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「化」(『晩歌 -BANKA-』)①

NeoSoft FutureOS [Version 10. 0. 26200. 8655]

(C) NeoSoft Corporation. All rights reserved.


C:\FutureOS\System32>type nul > Bake'sDiary.log


C:\FutureOS\System32>copy con >> Bake'sDiary.log


 Date:04/01

 今日はアクティベートの日です。

 私のご主人様と初めてご対面しました。マスターというので、何となく年配の人を想像していましたが、意外とお若い男性でびっくりです。年齢は十六歳との事でしたが、十代でマスターになられるとは、とても優秀なお方なのですね。

 ……えっと、記録って、こんな感じで書けばいいのかな。

 ご主人様は私に、戦闘記録やその他色々な事を残しておくようにと命じられましたが、慣れないとちょっと大変です。

 文体をどうすればいいのか分からない、と思いましたが、ご主人様は特に誰かに見せる訳でもないのだから、素直に、私が普段話している通りの感じで書けばいいんだよ、と仰って下さいました。

 勿論、チューリング機能アプリにこの口調をインストールされたのはご主人様ですが、私は結構気に入りました。気に入ったといえば名前もそうで、コードネームの他にご主人様が愛称をつけて下さいました。

 二宮(ニノミヤ)ベイク──AIMS(エイムス)(Anti-Interfacial Marauders Soldier:対境界敵性者用歩兵)二宮モデルタイプ第六十八号なので、コードネームは「AN68」ですが、ご主人様は「開発者が手抜きをしすぎだ」と仰り、この愛称を下さったのです。

 に・の・み・や・べ・い・く。

 勿論私は、生体パーツを採用しているとはいえ素体はインプラント製のアンドロイドです。けれど、外見は女性型で、丁度ご主人様と同じくらいの年齢の少女に見える事ですし、やっぱり可愛い名前を貰えて嬉しいな。

 スペックとしては、対応装備は拳銃、アサルトライフル、軍用ナイフ、機関銃は口径六ミリメートル、軽機関銃まで。

 勿論これからアップデートがされれば、もっと色々な種類の武器が装備可能となるでしょう。

 エネルギー源は電力ですが、人工代謝機能と模伝子翻訳機能によって生体パーツが発育可能な仕様となっている為、蛋白質やその吸収に関わる酵素を含んだ食品は摂取出来ます。五感に関しては、まだ味覚や嗅覚のセンサーには微調整が必要だとか。感情表現については、おおむね良好といったところでしょう。

「お役に立てるように、精一杯頑張ります」

 私が言うと、

「パートナーとして、これから宜しくね」

 ご主人様は笑顔でそう言って下さいました。

 最初にアクティベートされた時は不安も一杯だったけれど、優しそうなマスターでちょっと安心。

 私、一生懸命やるつもりです。


^Z


          *   *   *


C:\FutureOS\System32>copy con >> Bake'sDiary.log


 Date:04/05

 今日は、実地テストがありました。

 ご主人様と一緒に、ベースキャンプから東に五キロメートル程離れた旧市街まで哨戒です。

 三十年前の大変動──「境界」が開いた時の出来事については、初期データとしてアクティベート時にメモリに記録されているので、エイムスの先駆けとなったバイオノイドの生体コンピュータ素子から引き継がれたそれらの記憶を私たちは()()()()事が出来ます。

 あの大変動を耐え抜いた仙臺(せんだい)も、その後東日本を支配した黒星(こくせい)軍の蹂躙には耐えきれず、あえなく陥落。仙臺の戦いは数時間で終結しましたが、その理由が、黒星軍の使用した「境界」の力でした。

 占領した東日本の各地で、彼らは人類の遺伝子をサンプリングし、研究すべくマンハンティングを行います。ご主人様たち日本国防軍の使命は、敵の関東以南への進出を阻止し、彼らの手に落ちた自治体を解放する事です。

 今日の哨戒では、早速何人かの黒星軍の兵士と遭遇してしまいましたが、ご主人様はまだ何となく慣れない調子ながらもコマンドを入力し、私に指示をくれました。それに基づき、私は無事に敵を撃破。

