↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
91/120

第80話「ドワイト分隊」

剣より頭、魔法より読み。


平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。


ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。

 翌朝。


「貴様ら!起きろ!点呼だ!」


 大声でマイトランド達を起こしたのは、あのドワイト曹長だった。


 半年間、毎朝聞いた声だった。聞き間違えるはずもなかった。


「はい?班長、新兵教育は終わりましたよ?」


 マイトランドがそう言うと、ドワイトはマイトランドの頬を思いっきり叩いた。


「貴様ら、俺が次の部隊での上官だ!貴様らはドワイト分隊だ。わかるか?」


 マイトランド達は、第2軍、第2軍団、第198騎兵連隊、偵察中隊に属する、強行偵察分隊ドワイト分隊として配属されるのだった。


 寝起きのイブラヒムが、信じられないという顔でドワイトを見上げた。


「嘘だろ・・・。やっとこのおっさんから解放されたと思ったのに・・・。」


「誰がおっさんだ。貴様、もう一発殴られたいのか。」


「いいえ!分隊長殿!全力でお仕えいたします!」


 イブラヒムが瞬時に直立不動になると、アダムスが深いため息をついた。


「アニキ、お前、切り替え早すぎだろ。」


 ドワイトは腕を組み、部屋の中を見回した。マイトランド、ジェラルト、ポエル、アダムス、イブラヒム、アツネイサ。6人。


 フランドール大佐に懲罰人事と昇進を同時に下され、歩兵科から騎兵科への兵科転換を命じられた時、ドワイトは全てを察していた。


 こいつらと同じ部隊に配置される。そうでなければ、騎兵科への転換など意味がない。


 懲罰の形を取った合理的配置。ドワイトが新兵教育隊で叩き込んだ2人を、別の分隊長の下に置くなど、人事の効率から言っても有り得ない話だった。


 あとは、こいつらの出世にぶら下がるだけだ。


 ドワイトは内心でほくそ笑みながら、顔だけは鬼軍曹のままで怒鳴った。


「何をぼさっとしている!5分で準備を終えろ!遅い奴は置いていく!」


 マイトランド達が準備を終え、外に出ると、そこには多数の兵士が軍服を着て集結していた。


 各地の新兵教育隊から集まった約5000人、1個師団ほどの新兵は、引率者に伴われ、一堂に会した。


 見渡す限りの新品の軍服。どの顔も若く、どの靴も傷一つなかった。戦場を知る者の顔は、引率の下士官と将校だけだった。


 ドワイト分隊にも新たに仲間が加わることになった。他の新兵教育隊からの補充だった。


 ミシェル・サランドン。黒い長髪の好青年。口数は少ないが、目に落ち着きがあった。


「ミシェル・サランドンです。よろしくお願いします。」


 丁寧に頭を下げるその姿に、イブラヒムが小声でアダムスに囁いた。


「アニキ、まともな奴だぜ。俺達のところにもまともな奴が来るんだな。」


「お前が言うな。」


 トーマス・アルジェント。背は高いが、横に狭い。ひょろひょろノッポのブロンドの短髪青年だった。


「トーマスです。ト、トーマス・アルジェント。えっと、その、よろしくお願いします。」


 声が上ずっている。緊張で指先が震えていた。ジェラルトがトーマスの肩をバンと叩いた。


「そんなにかしこまるなよ。俺はジェラルト。こっちがマイトランド。気楽にやろうぜ。」


「は、はい。ありがとうございます。」


 トーマスは少しだけ肩の力を抜いた。だが、まだ目が泳いでいた。


 セリーヌ・シンクレア。金髪の髪の毛がきれいな、女性新兵だった。


「セリーヌ・シンクレアです。足は引っ張りません。よろしく。」


 短い自己紹介だった。何かの理由で志願したのだろうが、それを聞ける空気ではなかった。


 ポエルがセリーヌの隣に歩み寄り、にっこり笑った。


「ポエル。よろしく。女の子、ポエルだけじゃなくなった。嬉しい。」


「・・・ええ、よろしく。」


 セリーヌは少し戸惑った顔をしたが、すぐに表情を戻した。


 以上3名を加えて、ドワイト分隊長以下10名として戦線へ赴くこととなった。


「分隊長、俺達騎兵隊なのに、騎兵はないんすか?」


「ランズベルク、貴様はバカか。貴様の様な新兵に、貴重な馬が与えられるわけがなかろうが。一度死んでから出直して来い。」


 ジェラルトは馬を持ってきたほうがよかったと、マイトランドを睨みつけた。


 出発の号令が響いた。


 5000人の隊列が動き始めた。前線までの行程は約3週間。徒歩による移動だった。


 第2軍への補充は、マイトランド達の教育隊だけではなかった。各地の新兵教育隊から8つの集結地に分かれて出発し、途中の中継地で合流しながら、最終的には約40000人の補充兵力として第2軍に届けられる手筈だった。


 5000人ですら見渡す限りの隊列だった。これが8倍になる。それだけの人数を急いで送り込まなければならないという事実が、グレイグの言葉を裏付けていた。


 新品の軍靴が、一斉に砂利を踏む音が、朝の空気に低く響いた。


 マイトランドは歩きながら、一度だけ振り返った。


 新兵教育隊の建物が、少しずつ遠ざかっていた。あの47号室の窓が見えた気がしたが、すぐに隊列の埃に遮られて消えた。


 半年前、あの建物に入った時、マイトランドはまだ何者でもなかった。ジェラルトと2人、2等兵の軍服すら持っていなかった。


 今、腰にはオルメアとグレイグのミスリルの短剣がある。隣にはジェラルトがいて、後ろにはポエルとアダムスとイブラヒムとアツネイサがいる。


 そして、前には戦場がある。


「マイトランド、何見てんだ?」


「いや、何でもない。行くぞ。」


 マイトランドは前を向いた。


 戦場に到着する頃には、ヴェルタ歴210年も残りわずかとなり、冬が来る。

面白いと思っていただけたら、ブックマークしていただけると大変励みになります。次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。