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「円」(『晩歌 -BANKA-』) ゲームシナリオ①

(背景img「参道」。SE「祭りの喧騒」)


・祭りに行かなくなったのはいつからでしょう。

・年齢が上がるにつれ、昔ほど活発に外を

 出歩くことがなくなった、というのもあるし、(2行同時表示)

・この手の行事になると「恋人と行くもの」

 という固定観念が世間的に蔓延し、(2行同時表示)

・それを個人で打破する勇気がない、ということもあります。

・けれど、最も大きな理由は、(改行)

・祭りの喧騒の中に取り残され、

 戻ってこられなくなったらという怯えでした。(2行同時表示)


(場面遷移。背景「水晶」。SE「夏の昼間」)


・小暮(こぐれ)市花火大会が近づくと、私の家である

 骨董店「眠(ねむり)堂」を訪ねてくる男性がいます。(2行同時表示)

・彼は勢威太一(セイイ・タイチ)さん、

 市内中心部にある加苅(かがり)神社の氏子総代で、(2行同時表示)

・その神社のお墓が大半を占める宗派不問の霊園で、

 大きな水晶のついたお墓を持っていました。(2行同時表示)

・彼が最初にやって来たのは私の小学校入学直前で、(改行)

・それは私にとって最古の記憶でもありました。

・彼は父に、墓から持ってきたらしい件の水晶を見せ、

 これとよく似た宝玉を知らないか、と問いました。(2行同時表示)


 勢威「四阿(アズマ)さんもご存じでしょう、水晶の墓といえば

   昔からこの辺りで有名でしたから」

 勢威「本来墓に飾られていたのはこの5倍ほどある、」

 勢威「人間の頭より一回り大きいものだったのです」

 勢威「中に真鯉と緋鯉が立体的に描かれていたそうですが」

 萵苣の父「…………いえ、分かりませんね」

 萵苣の父「なぜ、私にそのようなお話を?」

 勢威「勢威家は、双魚球を代々継承する家系でしてね」

 勢威「私は先代の甥に当たるのですが、その先代が

    四阿さんのご尊父の朋友だったそうなのです」

 勢威「先代は太平洋戦争でビルマへと出征することになり、」

 勢威「その際双魚球を彼に託しているようなことが、

    記録文書に仄めかされていたのですよ」

 萵苣の父「……………………」

 萵苣の父「父からは、何も聞いていません」

 萵苣の父「彼は現在市立病院で寝たきりの状態ですし、

      話を聴こうにも聴けません」

 萵苣の父「蔵を調べてみます、何か分かったことがあれば

      こちらから連絡致しますので」

 勢威「よろしくお願いします」


・それから間もなく、父方の祖父は亡くなりました。

・私も1歳か2歳の頃に会っているらしく、(改行)

・彼は「萵苣(チサ)ちゃん、萵苣ちゃん」と言って私を

 可愛がってくれたようですが、よく覚えていません。(2行同時表示)

・家の蔵からも勢威さんが言うようなものは

 何も出てきませんでしたが、(2行同時表示)

・それが四阿家とその勢威さんという男性との

 奇妙な繋がりの始まりだったのです。(2行同時表示)


(場面遷移。背景「物置」。SE「インターホン」)


・高校2年の夏休みも、彼は例年のように訪ねてきました。

(SE「戸を開ける音」)

・けれど、その訪問は例年のように一度きりではなく、

 しかも段々訪問の頻度が多くなっているようでした。(2行同時表示)

・父もそろそろ辟易してきたらしく、

 あしらい方が徐々に乱暴になりました。(2行同時表示)


(SE「夏の昼間」)


 萵苣の父「顧客情報は明かせないと言っているでしょう」

 萵苣の父「確かにこの店で売っているものは大抵ガラクタです、」

 萵苣の父「けれど、個人情報の扱いは基本中の基本ですので……」

 勢威「それは重々承知です」

 勢威「しかしですね、状況は最早去年までとは違うのです」

 勢威「四阿さんがご存じなかったことからして、

    先代の方は預託されてから動かしてはいないのでしょう」

 萵苣の父「しかし、私は蔵もギャラリーも調べました」

 萵苣の父「勢威さん、あなたに立ち会って頂いた上で、です」

 勢威「ええ。ですから、四阿さんの覚えていらっしゃらない昔に、

    売り払われてしまったのではないかと考えるのですよ」


・店の奥の座敷で耳をそばだてていると、2階で話している

 父たちは何やら揉めているようだ、と分かりました。(2行同時表示)

