「化」(『晩歌 -BANKA-』)②
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Date:05/07
今日は今までよりも強い相手と会敵しました。これまでの相手はガスマスクを装着した軽装歩兵という感じでしたが、今度は中世ヨーロッパの騎士を模したロボットのような外見で、身長も三メートルを優に超えていました。
ご主人様は黒星軍との戦いについて、ご自身は他の人──国防軍に所属する他のエイムスマスターの方々の事なのでしょうが、彼らと比べてかなりスローペースだ、と言っていました。
だから、今回の相手は自分たちが最初に遭遇した「ボス」という扱いになる、のだそうですが、私はその敵と戦い、今日初めて敗北を喫しました。
負けた、と思った後、気が付けば既にベースキャンプに居ました。どうやら意識を失ってしまい──というのは一時的にシステムが処理落ちに陥ってしまい、という意味ですが──、その間にご主人様が運んでくれたみたいです。
「お役に立てず申し訳ありません」
私は謝りましたが、ご主人様は「ベイクのせいじゃないよ」と言いました。
「ベイクの攻撃力が足りないんじゃなくて、戦いを見る限りこれまでの装備じゃ通用しないみたいだったんだ。これまで攻撃力は武器の強化に留めて、君自身のステータスはアジリティと命中率に全振りしていたからさ。PKとか、七・六二ミリ以上の弾丸に対応した汎用機関銃が装備可能だと楽らしい」
「その場合だと、筋力のパラメータを向上させる必要があるんですね」
「そうなんだけどさ」
ご主人様は困っているみたいでした。
「エイムスのタイプによっても、ステータスの伸びやすさに傾向がある。二宮タイプは、アジリティに特化してて、俺は今までそこにポイントを割り振ってきた訳だけれども。逆に筋力にはそこまで伸び代がないんだって」
「エンジニアの方からそう言われたんですか?」
「いや、ネットの情報。そっち界隈の知り合いにも、最初に二宮タイプを選ぶと序盤で詰みかねないとか言ってる人が居たけど、それってやっぱりヘビーウォリアーの事だったんだな」
ご主人様の言う事には、私が理解出来ない事もしばしばあります。けれど、私自身のステータスの傾向については分かりました。
「二宮タイプはビジュがいちばん可愛いんだけどさあ」
彼としても、悩みどころみたいです。
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Date:05/10
ご主人様は熟考の末、この間のマスターレベルのアップによって可能になった「エイムスの改造」を私に施してくれるという事を決めました。
外見を出来るだけ崩さないようにしつつ、現在のレベルで可能な限りパワータイプに近づけようとすると、両手が少々大きくなってしまうようでしたが、その場合これまでの間に入手可能な重機関銃の装備も可能になるそうです。
今日、フリートークでご主人様とお喋りをしたのは、この改造が行われた後での事でしたが、まず最初に彼は「ごめんね」と謝ってきました。
「嫌じゃなかった?」
「いえいえ、全然そんな事はありませんよ!」
気を遣わせちゃったかな、と思うと、そっちの方が私にとっては問題です。
本当に、不満などがある訳ではありませんでした。黒星軍と戦うご主人様たちマスターのお役に立てる事こそが、エイムスである私たちの存在理由そのものなのですから。
「じゃあ、違和感とかは?」
「手が大きくなった事につきましては、特にありません。だけど、ご主人様から見たら、どうでしょうか?」
「どう?」
「その……おかしくはありませんか?」
「その点は大丈夫。取り立てて目立つ程じゃないし、ちゃんと可愛いままだよ」
そう言って貰えて、私も安心しました。
「ところでさ……」
そういえばフリートークの最後に、ご主人様がちょっと気になる事を言っていましたっけ。
「ベイクって、メタ的な事って何処まで通じるの?」
「メタ的な事?」
──何の事だろう、と私は思いました。
時々、ご主人様は私のニューラルネットワークでは処理出来ないような事を言う事があります。一応、私たちには検索機能が搭載されているので、このフリートークをチャットボットとして使用する事も可能ですが、それで一昔前の人工知能のようにそれらしい回答を行ったとしても、どうも私としては──これも非常に曖昧な言い方になるのですが、”納得”が行かないのです。
──「AEI」って何だろう?
──各地の基地局が黒星軍によって制圧された東日本で、私はどうやってインターネットの電波を受信しているのだろう?
しかし、私は自然に、AEIの処理プロセスに準拠して回答を行います。
「ご主人様のお話でしたら、私は何でも聴かせて欲しいです」
ご主人様は、ちょっとびっくりしたようなお顔をされていました。
けれど、すぐにいつもの優しい調子で、
「ありがとう、ベイク」
と言いました。
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Date:05/12
ご主人様の「ヘビーウォリアー」と呼んでいた敵との再戦は、この間の苦戦が嘘だったかのような圧勝でした。
新しい装備、M240B(中量級機関銃)を使いこなせるようになった私たちは、作戦時に於いて可能な行動の幅が広がりました。ご主人様から送られるコマンドは素晴らしく的確かつ迅速で、時には私のシステム側の処理速度の方が追い着かない、という事すらあるくらいです。
ご主人様は、
「やっと俺にも得意な事が見つかったような気がする」
と言っていました。
彼は私を使うのが増々楽しくなってきたみたいで、今日はヘビーウォリアーに勝利した後、初めてオンラインで申請を行い、他のエイムスマスターの方と共同戦線を張ってみる事も試したそうです。
ご主人様はヘビーウォリアーとの遭遇前、無名でマスターレベルも低いままだと共闘の申請を出しても無視されるのが落ちだと言っており、その一戦に勝利した上でレベルを常にステージごとの適性基準以上に上げておくのがセオリーだ、とも言っていましたが、どうやら今回の件でその条件をクリアしたと言えるようになった、のだとか。
まだ申請への受諾は返って来ていないようですが、明日どうなっているのかが楽しみだ、との事です。
私もわくわくします。軍内には当然、私以外のエイムスも居るはずなのですが、実際に出撃した際に一緒になった事はまだありません。今更ながらその事が気になったので、ご主人様に言ってみましたが、
「ベイクったら」
彼は、何故か可笑しそうにそう言いました。
「コンバットって、そういうものだろう?」
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