 ちょっとダメージも負ってしまいましたが、テストは成功、以降はご主人様の探索可能なエリアも拡張されるそうです。

「ベイク、よくやったね」

 フリートークで、ご主人様はそう仰って私の事を褒めて下さいました。

 ……じゃなかった、褒めてくれました。

 私は仕様上、プロンプトでしかファイルに書き込めないので、一度改行して確定した文章をデリートする事は出来ないのです。

 先日のログをご主人様はご覧になったみたいで、「まだちょっと文章が固いね」と仰いました。

 ……じゃなくて、言いました。

「今日のはチュートリだけど、これからは一緒に出撃した分だけ君からの好感度も上がるみたいだしさ。俺に対しても、もっと気軽な感じで接してくれた方がこっちも嬉しい」

 好感度が上がるなんて、既に確定した言い方をされると、ちょっと恥ずかしい気もします。

 だけど私は今の時点でもう、きっとこれから、本当にそうなるんだろうな、という思いが芽生え始めています。それって多分──いいえ、今はまだ、はっきりとは書かないでおきましょう。

 今はまだ、ね。


^Z


          *   *   *


C:\FutureOS\System32>copy con >> Bake'sDiary.log


 Date:05/02

 レベルが上がったので、新しいスキンにお着替えが可能になりました。

 今までは黒い軍服でしたが、今度はエメラルドグリーンのバトルドレスです。これまでも戦利品──ご主人様は「ドロップアイテム」と呼びますが──の中に、強化用の外装やアクセサリなどはありましたが、全身のスキンチェンジはこれが初めてになります。

 ご主人様は

「とっても似合っているよ」

 と言って、フリートークの時になでなでしてくれました。

 照れ隠しに

「フリルが一杯付いているので、これまでみたいなアジリティは発揮出来ないかもしれませんよ」

 と言ってみた私ですが、ご主人様は特に気にされてはいないみたいでした。

 ベイクは可愛いなあ、なんて言ってくれた後で、ふと気付いたように、こんな事を言ってきました。

「AEIの感情表現って、俺が思っていた以上に本当の人間みたいなんだね」


^Z

『晩歌 -BANKA-』第二弾「化」の連載を開始します。第一弾「映写」とは打って変わってSFっぽい話ですが、本作は前回よりもゲームのテキストからの加筆修正が多く、構成や結末も大幅に改変しています。その最たるものが、Windowsのコマンドプロンプトを思わせるツールでのログへの書き込みという形式です。

 伊藤計劃さんの『ハーモニー』に登場するetmlのような架空のマークアップ言語で、という事も考えたのですが、テキストログに書かれたものという事にすると「……じゃなかった、褒めてくれました」などの表記があるのは不自然なので(消して書き直せばいいじゃん、という事になります)、書き込み中の文章をコマンドと共に小説に取り入れる事にしました。作中の西暦は明記されていませんが、Microsoftの社名は「NeoSoft」に、OSはWindowsではなく「FutureOS」に変わっているので遠い未来か並行世界の話だと思って頂ければ。言わずもがなプロンプトでテキストファイルに書き込みを行う際、ルビを文字の上に小さく振る事は出来ませんが(「なろう」のように「|」と「《》」を使う必要があります)、これは小説のメタ的な表記方法です。小説内でいちいち読み仮名が「|文字《ルビ》」の形で書かれていたら鬱陶しい事この上ないと思うので。

 じんさんが楽曲「人造エネミー」を発表された時にはまだカゲプロは設定が出来ておらず、それはソフトウェアの視点から描かれた物語でしたが、恐らくその時には黎明期の初音ミクのように、作中設定で本当に自我が宿ったソフトがあるのではなく「ソフトを擬人化してその視点で現実を描く」という表現方法だったのだと思います。本作のベイクも当初はそういう設定だったのですが、ノベライズに当たっては本当に「感情を持ったAIの女の子」という事にしました。とはいえ、この設定自体に意図的に誤解を招くような仕掛けがしてありますので……おっと失礼。明日以降をお楽しみに。

 それからもう一つお断りしておかなければいけない事が。「なろう」では問題ないのですが、Word文書やコマンドプロンプトでは「\」(バックスラッシュ)が「¥」(円マーク)として表示されてしまいます。ASCIIコードが同じなので日本語フォントを選択するとそうなってしまうそうですが、投稿前の元の文書ではわざわざフォントを変えて直したりはせずに「¥」のままにしています。まあ、元の文書は私のPC(とバックアップ用のUSB)の中にしか存在しないのでどうでもいい事ではあります。

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