表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/15

「映写」(『晩歌 -BANKA-』)②


          *   *   *


「いやあ、涼しくて気持ちいいね」

 軽装のブラウスとキュロットを身に着け、キャップを被った先輩が先を進みながら言います。

「スマホのホーム画面とかにも出来そうだし、別にオカルトな目的じゃなかったとしても写真撮りたくなるわ」

「もう、先輩ったら」

 私は首を振りました。

「自然の写真を撮るなら、もっと適切なスポットは一杯あります。何も、わざわざ他人ん()の禁止区域で撮らなくたって」

「お陰で私たちまでルール違反、かあ」

「美嘉ってば、人の迷惑とか考えないんだから……」

 夏休み前、最後の週末でした。

 私と、二年生の六道(リクドウ)優芽(ユメ)先輩は参道の麓で待ち合わせをし、二人でこっそりと山の中に入りました。

 美嘉が使ったというルートは、霊園に向かう山道から脇の森へと入り、霊園を北東に迂回しながら中腹の方へ行くというものだったらしく、私たちもそれをなぞる形になりました。

 場所が「禁域」なので誰にも見咎められないようにした、という美嘉でしたが、私たちもなるべく条件は揃えた方がいいと思ったのです。都市伝説とかでも、何々をしてからどうこうするとなんちゃらかんちゃらが出る、などというのは定番中の定番です。

「だけど、何だかんだ言いながら夜宵も来てるじゃない」

 先輩は言い、くるりと振り返ってきます。

「実は、結構スリルを楽しんでたりして」

「……そろそろですよ」

 私は話を逸らすと、足を止め、木々の生い茂っている斜面の方を向きました。

「さっさと撮っちゃって、バレないうちに戻りましょう」

 先輩の自宅にあり、ここ数年は全くといっていい程使われなかったというデジタルカメラを借り──これも条件を揃える為です──、液晶モニターを覗き込みながらピントを調整します。

「美嘉から送られた写真だと、大体このアングルなんですよね」

 撮影ボタンを押し、フラッシュを焚かずにカシャッと一枚。念の為、もう数枚。確認していると、先輩が覗き込んできました。

「どう? 撮れた?」

「ばっちりです。オーブとか影とか、特におかしいものは……写っていませんね。先輩も確認お願いします」

 デジカメを差し出すと、先輩はそれを受け取り、私と同じようにフォルダを確認しました。

「……特になし、か」

 彼女は私にそれを返しながら、ふっと息を吐き出しました。残念そうにも、ほっとしたようにも感じられる仕草です。私も、まあ、そう簡単に写る訳はないよね、と思いながらも、何となくほっとしている自分が居ました。きっと、こういう事にわくわく出来るのは、実物と遭遇してしまう前だけです。

「だけど、これから変化があるかもしれません。現像してみましょうか」

 私は言い、体の向きを変えました。


 その日のうちの結論としては、近くのコンビニのプリンターで印刷してみても特に異常はなし、という事でした。しかし美嘉の話では、彼女が撮った写真ではこれから写り込んだ何かが現れ、段々と鮮明になっていったという事だったので、もう少し様子を見る必要があるようです。

 プリントした写真は、一旦私が預かる事になりました。

 私はその写真を見ながら、「禁域」に入った事がお父さんや神社の人たちにバレていないか、という事を懸念しましたが、彼らは気付いていないらしく、特に何かを言ってくる事はありませんでした。


          *   *   *


 翌日の日曜日、私は朝目が覚めてからいちばん最初に写真を見、変化が起こっていないか確認しました。

 何だか、白いもやもやが掛かっているような気もしました。レンズに濁りがあったといえばそうとも言えるような、手で握ったせいで曇ったとも考えられるようなものだったので、私は変化があったと驚く事も、予想していたような変化が出なくて落胆する事も出来ず──正直に言って、戸惑いました。判断に困った、というのがより正確です。

 本当にこれが「心霊写真」?

 少なくとも、美嘉から見せられた写真に写っていたような「○」の形には見えません。けれど、昨日は確かに何も写っていなかったのです。

 ──いやいや、これ程曖昧なものだったら、昨日見た時には見落としていた、という可能性も否定出来ないのではないでしょうか?

 そう考え、優芽先輩に確認してみる事にしました。


 夜宵>> 先輩、昨日撮ったデジカメ写真なんですけど

 夜宵>> 現像前のやつ、スマホで私に送ってくれませんか?


 優芽>> えっ?

 優芽>> あー、マジか。参ったなあ……


 夜宵>> どうしたんですか?


 優芽>> 写真、昨日のうちに消しちゃったんだよね(*ノω<*)アチャー


 夜宵>> Σ(゜д゜;)

 夜宵>> 何してるんですか


 優芽>> ごめんて


 私は念の為、手元の写真をスマホのカメラで接写し、もやもやしたものが写っているという事を説明した上で先輩に送信しました。

 続いて、美嘉にも結果を報告しようとしました。彼女が撮った写真の初期の状態がどのようなものだったのか、聞いておく必要がある、とも思い、実際にそれをしようとしたのですが──。


 夜宵>> 例の写真の件、撮ってみたら何か写ったよ


 既読は、メッセージを送信してからすぐにつきました。が、返信が来たのはそれから十秒以上の間が空いてからの事でした。


 美嘉>> え、

 美嘉>> あ、そうなんだ


 ──何か、リアクションが薄くはないか?

 私は少々怪訝に思いました。こちらに”依頼”をしてきた時の彼女の異様なテンション──というより切実さ──を思い出し、あれっ、と思ったのです。喩えて言うのであれば、放送中は毎週のようにネットで盛り上がる割に、放送が終わって一週間程経てば急に下火になってしまうアニメの視聴者のような──。


 夜宵>> でも、ミカくらいはっきりはしてなかった

 夜宵>> 一応送っとくから、確認よろしくm(__)m


 美嘉>> 待って


 私が写真の送信ボタンを押すのとほぼ同時に、そのようなメッセージが送られてきました。

 それを最後に、私の送ったメッセージには既読がつかなくなりました。

 うちの通信状態が悪いのはいつもの事ですが、優芽先輩に送信したのと同じ写真を送り、その送信が完了するまでの二、三秒の間にアプリを閉じたかのような。こちらが「写真を送る」と言った瞬間、それを見まいとしたかのようにも感じられた為、私は増々訝しく思いました。

 ──自分の方から「心霊写真」の検証を依頼してきたというのに、美嘉のやつ、何か変だな。

 でも、とりあえずまあいいか、と思う事にしました。明日は夏休み前の最後の登校日なので──何故月曜日だけ登校させようとするのかは不明です──、直接彼女に会って口頭で事の次第を報告すればいいでしょう。

 私はそう考え、その日は以降「心霊写真」の事は忘れていつも通りのだらだらとした一日を過ごしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