・このようなことは初めてで、(改行)

・さらには勢威さんが顧客リストを見せて欲しい、

 などと言ってきたのも初めてのことでした。(2行同時表示)


(場面遷移。背景「庭」。SE変わらず)


・その年の花火大会には、八重咲子(ヤエ・サキコ)さんと

 顔を出すことにしていました。(2行同時表示)

・私にとって彼女は「近所のお姉ちゃん」であり、

 私は彼女のことを「咲姉ちゃん」と呼んでいました。(2行同時表示)

・咲姉ちゃんは大学1年生で、(改行)

・入学するや否や、地元で花火工場を営む

 鹿嶋攝雄(カシマ・セツオ)氏に弟子入りしました。(2行同時表示)

・無論火薬の取り扱いには免許が必要なため、

 まだ雑用程度のことしかさせてもらえないそうですが。(2行同時表示)

・その彼女が眠堂を訪れ、しかも勢威さんの

 ことを尋ねてきた時、私はびっくりしました。(2行同時表示)

(SE「ドア開放」)


(SE「住宅街」)

 咲子「ちーちゃん、ここに勢威さんって人来なかった?」

 咲子「師匠、彼んちに取りに行って欲しいものがあって、」

 咲子「なかったらちーちゃんのお店に行っているかもって」

 萵苣「えっ?」

 萵苣「咲姉ちゃん、勢威さんのこと知ってるの?」

 咲子「会ったことはないんだけどね」

 萵苣「おつかい頼まれたものって、何?」

 咲子「鯉が2匹描かれた玉だって。知ってる?」

 萵苣「…………………………!」

 萵苣「それって、双魚球のことじゃないかな?」


・私は、再び面食らうと共に納得しました。

・勢威さんも、鹿嶋氏に頼まれていたから

 あれほど執拗だったのでしょう。(2行同時表示)

・私は、彼が昔から双魚球を探して

 店を訪れていることを咲姉ちゃんに教えました。(2行同時表示)


 咲子「どうしよう?」

 咲子「師匠、花火大会までにどうしてもそれが必要だって」

 咲子「勢威さんが持っていないなら、やっぱりちーちゃんのとこが?」

 萵苣「何に使うの?」

 咲子「それが、教えてくれなくってさ」

 咲子「ただ、師匠の代では今年が初めてなんだって」

 萵苣「…………うーむ」

 萵苣「お父さんは、勢威さんには昔から

    双魚球はうちにはないって言い続けているけどね」

 萵苣「何か訳があって、隠しているのかもしれないけど」


・私は、父を信用していなかった訳ではありません。

・けれど、預けられたのはかなり昔だといいますし、(改行)

・戦後の混乱期やバブル崩壊の折など、

 店が経営難に陥ったことは多々ありました。(2行同時表示)

・父が知らないうちに売り払ってしまった

 可能性がないともいいきれません。(2行同時表示)


 咲子「ほんっと申し訳ないんだけどさ、」

 咲子「ちーちゃんの方で、もう1回蔵とか調べてもらえない?」

 咲子「ないと、師匠自身も誰かから怒られちゃうみたいでさ」

 萵苣「……分かった」

 萵苣「あったら、こっちから連絡するから」

 本日より予告通り、『晩歌 -BANKA-』第四弾のゲーム版のシナリオを公開します。正確にはシナリオというより、制作前のメモという感じです。繰り返すようですが、ゲームとしては相当にショボいのであまり期待なさらないで下さい。

 投稿前に他の原稿と同じようにWord文書で三十八文字×十六行の縦書きにし、「なろう」へのコピペに際して全角の英字や算用数字を半角に直しましたが、読み仮名が元の文字の上に小さく振られるのではなく()で表されている点はそのままにしています(Visual Basicでのテキストボックスではルビが使えないので)。また小説版を投稿した際は元になった「水晶球の双魚」とは別物である事を示す為、『化物(けもの)怪奇譚』連作の舞台である小暮という地名は出さず、「加苅神社」の漢字も変更しましたが、こちらでは元の通りです。「かがり神社」という神社の名前は「映写」や「精霊」にも登場しており、全て漢字が異なっていますが、これに深い意味はありません。

 二年前の私はこれを制作する為、わざわざ仙台市内の各所に写真を撮りに行ったりイラストを描いたり、低クオリティの割に結構大掛かりな事をしました。プログラミングスキルの向上の為の課題だったはずなのに、内容に掛けた時間の方がコーディング作業より長いという……その時私は、自分が根っからの「創作者」なのだなという事を自覚したのでした。

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