を咀嚼するのに、少々時間を要しました。
「学校に、俺より前から『境界遊撃隊』をやっていた奴が居るんだ。俺、そいつのアカウント知っててさ……これまで、バレたくなかったから話し掛けなかったんだけどね。ランクインしたから、思い切って絡んでみたんだ。そしたら、思っていた以上にちゃんと話せて」
そう話すご主人様は、本当に嬉しそうでした。
「そいつから、また学校に来てみないか、って誘われたんだ。俺、その時、もしかしたらまたクラスの奴らとやり直せるかもしれないって思ってさ。勿論、そんなすぐには上手く行かないと思う。けど、俺にもちゃんと味方が居てくれるんだって分かったら、そこをリスタート地点にしてみてもいいかなって」
──何だか、おかしいです。
ご主人様は職業軍人になった時点で、とっくに士官学校を卒業されているはず。
だけど、そう思った時、私は有り得たかもしれない「もしも」の世界の事を考えてしまいました。
もしも「境界」が開いておらず、黒星軍が現れていなかったら。そしたら彼も、それまでの十代の若者がそうであったように、普通の学校に通って楽しい毎日を送っていたのかもしれません。
そんな事を思うと、私は何故か無性に、ご主人様の事をぎゅーっと抱き締めたくなるのです。
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